越境ECで日本からチャンスをつかめ
ジェイグラブモールから海外展開支援に取り組む
2025年9月18日
ジェイグラブ(東京都渋谷区)は、越境電子商取引(EC)ベンチャーだ。設立は2010年。以来、日本企業に海外展開支援サービスを提供してきた。2022年からは、同社独自の越境ECモール「j-Grab Mall
」を開始。これまで支援に携わった日本企業数は、延べ3,000社に上る。
越境ECコンサルタントでもある代表取締役の山田彰彦氏に、同社の取り組みについて聞いた(取材日:2025年8月21日)。
- 質問:
- ジェイグラブの設立とジェトロを知ったきっかけは。
- 答え:
- 幼少期から、米国西海岸に住む親戚の家をよく訪れていた。当時から、現地で日本食の入手が難しいことを感じていた。
- その後、32歳の時、米EC大手eBayに入社。日本の商品が売れていく過程を実際に見て、米国での日本製品の需要を改めて実感した。その後、34歳でヤフーのコマース事業(オークションやショッピング事業)に携わった後、2010年にジェイグラブを設立した。 設立当時、ジェトロ・サンフランシスコ事務所に、ベンチャー企業向けの期間限定インキュベーションオフィスがあった。このオフィスを借りられると知り、日本から頻繁に米国を訪れ、積極的に商談。一時期は、米国で2週間プレゼンしては日本に帰るということを繰り返した。インキュベーションオフィスは日本の中小企業にとって、サンフランシスコで米国人と商談する上で、信用を得られる施設として有効だった。
「j-Grab」に込めた思い
- 質問:
- 社名の由来は。また、「j-Grab」のjが小文字の訳は。
- 答え:
- ジェイグラブのアルファベット表記は、「j-Grab」だ。「日本」から「情報や品物を掴(つか)む」(grab)、という意味合いを込めた。ロゴを考えた時に、デザイン会社と友人(米国人)から、「頭文字の「j」はIT会社らしく小文字にすべき」という案を受けた。
- 質問:
- 越境ECビジネス(j-Grab Mall)を始めた経緯は。
- 答え:
- コロナ禍により、日本は円安に傾き、米国では、急なインフレが進み始めた。そうなると日本の商品は、送料を含めても現地で買うより安い。このタイミングで海外の需要にうまく供給していくことができると、成功するのではないかと考えた。
- そこで2022年2月、独自の越境ECサイトである「j-Grab Mall」を立ち上げた。海外の大手ECサイトと連携し、世界中のプラットフォームで販売するのを可能にしている。主な販売相手国は、越境EC市場で世界シェア1位の中国ではなく、あえて、自分がよく知る米国にした。
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ジェイグラブ株式会社 代表取締役の山田彰彦氏(ジェトロ撮影) - 質問:
- j-Grab Mallで売れ行きの良い定番商品は。
- 答え:
- よく売れているものは、食品、日用品、雑貨など。
- 面白いものでは洗濯ネットや調味料の和三盆など。あとは下駄や着物。食品では抹茶、コーヒー、菓子類、サプリメントなどもよく売れている。
- 日用品ではスキンケア、ヘアケア、マスクなどの化粧品類が、雑貨では一般的なアクセサリー、スポーツ選手のサインもの、江戸切子、和雑貨、陶器、時計、招き猫などが売れている。
- 注文は、カリフォルニア州(特にロサンゼルス)、ニューヨーク州、テキサス州の順に多い。これら地域には、リピーターも多い。SNSの影響か、お客様は不思議と非日系の米国人が多い。
- 質問:
- j-Grab Mallに限らず、越境ECで最近売れている意外な商品は何か。
- 答え:
- 次のような例がある。
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- 甲冑(かっちゅう):
日本の甲冑が、意外にも海外で人気だ。室内に飾るのではない。オーダーメイドのものを着用し、アーマードバトル(注1)のようなスポーツで使用する。
欧米の一部マニアの間で広がり、今では中東方面でも人気が出ている。 - 音波振動歯ブラシ:
ここ数年で売り上げが伸びた。(1)持ち手部分に小さなソーラーパネルを内蔵する、(2)室内の光を集めて「マイナス電子」を発生させることで、歯磨き粉を使わずに歯がツルツルになる、といった特徴を持つ商品が人気だ。 約9割が、イスラエルからの注文になっている。 - 出汁(だし):
