インフラ・AI投資で高まる中国の存在感(ペルー)
ファーウェイとCOSCOの取り組み
2024年8月20日
ペルーのディナ・ボルアルテ大統領は6月26~28日にかけて中国を訪問した。中国滞在中は華為技術(ファーウェイ)、比亜迪(BYD)、中国遠洋海運集団(COSCO)などの中国企業を訪問し、ペルーへの投資の呼びかけや各企業幹部との意見交換を行った。ボルアルテ大統領の訪中以前からペルーにおいては中国企業が精力的に活動しており、特にインフラ分野での投資が目立つ。ペルーにおける最近の中国企業の活動を見つつ、今後の展開を展望する。
鉱業にも参入するファーウェイ
まず、通信インフラ関係でペルーにおいて多分野で活動するファーウェイについて見ていく。ファーウェイは、ペルーにおいてもスマートフォンやタブレットなどデジタル機器の販売もしている一方で、クラウドサービスの提供も行っている。ファーウェイグループでクラウドサービスを提供するファーウェイ・クラウドは、2019年からペルーにおいてIaaS(注1)やPaaS(注2)、SaaS(注3)などのサービスを提供している。同社はペルーの地場企業とも多数提携しており、顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に資するサービス提供をする。同社の発表によると、2023年は顧客数が前年の2.5倍に、提携先企業が2.3倍となり、ペルーで最も成長したクラウドプロバイダーとしている。
近年のファーウェイのペルーにおける事業で注目すべきは、ペルーの主要産業である鉱業に自社の情報通信技術を導入させている点だ。鉱山においては時に危険が伴う作業をする必要があることから、かねて遠隔操作などの需要があった。2021年に、サザン・ペルー・カッパー(Southern Perú Copper)が操業するトケパラ鉱山で同社のスマートマイニングの技術が中南米で初めて導入され、自動運転トラック、鉱物の選別機能のあるシャベル、拡張現実(AR)技術などが取り入れられている。サザン・ペルー・カッパー以外にも、マルコブレ(Marcobre)、中国鋁業(アルミニウム)集団(Chinalco)、ハドベイ(Hudbay)などペルーで鉱山運営をする企業10社以上がファーウェイの情報通信技術を取り入れている。またファーウェイは、ペルーでの自社技術導入拡大に向け、大手通信会社であるテレフォニカ(Telefónica)、クラロ(Claro)、エンテル(Entel)などと協業関係にあり、鉱山においてもこれらの通信会社が保有する通信回線を利用している。
ペルーにおいて、今後はスマートマイニングにさらにファーウェイの人工知能(AI)の技術導入が拡大していくことが予測される。同社が2023年にリリースしたPangu Models 3.0というAIシステムは、すでに中国国内の鉱山で導入されており、例えば採掘した鉱石の運搬に支障をきたす恐れのあるものを特定するAIベースの監視システムなどに利用されている。ペルーで2023年に開催されたファーウェイ・クラウド・サミット・ペルーにおいても、同システムが「産業のためのAI」と大々的に紹介された。今後、鉱業以外にも金融、製造業、気象予測、鉄道など様々な分野で同社のAIが活用されることが見込まれる。
また、ファーウェイはペルーの若年層へのデジタル教育も積極的に行っており(2024年7月1日付ビジネス短信参照)、ハード、ソフト両面でペルーとの関係強化に努めていることがうかがえる。
チャンカイ港建設で東アジアへ直行可能に
次に、中国遠洋海運集団(COSCO)が出資する(注4)巨大港湾建設プロジェクトであるチャンカイ港建設プロジェクトを見ていく。チャンカイ港は、首都リマの約80キロ北に位置する。総面積は992ヘクタールとなる予定だが、プロジェクトの全4段階の第1段階では141ヘクタールが開発される。第1段階では、4つのバース、パンアメリカンハイウェイに接続するインターチェンジ、船舶の海上進入路、防波堤、隣接するチャンカイ市を迂回できるトンネルなどが建設されている。総事業費は34億ドル以上と見込まれており、そのうち第1段階で13億ドル以上が投じられる。
チャンカイ港では、最大1万8,000TEU(注5)のコンテナ船を受け入れる。水深も18メートルに達する見込みだ。現状、ペルー国内で最大の港であるカジャオ港で受け入れ可能なコンテナ船の大きさは1万5,000TEU、水深は15メートルであるため、カジャオ港よりも大きな船舶の受け入れが可能となる。これだけの規模の船舶を受け入れ可能な港となるため、これまで行われていたメキシコのマンサニージョ港や米国カリフォルニア州のロングビーチ港などに寄港しての貨物の積み替えの必要がなくなり、太平洋を横断して東アジアまで直行できるようになる。そのため、東アジアまでの所要日数が23日と12~17日程度短縮される、とCOSCOは試算している。また、チャンカイ港では当初140万~160万TEUの貨物の取り扱いを予定しているが、これが実現すれば、当初から中南米の港の貨物取扱量ランキングでトップ10に迫り、南米の太平洋側の港の中では4番目の規模となる(図参照)。

