自国映画の保護と国際共同製作の機運(フランス)
2024年映画産業動向

2025年10月23日

2024年の観客動員数、前年比0.6%増も新型コロナ禍以前の水準には届かず

フランス国立映画センター(CNC)の報告(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2024年のフランス国内の映画観客動員数は約1億8,150万人で前年比0.6%の微増となったが、新型コロナ禍以前の水準(約2億人)には届かず、2017~2019年の平均動員数を12.7%下回った。チケット購入の負担感やVOD視聴(注1)の伸長、余暇時間の過ごし方の多様化などによる映画館離れの傾向が見られる。一方で、2024年の劇場初公開作は744本(2023年は716本)で、2019年の746本に次いで過去2番目に多かった。

2024年の特徴としては、ハリウッドでのストライキの影響により米国作品の本数が減少傾向(2017~2019年の年平均127作品に対し、2020年以降5年連続100作品未満の状況)にあるなか、フランス映画の観客動員数が大幅な伸びを見せたことが挙げられる。観客動員数の上位5作品にフランス映画が3本入り〔1位「Un P’tit Truc en Plus(邦題未定)」・観客動員数1,072万人、2位「Comte de Monte-Cristo(邦題:モンテ・クリスト伯)」・同939万人、5位「L’Amour Ouf(邦題未定)」・同483万人〕、トップ2をフランス映画が占めるのは、2014年の「Qu’est-ce que on’a fait au bon Dieu ?(邦題:最高の花婿)」「Supercondriaque(邦題未定)」以来10年ぶりの快挙となった。

フランス映画の年間観客動員数は、前年比12.5%増の7,950万人で映画観客動員総数の44.8%を占めた。米国映画の6,440万人(前年比13.1%減、総動員数の36.3%。35%を記録した1983年に次ぐワースト2位)を大きく上回る結果となった。ジャンル別に見ると、動員数1位の「Un P’tit Truc en Plus」をはじめとしたコメディ作品が人気を集めており、フランス映画観客者数の45.5%を占めた。

また、アニメ映画の公開数も60本となり、2023年の59本を上回り過去最多を記録した。2024年の観客動員数3位および4位の作品もアニメ(「インサイド・ヘッド2」・観客動員数829万人、「モアナと伝説の海2」・同668万人)であり、観客動員数200万人超えの作品も5本を数えた。

表1:2024年のフランス国内映画観客動員数ランキング(Top20)
順位 作品名
(仏題/邦題)
公開日 観客動員数(万人) 制作国
1 Un P’tit Truc en Plus 5月1日 1,072 フランス
(邦題未定)
2 COMTE DE MONTE-CRISTO 6月28日 939 フランス
モンテ・クリスト伯
3 VICE-VERSA 2 6月19日 829 米国
インサイド・ヘッド2
4 VAIANA 2 11月27日 668 米国
モアナと伝説の海2
5 L'AMOUR OUF 10月16日  483 フランス
(邦題未定)
6 MOI, MOCHE ET MECHANT 4 7月10日 438 米国
怪盗グルーのミニオン超変身
7 DUNE : DEUXIEME PARTIE 2月28日 414 米国
デューン 砂の惑星 PART2
8 DEADPOOL & WOLVERINE 7月24日 363 英国
デッドプール&ウルヴァリン
9 GLADIATOR 2 11月13日 291 英国
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
10 MUFASA:LE ROI LION 12月18日 254 米国
ライオン・キング:ムファサ
11 LA PLANETE DES SINGES: LE NOUVEAU ROYAUME 5月8日 247 米国
猿の惑星/キングダム
12 KUNG FU PANDA 4 3月27日 236 米国
カンフー・パンダ 4 伝説のマスター降臨
13 MONSIEUR AZNAVOUR 10月23日 204 フランス
(邦題未定)
14 COCORICO 2月7日 198 フランス
(邦題未定)
15 BOB MARLEY: ONE LOVE 2月14日 190 英国
ボブ・マーリー:ONE LOVE
16 ROBOT SAUVAGE 10日9日 180 米国
野生の島のロズ
17 BEETLEJUICE BEETLEJUICE 9月11日 172 英国
ビートルジュース ビートルジュース
18 WONKA 2023年12月13日 165 英国
ウォンカとチョコレート工場のはじまり
19 UNE VIE 2月21日 161 英国
ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命
20 JURÉ N°2 10月30日 161 米国
陪審員2番

