関税法の施行と今後の展望(中国)

2025年5月7日

中国の関税法(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが2024年4月26日の第14回全国人民代表大会常務委員会第9回会議で可決され、同年12月1日から施行された。輸出入関税条例(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(以下、関税条例、注)は関税法の施行と同時に廃止された。全国人民代表大会常務委員会の法制工作委員会の解説では、関税とは「輸出入貨物と入境物品を課税の対象とし、税関が輸出入の段階で徴収する税種を指す」とされている。これまでの関税関連制度や輸出入関税規制の実施経験をベースに、税の総体的な負担水準は変更することなく、制度と関連政策を改善して法体系として制度を整備したかたちだ。

本稿では、関税法施行の背景と経緯、関税法と関税条例の主な変更点、運用や今後の展望などについて解説する。

関税法施行の背景と経緯

中国国務院は1985年に、対外開放政策の貫徹や、対外貿易と経済発展の促進を目的に、関税条例を制定した。その後、1987年、1992年の2回にわたって一部条項を改正した。国務院は中国の2001年のWTO加盟をきっかけに、2003年に関税条例を新たに制定した。その後、数回にわたって一部条項を改正した。関税条例の制定後、1986年から2022年にかけて中国の関税収入の年平均増加率は8.5%となった。

司法部が2023年10月に行った関税法草案の説明では、「中国では近年、関税分野で新たな変化が現れており、立法を通じて関税の基本制度について法律レベルの根拠を規定することが必要だ。また、国際的でハイレベルな経済貿易ルールとの整合性をとり、国内・国際の情勢変化に対応するため、関税制度を完備するとともに、法的措置の充実が求められた」と示した。

輸出入関税条例と関税法の主な変更点

関税法は(1)総則(第1条~第8条)、(2)税目および税率(第9条~第22条)、(3)課税額(第23条~第31条)、(4)税収優遇および特殊状況関税徴収(第32条~第40条)、(5)徴収管理(第41条~第61条)、(6)法的責任(第62条~第68条)、(7)付則(第69条~第72条)の7章、計72条から構成される。なお、同法における税則は2024年4月26日に国務院関税税則委員会(財政部関税司)により公布された〔国務院関税税則委員会ウェブサイト参照(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。関税条例との主な変更点と影響について、「1.法的概念」「2.関税の徴収・納付」「3.法的措置」に分類し、次のとおり整理した。

1. 法的概念

関税の控除徴収の義務者に関する定義として、越境電子商取引(越境EC)プラットフォーム経営者が追加された。また、原産地規則の明確化や、課税価格の「完税価格」から「計税価格」への変更、関税の徴収方法への「複合課税」の追加など、多くの法的概念の修正・追加がなされた(表1参照)。

表1:法的概念の修正・追加
項目 関税条例(旧) 関税法(新) 変更点と影響
関税の控除・
徴収の義務者に関する規定の追加
第5条 輸入貨物の荷受人、輸出貨物の荷送人、入管物品の所有者は、関税の納税義務者とする。 第3条 輸入貨物の荷受人、輸出貨物の荷送人、および入管物品の運送人または受取人は、関税の納税者とする。
越境ECによる小売り輸入に従事する電子商取引プラットフォームの経営者、物流企業および通関企業、ならびに法律、行政法規により、関税の控除・納付(注1)の代行や、関税の徴収・納付(注2)の代行の義務を負う単位および個人は、関税の控除・納付の義務者とする。
これまでの関税納税者の範囲を維持した上で、関税の控除徴収義務者に関する規定を追加。
企業、特に越境ECのプラットフォームの経営者、物流企業、通関企業に追加納税の発生の可能性がある。
原産地規則の明確化 第10条 最恵国待遇条項を共同適用するWTO加盟国原産の輸入貨物、中国との間に最恵国待遇を相互に与える条項を含んだ2カ国間貿易協定を結んでいる国または地域原産の輸入貨物、および中国国内原産の輸入貨物は、最恵国税率を適用する。
中国との間に関税優遇条項を含んだ地域貿易協定を結んでいる国また地域原産の輸入貨物は、協定税率を適用する。
中国との間に、特殊関税優遇条項を含む貿易協定を結んでいる国または地域原産の輸入貨物は、特恵税率を適用する。
本条第1項、第2項および第3項に挙げる以外の国または地域原産の輸入貨物、および原産地不明の輸入貨物は、 一般税率を適用する。

