GJ州南部で進む半導体製造事業(インド)
半導体OSATスチ・セミコンの取り組み

2025年7月9日

インドでは、中央政府や州政府による支援策の下、多くの半導体製造計画が立ち上がっている(2024年12月3日付地域・分析レポート参照)。2025年6月現在、中央政府による補助金の承認を受けた半導体工場の建設計画は6件で、うち4件が西部のグジャラート(GJ)州で進行している。一方で、これらの半導体製造計画とは別に、インド国内でいち早く半導体後工程の製造事業を進めているのが、GJ州南部の都市スーラトにあるスチ・セミコン(Suchi Semicon)だ。本レポートでは、GJ州第2の都市スーラトの概況と、GJ州初の半導体組み立て・テスト(OSAT)企業として半導体パッケージの製造を開始したスチ・セミコンの取り組みを紹介する。

GJ州第2の都市スーラト

まず、GJ州南部の都市スーラトの概況を紹介する。スーラトはアーメダバードから南に約270キロに位置する大都市で、マハーラーシュトラ州の州都ムンバイとアーメダバードのほぼ中間の地点に当たる。600万人超(2011年国勢調査、スーラト市を含むスーラト地区)の人口を擁するGJ州第2の都市で、テキスタイル産業やダイヤモンド加工などが発展している。特にインドが世界シェア9割(数量ベース)を握る研磨ダイヤモンドについては、その大半がスーラトを中心とするGJ州で研磨されているといわれる。

これらの主要産業に加え、ソーラーパネル製造のインド最大手で、13.3ギガワット(GW)の太陽光モジュール生産能力を持つワーリー・エナジーズ(Waaree Energies)がスーラト近郊に生産拠点を構え、セルの製造からモジュールの組み立てまで一貫して手掛けるなど、新しい産業も生まれている。

産業集積地としてのスーラトの利点は、古くから交易の要地として栄えていたため、移民労働者が多く、採用活動が行いやすいことが挙げられる。また、スーラトの中心地から西に約20キロの場所にはアダニ・ポーツ(Adani Ports)が運営するハジラ港がコンテナ港として整備されているほか、国際線が就航するスーラト空港もあり、交通インフラに強みがある。現在は日本が円借款で支援しているムンバイ~アーメダバード間の高速鉄道事業や、都市鉄道スーラト・メトロ2路線の建設も進んでいる。


建設が進む高速鉄道のスーラト駅(ジェトロ撮影)

GJ州初のOSATのスチ・セミコン

スチ・セミコンは、2023年7月にスーラトでアショク・メータ氏とシェタル・メータ氏親子が設立した、GJ州初の半導体OSAT工場だ。アショク氏は貿易業で成功を収めた後、2004年にスーラトでスチ・インダストリーズを創業し、約20年にわたって織物や刺しゅうといったテキスタイルビジネスを手掛けてきた。スチ・インダストリーズの製品は中東やアフリカ、ASEANなどに輸出しており、多くの有名アパレルブランドでも使用されている。その後、新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界的な半導体不足がインド製造業のサプライチェーンに大きな影響を与えたことに衝撃を受け、そのような事態が二度と起こらないよう、半導体事業への参入を決断した。

スチ・セミコン設立から約1年半後の2024年12月、スチ・インダストリーズのテキスタイル工場に隣接する土地に半導体試作ラインが完成した。敷地面積は8万9,383平方フィートで、合わせて3万平方フィートのクリーンルーム(10K、100Kクラス)を有する。ダイシング装置やモールディング装置などは日本メーカーの装置を導入しているほか、品質マネジメントシステムに関する国際規格としては、ISO 9001認証を取得済みだ。

同社の工場では、電子機器に使用されるスモールアウトラインパッケージ(SOICなど)、自動車などに使用されるパワーパッケージ(DPAKなど)、スマートフォンや車載機器などに使用されるQFNパッケージなどを製造する計画だ。2025年3月には米国の顧客向けにサンプルの出荷を開始しており、2023年の会社設立から2年足らずの短期間で、スピード感を持って半導体事業に取り組んでいる。

この背景として、政府からの補助金に依存していないことが挙げられる。現在、中央政府の承認を受けているタタ・エレクトロニクスやマイクロンをはじめとする半導体工場の建設計画とは異なり、スチ・セミコンは創業者のメータ氏が所有する土地に建設することを選択したため、政府による土地割り当てを待つ必要がなかった。また、中央政府の補助金も申請しているものの、承認を待たずに工場建設を進めており、現在はGJ州政府による工場建設などの資本的支出(CAPEX)に対する20%の補助金を受けているのみだ(12月15日「エコノミック・タイムズ」)。


スチ・セミコンの工場外観(ジェトロ撮影)

スチ・セミコンの半導体事業の展望

半導体製造に関する人材や技術について、同社では最高経営責任者(CEO)や最高技術責任者(CTO)を含め、ドイツの半導体大手インフィニオンのマレーシア法人などで長年にわたり勤務経験のあるインド系マレーシア人の半導体技術者6人を採用しているほか、フィリピンで半導体事業の経験のある技術者から技術サポートを受けている。テキスタイルから半導体という異なる産業分野に参入するにあたっては、スチ・インダストリーズのビジネスで築いてきたグローバルネットワークが役に立ったという。

また、GJ州内ではグジャラート州立工科大学(GTU)や、パンディット・ディーンダヤル・エネルギー大学(PDEU)、インド工科大学ガンディナガル校(IITGN)、サルバジャニク工科カレッジ(SCET:Sarvajanik College of Engineering &Technology)といった理系大学と提携して、約80人の人材を採用しており、スチ・セミコンのトレーニングセンターでOJTの研修を行うなど、人材の採用と育成にも力を入れている。さらに、半導体チップの設計を手掛けるスチ・ロジック(Suchi Logic)を新たに立ち上げ、今後は自社で設計した半導体チップを市場に投入する計画だ。

シェタル氏へのヒアリング(2025年5月9日ジェトロ実施)によると、スチ・セミコンでは自社製品の販売先となる顧客の開拓だけでなく、日本企業との協業・ビジネスの可能性も模索している。例えば、日本の半導体デバイスメーカー、半導体設計企業やファブレス企業との協業、半導体関連企業とのパートナーシップや合弁事業、素材メーカーやサプライヤーとの販売代理店提携、OSATメーカーからの業務委託など、幅広い可能性を探っているという。半導体製造の大規模プロジェクトが立ち上がっているドレラ特別投資地域(SIR)やサナンドに加えて、スーラトでの動向も目が離せない。

執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
飯田 覚(いいだ さとる)
2015年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ三重を経て、2021年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
吉田 雄(よしだ ゆう)
2005年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ徳島、ジャカルタ事務所、ジェトロ茨城などを経て、2024年5月から現職。