国産品優先政策の変遷とTKDN制度改正が与える影響(インドネシア)

2026年8月28日

インドネシア政府は、国内産業の育成・強化などを目的として、政府調達などを通じた国産品の使用促進に取り組んできた。2003年に雇用機会の拡大や国際競争力の向上を目的として、国産品の利用拡大を政府調達の一般政策に位置付けて以降、国産品を評価する指標である国産化率(TKDN)(注1)と企業貢献比重(BMP)(注2)の算定制度や、政府調達における国産品の使用義務に関する制度を段階的に整備してきた。現在、TKDNとBMPは政府調達における重要な判断指標であるほか、携帯電話やバッテリー式電気自動車(BEV)などの特定製品には、個別の最低基準も設けられている。

本稿では、インドネシアにおける国産品使用促進政策の変遷と、同政策におけるTKDNとBMPの位置付けを概観する。その上で、2025年9月に公布され、同年12月に施行された工業大臣規則2025年第35号について、従来制度からの主な変更点と企業への影響を、2026年7月9日にジェトロ・ジャカルタ事務所が開催したセミナーの内容に基づき解説する。今回の改正は認証取得手続きの負担軽減につながる一方、企業にとっては現地調達や国内生産の在り方をあらためて検討する契機となる可能性がある。なお、同セミナーにおける工業省国産品使用促進(P3DN)センターPDFファイル(3.7MB) と、独立検証機関(LVI)の一つである国営認証機関スコフィンド社PDFファイル(2.9MB)の講演資料も併せて参照されたい。

国産品使用促進の変遷とTKDN制度

TKDNおよびBMPを活用した国産品使用促進の取り組みは、政府の物品・サービス調達に関する大統領決定2003年第80号にさかのぼる。同決定は、政府調達において、雇用機会の拡大、国内産業の育成、国産品・サービスの国際競争力向上を目的として、国産品と国内の設計・エンジニアリングの利用拡大を促進することを定めた。これにより、政府の調達需要を国内産業の育成に活用する基本方針が示されたが、TKDNおよびBMPを用いて国産品を統一的に評価する制度は、まだ十分に整備されていなかった。

その後、政府調達制度を見直した大統領規則2010年第54号は、政府調達において、TKDN値およびBMP値の合計が40%以上の国産品の優先使用に関する方針を示すとともに、TKDNの算定方法を工業大臣に委任した。これを受け、工業大臣規則2011年第16号により、物品、サービスおよび両者の組み合わせについて、TKDNとBMPの算定方法が具体化された。

2014年には、工業に関する法律2014年第3号が制定され、政府調達における国産品の使用を義務付けた。2018年には、産業エンパワーメントに関する政令2018年第29号により、国産品使用義務の対象や運用を具体化し、TKDN値とBMP値の合計が40%以上、かつTKDN値が25%以上となる国産品が存在する場合の使用義務などを定めた。

同年の大統領決定2018年第24号では、国産品使用促進国家チーム(Tim Nasional P3DN)が設置された。同チームには、政府機関、地方政府、国営企業などによる国産品の使用状況を調達の計画段階から監視・評価する役割が与えられ、国産品使用促進を省庁横断で推進する体制が整えられた。

2022年には、小企業(注3)を対象とするTKDN算定・認証制度が整備された。申請は国家工業情報システム(SIINas)を通じて行われ、認証手続きの簡素化や費用負担の軽減により、小企業による認証取得と政府調達市場への参入を促す仕組みが設けられた。

