2024年の対中南米投資動向からみるポテンシャルと課題

2025年10月23日

国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)は2025年7月にレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。本レポートでは中南米地域への2024年の投資動向がまとめられている。また近年、重要性がより高まっている重要鉱物を中心とした中南米の鉱業分野と、人工知能(AI)技術などを含むデジタルトランスフォーメーション(DX)関連への投資動向も、トピックとして取り上げられている。同レポート記載のデータを詳解するとともに、対中南米投資動向を探っていく。

FDIは前年比増、主因は収益の再投資増加

2024年の対中南米の対内直接投資(FDI)は1,889億6,200万ドルで、前年比7.1%増だった。FDIの増加は既に域内で操業している多国籍企業による収益の再投資の増加によるもの、と分析されている。収益の再投資は18%増加し、全体の52%を占めるに至り、2010年以降で最大の構成比となった。一方で、株式投資(構成比34%)は2年連続で減少し、新規投資の減少傾向を示した。

国別のFDI統計を見ると、域内投資額の約6割を占めるブラジル(710億7,000万ドル、前年比13.8%増)とメキシコ(453億3,370万ドル、47.9%増)で大幅増となった(図1参照)。次いでコロンビア、チリ、アルゼンチンへの投資額が多いが、同3カ国向け投資額は前年比で減少した。

図1:中南米主要国へのFDI金額(2023年、2024年)
アルゼンチン向けは2023年247億5,700万ドル、2024年116億4,400万ドル、ブラジル向けは2023年624億4,200万ドル、2024年710億7,000万ドル、チリ向けは2023年183億7,700万ドル、2024年125億2,100万ドル、コロンビア向けは2023年167億9,400万ドル、2024年142億6,900万ドル、ペルー向けは2023年43億3,900万ドル、2024年67億9,900万ドル、メキシコ向けは2023年306億5,900万ドル、2024年453億3,700万ドル。

出所:ECLACレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025」からジェトロ作成

投資元国・地域の構成は前年と大きな変化はなく、最大の投資元国は米国で38%を占めた(図2参照)。次いでEU諸国〔ルクセンブルクとオランダ(注)以外〕(15%)や中南米諸国(12%)だった。米国はガイアナ向けに101億ドルの投資を行い、2024年のガイアナのFDI総額の97%を占めた。主な案件としては、石油大手エクソンモービル(Exxon Mobil)によるウィップテイル油田開発のための127億ドルの大規模投資がある。中国および香港からの投資は全体の2%とわずかだ。ECLACによると、中国の投資は第三国を経由することも多く、直接的な投資元としては過少に現れることが多い。また、2010年以降は主に外国企業が既に所有していた資産の買収という形態をとることが多く、国際収支に反映されにくい。しかし、エクアドルは、例外的に中国からの投資が35%(1億1,100万ドル、前年比58%増)を占め、2024年は中国が最大の投資元国となった。業種としては主に鉱業と製造業で、エクアコリエンテ(中国資本CRCC-Tongguan子会社)が操業するミラドール銅鉱山への追加投資などがある。

図2:対中南米投資元国・地域
投資元国のデータが入手可能なアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ガイアナ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、ドミニカ共和国、トリニダード・トバゴのデータのみで集計されている数値である。2023年は中国・香港2%、カナダ4%、中南米諸国12%、ルクセンブルグ・オランダ5%、ルクセンブルグ・オランダ以外のEU諸国20%、米国34%、その他23%。2024年は中国・香港2%、カナダ5%、中南米諸国12%、ルクセンブルグ・オランダ9%、ルクセンブルグ・オランダ以外のEU諸国15%、米国38%、その他19%。

注:投資元国のデータが入手可能なアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ガイアナ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、ドミニカ共和国、トリニダード・トバゴのデータのみで集計されている。
出所:ECLACレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025」

中南米各国で業種別のFDI統計を公表している国は非常に少ないこと、また分類が細かく比較が難しいことから、本レポートではFDIの業種別データは資源、製造業、サービス業の3種に大別されたデータのみが紹介されている。それに代わって、クロスボーダーM&A案件についてはより詳細に業種別に分析されている。2024年は中南米全体で326件のクロスボーダーM&Aが行われた。M&A案件数は前年比13.3%減だったが、全体の39%を占める製造業のM&A件数は128件と前年並みの件数を記録した(図3参照)。

図3:業種別M&A件数・シェア(2024年)
製造業は128件で39%、鉱業・採石業は39件で12%、金融および保険業は35件で11%、不動産業は25件で8%、インフラ(電気、ガス等)は25件で8%、情報通信は20件で6%、自動車・オートバイの卸売・小売・修理は15件で5%、その他は39件で12%。  

出所:ECLACレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025」

主なクロスボーダーM&A案件としては、以下の案件がある(表参照)。2024年最大のM&A案件はサウジアラビアのマナラ・ミネラルズ・インベストメント・カンパニー(Manara Minerals Investment Company)によるブラジルのヴァーレ(Vale)の持ち株会社であるヴァーレ・ベース・メタルズ(Vale Base Metals)の株式10%を取得した案件で、取得額は25億ドルだった。これにより、同社は銅およびニッケルの生産量の大幅増加を図る。日本企業関連の案件としては、伊藤忠商事がブラジルのCSNミネラソン(CM:CSN Mineração)の株式10.74%を約7億7,900万ドルで取得した案件があり、これは中南米のM&A案件で9番目の規模だった。CMとの関係強化により、同社の高品位鉄鉱石生産で低炭素還元鉄サプライチェーンを推進する。

