水処理市場は今、日本企業進出・商品導入にも期待(スリランカ)

2024年3月6日

スリランカの水処理は、過去10年間で大きな進歩を遂げた。かつては、多くの人々に安全な飲料水や水道が行きわたらなかった。そうした実情に、政府は安全な飲料水政策を導入。予算を講じ、水処理施設を整備。水道供給も徐々に拡大してきた。

それでも、克服すべき課題は依然残っている。例えば、排水や廃棄物を持続可能な形で適切に処理することだ。そのために、水処理システムの近代化を目指している。国際水管理研究所(International Water Management Institute:IWMI)によると、農村部でトイレからの排水が下水道に流れる割合は、人口比で3%にも満たない。都市部ですら、約12%にとどまる。また、地下の下水インフラは、90%が100年前に整備されたものだ。最大都市のコロンボでも、下水が十分に処理されないまま海に排出されているのが実態だ。さらに、コストの高さから下水道網の拡張が停滞。水処理薬品や水質検査薬品の不足も、水処理サービスに影響を及ぼしている。

こうした社会課題は、日本企業にとってどのような事業機会になるのか。本稿では、日本企業と協業する代理店企業へのインタビューを交え、当地水処理分野の事業機会を探る。

国民の水アクセスに、なおも改善余地あり

スリランカ政府は、安全な飲料水と衛生サービス改善を優先して取り組む姿勢を取っている。それでもなお、改善の余地がある。世界銀行によると、スリランカには包括的な国家政策が必要だ。すなわち、制度・組織課題の調整・計画を改善し、何百万もの人々に利益をもたらす投資誘致などを可能にすべきというのだ。確かに同国は、清潔な飲料水と衛生設備への基本的なアクセスを提供する、という持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて進んでいる。同時に、「安全に管理されたアクセス」に焦点を当てる必要があることになる。

2016年のスリランカ人口保健調査(DHS)では、90%の世帯が安全な飲料水と衛生設備の利用が可能と報告された。しかし実際は、水道水にアクセスできる人は36%、下水にアクセスできる人は2%に過ぎない。地域ごとの格差も大きい。都市部では98.7%の世帯が改善された水源を利用できる一方で、農村部では56.7%にとどまる。地理的条件の差もある。例えば乾燥地帯のコミュニティは、水不足が慢性的。北部地域では、これが特に深刻だ。水利用の公平性や利用のしやすさが地域によって異なるのが、その一因になっている。

スリランカ国民の生活を脅かす重大な問題は目下、(1)干ばつ時の飲料水安定供給、(2)公共水源の水質低下(注1)、(3)国の水生産能力の限界と水資源に対するストレス、(4)不十分な処理と水質の悪化、などを挙げることができる。

水処理不足から、病気や環境汚染が深刻化

スリランカの主要経済部門は、水に大きく依存している。そのため、様々な人間活動が水資源の枯渇と劣化が深刻な課題をもたらしている。水処理は、幅広い分野で求められているわけだ。例えば、都市部では生活排水や産業廃棄物によって、農村部では農業排水によって、河川や湖沼が激しく汚染されている。また、スリランカは気候変動による水へのリスクが特に高い(2020年の世界気候リスク指数(Global Climate Risk Index)で、世界6位)。この結果は、水質、水量、塩分の浸透に関する水インフラや安全性が脆弱(ぜいじゃく)ということを示している。

2022年春に発生した経済危機でも、水処理をめぐる課題が顕著になった。長時間の停電により揚水時間を短縮したことで、運営やメンテナンスに支障が生じたのだ。その結果、都市部、団地、農村部の推定260万人が、安全な飲料水に十分または定期的にアクセスすることができなかった。加えて、ガス供給が制限されたことも追い打ちをかけた。国内世帯のほぼ半数で、食料の調理だけでなく、煮沸消毒による水処理をあきらめざるを得なくなった。塩素消毒も困難なため、水が媒介する病気への感染が大幅に増えた。

