人材育成で成長するサラワク州のコンテンツ産業(マレーシア)
2026年9月29日
マレーシアでは近年、アニメーションやゲームを中心とするデジタルコンテンツ産業が成長している。デジタル省およびマレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)によると、2025年のデジタルコンテンツ産業の売上高は92億5,000リンギ(約3,607億円、1リンギ=約39円)だった。2023年の53億1,000万リンギと比べると、2年間で74.1%増加した。輸出額は12.1億リンギ(2023年は8.4億リンギ)に達し、1万人を超える雇用を創出した。国内にはアニメーション関連企業156社、ゲーム関連企業91社が集積しており、デジタルコンテンツ産業は同国のデジタル経済を支える重要分野の1つとなっている。また、統計局(DOSM)によると、2024年の文化・クリエイティブ産業全体の付加価値額は1,307億リンギとなり、国内総生産(GDP)の6.8%を占めた。
これまで同産業はクアラルンプールなどマレー半島に集積してきたが、近年は、人材育成の強化やデジタル産業振興策の推進を背景に、ボルネオ島に位置する東マレーシアのサラワク州も新たな拠点として注目を集めている。2026年8月19日~23日には、州都クチンで「Borneo Animation & Games Festival 2026 (BAGF)
」が初めて開催された。ジェトロは、同イベントの主催者であるMDECと、サラワク・デジタル開発公社(SDEC)に、サラワク州のデジタルコンテンツ市場の可能性や産業振興戦略、人材育成の取り組み、日本企業との協業可能性について聞いた(取材日:2026年8月20日)。

(ジェトロ撮影)

(ジェトロ撮影)
東マレーシアのデジタルコンテンツ産業発信を目指すBAGF
BAGFは業界関係者向け商談会(BtoB)と一般向けプログラム(BtoC)を組み合わせた、東マレーシア初のデジタルコンテンツ産業イベントとして開催された。2026年8月19~21日のBtoB向けイベントと、21日~23日のBtoC向けイベントで構成され、主催者によると計79社が出展、約2万3千人が来場した。
- 質問:
- クチンでBAGFを初開催した理由は。
- 答え:
- (MDEC)マレーシアのデジタルコンテンツ産業は、クアラルンプールやジョホールバルなど、マレー半島部がその拠点として注目を集めてきたが、東マレーシアにも産業の集積がある。海外からも注目を集め始め、MDECとしてBtoB向けイベント開催など、東マレーシアに注力した支援策の必要性を感じていた。
- (SDEC)複数の海外の有名プロダクションから、サラワク州のデジタルコンテンツ産業の人材を活用したいと問い合わせがあった。育成した人材により多くの活躍の場を提供するとともに、産業の国際化を進める必要があると考え、開催に至った。
- 質問:
- 開催した手応えは。
- 答え:
- (SDEC)実際に海外の大手プロダクションがBAGFに来場し、スピーカーとしても登壇した。彼らはサラワク州の人材の多様性や技術力の高さを評価しており、手応えを感じている。海外へのビジネス展開を目指すサラワク州の企業にとって、海外の大手プロダクションとの商談の機会はもちろん有用だが、新たなアニメやゲームの企画・開発に取り組む起業家や学生がグローバルで活躍する専門家と交流する機会を持てることは、将来のサラワク州のエコシステムの発展に役立つものとなった。
-