海外に専門店が出るほど、出汁(dashi)の認知度が上がっている。米国には出汁を飲ませる店舗まであるそうだ。
- 甲冑(かっちゅう):
粘り強い交渉で状況が好転することも
- 質問:
- 越境ECの難しい点、複数ある国内外のECサイトの違いは。
- 答え:
- 越境ECを支援する事業者のテストマーケティングや商談会に何度も参加しても、その先がうまくいかないことがある。自ら出店したときを含め、苦い経験をしてきた。例えば、相手企業がサンプルを求めてきて渡しても相手からの反応が得られなかったり、日本側出店企業が対応できる数量の少なさに驚かれて取引が成立しなかったりした。
- このように、商談で残念な結果に終わることもある。しかし、想定している質や量など、相手企業と日本企業とで条件が合わないことに気付ける良い機会になる。無駄な時間ではないと思う。
- 国内外のECサイトには、言葉や文化に違いがあるのはもちろん、モールごとに出店ルール1つを取っても全く違う。例えば、米国のあるECモールは、世界最大規模の一方、出店者に厳しく対応することで有名だ。アカウントやIDを突然削除してくることまである。しかし、その在日関連会社のモールではそのようなことが起きなかったりもする。
- 総じて、海外では日本で経験していることと全く別の経験をせざるを得ない。だが、厳しく対応されてもそのまま諦めず粘り強く交渉することで、思わぬ活路を見いだせることもある。
- 質問:
- 「j-Grab Mall」の取り扱い製品を増やすために、新規の参加事業者をどのように集めているのか。
- 答え:
- まず、定期的にセミナーを開催している。(当社の)ウェブサイトに関心を寄せていただき、お客さん側からコンタクトをいただくこともある。また、ジェイグラブの紹介記事を見た方などから連絡くださる方も多い。
- 「自社商品を海外に売りたい」という相談がきっかけになる場合も多い。
- 質問:
- 今後の方向性や課題は。
- 答え:
- 今後も「j-Grab Mall」を継続的に拡大していくことを、目標にしている。そういう意味で、自社のスクラッチ版で(注2)、「Amazon」「eBay」「Walmart」「Shopee」「Lazada」「JD」など、海外の主要ECモールに連携した越境ECモールを開発できたことは良かった。
- また、取り扱い製品や参加事業者を増やしていきたい。現在の取り扱いは、食品や雑貨が多い。今後は、(1) IP製品(ブランドロゴやデザインを含む知的財産を活用して開発・販売する商品/例えばアニメ・マンガ・ゲームのキャラクターなど)や、(2)伝統工芸品などにも手を広げたい。そのため、インバウンドや海外で今トレンドになっている日本製品などを常に意識していきたい。
- 将来的には、国内ECを運営している他のプラットフォームとも連携できたらうれしい。その商品をj-Grab Mallに掲載できると、商品数や取り扱いが一層充実することになる。いずれは、もっと大きな越境ECモールに成長させたい。
長期的視野での計画立案とSNS戦略が不可欠
- 質問:
- 越境ECによる商品販売を軌道に乗せるためのコツは。
- 答え:
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まず、商品の認知度を上げることが大事だ。そのためにも、SNSで告知するだけでなく、広告を十分に運用することが重要。
差し当たっては、(1) SNSでSEO対策(検索エンジン最適化/商品タイトルで上位に並ぶようにする)がもちろん大切。加えて、(2)広告で売りたい国にあわせた戦略を講じることや、(3) 3年くらいの長期的な視野で計画を立てて動くことも、重要だろう。

- 注1:
- アーマードバトル(armored battle)とは、中世後期に欧州に実在した鎧(よろい)を再現し、装備して戦うスポーツ。
- 注2:
- スクラッチ版とは、特別な要件やニーズに合わせて、システムをゼロからオーダーメイドで開発すること。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部調査企画課
岡田 篤子(おかだ あつこ) - 海外調査部、ビジネス展開支援部、総務部などを経て、2022年6月から現職。