バイデン米政権、3,000万人対象の学生ローン減免の新たな計画発表

(米国)

ニューヨーク発

2024年04月10日

米国のバイデン政権は4月8日、学生ローンの負担軽減に向けた新たな計画を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。計画実施の規則は今後数カ月の間に順次提示していく予定で、全て実施された場合、これまでに債務免除された約400万人(2024年3月25日記事参照)を含めて計3,000万人以上が債務減免の対象になるという。この規模は、2022年8月に発表されたものの、連邦最高裁判所の判決によって頓挫していた学生ローン減免措置(2022年9月28日記事参照)に匹敵する。同計画に盛り込まれた主な内容は次のとおり。

(1)未払い利息の軽減

価値ある教育への貯蓄(SAVE)プラン(2023年9月12日記事参照)を含め、世帯所得に基づく返済計画(IDR)に加入している全ての中・低所得者層の借り手(注1)を対象に、ローンの未払い利息により膨らんだ借入残高のうち最大2万ドルを免除する。対象者は2,500万人に上り、そのうち2,300万人は借入残高の増加分が全て免除される見込み。SAVEプランは、月々の返済額の範囲で払いきれない利息分は支払いが免除される仕組みで、こうした措置を土台としてIDR加入者全体にその仕組みを広げていくやり方だ。

(2)免除対象の未申請者に対する債務の自動免除

SAVEプランや、教員・ソーシャルワーカー・軍人などの公職者向けの学生ローン免除プログラム(PSLF)、廃校ローン免除などにより、免除を受ける資格を有しながら免除に至っていない者に対し、教育省が保有するデータを基に対象者を特定して、自動的に債務免除を行う。これにより、約200万人分の債務が免除対象になる見込み。

(3)20年以上前に返済を開始した学生ローンの残額免除

連邦学生ローンにより借り入れを行い、IDRに基づいて返済している者については、20年以上返済を行っている場合にローン残高が免除される仕組みとなっているが、IDRへの加入の有無にかかわらず、学部のみの場合は20年、大学院まで進学している場合は25年以上返済を行っている者にはローン残高を免除する。

(4)経済的価値の低いプログラムに加入した借り手の負債の帳消し

学生をだますなどしたことが原因で連邦学生支援プログラムに参加できなくなった教育機関が提供するプログラムや、学費に見合った十分な市場的価値を提供することができないプログラムの受講者に対してローンを免除する。

このほか、学生ローンの返済が滞る可能性が高い者や、医療費や養育費などの出費がかさむ家庭などの債務を免除する計画もあるとしている。

バイデン政権は高等教育へのアクセスを中間層への切符として重視し、学生ローン減免のみならず、奨学金の拡充(2024年3月18日記事参照)や、高等教育のコスト削減(2024年3月18日記事参照)などの取り組みを行っている。しかし、こうした高等教育支援に対しては、「ローンを返済した者や大学に通わなかった納税者が負担する不当な給付金だ」として、共和党を中心に反対の声も上がる(CBSニュース4月9日)。SAVEプランに基づく負担軽減に関しても、伝統的に共和党が強いミズーリなど18州が「米国民の同意なしに抜本的で費用のかかる政策変更を押し付けるものだ」として訴訟を提起している(CNN4月9日)。政権は2022年の学生ローン免除とは別の法的根拠(注2)に基づくとしているが(「ワシントン・ポスト」紙電子版4月8日)、想定どおりに減免できるのかは不透明な状況だ。大統領選でジョー・バイデン大統領、ドナルド・トランプ前大統領ともに十分に取り込みきれていない若年層の投票行動にも大きく関係し得るテーマで、新たな計画の成否が注目される。

(注1)具体的には、年収が独身者で12万ドル以下、世帯で24万ドル以下の者を指す。

(注2)2022年の学生ローン免除は、2003年制定の高等教育救済機会法に基づき、新型コロナウイルス感染拡大下の緊急事態への対処という趣旨で行われていた。他方、SAVEプランに基づく減免措置などは、1965年高等教育法に基づき、教育長官が特定の状況下で融資を妥協、放棄、免除できるとの規定に沿って行われている。

(加藤翔一)

(米国)

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