ウクライナへの輸送、輸入通関の事前準備が重要

2026年1月28日

ウクライナでのビジネスを検討する際に懸念される問題の1つが物流だ。日本からウクライナまでの主要な物流ルートは現状、海上または航空輸送で欧州の主要港・空港に貨物を輸送し、その後トラックまたは鉄道でウクライナ国内まで陸上輸送となる。ウクライナ政府は国際パートナーとともに、戦争によって損害を受けた物流ネットワークの回復や拡充に取り組み、欧州およびその他の地域との接続性を強化している。

ジェトロは2025年10月、主要物流ルートを活用した貨物輸送の所要時間、物流上のリスクやその低減策などを明らかにするため、実際の貨物を使用した追跡輸送調査を実施した。本調査は、荷主であるNTCインターナショナルおよび輸送を担うNIPPON EXPRESSホールディングス(以下NX)の協力の下に実施した。調査概要は後述のとおり。

調査概要と結果

対象貨物は、ウクライナ向けに日本からドイツのハンブルクまで海上輸送されたNTCインターナショナルの土壌硬化剤。本調査では、NXドイツ ハンブルク支店からポーランドを経由して納品先であるウクライナのオレクサンドリア(キロヴォフラード州)までのトラック輸送を追跡した。ポーランドとウクライナ間の国境(ポーランド側:ドロフスク、ウクライナ側:ヤホディン)通過後に調査員がトラックに乗車し、区間ごとの輸送時間、道路状態などの輸送環境、休憩ポイントの状況や周辺環境を記録。また、貨物内にデータロガーを設置し、振動・温度・湿度・明るさの輸送環境データを収集した。

本輸送では、NXドイツ ハンブルク支店の倉庫出発時にEU域内の保税トランジット申告を行い、ポーランド側国境到着時にトランジット手続きを完了した。続いてウクライナ側国境で貨物に新たな保税トランジット手続きを行い、税関管理下のままキーウ税関まで輸送し、正式な輸入通関を行った。

調査項目

  1. ハンブルクからオレクサンドリアまでの輸送所要時間
  2. 道路状態など輸送環境
  3. 休憩ポイントの状況、周辺環境
  4. 振動・温度・湿度・明るさの輸送環境(データロガーで計測)

トラックの荷台に積まれた輸送貨物(ジェトロ撮影)

調査結果

  • 貨物を積んだトラックがNXドイツ ハンブルク支店を出発(10月9日午前11時半。現地時間、以下同じ)してから、納品先に到着(10月15日午後8時半)するまで約6.5日を要した。
  • ポーランドのドロフスク側国境前に約15キロの渋滞が発生しており、ポーランド側での国境渋滞最後尾に接続してからポーランド側国境税関に到着するまでに約1.5日、両国国境税関を通過するのに約1日、計約2.5日を要した。ただし、法律に基づいたトラック運転手の休息時間を含む。
  • キーウでの輸入通関は約4時間で完了した。
  • 各税関ポイントでは貨物を車両から下ろすことなく車上通関手続きを行った。
  • ウクライナ側の道路コンディションは、調査区間全体を通じて総じて良好であった。戦争によって損傷・破壊された箇所や、輸送に支障をきたすような道路被害は確認されなかった。
  • データロガーの数値によると、貨物の積み込みおよび積み下ろし時の振動値の上昇を除き、輸送中の大きな振動は確認されなかった。温度・湿度・明るさの計測においても、輸送中に貨物の品質に影響を及ぼす異常値は確認されず、輸送環境は安定していたことが確認された。
  • 積み込み・積み下ろし時を除く輸送中のデータロガーの数値の幅は、衝撃0.9~6.2g(平均値1.1g)、温度5.2~17.0度(同10.6度)、湿度53.2~88.2%(同75.3%)、明るさ0~457.1ルクス(同30.5ルクス)だった。
  • トラック運転手はウクライナ国内において、9時間の休憩を1回、45分の休憩を2回取得した。いずれの休憩ポイントも、照明や周辺環境などに大きな問題はなく、安全上懸念される要素は確認されなかった。
図:輸送経路と各地点における時刻(いずれも各地の現地時間)
今回の調査において、貨物トラックは現地時間10月9日午前11時半にNXドイツ ハンブルク支店からポーランド・ウクライナ間の国境に向けて出発した。11日午前8時にポーランド側国境列に到着。13日午後5時45分にウクライナ側国境税関通過。14日午後12時半にキーウ税関に到着し通関。15日午後1時半にキーウ税関を出発し、同日午後8時半にオレクサンドリアの納品場所に到着。

