バイデン氏かトランプ氏か、激戦州の結果が左右する米大統領選挙

2024年5月16日

2024年米国大統領選挙の予備選挙も終盤となり、民主党のジョー・バイデン大統領はジョージア州、共和党のドナルド・トランプ前大統領はワシントン州などでの予備選勝利を受け、3月に各党の代議員の過半を獲得した後も、順当に予備選を勝ち進んでいる。米国の大統領選挙は直接選挙ではなく、各州の選挙人が候補を選択する仕組みとなっている(ジェトロ資料「米国大統領選の仕組み―本選挙」参照PDFファイル(477KB))。州によっては民主党、共和党の選択は大勢がほぼ決まっている場合もある。もし、上記両氏の対戦となれば2020年大統領選挙の再現となり、民主党、共和党の勢力が拮抗(きっこう)し、結果の予想が難しい激戦州(スイングステート)での投票が大統領選挙の結果を左右するとみられる(ジェトロ資料「米国大統領選の仕組み―スイングステートとは」参照PDFファイル(642KB))。今回の選挙で激戦州とされる、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシン7州での主要争点や各党候補の動きなどを取り上げる。

激戦州の世論調査でトランプ氏が優位

2020年の大統領選挙では、ノースカロライナ州以外の激戦6州でバイデン大統領が勝利した。しかし、2024年選挙に向けた最近の激戦州の世論調査では、トランプ氏がリードしている。マサチューセッツ州ボストンのエマーソン大学が4月末に激戦7州で実施した世論調査(注1)では、もし今日大統領選挙が行われた場合、誰に投票するかという問いに対して、トランプ氏の支持率が全7州でバイデン氏を上回った。ミシガン、ネバダ州では、両者の差は1ポイントにとどまったが、その他の州では2~5ポイントの差がついた。選挙情報サイトのリアルクリアポリティクスが発表する各種世論調査の平均値でも、全7州でトランプ氏の支持率がバイデン氏を上回っている(表1参照)。

表1:激戦7州でのトランプ氏とバイデン氏の支持率の平均値 (単位:%)
州名 各州割り当ての選挙人数 支持率の平均値
トランプ氏 バイデン氏 支持率の差 集計期間
アリゾナ 11 48.3 43.3 トランプ氏+5.0 3/7~4/29
ジョージア 16 48.8 45.0 トランプ氏+3.8 3/4~4/29
ミシガン 15 46.0 44.8 トランプ氏+1.2 4/8~29
ネバダ 6 47.3 42.8 トランプ氏+4.5 2/27~4/29
ノースカロライナ 16 48.2 42.8 トランプ氏+5.4 3/17~4/29
ペンシルベニア 19 47.5 45.7 トランプ氏+1.0 4/8~30
ウィスコンシン 10 48.8 47.0 トランプ氏+1.8 4/3~29

出所:リアルクリアポリティクス

ブルッキングス研究所は、ブルームバーグと調査会社モーニングコンサルトが4月に激戦7州で実施した世論調査(注2)を基に、7州で総合的に重要課題となっている「経済」「移民」で両氏の支持率を分析した。その結果、トランプ氏への支持がそれぞれ51%、52%とバイデン氏(36%、32%)を上回っており、トランプ氏優位という見方を示した。

1976年以降の12回の大統領選挙のうち激戦州で勝利した候補者が大統領になった回数は、ネバダ州、ペンシルベニア州では10回、ミシガン州、ウィスコンシン州では9回、アリゾナ州などで8回と、激戦州で勝利して大統領になる確率はかなり高いとみられる(表2参照)。

リアルクリアポリティクスが発表する全米の各種世論調査の平均値(5月15日時点)では、トランプ氏が46.3%とバイデン氏(45.2%)をリードする。

表2:激戦7州における過去の大統領選挙の勝者の党
州名 1976年 1980年 1984年 1988年 1992年 1996年 2000年 2004年 2008年 2012年 2016年 2020年 州で勝利した候補者が大統領に就任した回数(回)
アリゾナ R R R R R D R R R R R D 8
ジョージア D D R R D R R R R R R D 8
ミシガン R R R R D D D D D D R D 9
ネバダ R R R R D D R R D D D D 10
ノースカロライナ D R R R R R R R D R R R 8
ペンシルベニア D R R R R R R R D D R D 10
ウィスコンシン D R R D D D D D D D R D 9