BAGFのカンファレンスの様子(ジェトロ撮影)
マレーシアのデジタルコンテンツ産業と、サラワク州の強み
- 質問:
- マレーシアのデジタルコンテンツ産業の強みは。
- 答え:
- (MDEC)マレーシアは東南アジアの中でも比較的高い所得水準と教育水準を有していることが強みだ。従来、マレーシアのデジタルコンテンツ産業は、海外プロダクション向けのアウトソーシングが中心であったが、昨今は独自のIP(知的財産)を保有し、コンテンツを制作する企業が増えてきた。企業はMDECのサポートも活用し、コンテンツが海外で評価を受けるようになってきており、エコシステム(産業の連携体制)」全体のレベルを引き上げている。
- 質問:
- サラワク州のデジタルコンテンツ産業の強みは。
- 答え:
- (SDEC)多様な民族構成を背景とした異なる文化への感受性の高さや、ユニークで多彩なデザイン性が特徴だ。加えて、サラワク州ではデジタルコンテンツ産業の人材育成にも力を入れており、優秀で英語の話せる人材が強みだ。特にクチンは経済規模やプレーヤー数、街の規模がコンパクトである分、人材育成からアントレプレナーシップ(起業家マインド)、行政や企業へのアクセスの利便性など、必要なエコシステムが整っているのが魅力だ。
人材育成と国際連携に注目
- 質問:
- サラワク州のデジタルコンテンツ人材の育成状況は。
- 答え:
-
(SDEC)2030年に向けて、サラワク州のデジタル経済の促進を目指す「サラワクデジタルエコノミーブループリント2030」(サラワク州政府のデジタル経済発展戦略)の下、SDEC内の「ベンチャー・インパクト・クリエイティブエコノミー(VICE)」部門がデジタルコンテンツ人材の育成や企業活動の促進を担っている。VICEは同ブループリントの下、ローカルIPの創出支援やデジタルコンテンツ分野の人材育成に特に力を入れてきた。
加えて、サラワク州政府が設立した人材・起業家育成機関「TEGAS Digital Village(TDV)」とも連携して支援策を提供している。TDVは起業家、プレシード(創業準備段階)のスタートアップ向けのインキュベーション(創業支援)プログラムを提供しており、同プログラムには、デジタルコンテンツも対象に含まれる。 - 質問:
- サラワク州はどのような国際連携に取り組んでいるのか。
- 答え:
- (SDEC)MDECが2022年から開始した、クリエイティブ人材を含む海外のデジタル人材向けビザ「DE Rantau Digital Nomad Pass」のサラワク州向けプログラムとして「DE Rantau Sarawak」を2026年から正式に開始した。これにより海外のデジタル人材を同州に誘致する体制が整った(注1)。
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BAGFのブース出展の様子(ジェトロ撮影)
日本企業との協業の可能性と今後の展望
- 質問:
- 日本企業との連携の可能性と今後の展望は。
- 答え:
- (MDEC)マレーシアのデジタルコンテンツ人材がアニメやゲームを学ぶきっかけは、日本のコンテンツに触れたことが挙げられる。こうした観点からもマレーシアのデジタルコンテンツ人材と日本企業の親和性は高い。マレーシア市場は決して大きくないため、日本企業と連携した海外への展開が重要だと考える。
- (SDEC)サラワク州は人材の輩出をはじめ、エコシステムが整ってきているが、グローバルの視点ではまだまだ学ぶべきことが多い。グローバル展開の経験を有する日本企業から学べることは多く、共同出資や人材交流から始めたい。
企業が評価するサラワク州のデジタルコンテンツ産業
BAGFでは、サラワク州のデジタルコンテンツ産業の将来性や日本との連携に対する期待の声が聞かれた。
BAGFに出展したフィンランド発3Dアニメ制作会社アニマ・ヴィタエによると、「サラワク州のデジタルコンテンツ人材のレベルの高さに驚いた。多様な民族・文化背景を持つことが、製作の議論に深みと高い受容性を持たせており、製作する環境として魅力的」と語った。こうした評価は、サラワク州が海外企業から見ても有望なコンテンツ産業拠点として認識され始めていることを示している。
カンファレンスに登壇したマレーシアを代表する俳優であり、自身もクリエイティブ企業グループを運営するティアラ・ジャクエリーナ氏(注2)は自身の経験を踏まえ「IPを作る時に、海外展開やその後のマーチャンダイジングまで考えて作品制作をすることは難しい。ただ、マレーシアのデジタルコンテンツ産業のエコシステムは拡大しており、海外で評価されるマレーシアの作品も増えてきている。特に日本企業からは資金調達や作品アイデアへのメンタリングを含むアントレプレナーシップの育成の観点から連携を強化してほしい」と期待を寄せた。
サラワク州では、人材育成や国際連携を軸にデジタルコンテンツ産業の基盤整備が進んでいる。BAGFの開催を通じて海外企業との接点も拡大しており、今後はマレーシア半島部に続く新たなコンテンツ産業拠点としての成長が注目される。
- 注1:
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MDECのデジタル人材向けビザ「DE Rantau」は、原則としてマレーシア半島部のみが対象であり、サラワク州は原則対象外となっていた。サラワク州で就労する場合は、この度導入されたSDECが発行するデジタル人材向けビザ「DE Rantau Sarawak」が必要。MDECのデジタルノマドパスについては、ジェトロウェブサイト「マレーシア 外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用」およびMDECウェブサイト
を参照。サラワクのデジタルノマドパスについては、SDECウェブサイト
を参照。 - 注2:
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マレーシアを代表する俳優、プロデューサー、起業家。2004年公開の映画「Puteri Genung Ledang」で主演を務め、現在はクリエイティブ産業の複合企業エンフィニティ・グループ(Enfiniti Group of Companies)の最高経営責任者(CEO)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・クアラルンプール事務所
都築 佑樹(つづき ゆうき) - 2016年、ジェトロ入構。サービス産業部、岡山事務所、デジタルマーケティング部を経て、2023年11月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・クアラルンプール事務所
ニザール・カイルッディン - 2021年からジェトロ・クアラルンプール事務所で事業アシスタントを務める。





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