注1:邦題はジェトロにて追記。「WONKA」の公開開始は2023年(それ以外はすべて2024年)。
注2:「ライオン・キング:ムファサ」はフルCG(コンピュータグラフィック)作品。
出所:「CNC Bilan 2024」を基にジェトロ作成

配給はフランス企業パテ(Pathé)が4位に

フランスにおける映画配給会社の売上高上位5社のうち、4社は米国の配給会社(1位ウォルト・ディズニー、2位ワーナー・ブラザース、3位ユニバーサル・ピクチャーズ、5位パラマウント・ピクチャーズ)となり、米国の大手配給会社だけで全体売上高の49.3%を独占した。しかしながら新型コロナ禍以前より米国配給会社の売上高シェアは低下し、2017~2019年の平均値と比べて6.5ポイント減少している。

さらに、配給上位5社のうち、フランス企業であるパテ(Pathé)が3位ユニバーサル・ピクチャーズに0.03ポイント差で肉薄し、4位に付けた。CNCの報告によると、同社は2022年と2023年は7位で、大幅な躍進を見せた。また、2024年に映画を配給した配給会社の数は167社を数え、過去最多を記録した。

日本作品は映画祭ノミネート作や、人気のマンガIP原作のアニメが人気

2024年は30本の日本映画がフランスで公開された。特に濱口竜介監督の「悪は存在しない(フランス語タイトルはLe mal n'existe pas)」や石川慶監督の「ある男(フランスでのタイトルはA Man)」など、カンヌ、ベネチア、ベルリンといった国際映画祭でノミネートされた作品や、受賞経験のある監督の作品、知名度の高いマンガIP(注2)を原作とした作品が人気を集めた。

表2:2024年のフランスでの日本映画(共同製作を含む)の観客動員数 
順位 作品名
(仏題/邦題)
公開日 観客動員数
(人)
配給会社
1 Le mal n'existe pas  4月10日 198,906 Diaphana distribution
悪は存在しない 
2 SPY x FAMILY CODE: White  4月17日 178,966 Sony Pictures Entertainment/ Crunchyroll
劇場版 SPY×FAMILY CODE: White 
3 Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba – En route vers l'entraînement des piliers  2月24日 151,200 Sony Pictures Entertainment/ Crunchyroll
「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ 
4 A Man  1月31日 150,456 Art House
ある男 
5 Godzilla Minus One  1月17日  131,349 Piece of Magic Entertainment France
ゴジラ-1.0 
6 HAIKYÛ! La guerre des poubelles  6月12日 108,082 Sony Pictures Entertainment/ Crunchyroll
劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦 
7 Comme un lundi  5月8日 81,502 Art House
MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない 
8 My Hero Academia: You’re Next  10月9日 80,969 Sony Pictures Entertainment/ Crunchyroll
僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト 
9 My Sunshine  12月25日 78,533 Art House
ぼくのお日さま 
10 Blue Lock le film Episode Nagi  7月3日 70,255 Sony Pictures Entertainment/ Crunchyroll
劇場版ブルーロック -EPISODE 凪- 
11 Nicky Larson - City Hunter: Angel Dust  1月24日 57,984 Star Invest Films
劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト) 
12 Anzu, chat fantôme  8月21日 52,574 Diaphana Distribution
化け猫あんずちゃん 
13 Sylvanian Families, le film: le cadeau de Freya  8月21日 51,017 UFO Distribution
劇場版 シルバニアファミリー フレアからのおくりもの 
14 La Mélancolie  8月14日 46,128 Art House
ほつれる 
15 Tunnel to Summer  6月5日 44,099 Star Invest Films
夏へのトンネル、さよならの出口 
16 Look Back  9日18日 23,500 Eurozoom
ルックバック 
17 Blue Giant  3月6日 22,274 Eurozoom
BLUE GIANT 
18 Détective Conan: l'étoile à 1 million de dollars  6月19日 20,376 Eurozoom
名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ) 
19 Overlord: The Sacred Kingdom  11月16日 10,956 CGR Events
劇場版「オーバーロード」聖王国編 
20 Pompo The Cinephile  7月3日 8,817 Art House
映画大好きポンポさん 
21 Mobile Suit Gundam Seed Freedom  4月27日 4,311 CGR Events
機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 
22 Desert of Namibia  11月13日 1,267 Eurozoom
ナミビアの砂漠 