第11条 1つの国もしくは地域のみで完全に生産された貨物は、その国または地域を原産地とし、2つ以上の国もしくは地域が生産に関与した貨物は、最後に実質的な変更が行われた国または地域を原産地とする。 原産地に関する判断基準が明確化され、申告に係るプロセスの簡素化、負担軽減が期待される。
計税価格への変更 第18条~第22条、第22条~第28条、第30条、第34条~第36条、第38条、第42条、第60条~第62条、第64条
完税価格
第18条 輸入貨物の課税(完税価格)について、税関は本条第 3 項に列挙する条件に適合する取引価格および当該貨物が中国内の輸入地点に到着し、荷卸しがされるまでの運賃、関連費用、保険料を基礎として審査決定する。
第26条 輸出貨物の課税価格(完税価格)は、税関がその貨物の取引価格およびその貨物が中国内の輸出地点に到着し積載されるまでの運賃および関連費用、保険料を基礎に審査決定する。
第23条~第31条、第38条、第66条
計税価格
第24条 輸入貨物の課税価格(計税価格)について、取引価格および当該貨物が中国内の輸入地点に到着し、荷卸しがされるまでの運賃、関連費用、保険料を基礎として決定する。
第29条 輸出貨物の課税価格(計税価格)は、その貨物の取引価格およびその貨物が中国内の輸出地点に到着し積載されるまでの運賃および関連費用、保険料を基礎に決定する。
ほかの法規定(税収徴収管理法など)で使用している「計税」という名称に変更。
企業にとって、課税価格をより理解しやすくなり、関税申告の効率化につながる。
徴収方法の追加 第36条 輸出入貨物関税は、従価課税および従量課税、あるいは国が規定するその他の方法で徴収する。 第23条 関税は従価課税、従量課税、または複合課税の方法で徴収する。
複合課税の場合、課税価格に比例税率を乗じた額と、貨物数量に固定税率を乗じた額の合計として計算する。
課税方法に従価課税、従量課税に複合課税を追加。
輸出入貨物によっては、税額に変更が生じる可能性がある。

注1:納税義務者は受け取り側、控除徴収義務者は支払い側。
注2:納税義務者は支払い側、控除徴収義務者は受け取り側。
出所:関税法、関税条例、中国国際貿易促進委員会による解説を基に作成

2. 関税の徴収・納付

貨物通関と税額確定の分離が可能となった。これは、貨物通関を先行して行い、貨物通関後に税関が対象貨物の関税にかかる申告や納付すべき税額を確認する形式だ。また、申告先税関の自由化、翌月一括納税に関する規定、税金の追徴期間と還付期間の統一など、関税の徴収・納付に関する取り組みなどで追記がなされた(表2参照)。

表2:関税の徴収・納付に関する取り組みの導入 (-は記載なし)
項目 関税条例(旧) 関税法(新) 変更点と影響
貨物通関と税額確定の分離が実施可能 第41条 関税の徴収管理は貨物通関と税額確定の分離という方法で実施可能とする。 関税の徴収管理について、貨物通関と税額確定が分離可能であることを明記。
企業に対する納税申告と通関の利便性を向上させる。
申告先税関の自由化 第42条 輸出入貨物の納税者、控除徴収の義務者は、規定に基づき、税関を選択し納税申告できる。 税関を選択し納税申告できることを明記。
関税申告の効率化と企業の利便性向上が図られた。
翌月一括納税に関する規定の導入 第37条 納税義務者は、税関の納税請求書記入日から起算して15日間以内に指定した銀行に納税しなければならない。 第43条 輸出入貨物の納税者、控除徴収義務者は、申告完了日から15日以内に納税しなければならない。
税関の定める条件を満たし、担保を提供すれば、翌月第5営業日までに納税することができる。
「納税請求書記入日から起算して15日間以内」を「申告完了日から15日以内」に変更した。さらに、税関の定める条件を満たし、かつ担保がある場合、翌月第5営業日までに一括納税することができる規定を導入。
企業の納税申告の簡素化と資金効率の向上につながる。
税金の追徴期間と還付期間の延長 第51条 輸出入貨物を通関させた後に、税関が関税徴収額の不足や徴収漏れを発見した場合、関税を納税した日、あるいは貨物が通関した日から起算して1年以内に、納税義務者から追徴することができる。
第52条 納税義務者が多く納税したことを発見した場合、納税日から起算して1年以内に、書面で税関に多く納税した税額ならびに銀行の同期間の当座預金利息を加算して払い戻しを請求することができる。
第45条 納税者、控除徴収義務者が税金または貨物を納付した日から3年以内に、税関は納税者、控除徴収義務者の課税額を確認する権利がある。
第51条 納税者は過納金を発見した場合、納付した日から3年以内に、税関に書面で過納金の還付を申請することができる。
税金の追徴期間と還付期間を「1年以内」から「3年以内」に延長。
還付期間が延長された一方、追徴期間も延長され、企業の申告ミスによるコンプライアンスリスクが増える。