出所:ジェトロ作成


ポーランドのドロフスク側国境付近の貨物トラックの列(ジェトロ撮影)

オレクサンドリアでの納品の様子(納品先提供)

今回の輸送案件に対するNXの総合評価

輸送上での主要リスクは適切に管理され、安全性・効率性・品質面において高い水準で実施された。総合的に輸送リスクは低く、安定した物流が確保された輸送案件であったと評価できる。

ウクライナ向け輸送において輸入通関は最も重要な工程の1つだ。通関対応が不十分な場合には、貨物が税関で数日間留め置かれる事例も珍しくない。今回の輸送では、キーウでの輸入通関は約4時間で完了した。通関エージェントとの事前調整、必要書類の内容・整合性・添付資料などの綿密な準備が奏功した結果だ。輸入通関の遅延は単にリードタイムを延ばすだけでなく、車両の待機費用や保税駐車場費用といった追加コストの発生、ドライバーの運行管理への影響、さらには長時間の留め置きによる盗難・破損などの安全リスクの上昇といったさまざまな影響を及ぼす。輸入通関が切れず保税状態が長期化すると書類の有効期限切れや追加資料の要求が発生し、手続きがさらに複雑化するリスクもある。ウクライナ側の通関エージェントなど関係機関との事前調整が極めて重要となる。

国境オペレーションの効率化が円滑な国際輸送の課題

戦争を背景とする港湾インフラの損害や輸送ルートの再編などにより、ウクライナは特に輸入において道路輸送に依存している。今回の物流調査で貨物トラックが国境ポイントで15キロの渋滞に遭遇し、通過に2.5日を要した。世界銀行は2025年6月に公表したウクライナ物流に関する報告書の中で、中期的な輸入量の増加を想定し、国境オペレーション効率化がウクライナ経済に必要不可欠であると指摘する。対応策の例として、a.(ウクライナからの出国時に)国境通過時間の予約を可能にする電子順番待ちシステム(e-queue system)の機能拡張、b. 国境における手続きや検査のデジタル化および業務プロセスの最適化、c. 認定経済事業者(AEO)専用のトラックレーンの導入、d.(中長期的には)交通効率への高い効果が見込まれる国境ポイントの拡張などを提案している。

国境を共有する隣国との協力も加速

国際物流の効率化のため、ウクライナは国境を共有する隣国との協議も進める。ウクライナと欧州間の主要な結節点を有するポーランドとは、EUの「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)」の枠組みでの協力、国境インフラの開発や、共同での税関・国境管理に関する協定締結に向けた協議を行っている。一方、物流ルートの多角化にも取り組んでおり、ルーマニアやモルドバとも、共同の税関管理や事前の情報交換などによる国境手続きの最適化、道路・鉄道インフラの整備、地域安全保障の深化などの議論を重ねている(2025年12月22日付ビジネス短信参照)。

ウクライナは欧州およびその他の地域との接続性の強化、物流網の拡充を目指し、パートナー国や世界銀行・EUなどの国際機関との協力を加速させている。一方で、戦時下で防衛分野への支出が優先され、国家予算が逼迫しているところ、国際機関やパートナー国、民間資金を活用した官民連携による復興プロジェクトに期待を寄せている。

執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課ロシアCIS班
柴田 紗英(しばた さえ)
2021年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ・ワルシャワ事務所を経て、2024年9月から現職。