注:邦題はジェトロにて追記。
出所:AlloCinéおよびJournal du Japonウェブサイトを基にジェトロ作成

フランス映画の制作資金調達状況

2024年のフランス映画(注3)の資金調達状況については、制作会社の出資額が前年比7.3%増の4億6,940万ユーロを記録し、出資額全体の39.9%(前年比1.2%増)を占めた。制作会社による投資は、2016年に映画・映像作品の制作費の一部を税控除する施策(Crédit d’impôt cinéma)実施以降上昇傾向にあり、2024年の出資額は新型コロナ禍以前(2017~2019年)の平均額を30.6%上回っている。

次いで、放送・配信事業者の出資による資金調達も4億1,160万ユーロ(前年比7.2%増)で、過去最高額となった。新型コロナ禍以前の平均額を39.6%上回り、全体出資額における割合も35.0%と、35.5%に達した2015年以来の高水準を記録した。

映画館での配給、DVDなどのパッケージ販売や海外販売における最低保証金(ミニマムギャランティ)による資金調達は1億2,310万ユーロ(前年比11.3%増)を記録し、全体の10.5%を占めたが、依然として2017~2019年の平均額(1億4,270万ユーロ)を下回っている。

また、CNCおよび自治体からの助成による調達額の合計は8,920万ユーロ(前年比4.5%減)で、日本円に換算すると約158億7,760万円(2025年10月9日時点の換算レートである1ユーロ=約178円を使用)に上り、新型コロナ禍以前の平均額(8,690万ユーロ)を2.7%上回った。しかし、2024年は全体の投資額が増加していることもあり、公的助成からの調達割合は、2023年の8.3%や新型コロナ禍以前の平均値8.8%を下回る7.6%にとどまった。

CNCの支援、持続可能性を目指す取り組み

CNCは、映画、オーディオビジュアルおよび分野横断的な取り組みなどに対し、さまざまな支援を行っており、2024年の総支援額は7億5,870万ユーロ(約1,350億円、1ユーロ=約178円)に上った。CNCの支援は事業者の活動実績に応じて助成金が自動的に分配される「自動支援」と、審査委員会が多様性や人材の発掘・育成に寄与する作品を選定して支援する「選択助成」の2本柱で構成されている。映画、オーディオビジュアルおよびアニメーション産業を持続可能なものにするべく経済面で保護しつつ、多様性を尊重する文化芸術として支援する体制を構築している。

また、CNCは性差別・性暴力やハラスメントの対策、ジェンダーギャップの解消、障がい者の就業促進のような社会課題の解決に向けた取り組みや、2021年に立ち上げた「Plan Action !」を通じたエコプロダクションによる環境保護を進めている。

具体的には、映画制作現場における男女平等を達成するため、CNCがフランス映画と認可した作品における監督、脚本家、制作会社の従業員といった各役職・事業者における男女比にとどまらず、長編・短編、フィクション・アニメのような映像作品のジャンルごとにも制作者の男女比の調査・分析を行っている。例えば2024年には、長編映画の監督の26.8%、短編映画の監督の43.7%、フィクション映画制作会社の従業員の44.4%を女性が占めており、ジャンル別にみるとフィクション(短編)は40.6%が、アニメ(短編)は51.0%が女性監督の作品だった。

さらに、CNCによる支援の認可時に、プロジェクトの主要ポストに女性が一定数割り当てられている場合にボーナスが付与される「Bonus Parité」制度により、男女平等を促進する制作現場への支援を強化する施策が講じられている。