出所:関税法と関税条例を基にジェトロ作成

3. 法的措置

最恵国待遇条項および関税優遇条項の不履行に関する対抗措置、租税回避に対する関税を導入し、納税者および控除徴収義務者に対する法的責任を細分化し、法違反の罰則を明確化した(表3参照)。

表3:法的措置の充実 (-は記載なし)
項目 関税
条例(旧)
関税法(新) 変更点と影響
最恵国待遇条項および関税優遇条項の不履行に関する対抗措置の導入 第17条 いずれかの国・地域が中国と結んでいる、または共同で加盟する国際条約や協定に基づく最恵国待遇条項および関税優遇条項を履行しない国・地域に対して、国務院関税税則委員会は相互主義に基づき相当措置の建議を提出し、国務院の承認を得て執行することができる。 最恵国待遇条項および関税優遇条項を履行しない国・地域に対して、相互主義に基づく対抗措置を導入。
関税措置によっては企業のコスト、サプライチェーンなどに影響を与える可能性がある。
租税回避に対する関税の導入 第54条 本法第2章(税目・税率)、第3章(課税額)の関連規定を回避し、合理的な商業目的を持たずに課税額を減少させる行為に対して、国は関税調整などの反回避措置をとることができる。 租税回避に対する関税を導入。
企業に対し契約などに関するコンプライアンスの強化を求める。
法的責任の細分化と罰則の明確化 第62条 次のいずれかに該当する場合には、税関が警告を行う。状況が深刻な場合は、3万元以下の過料を科す:
(1)納税義務を履行しなかった納税者が合併、分割の状況にあり、合併、分割の前に税関に報告しなかった場合。
(2)納税者が減免税貨物、保税貨物の監督管理期間中に、合併、分割またはその他の資産再編状況にあり、税関に報告しなかった場合。
(3)納税者が納税義務を履行しなかった、または減免税貨物、保税貨物の監督管理期間中に、解散、破産またはその他の法に基づき経営を終了したことがあり、清算前に税関に報告しなかった場合。
第63 条 納税者が納税金を未納し、財産を移転または隠匿するなどの手段を取り、税関が法に基づき未納の税金を追徴することを妨げた場合、税関は未納の税金と延滞金を追徴するほか、納税者に対し未納税額の50%以上5倍以下の過料を科す。
第64条 控除徴収義務者が控除徴収すべき税金を控除徴収しなかった場合、税関が納税者に未納税金を追徴し、控除徴収義務者に対し控除徴収すべき税額の50%以上3倍以下の過料を科す。
納税者および控除徴収義務者に対する法的責任を細分化し、法違反の罰則を明確化。
企業に対し納税義務を履行し、コンプライアンスを適切に管理することを求める。

