物流の「遠隔無人化」に挑む日台連携の最前線
超長距離遠隔フォークリフトの社会実装へ
2026年9月18日
近年、世界貿易の拡大や製造業生産量の増加を背景に、物流需要が高まる中、物流現場では人手不足が深刻な課題となっている。特に、猛暑や厳冬の屋外作業、冷凍倉庫内といった過酷な労働環境においては、新たな人材を引きつけることが困難との声が聞かれた。また、トラックから倉庫への荷積み・荷下ろしといった「不定位置荷役」を担う作業員の不足も課題となっている。対象物や車両が常に定位置にあるとは限らず、数センチ単位の操作も求められるため、依然として人の柔軟な技能に依存せざるを得ない。結果として作業員は過酷な環境に身を置き続けることになり、物流における労働環境の改善や省人化を進める上でのボトルネックとなっているという。
こうした課題への対応策の1つとして、物流業界ではロボティクスなどの自動化技術へのニーズが高まっている。こうした中、国境を越えた連携により労働環境の改善と物流現場の「遠隔無人化」に挑むのが、日本の白石倉庫とアダワープジャパン、そして台湾のフォークリフトメーカー勤工(AXON)だ。本稿では、白石倉庫代表取締役社長の太宰榮一氏、アダワープジャパン代表取締役社長の安谷屋樹氏、そしてAXON董事長の林渓寛氏への取材を基に、遠隔操作フォークリフトの実装に向けた取り組みの現状と今後の展望を紹介する(取材日:2026年8月21日)。3社は既に仙台市・台北市間約2,300キロメートルでの遠隔操作実証を実施しており、将来的な自律化も視野に入れた取り組みとして注目される。

「台北国際自動化工業展」を舞台にした日台連携とRUFの現在地
白石倉庫は、宮城県を拠点に東北地方の物流インフラを支える老舗の総合物流企業でありながら、最新テクノロジーの現場実装にも積極的に取り組んでいる。同社の太宰氏によると、宮城県の厳しい冬にフォークリフトを操作する作業員の負荷軽減を図りたいとの考えから、国土交通省の補助事業「物流施設におけるDX推進実証事業」を活用し、自社倉庫を実証フィールドとして遠隔無人操作フォークリフトの実証実験に向けた環境を整備した。
そこに合流したのが、独自の通信冗長化技術(注1)を軸に産業機械の遠隔操作システムを開発するロボティクスベンチャーのアダワープジャパンと、自律走行搬送ロボット(AMR)(注2)技術を有する台湾のAXONだ。この3社の協業により、AXONの車両技術とアダワープジャパンの遠隔操作技術を組み合わせた「RUF(Remote controlled Unmanned Forklift)」の開発が進められている。
アダワープジャパン・安谷屋氏によると、同社とAXONの技術は高い親和性を有していたという。AXONは既に自社のフォークリフト向けの自律走行技術を保有しており、外部からの指令を受け取って車体を制御する「受信側」の基盤が整っていた。一方、アダワープジャパンは、離れた場所から映像を確認しながら低遅延の操作信号を送信する「送信側」の高度な技術を有していた。今回、AXONの車体制御システム(受信側)にアダワープジャパンの操作信号(送信側)を直接連携させる仕組みが実現したことで、実証に向けた協力が一気に加速したという。
太宰氏によると、この連携による日本国内の実績として、2025年には宮城県白石市にある白石倉庫のコックピットから、約50キロメートル離れた仙台市の自社倉庫内にあるフォークリフトの遠隔操作に成功した。また、2026年8月6日には、おそらく世界で初めて、輸入海上コンテナ内に積載された自動車部品の原料を遠隔で取り出す実証に成功している。
そして次なる挑戦の場として選ばれたのが、2026年8月中旬に台北市で開催された台湾最大級の産業展示会「台湾ロボット・スマート自動化展(TAIROS)」だ。同展示会のAXONブース内に設置された実機コックピットと仙台港の白石倉庫を通信で結び、約2,300キロメートル離れた台北市・仙台市間での遠隔操作デモンストレーションが実施された。
安谷屋氏によると、台北市の展示会場から白石倉庫にある実機を操作した際の通信遅延は、わずか0.2~0.3秒に抑えられた。1秒の遅延があると実用化は難しいが、この水準であれば支障なく操作できるという。特別な訓練を受けていない現場のフォークリフト作業員も、短時間で操作に適応できた。
また、AXONの林氏によれば、展示会期間中には既に化学品メーカーやコールドチェーン事業者からの具体的な引き合いが寄せられた。技術面での導入準備は既に整っており、あとは現場での採用判断を待つ段階に入っているとして、実用化への自信を示した。


