選挙に備えるバングラデシュ日系企業、調査で7年ぶり黒字見通し5割
2026年1月27日
バングラデシュで次期総選挙日が近づき、政治の季節が到来した。
2024年半ばの政変で日系企業は、操業停止などを経験。そのため、備えを進めている。ジェトロが実施する年次調査によると、在バングラデシュ日系企業の9割超が政治・社会の不安定さを投資リスクと捉えている。一方、営業黒字見込みの割合が、7年ぶりに5割を超えた。
本レポートでは、調査結果と企業ヒアリング(主に首都ダッカ所在)に基づき、現地日系企業の動きをまとめる。
選挙を控え増産対応
総選挙の投票日は、2026年2月12日だ。選挙に備え、政党関連のポスターが街中そこかしこに目立つ。現地の日系企業の多くが、選挙での混乱を想定。例えば、出張者受け入れの一時停止を検討し、製造業では選挙前の出荷を増やしている。 2024年8月の政変前に発生した操業停止は、突然の出来事(2024年8月5日付ビジネス短信参照)だった。今回は選挙日程が決まっているため、計画的に増産できる。日系製造業の幹部の1人は、政変時は他国に生産を肩代わりしてもらわざるを得なかったと言及。「残業代が発生するとは言え、何もなければそれでいい」と語る(2025年12月8日ヒアリング)。

(ジェトロ撮影)