出所:関税法と関税条例を基にジェトロ作成

関連規定の整理と調整

関税法の公布に合わせ、関連する法規定が制定または改正された。以下に代表例を列挙する。

  1. 税関総署は2024年10月28日、「税関輸出入貨物課税管理弁法(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公布。同弁法では、関税法に定めている関税の計算・徴収、特別状況の関税徴収、税額確認、税金の追徴・還付の執行などについて規定している。
  2. 税関総署は2024年10月28日、「税関転換貨物監督管理弁法」など33の関連規定の改正を決定し、関税法と関連する箇所や用語などに統一を図った。
  3. 税関総署は2024年11月26日、「『税関輸出入貨物課税管理弁法』に係る法律文書の様式に関する公告(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で税額確認書などの様式を公布。
  4. 税関総署は2024年11月26日、「密輸嫌疑に係る貨物・物品の脱税金額の計算・確認の弁法に関する公告(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公布。
  5. 税関総署は2024年11月29日、「関税の徴収管理にかかる問題の明確化に関する公告(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公布し、税関管理システムにおける関税額の申告・確認の方法などを明確化した。
  6. 税関総署は2024年11月29日、「入国時の物品の関税・付加価値税・消費税の徴収に関する弁法」に基づき、「入国時の物品の分類原則と関税計算価格決定原則の関連事項に関する公告(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公布した。同公告では、入国時の物品の分類と関税計算の原則を明確化したほか、入国時の物品分類表と関税計算価格表も公開した。また「入国時の物品の関税・付加価値税・消費税の徴収に関する弁法(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に基づき、「出入国時の個人郵便物の管理措置の調整に関する公告」など5つの関連規定に対し、改正または廃止を行った。
  7. 財政部と海関総署は2024年11月29日、関税法の第32条に基づき、「1件の貨物に対する関税免除の税額に関する公告」を公表し、税額が50元(約950円、1元=約19円)以下の貨物1件に対し、関税の免除を継続するとした。
  8. 国務院関税税則委員会は2024年11月29日、関税法5条に基づき、「入国時の物品の関税・付加価値税・消費税の徴収に関する弁法(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公布した。同弁法では、入国時の物品の関税の徴収方法のほか、入国時の物品の関税・付加価値税・消費税の総合税率表、入国時の手荷物物品免税数量制限の一覧などを公開した。
  9. 国務院関税税則委員会は2024年12月26日、関税法および関連規定に基づき、一部商品の関税の税目・税率の調整を公表し〔国務院関税税則委員会ウェブサイト参照(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕、2025年1月1日から施行した。
  10. 海関総署は2024年12月30日、2025年関税調整案などの政策執行に関する公告を発表し、2025年1月1日から施行した。同公告には、申告時の輸出入政策・措置に係る税関商品のHSコードに関する要求などを含んでいる。2025年には、輸出入非全税目暫定税率適用情報技術製品などに対応する5つのHSコード一覧を公布した。

今後の展望

関税法の施行により、関税に係る法的概念の明確化が進んだ。企業にとっては手続き効率化のメリットがあるが、税額計算の変更や罰則の強化などの影響もある。これまでの実務運営や管理体制、今回の関税施行による変更点を照らし合わせて対応する必要がある。特に関税法で規範化が進められた越境ECについては、留意が必要だ。

中国では近年、越境ECの輸出入が急成長することに伴い、越境ECの輸出監督管理の最適化が図られている(2024年5月10日付ビジネス短信参照)。2025年1月13日に海関総署が開いた記者会見によると、2024年の中国の越境EC取引の輸出入は2兆6,300億元で、前年比10.8%増だったという。国営メディア「新華社」は、最高人民検察院の情報として、2024年1~11月の税務関連の犯罪件数は前年同期比29.6%増で、特に越境ECなどの新しい業態に関する税務の犯罪件数が高まっているとした(「新華社」2025年2月13日)。関税法で越境ECプラットフォームの経営者が関税の控除徴収義務者に追加されたことで、その関税控除徴収義務の履行を促すため、物流企業と通関企業のコンプライアンスを規範化する取り組みが強化されていくとみられる。

李強首相は3月5日の第14期全国人民代表大会(全人代)第3回会議の政府活動報告で、2025年の重点業務として「ハイレベルの対外開放を拡大し、貿易・対中投資の安定化に積極的に取り組む」ことを掲げている。具体的な取り組みとして、越境ECの発展を促進することや、スマート税関の建設と協力を推し進め、通関の円滑性を高めることなどを挙げた。

貨物貿易総額世界1位の中国による関税関連政策の変更は、サプライチェーンや商流の変化が目まぐるしく進む中、多くの企業に影響を及ぼすものと思われる。


注:
2003年10月29日公布。仮和訳は輸出入関税条例PDFファイル(94.4KB)を参照。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
蔣 春霞(ショウ シュンカ)
2005年からジェトロ・北京事務所で勤務。