注:南米太平洋側の港のみ太字。
出所:国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)
他の中南米諸国との経済関係強化も図る中国
チャンカイ港建設により、中国はペルーだけでなく、他の中南米諸国との貿易取引拡大、資源確保を狙う。ペルーやチリは銅やリチウムなど、中国での電気自動車(EV)の生産などで特に需要の高い鉱物の産出国だ。先述の通り、チャンカイ港は南米太平洋側ではかなりの規模の港になる見込みで、チリ最大の港湾であるサン・アントニオ港の受け入れ可能なコンテナ船の大きさ(1万4,700TEU)も上回るため、チリ産の鉱物の輸出もチャンカイ港から大量輸送される可能性がある。また、ブラジルやアルゼンチンで生産されている大豆やトウモロコシも、現状パナマ運河経由や大西洋を迂回して中国に輸送されているが、チャンカイ港から運び出される可能性もある。これを実現するために、10年来の計画となっているペルー、ボリビア、ブラジルをつなぐ南米大陸横断鉄道の計画がにわかに注目を集めており、今回のボルアルテ大統領訪中前に、ペルーのグスタボ・アドリアンセン首相も建設について検討すべきである、と発言した。
これだけの規模の港ができることにより、ペルーが中南米のハブ港を持つことになる、とペルー政府としても期待を寄せている。ペルー生産省の試算では、チャンカイ港開港により、ペルーのGDPの1.8%に相当する年45億ドルの経済効果が見込まれ、8,550人の直接雇用を生むという。また、巨大市場である中国を含むアジア諸国との近接化により、特にペルーの農水産物の新たな市場を開拓することも期待されている。今回の訪中時、ボルアルテ大統領はBYDの幹部とも面会したが、その際に自動車工場建設を要請した。場所としては工業団地の建設を計画する南部のアレキパかチャンカイを挙げ、出荷の際はチャンカイ港を利用することで大量輸送が可能になる点をアピールした。

(2023年8月ジェトロ撮影)

(2023年8月ジェトロ撮影)
スマート港湾化にAI技術導入か
スマート港湾を目指すチャンカイ港に、今後、ファーウェイのAI技術が導入される可能性が考えられる。2023年4月に当時のペルー運輸通信省の副大臣がファーウェイの専門家と面会しており、港の自動化や遠隔操作などについて意見交換した。中国国内ではファーウェイのAI技術を導入した港がすでに運用されており、また先述のファーウェイ・クラウド・サミットでも港湾で活用できる自社のAI技術がPRされていた。
運輸通信省が2024年6月に発表したところでは、チャンカイ港の建設工事は第1段階のうち80%以上が完了しているという。しかし、ペルー政府側とCOSCOで港湾の独占権についてトラブルがあったり、トンネル建設中に死者が出る事故が起きたりするなど、必ずしも順調にプロジェクトが進んでいるわけではないようだ。チャンカイ港は2024年11月の開港を予定しており、同月ペルーで開催されるAPEC首脳会議に日程を合わせて開港式典を実施し、そこに中国の習近平国家主席が参加する見込みとされている。中国資本を含む大規模港湾の建設で、ペルーと中国の経済関係はさらに強化されるだろう。
- 注1:
- Infrastructure as a Serviceの略で、データストレージやシステム構築のためのITインフラを提供するクラウドサービスの形態。
- 注2:
- Platform as a Serviceの略で、開発アプリケーションを提供するサービスの形態。
- 注3:
- Software as a Serviceの略で、サーバー提供者側で稼働しているソフトウエアを、インターネットなどのネットワークを経由して、ユーザーが利用できるサービスの形態。
- 注4:
- COSCOの出資比率は60%で、残りの40%はペルーの鉱山会社であるボルカン(Volcan)が保有する。
- 注5:
- TEUは20フィートコンテナ換算。

- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部米州課中南米班
佐藤 輝美(さとう てるみ) - 2012年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ・サンティアゴ事務所海外実習などを経て現職。