ジェトロが実施した「2025年度海外進出日系企業実態調査アジア・オセアニア編(以下、日系企業調査)」(注1)では、在バングラデシュの日系企業の94.4%が「不安定な政治・社会情勢」を投資環境上のリスクに挙げた(表参照)。この比率は、政変直後に実施した前年調査(94.8%)とほぼ変わらない。選挙を巡る混乱に備え、企業が具体的な対策に落とし込んでいることが分かる。
表:投資環境上のメリット・リスク(上位5項目、複数回答) (単位:%)
メリット
| 項目 | 回答率 |
|---|---|
| 人件費の安さ | 61.3 |
| 市場規模/成長性 | 61.3 |
| ワーカー等の雇いやすさ | 29.3 |
| 言語・コミュニケーション上の障害の少なさ | 20.0 |
| 税制面でのインセンティブ | 14.7 |
| 従業員の質の高さ(一般ワーカー) | 14.7 |
| 項目 | 回答率 |
|---|---|
| 人件費の安さ | 77.4 |
| 市場規模/成長性 | 56.6 |
| ワーカー等の雇いやすさ | 28.3 |
| 言語・コミュニケーション上の障害の少なさ | 26.4 |
| 専門職等の雇いやすさ | 17.0 |
リスク
| 項目 | 回答率 |
|---|---|
| 不安定な政治・社会情勢 | 94.8 |
| 現地政府の不透明な政策運営 | 75.3 |
| 電力インフラの未整備 | 71.4 |
| 法制度の未整備・不透明な運用 | 64.9 |
| 行政手続きの煩雑さ(許認可等) | 64.9 |
| 項目 | 回答率 |
|---|---|
| 不安定な政治・社会情勢 | 94.4 |
| 税制・税務手続きの煩雑さ | 81.5 |
| 現地政府の不透明な政策運営 | 66.7 |
| 行政手続きの煩雑さ(許認可等) | 66.7 |
| 法制度の未整備・不透明な運用 | 66.7 |
出所:ジェトロ「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」
メトロポリタン商工会議所(MCCI)はバングラデシュの主要経済団体で、地場・外資系の大手企業などが加盟する。その幹部は、選挙後に政権が安定するまでに5~6カ月程度かかる見通しと明かした(12月10日ヒアリング)。その上で、新政権に第1に求めることとして「法と秩序の確立」を指摘。社会情勢の安定が最優先課題という認識を示した。
製造業の黒字見込み7割、賃金高騰が続く
一方、日系企業調査は、こうした不安定な社会情勢下でも業績が全体的に改善傾向にあることを示した。
2025年度の営業利益見込みが「黒字」と回答した企業の割合は、50.0%。新型コロナ禍前の2018年以降で、初めて5割に達したことになる。製造業に限ると、割合は71.4%に達する。産業別のデータが比較可能な2012年以降で、最高だ。
また、営業利益見込みの「改善」から「悪化」を引いた景況感のDI値も向上。全体で9.5になり前年度の6.5を上回った。特に製造業では、30に達した。
出所:ジェトロ「海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」の各年度
当地は、他国と比べ製造業の作業員賃金が低めだ。日系企業調査対象国のうち、月額賃金(中央値)がミャンマーに次いで低い。また「人件費の安さ」が2年連続で、投資環境上のメリットとして1位になった。
作業員の雇いやすさも、バングラデシュの強みだ。国連が2025年11月に発表した報告書「世界都市化見通し2025年版
」に記されたダッカ地域の人口は約3,700万人。東京首都圏を抜き、世界第2位の人口規模になった。2050年にはインドネシア・ジャカルタ地域を抜き、世界最大の都市圏になると予測している。
一方、日系製造業の共通した懸念は賃金の上昇だ。日系企業調査では2025年の製造業の平均上昇(ベースアップ)率が9.7%に達した。この上昇率は9年ぶりの高さだ。日系企業A社〔地場工場から製品を調達〕は、ダッカ周辺より賃金の安いチョットグラム(チッタゴン)などの工場と取引することも視野に入れている(2025年12月10日ヒアリング)。
さらに中国企業の進出が著しいことも、一部産業の競争環境が厳しくなる要因になっている。中国の国営メディア・新華社によると、バングラデシュには2025年7月時点で中国系企業が約1,000社進出。日系企業の約3倍に上っているとみられる。日系企業調査でも、当地製造業の33.3%が「最も競合する国・地域別競争相手」として中国企業を挙げた(地場企業と同率首位)。
もっとも中国で取引経験のある日系企業にとっては、マイナス面ばかりとはいえない。日本市場向け製品を手掛けてきた経験を持つ中国企業とバングラデシュでやり取りができることには、利点がある。また、非製造業で中国を最大の競合相手と回答した割合は、12.1%にとどまった。
投資段階にある市場との見方も
今後1~2年の事業展開の方向性については、事業を「拡大」するという回答が全体で56.9%。アジア・オセアニアの国・地域としては、インド、パキスタンに次ぎ、ベトナムと並んで第3位だった。
バングラデシュの内訳を見ると、新型コロナ禍以降、非製造業が製造業より積極的な傾向が続く。「事業を拡大する」回答の割合は製造業の47.2%に対し、非製造業は62.2%。わずかにせよ3年ぶりに前年を上回った。
拡大理由は「現地市場ニーズの拡大」が製造業、非製造業ともに6割を超えた。また拡大する機能はともに「販売」が最大で、5割を超えている。
出所:ジェトロ「海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」の各年度版
非製造業B社〔日本の本社がバングラデシュを重点地域と位置付ける〕の幹部は、「(本社幹部から)可能性しかないと言われている」と語った。企業全体として投資先として重要視する姿勢を明らかにしたかたちだ(2025年12月9日ヒアリング)。また、非製造業C社幹部も、「人口が多く、ポテンシャルの高い国だ。踏みとどまって経験値をつける時期」という見方を示した(同日ヒアリング)。
前出の国連報告書によると、現在のバングラデシュの人口は1億7,576万人。ただし、所得別の分布を見ると、現時点で低所得者層が86.9%に上る。しかしこれが2040年には、40.7%に低下する予測になっている。逆に、中間層以上の人口割合が13.1%から59.4%に上昇することになる。日系製造業D社〔当地消費者向けに商品販売〕の幹部は、市場の「伸びしろは大きい」(同日ヒアリング)と指摘した。
出所:Euromonitor International(2025年12月時点データ)を基にジェトロ作成
二国間EPAでルール整備推進
日本とバングラデシュは12月22日、二国間経済連携協定(EPA)交渉で大筋合意に至ったと発表した(2025年12月23日付ビジネス短信参照)。バングラデシュとしては、初の二国間EPA。また日本にとっても、国連が定める後発開発途上国(LDC)とのEPAとして、初にとなる。
協定の詳細はまだ不明だ。しかし、繊維・繊維製品(バングラデシュの主力商材)の日本向け輸出について、同国がLDCを卒業した後も現行の無税待遇を維持するという。このほか、幅広い分野で「ルールの整備」を盛り込むことを公表。日本の外務省は例として、「政府調達の市場アクセス」「電子商取引のソースコード移転・アクセス要求の禁止」(注2)「税関手続き・貿易円滑化などでの汚職・腐敗防止の規律」などの章を立てることを明らかにした。
前出の表に示した投資環境リスクで2~5位に入ったのは全て、制度や手続き、政策運営に関する課題だった。特に「税制・税務手続きの煩雑さ」の回答比率は8割超。企業に大きな負担を強いている。当該EPAの施行時期が未定とはいえ、投資環境改善に向けた取り組みが動き出したとはいえるだろう。また国際協力機構(JICA)の技術協力として、日本はバングラデシュ国家歳入庁(NBR)向けに2022年度から研修を実施している他、2024年度からはバングラデシュ投資開発庁(BIDA)に日本から専門家を派遣している。今後のNBRへの専門家派遣についても検討が始まっている。
このほか日本からの支援として、マタバリ港開発に日系企業の期待が大きい。同港は、当地初の深海港になる。現在の主要港(チッタゴン)を使うと積み替えに日数を取らざるを得ない。例えば日本向けて輸出する場合は、シンガポールやマレーシア・クラン港で積み替えることになる。しかしマタバリ開港(2029年に予定)後は、積み替えなく日本や欧州にモノが運べるようになる。納期短縮化を見込める。同港の開発を推進する政権の姿勢は、政変を経ても変わらない。継続されている数少ないインフラ整備案件で、目に見える投資環境改善要因になっている。
新政権への期待についてヒアリング企業の多くが挙げたのは、「税務などを巡る運用の改善」「手続きの煩雑さの解消」「政治・社会の安定」など。日系企業調査で挙がった投資環境リスク項目の裏返しといえる。現地シンクタンクの政策対話センター(CPD)の調査担当幹部は、「ビジネスが求めているのは、税優遇などの投資誘致策よりも、金利やコストが下がることによる投資のファシリテーションだ」と述べた(12月10日ヒアリング)。これは新政権が取り組むべき課題になる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
今野 至(こんの いたる) - 出版社、アジア経済情報配信会社などを経て、2023年9月から現職。




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