環境保護の中核的な取り組みとして、CNCは支援受給の必須条件に、映画製作時の二酸化炭素(CO2)排出量の暫定見積もりおよび最終結果の提出を課している。CO2排出量の算定は、CNCが公認した手法に限られる厳格なもので、2024年1月から実写作品に、2025年3月からアニメーション作品やゲームまで適用ジャンルが拡大している。

映画館のエネルギー使用量や、撮影スタジオのカーボンフットプリント(注4)の調査およびその結果公表は、2024年より前から実施されている。映画・映像学校の学生や職員を対象とした研修「Action... Formation !」を通じて、気候変動や環境に配慮した制作意識の向上が図られており、業界全体で環境保護意識の定着を促す取り組みが進められている。

フランスの国際共同製作の増加傾向

フランスでは国際共同製作の件数も増えている。2025年5月時点で、フランスは65件の国際共同製作協定を締結しており、国際共同製作は2024年に年間130本に上った。これは2023年の120本、新型コロナ禍以前の平均数(119本)を上回る結果となった。

直近では、2025年5月に開催されたカンヌ国際映画祭・Marché du film(マルシェ・デュ・フィルム)で、フランスはフィリピン、パラグアイ、モンテネグロの3カ国と国際共同製作協定を新規に締結したことを発表(2025年5月28日付ビジネス短信参照)し、国際共同製作の機運がますます高まっていることを示している。なお、この国際共同製作協定の締結国に米国と日本は含まれていない(注5)。

フランスでは、2012年に創設された「Aide aux cinéma du monde(ACM)」という国際共同製作に対する支援制度があり、CNCと公的機関のアンスティテュ・フランセ(Institut français)が共同で運営している。これまでに113カ国と共同製作した695作品が支援を受けた。支援には、製作前支援と製作後支援があり、審査委員会による審査を経て支援対象が決定される。同支援制度を活用した事例としては、前述の2025年のカンヌ国際映画祭でコンペティション部門にノミネートされた早川千絵監督の「ルノワール」(2024年5月15日、第1回審査委員会にて支援決定)が挙げられる。

このように、フランスには自国の文化および映画産業の保護・発展のためにさまざまな制度が存在し、CNCやアンスティテュ・フランセのような政府機関が支援を行っている。フランスでの展開を目指す際は、こうした制度の仕組みを理解したうえでうまく活用することが重要だ。ジェトロも政府機関としてコンテンツの海外展開に向け、コンテンツ海外展開支援拠点およびコンテンツ海外展開相談窓口を設置するなど取り組みを強化しており(2025年7月4日付お知らせ・記者発表参照)、引き続きフランスをはじめ海外展開を目指す際に参考となる情報の発信に取り組んでいく。


注1:
ビデオオンデマンド(Video On Demand)の略。サブスクリプション型のストリーミングサービス(SVOD:Subscription Video On Demand)や広告付きのストリーミングサービス(AVOD:Advertising Video On Demand)などが存在する。
注2:
クリエーティブな活動によって生み出されたキャラクターや創作物など、知的財産として価値を持つもの。
注3:
フランス主導で制作された映画を指す。
注4:
製品の製造から廃棄・リサイクルまでの過程全体のCO2排出量のこと。
注5:
中国とは2010年4月に同協定を締結、韓国とは2006年10月に締結している。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
𠮷澤 和樹(よしざわ かずき)
2015年、ジェトロ入構。サービス産業課、クリエイティブ産業課、新産業開発課、デジタルマーケティング課、内閣官房への出向などを経て2023年6月から現職。これまでに日本の映画・映像、音楽、アニメーション、ゲーム、マンガなどをはじめとしたコンテンツ産業、ライフスタイル産業、日本発のスタートアップ企業の海外展開に従事。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
キャロリーヌ アルテュス
1995年からジェトロ・パリ事務所に勤務。映画・映像、アニメーション、音楽、ゲーム、マンガなどの日本コンテンツの海外展開支援やプロモーションを担当。