(日本台湾交流協会提供)
RUFの遠隔操作データは「自律化」への布石に
RUFの導入により、過酷な環境から作業員を退避させて安全な場所からフォークリフトを遠隔操作できるようになり、作業負担の大幅な軽減が期待される。さらに、1人の作業員が離れた場所にある複数の倉庫を管理できるようになるため、限られた人材の有効活用にもつながるという。
インタビューでは、本プロジェクトが単なる遠隔操作技術の導入にとどまらず、人工知能(AI)による自動化や国境を越えた運用を視野に入れたロードマップの下で進められていることが語られた。
安谷屋氏によると、現在の日本の自動化技術では、平面上の「A点からB点への移動」は既に実用化されている。しかし、実際の倉庫での荷下ろし作業はそこまで単純ではない。対象物をA点で持ち上げ、B点を経由し、C点へ正確に積み下ろすといった複雑な3次元の動作が求められるため、完全自動化の実現にはなお高いハードルが存在する。
その点、RUFの特徴は、人間による遠隔操作の過程で得られるデータを、将来の自律化に向けた学習資源として活用できることにある。アダワープジャパンは米国エヌビディア(NVIDIA)製のデジタルツイン技術を用いたシミュレーターを開発しており、作業員による遠隔操作の動作データをAIの機械学習用データとして蓄積している。安谷屋氏は、これにより、3~5年後にはフォークリフトの知能化・自律化モデルの確立を目指したいと語った。
また、将来的には、米国と東アジア間の15~16時間の時差を利用し、米国の夜間倉庫で発生する荷役作業を東アジアの昼間時間帯から遠隔操作することで、現地の人手不足への対応と倉庫の24時間稼働の実現を検討している。さらに、林氏は、米国の実業家イーロン・マスク氏率いる「スターリンク」(注3)の活用による通信インフラ未整備地域での作業や、核廃棄物処理現場への応用に加え、足での操作を必要としない「ハンディキャップ向けコックピット」の開発など、多様な社会課題の解決にも応用可能性があるとの見方を示した。

1年半で実現した越境実証、その背景にあるのは「日台企業間の協力関係」
3社による協業は初接触からわずか1年半という比較的短期間で実現した。その背景には、ハードウエアとソフトウエアの技術的な親和性だけでなく、日台企業間の交流や協力関係の存在があった。
白石倉庫の太宰氏が台湾ビジネスに関心を持つようになったきっかけは、2011年3月の東日本大震災だった。太宰氏によると、震災時に台湾から寄せられた多大な支援への感謝の思いから、支援に対するお礼のため2014年にボランティア団体である慈済財団を訪問した。その後も花蓮地震などの被災地支援活動を継続するなど、相互交流を重ねてきた。
慈済財団関係者との交流を深める中で、「復興支援という枠を超え、ビジネスの面でも協力できないか」と考えるようになったという。ボランティア活動を通じて知り合った台北市の知人に「フォークリフトメーカーを探している」と相談したところ、AXONのウェブサイトの紹介を受けたのが今回の協業の始まりとなった。
その後、前述のとおりAXONとアダワープジャパンの技術に高い補完性があることが確認されたことに加え、日本台湾交流協会などを通じて現地の商習慣を事前に把握していたことで、意思決定層との直接交渉を迅速に進めることができたという。また、太宰氏によると、今回比較した他国・地域のメーカーに比べ、AXONはコスト面で優位性があり、経営層による意思決定も迅速だったという。その機動力が本プロジェクトの推進を大きく後押しした。
今後について安谷屋氏は、意思決定が迅速で新たな情報が集まりやすい台湾市場を実証の場として実績を重ね、そこで磨き上げた技術やノウハウを、市場規模の大きな日本市場へ逆輸入する戦略を描いていると語った。
- 執筆者紹介
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日本台湾交流協会 台北事務所
藤本 海香子(ふじもと みかこ) - 2021年、ジェトロ入構。イノベーション・知的財産部知的財産課、ジェトロ・アビジャン事務所、海外ビジネスサポートセンタービジネス展開課を経て、2026年3月から日本台湾交流協会台北事務所に出向。





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