注:D:民主党、R:共和党、太字は州で勝利した各党候補者が大統領に就任したことを示す。
出所:270トゥウィン

民主党はラテン系有権者の支持回復を図る

ヒスパニック(注3)有権者数は、2000年大統領選挙時から2024年には390万人が増加し、全米で3,620万人に上ると見込まれている。在米ラテン系市民の政治参加を促進する団体NALEOエデュケーショナル基金は2月に、ラテン系有権者が相対的に多い8州を対象とした2024年大統領選挙におけるラテン系投票者数の見通しを発表した。それによれば、激戦州でラテン系有権者の占める比重が高くなると予測するのは、アリゾナ州(23.5%)、ネバダ州(18.7%)だ(表3参照)。2020年の大統領選挙では、CBSニュースの出口調査によれば、アリゾナ州、ネバダ州ともラテン系有権者の票獲得率はバイデン氏61%と、トランプ氏(37%、35%)を上回った。

表3:ラテン系投票者の割合が高いと見込まれる州 (単位:人、%)(-は値なし)
州名 各州割り当ての選挙人数 2024年大統領選挙のラテン系投票者数(予測) 2024年大統領選挙の全投票者におけるラテン系投票者の割合(予測)
全米 175,534,467 11.1
カリフォルニア 54 4,816,467 28.4
テキサス 40 2,865,133 24.1
アリゾナ 11 855,200 23.5
フロリダ 30 2,035,933 20.0
ネバダ 6 276,000 18.7
ニュージャージー 14 707,200 15.9
ニューヨーク 28 992,900 11.7
ジョージア 16 194,500 4.0

注:原資料表記は、Latino voters(ラテン系投票者)。太字は激戦州。
出所:NALEOエデュケーショナル基金

しかし、2022年から2023年にかけてヒスパニック有権者のバイデン大統領支持は低下している(2023年12月6日付地域・分析レポート参照)。これは、新型コロナ禍への対策として、民主党がロックダウンに重点を置いたことで、最前線労働者として多数雇用されていたラテン系米国人の生活を脅かしていると認識されたことによるとみられる。

こうした状況を覆すために、バイデン氏の選挙陣営は2024年3月、ラテン系コミュ二ティーにバイデン大統領のメッセージを届けるため全米規模のプログラムを開始した。医療費削減や人工妊娠中絶へのアクセスを保護するための取り組みに焦点を当てたスポット広告を英語、スペイン語で展開し、ラテン系有権者の獲得に注力する。

アリゾナ州

メキシコ国境に接する同州では、移民問題が選挙での重要事項とみられる。シンクタンクのピュー・リサーチ・センターが、税関・国境警備局(CBP)のデータを基に分析した結果、2023年12月にメキシコ国境から入国した移民は2000年以降の月間で最多の24万9,735人だった。また、同センターが2024年1月に実施した世論調査(注4)では、メキシコ国境から入国を試みる大勢の移民への対処について共和党支持者の89%、民主党支持者でも73%がバイデン政権の対応が「悪い」と回答した。

トランプ氏は2024年3月の州都フェニックスでの演説で、「開かれた国境は、われわれの国を破壊する」と述べ、移民対策への厳しい姿勢を示した。

また、アリゾナ州では2024年4月、同州最高裁が人工妊娠中絶に関してそれを禁止する1864年の法律が適用されるという判決を下したが、5月にはケイティ・ホッブス州知事(民主党)が同法を正式に廃止する法案に署名し、同州での避妊法成立などへの取り組みを強化することを示した(2024年5月7日付ビジネス短信参照)。

バイデン氏は、トランプ氏が連邦最高裁で保守派の判事を任命し「ロー対ウェイド判決」が破棄されたことから(2022年6月27日付ビジネス短信参照)、人工妊娠中絶を禁止する動きの責任はトランプ氏にある、と非難している。

ジョージア州

ジョージア州での2020年の大統領選挙では、バイデン氏は僅差でトランプ氏に勝利したが、同時に選挙が行われた連邦議会上院選の民主党候補のジョン・オソフ氏やラファエル・ワーノック氏の人気にバイデン氏が助けられていたことを指摘する声もある。

同州の前副知事で共和党のジェフ・ダンカン氏は5月にバイデン大統領を支持する論説を地元紙に寄稿した。トランプ氏の時代から脱却しない限り、共和党の再建はあり得ない、と主張している(2024年5月9日付ビジネス短信参照)。トランプ氏は2020年の大統領選挙の同州の結果を覆そうとしたことで起訴されている。検察側は公判開始を8月とするよう要請したが、11月の大統領選挙前に裁判が行われる可能性は低いとみられる。

ミシガン州

ミシガン州は2020年大統領選挙で、バイデン氏が勝利したが、最近はデトロイト郊外のディアボーン市などでイスラエル・ハマス戦争への政権の対応が批判されており、今回の選挙ではバイデン氏の勝利を困難にするともみられている。2024年2月の同州の民主党予備選でバイデン氏は勝利したものの、バイデン政権への抗議票とみられる「支持者なし」が13.2%に上った。