表1:国産品使用促進の変遷
法令 概要
2003年 大統領決定2003年第80号 国産品、国内の設計・エンジニアリングの利用拡大を、政府調達に関する一般政策の一つに位置付け。
2010年 大統領規則2010年第54号 政府調達における国産品の優先使用の方針を規定。国産品について、TKDN値とBMP値の合計を40%以上とする基準が示されるとともに、TKDN算定の規定および手続きを工業大臣へ委任。
2011年 工業大臣規則2011年第16号 物品、サービス、物品・サービスの組み合わせに係るTKDNおよびBMPの算定方法が設定。
2014年 工業に関する法律2014年第3号 政府調達における国産品の使用義務が法律上明確化。
2018年 政令2018年第29号 国産品使用義務の対象・運用を具体化。TKDN値とBMP値の合計40%以上、かつTKDN値25%以上の基準を規定。
2018年 大統領決定2018年第24号 国産品使用促進国家チーム(Tim Nasional P3DN)を設置。
2022年 工業大臣規則2022年第46号 小企業を対象とするTKDN算定・認証制度の整備。
2025年 工業大臣規則2025年第35号 TKDNおよびBMPの算定と認証制度を包括的に再編。

出所:各法令などを基にジェトロ作成

TKDNは政府調達だけに用いられるものではない。政府は、国内生産、国内投資、技術移転を促進するため、個別の産業政策に基づき、特定製品についてTKDN値の最低基準を設定してきた。例えば、通信・デジタル大臣決定2025年第569号は、4G・5G対応の携帯電話などに35%以上の基準を設けている。また、大統領規則2023年第79号は、四輪以上のBEVについて、2019~2021年は35%以上、2022~2026年は40%以上、2027~2029年は60%以上、2030年以降は80%以上と、段階的に最低基準を引き上げることを定めている。

工業大臣規則2025年第35号による改革と変更点

工業大臣規則2025年第35号は、一般的な算定制度を定めた工業大臣規則2011年第16号や、小企業向けの同2022年第46号などを廃止し、TKDNおよびBMPの算定と認証制度を包括的に再編した。以下では、2026年7月9日に開催されたセミナーでの解説に基づき、算定方法の簡素化、ブレインウェア加点、BMP評価項目の拡大、有効期間の延長、手続きの効率化という主な変更点を紹介する。なお、評価区分などの詳細は、セミナー資料を参照されたい。

1. TKDNの算定方法の簡素化

物品TKDNは、直接材料、直接労働、工場間接費の3項目で構成され、それぞれの比重は75%、10%、15%である。

直接材料について、従来は材料ごとにコスト項目を積み上げ、個々の材料の国産品構成比を算定する必要があった。新規則では、各部材が材料費に占める割合に、取得済みのTKDN認証値を所定の区分値に置き換えて乗じる方法へと簡素化された。例えば、認証値80%超は100%、60%超80%以下は80%として扱われる。この結果、各部材の認証取得状況や調達先が、完成品のTKDN値を左右する仕組みとなっている。なお、TKDN認証値を有していない場合は、国内生産の有無や原材料の由来に応じて、100%、25%または0%として扱われる。

直接労働と工場間接費も、全構成要素のコストを分析する方法から、条件に応じた段階評価へ変更された。直接労働は、インドネシア国籍労働者の割合(50%以上が基本条件)や生産主体・工場の所有関係に応じて評価される。条件を全て満たす場合は100%と評価され、比重である10%がそのままTKDN値に加算される。工場間接費も、国内投資の有無や生産主体・工場の所有関係を基に評価される。条件を全て満たす場合は100%と評価され、比重である15%がそのまま加算される。

また、新規則は、保守・修理などの工業サービスについて、労務費、設備・施設費、一般サービス費に基づくTKDNの算定方法を定めた。携帯電話や太陽電池モジュールなど、個別法令で算定方法が定められた製品については、当該算定方法と新規則に基づく算定方法を比較した上で、いずれかの方法を選択して適用できる。