表:主なM&A案件(単位:100万ドル、%)
買収企業 被買収企業 業種 株式
取得率
取得額
企業名 所在国 企業名 所在国
Manara Minerals Investment Company サウジアラビア Vale Base Metals Limited ブラジル 鉱業・採石業 100 2,500
Prologis, Inc. 米国 PLA Administradora Industrial S. de R. L. de C. V. (Terrafina) メキシコ 不動産業 77 1,701
HDI International ドイツ Liberty Seguros S.A. チリ、コロンビア、エクアドル 金融および保険業 100 1,587
BP PLC 英国 BP Bunge Bioenergia ブラジル 製造業 50 1,400
Actis LLP 英国 Enel Generación Perú S. A. A. y Compañía Energética Veracruz S. A. C. ペルー 電気・ガス・水道の供給 87 1,300
Grupo Calleja エルサルバドル Almacenes Éxito S. A. コロンビア 貿易 87 1,175
Visa Inc. 米国 Pismo Soluções Tecnológicas Ltda. ブラジル 金融および保険業 100 1,000
Plaza S. A. チリ Open Plaza S. A. ペルー 不動産業 100 848
ITOCHU Corporation 日本 CSN Mineração S. A. ブラジル 鉱業・採石業 11 779
Caisse de dépôt et placement du Québec カナダ Transportadora Associada de Gás S. A. ブラジル ガス・石油の供給 15 641

出所:ECLACレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025」

なお、中南米主要国の国別の投資動向については、ジェトロの貿易投資年報も参考にされたい。

重要鉱物開発のポテンシャルあるも対中南米の鉱業投資は減少傾向

今回のレポートでは、重要鉱物を中心とした鉱業分野の対中南米投資動向についても取り上げられている。近年、エネルギー転換や経済安全保障の観点からますます重要視される重要鉱物だが、中長期的に需要が供給を上回る見込みで、多種多様な重要鉱物を豊富に有する中南米地域への関心が高まっている。

中南米地域で多くの埋蔵が確認され、生産されている重要鉱物の世界シェアは以下のとおりだ(図4-1、4-2参照)。これを見ると、リチウムや銅は中南米地域の世界シェアが埋蔵量・生産量ともに3~4割を占めているが、グラファイト、レアアース、ニッケル、コバルトなどは埋蔵量に比して生産量が少ない。さらなる開発のポテンシャルがあるとみられる。

図4-1:重要鉱物の埋蔵量世界シェア
中南米の対象国はアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、キューバ、ジャマイカ、メキシコ、ペルー。リチウムは中南米が45.6%で、中南米以外の地域は54.4%。銅は中南米が35.1%で、中南米以外の地域は64.9%。グラファイトは中南米が27.6%、中南米以外の地域は72.4%。レアアースは中南米が23.1%、中南米以外の地域は76.9%、ボーキサイト、アルミナは中南米が16.1%、中南米以外の地域は83.9%。ニッケルは中南米が12.2%、中南米以外の地域は87.8%。コバルトは中南米が4.7%、中南米以外の地域が95.3%。

注:アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、キューバ、ジャマイカ、メキシコ、ペルー。
出所:ECLACレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025」からジェトロ作成

図4-2:重要鉱物の生産量世界シェア
中南米の対象国は図1と同じくアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、キューバ、ジャマイカ、メキシコ、ペルー。リチウムは中南米が32.7%、中南米以外の地域は67.3%。銅は中南米が38.0%、中南米以外の地域は62.0%。グラファイトは中南米が4.2%、中南米以外の地域が95.8%。レアアースは中南米が0.0%、それ以外の地域は100.0%。ボーキサイト、アルミナは中南米が11.2%、中南米以外の地域は88.8%。ニッケルは中南米が2.1%、中南米以外の地域は97.9%。コバルトは中南米が1.2%、中南米以外の地域は98.8%。

注:対象国は図4-1と同様。
出所:ECLACレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025」からジェトロ作成

このように、中南米地域の鉱業は引き続きポテンシャルはあるものの、重要鉱物の生産量において世界シェアを落としているというデータも示されている(図5参照)。銅、リチウム、ボーキサイトおよびアルミナ、コバルトは2005年以降、グラファイト、ニッケル、レアアースは2015年以降、世界シェアが減少傾向にある。世界各地で探査や採掘が活発化していることから、中南米地域は銅やリチウムは生産量を増加させているものの、世界シェアを落としている状況だ。