バイデン政権は、気候変動対策として電気自動車(EV)の販売を奨励している。地元の自動車業界では、組み立てに必要な労働者が少なくて済むEVの普及が雇用に影響を及ぼす懸念もある。トランプ氏は、2023年9月にデトロイトを訪れた際、EVへの転換で自動車産業が苦境に陥ると述べ、バイデン政権が進めるEVへの移行を非難した。

ネバダ州

ネバダ州の失業率は5.1%(2024年3月)と、全米でもカリフォルニア州、ワシントンD.C.に次いで高い。また、ネバダ州の住宅価格は高騰しており、米国の不動産テック企業、レッドフィンのデータによれば、2023年のネバダ州の住宅価格の中央値は43万7,000ドルと、ニュージャージー州(49万4,000ドル)、ニューヨーク州(49万ドル)と同程度の高さになった。

2024年3月にネバダ州を訪問したバイデン氏は、手頃な価格の住宅を提供するための取り組みとして、コスト削減のため200万戸以上の住宅の建設や改築を支援する予算案の条項について議論した。

ノースカロライナ州

ノースカロライナ州は民主党寄りの州だったが、最近の選挙では民主党と共和党の候補者間の得票差が小さくなっている。同州は2020年大統領選挙では、激戦州のうちバイデン氏がトランプ氏に敗れた唯一の州だ。

バイデン氏は2024年3月5日(スーパーチューズデー)の民主党予備選で、得票率87.3%で勝利した。しかし、民主党予備選に参加した有権者の12.7%は選択肢として「希望なし」を選択した。一方、トランプ氏は共和党予備選で73.8%を獲得し勝利したが、23.3%はニッキー・ヘイリー元国連大使が獲得した。民主・共和両党にとって、予備選で両氏に投票しなかった有権者の獲得がカギになるとみられる。

ペンシルベニア州

4月にペンシルベニア州の予備選が行われ、バイデン氏、トランプ氏ともに順当に勝利した。一方、民主党では10%超がその他の候補者、共和党では16.4%がヘイリー元国連大使に投票しており、本選での取りこぼしを少なくすることが両党代表候補の課題となっている。

また、同州では郵便投票も大きな意味があり、2020年大統領選挙では、民主党バイデン氏が一部郡での郵便投票の75%を獲得したといわれる。共和党もこの点を重視している。

バイデン氏の地元、ペンシルベニア州の主要産業は鉄鋼であり、同氏は日本製鉄によるUSスチール買収について、大統領選挙での票獲得への影響を考慮して慎重に対応している(2024年3月18日付ビジネス短信参照)。4月にバイデン氏は、同州ピッツバーグで講演し、中国政府の鉄鋼・アルミニウム産業への補助金により中国の製品が不当に安く輸出されていることや中国原産の鉄鋼・アルミニウムが追加関税を回避するためメキシコ経由で米国に輸出されていると非難した。

ウィスコンシン州

ウィスコンシン州は、かつては民主党寄りとみられていたが、2016年にトランプ前大統領が勝利した後、激戦州となった。

バイデン大統領は2024年4月8日、3,000万人以上が対象となる学生ローンの負担軽減の新たな計画を発表した(2024年4月10日付ビジネス短信参照)。この発表は、激戦州であるウィスコンシン州で多数の大学があるマディソンにおいて行われ、大統領選挙に向けて若年層へのアピールを狙ったとみられる。一方、トランプ氏は5月に選挙活動で同州を訪問し、バイデン政権の経済政策や南部国境への対応を非難した。

バイデン氏、トランプ氏以外の候補者を期待する声も

ピュー・リサーチ・センターが4月に実施した世論調査(注5)では、「大統領選挙の主要政党の候補者を自身で決定する能力があれば、トランプ氏、バイデン氏の両方を別の候補者に置き換える」との回答が、ほぼ半数の49%から得られた。

バイデン氏、トランプ氏両候補とも不人気なことから、本選での投票率の低下を懸念する声もあり、激戦州の動向がさらに注視される。


注1:
実施時期は2024年4月25~29日。対象者は、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシン各州の登録有権者1,000人。
注2:
実施時期は2024年4月8~15日、対象者は、アリゾナ(801人)、ジョージア(802人)、ミシガン(708人)、ネバダ(450人)、ノースカロライナ(703人)、ペンシルベニア(803人)、ウィスコンシン(702人)各州の登録有権者。
注3:
ラテン系、ヒスパニックをほぼ同義とみなすが、ラテン系(Latino)、ヒスパニック(Hispanic)の表記は各原資料の表記にならった。
注4:
実施時期は2024年1月16~21日。対象者は全米の成人5,604人、うち回答者は5,140人。
注5:
実施時期は2024年4月8~14日。対象者は、全米の成人9,527人、うち回答者は8,709人。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。