表2:個別にTKDNの算定方法が設定されている製品例
法令 対象製品 TKDN算定内訳
工業大臣規則2017年第29号 携帯電話、携帯用コンピューター、タブレットコンピューター 製造分野70%、開発20%、アプリケーション10%
工業大臣規則2020年第16号 医薬品 原材料50%、研究開発30%、製造プロセス15%、パッケージ5%
工業大臣規則2020年第22号 電子、情報通信技術機器 デジタル製品:生産分野70%、開発30%
非デジタル製品:生産分野80%、開発20%
工業大臣規則2022年第31号 医療機器、体外診断用医療機器 製造分野80%、開発20%
工業大臣規則2023年第28号 バッテリー式電気自動車(BEV) 生産分野:2029年まで50%、2030年以降60%
補助部品:10%
組み立て分野:2029年まで30%、2030年以降20%
開発:10%
工業大臣規則2024年第34号 太陽電池モジュール 原材料91%、直接労働力5%、工場間接費4%

出所:各法令などを基にジェトロ作成

2. 知的創造(ブレインウェア)加点の導入

国内の研究開発(R&D)活動を評価する知的創造(ブレインウェア)加点が導入された。評価に応じて最大20%を加算できるが、加算後のTKDN値は100%が上限となる。例えば、1.で算出したTKDN値が60%の場合、加算により最大80%まで引き上げられる。国内に研究開発機能を置く企業にとっては、新たな加点余地となる。

3. BMP評価項目の拡大

BMPの評価要素は、従来は適用できる項目が4項目に限定されていたが、新規則では、企業が15の構成要素の中から適用する項目を選択できる仕組みとなった。雇用、追加投資、サプライチェーン強化、輸入代替、人材育成、国内ブランド、グリーン産業、輸出など幅広い取り組みを評価し、最大15%を取得できる。ただし、BMPは物品が対象であり、工業サービスや物品・サービスの組み合わせ、委託生産による申請などは対象外となる。なお、BMPはTKDNとは別の指標であり、TKDN値自体の上限は100%のままだ。

4. 有効期間の延長と手続きの効率化

TKDN・BMPの有効期間は、従来の3年から5年に延長された。従来、TKDN値とBMP値の認証書はSIINasを通じてそれぞれ個別に発行されていたが、TKDNとBMPの両方が認証対象となる場合は、両者が同一の認証書にまとめて記載されるようになった。また、製品ラベルやパッケージにTKDNマークを表示することで、利用者は製品のTKDN値を容易に確認できる(表示は任意)。セミナー資料では、標準的な認証にかかる所要日数について、一般申請は22営業日から10営業日へ、小企業の自己申告は5営業日から3営業日へ短縮されたと説明された。

セミナーの質疑応答では、外国企業による認証取得、BMP評価に必要な資料、認証取得費用などが議論された(表3参照)。申請にはSIINasの利用など所定の要件を満たす必要があり、外国ブランドでも現地製造会社との委託生産などを通じて申請できる場合がある。スコフィンド社による認証費用は、製品の複雑さや申請数などによって異なるため、個別確認が必要となる。