図5:中南米諸国における重要鉱物の生産量世界シェア推移
銅は2000年41.8%、2005年45.1%、2010年43.6%、2015年42.2%、2020年41.8%、2024年38.0%。リチウムは2000年39.8%、2005年51.0%、2010年48.5%、2015年45.4%、2020年33.9%、2024年32.7%。ボーキサイトおよびアルミナは2000年25.4%、2005年27.1%、2010年19.0%、2015年14.6%、2020年9.6%、2024年8.7%。グラファイトは2000年7.4%、2005年8.3%、2010年9.0%、2015年8.6%、2020年6.9%、2024年4.2%。ニッケルは17.2%、2005年18.8%、2010年12.6%、2015年13.5%、2020年3.1%、2024年2.1%。コバルトは2000年7.2%、2005年8.3%、2010年5.8%、2015年3.4%、2020年2.7%、2024年1.2%。レアアースは2000年0.24%、2005年0.00%、2010年0.41%、2015年0.68%、2020年0.25%、2024年0.01%。

出所:ECLACレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025」からジェトロ作成

鉱業分野への投資を見ても、2019~2023年の中南米地域への鉱業分野の投資は年間平均99億ドルだったが、これは2005~2009年の平均を20%、2010~2014年の平均を53%下回っていたことが示されている。一方で、対全世界の主要鉱業企業の資本的支出は2017年以降、増加傾向にあるため、企業の投資先としても他地域に比べて中南米地域の比重が落ちていることがうかがえる。

こういった状況にあるものの、鉱業およびそれへのFDIは中南米各国の経済成長にとって非常に重要な要素だ。今後の域内鉱業分野へのFDI誘致にあたって、ECLACは、探査リスク軽減のための信頼性の高いデータの提供、重要鉱物のバリューチェーンにおけるイノベーション促進のための生産開発政策の実行などを提言している。

2024年のデジタル関連技術のFDI額は過去10年で最多

本レポートは、デジタルトランスフォーメーション(DX)が開発の主要な原動力となっている昨今、FDIにおいてもデジタル技術関連分野を重要な要素とした上で、中南米地域への同分野の投資動向を解説している。2024年の中南米地域全体に対するデジタル関連技術分野のFDIは、前年比36%増の202億5,300万ドルで、過去10年で最も多かった。デジタル化の進展が、中南米地域への投資意欲も高めていることがうかがえる。国別では、メキシコ向けの投資額が92億5,100万ドルと最も多く、全体の46%を占めた(図6参照)。メキシコにはケレタロ州、ヌエボレオン州、ハリスコ州などのデジタルハブが成長していることが、投資が集まる要因の1つと分析されている。これらの州への具体的な投資案件としては、アマゾン・ウェブ・サービスによるケレタロ州のデータセンターの機能拡張、鴻海精密工業によるハリスコ州の人口知能(AI)サーバー工場の建設予定などがある。ブラジルは、国内産業支援で、国内の生産・雇用拡大、イノベーション創出を目指す「新ブラジル産業プログラム」を掲げている。DX推進についても2033年までの目標として、国内製造業のデジタル化率を2024年時点の23.5%から90%に引き上げることなどを掲げている(2024年2月5日付ビジネス短信参照)。コロンビアは、デジタル分野への投資の際に税制優遇策を実施しており、研究開発・イノベーションプロジェクトへの投資額の最大30%を所得税から控除可能となっている。

図6:対中南米デジタル関連分野投資の国別シェア
メキシコは46%、ブラジルは29%、コロンビアは13%、その他の中南米の国12%。

出所:ECLACレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025」

中南米の一部の国ではデジタル分野の投資誘致策が奏功し、投資額としても一定程度の規模となっているが、中南米地域への同分野の投資額は全世界の7%を占めるにすぎない(図7参照)。

図7:デジタル分野投資の地域別シェア
北米は18%、中南米は7%、アジア大洋州は37%、欧州の新興経済国は6%、西欧23%、中東4%、アフリカ4%。

出所:ECLACレポート「ラテンアメリカ・カリブへの外国直接投資2025」

中南米地域へのデジタル分野の投資を拡大させるための課題として、さまざまな要素がある中で、ECLACは各国の投資促進機関の役割について指摘している。まず、デジタル分野の投資拡大のためには、投資促進機関においても専門知識を有し経験値の高いスタッフ、将来的な業界の動向を見据えた戦略を策定・実施するための業務能力が必要だとしている。また、投資促進戦略とデジタル政策および生産開発政策との整合性を保つために、公的機関の間での政策の調整も求められる。

ここまでECLACのレポートに基づき、中南米投資の概況、鉱業およびデジタル分野への投資状況をいくつかの具体的な投資案件も交えて紹介した。投資額全体としては前年比増ではあったものの、新規投資が減少傾向にあること、鉱業やデジタル分野の投資の世界シェアも縮小傾向であったり、わずかであったりと、対中南米投資が活況とはいえない状況が浮かび上がってきた。一方で、さまざまな分野においてポテンシャルは引き続きあり、政府や投資促進機関向けにECLACは多様な提言もしている。これを受けて、各国投資環境をいかに整えていくか、今後の動向が注目される。


注:
ルクセンブルク、オランダの2カ国は、その税制恩典から第三国向けの投資に利用されることが多い。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課中南米班
佐藤 輝美(さとう てるみ)
2012年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ・サンティアゴ事務所海外実習などを経て現職。