表3:セミナーでの質疑応答
No 質問 回答
1 インドネシア国内に法人や自社工場を持たない外国企業が、インドネシア国内のローカル工場へ製造委託を行う場合、その製品のTKDN認証書を取得することは可能か。 申請には国家工業情報システム(SIINas)のアカウント開設が必要であるが、アカウントを開設できるのはインドネシア国内法人に限られる。そのため、外国企業自身が申請することはできない。一方、製造委託先であるインドネシア企業が、外国企業のブランド製品についてTKDN認証を申請することは可能だ。
2 商社がインドネシア国内でインドネシア由来の原材料を使用した製品を海外企業へ輸出し、その後、海外企業で加工された製品をインドネシアに輸入して販売する場合、TKDN値は算出可能か。 TKDNは、製造工程がインドネシア国内で実施されることを前提とした制度だ。塗装、着色、切断、スライス、希釈などの限定的な加工のみが行われ、HSコードにも変更がない製品は、TKDN認証の対象とはならない。このケースでは、海外で加工された製品をインドネシアへ輸入するかたちとなるため、TKDN値を算出することはできない。
3 BMP値の算定要素、特に「Industri 4.0の導入」「産業人材育成」「認証・認定の保有」「表彰・アワード」について、どのような裏付け資料を準備すればよいか。 「Industri 4.0の導入」については、導入に関する宣誓書に加え、導入実績を示す資料を添付して申請することができる。「産業人材育成」については、裏付けとなるエビデンスを添付することで、その実施状況を証明できる。「認証・認定の保有」については、工業大臣規則の別紙に明記された認証・認定のみが対象となる。「表彰・アワード」についても同別紙に記載されたものが対象であるが、「その他産業関連の表彰」として、所属業界における表彰やアワードが対象となる場合もある。
4 TKDN認証書について、背景が青色のものと黄色のものが存在するが、どちらも有効なのか。 以前は、小企業向けの認証書に青色の様式が使用されていた。新規則の施行後は、全ての認証書が黄色の様式に統一されている。ただし、青色の認証書についても、有効期限内であれば有効な認証書として使用できる。
5 TKDNマークについて、このマークの貼付は義務か、それとも任意か。 任意だ。
6 申請費用について。小企業(注3)の自己申告による申請は無料とのことだが、独立検証機関(LVI)による検証が必要な企業の場合、申請費用はどの程度か。 費用は対象製品の複雑さによって異なる。目安としては、1製品当たり最低1,500万ルピア程度だ。ただし、複数製品を同時に申請する場合は単価が下がる傾向があり、1製品目は1,500万ルピア(約13万5,000円、1ルピア=0.009円)、2製品目以降は1製品当たり400万~500万ルピア程度の追加費用となる。
7 申請前にTKDNの評価や数値算定について事前相談したい場合、スコフィンド社に相談してよいか。あるいは他の指定機関に相談すべきか。指定機関があれば教えてほしい。 スコフィンド社のマーケティング担当部署に相談することが可能だ。

出所:セミナー当日の質疑応答を基にジェトロ作成

認証取得負担の軽減と現地調達・国内生産拡大の可能性

新規則(工業大臣規則2025年第35号)は、TKDNおよびBMPの算定方法の簡素化や各種インセンティブの導入を通じて、企業による認証取得の負担を軽減するとともに、TKDN制度の活用を促進する内容となっている。セミナーでは、工業省の国産品使用促進(P3DN)センターTKDN認証チーム長であるソンディ・カメスウォロ氏が、積極的なTKDN認証の取得を促すとともに、インドネシア国内産業の発展へのさらなる貢献に期待を示した。企業にとっては、認証取得に係る負担の軽減というメリットが期待される一方、完成品や国内調達が可能な原材料・資材については、現地調達や国内生産の重要性が引き続き高まる可能性がある。そのため、インドネシア市場で事業を展開する企業、特に政府調達に参入する企業や、個別規則によりTKDNが設定されている製品を製造する企業は、TKDN認証の取得・活用を含め、必要に応じて現地調達・生産戦略をあらためて検討する必要があるだろう。


注1:
物品・サービスにおける、インドネシア国内の構成要素(原材料、部品、労働力など)を評価する指標。 本文に戻る
注2:
インドネシアでの生産活動における国内産業への貢献を評価する指標。 本文に戻る
注3:
土地・建物を除く、事業資本50億ルピア(約4,500万円、1ルピア=0.009円)以下の企業(工業大臣規則2025年第35号)。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
上田 ぬ美子(うえだ ぬみこ)
1990年よりインドネシア在住。インドネシアの大学院修了後、日系、非日系のメーカー、金融、コンサルティング、不動産開発会社、総合商社を経て、2026年からジェトロ・ジャカルタ事務所でビジネスアドバイザーとして勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
山田 研司(やまだ けんじ)
2016年、ジェトロ入構。企画部地方創生推進課(現、国内事務所運営課)、ナイロビ事務所、ジェトロ山梨、企画部企画課を経て、2025年10月からジャカルタ事務所で調査員として勤務。