そのほか、産業廃水処理の必要性も指摘されている。(1)ビヤガマ、(2)シータワカ、(3)ホロナ、(4)グレーターコロンボ(第1期)などの主要工業団地には、国家上下水道公社(National Water Supply And Drainage Board)が設立した廃水処理施設がある。処理能力は、それぞれ(1) 750万立方メートル(m3)、(2) 900万m3、(3) 1,100万m3、(4) 250万m3だ。そうした処理水は、農業用水として灌漑に再利用されている。一方で、処理を通じて汚染物質を許容できる最小レベルに抑えることが、公社にとっての課題になっている。

企業参入が続く

このように、水をめぐる課題は多岐にわたる。そこに着目し、スリランカでは、水処理企業が近年、事業を拡大している。例えば、ブラウンズ・エンバイロンメンタル・エンジニアリング(Brown’s Environmental Engineering)やABCアクア・サイエンス(ABC Aqua Science)が水処理サービスを提供。アクアブルー(Aquablu)は、ウォーターサーバーを販売している。日本企業では、ダイキアクシス(Daiki Axis)やフカダ・エンバイロンメント・ソリューションズ(Fukada Environment solutions)が、浄化槽を販売している(2022年12月7日付地域・分析レポート参照)。

このような状況下、2024年1月12日から14日にかけてコロンボで、産業見本市「INCO 2024」が開催された、この見本市は本来、エンジニアリング分野全般が対象だ。水処理関連では、次のような出展が見られた。

  • ダイキアクシス:日本企業(前述)。
  • プルーデンス・エンジニアリング・サービス(Prudence Engineering Service):地場企業、浄水機器や浄化槽を販売。
  • ケムラブ(Chemlab):後述、スリランカとモルディブで水処理事業を展開。
  • ヒューバート・エンバイロ・ケア・システムズ(Hubert Enviro Care Systems):インド企業、浄化槽を製造。

プルーデンス・エンジニアリング・サービスのケミカルエンジニア・ビジネスパートナーのサハン・ヘッティアラッチ氏は、「当地消費市場は、税負担の拡大や物価の上昇により停滞している。その一方、ホテルやレストランなどホスピタリティー分野の企業では、浄水機器に需要が高まっている」と話した(インタビュー日:2024年1月14日)。


プルーデンス・エンジニアリング・サービスの出展
(ジェトロ撮影)

ヒューバート・エンバイロ・ケア・システムズの出展
(ジェトロ撮影)

日本の水処理製品に需要あり

日本で水処理装置・薬品を製造・開発する大手に、栗田工業(本社:東京都中野区)がある。スリランカとモルディブでその販売代理店を務めているのが、ケムラブだ。そのケムラブに、最高経営責任者(CEO)のプラサンナ・ナーガハワッタ(Prasanna Nagahawatte)氏、マーケティング・マネージャーのサワンディ・プレーマティラカ(Sawandi Premathilake)氏、マーケティング・エグゼクティブのシャミラ・ディサーナーヤカ(Sharmila Dissanayake)氏に、当地水処理市場の現状を聞いた(インタビュー日:2024年1月14日)。


ケムラブの出展(ケムラブ提供)

ケムラブは、2020年にモルディブに本社を設立。2023年にはスリランカに進出した。

創業者のプラサンナ氏は、20年以上、水処理を研究。モルディブにはそのまま飲用できる天然水が限られている。そのため、水処理関連の商品を提供する余地が大きいと判断し、起業に至った。さらに、水処理をめぐる問題が存在するということでは、スリランカも同様だ。持続可能な企業活動や環境に配慮した製品などへの期待も高まっているため、進出を果たしたというわけだ。スリランカが同氏の母国ということもあっただろう。

同社の顧客は、主に企業だ。水処理や洗浄などの化学薬品やスペアパーツの輸入販売、水質や食品の検査、水処理に関する事業者向けトレーニングや洗浄サービスなどに携わっている。栗田工業のほかに、マヤ(Maya/スペイン企業、清掃用品製造)、マイクロケム(MicroChem/地場企業、検査サービス提供)、アマルガム・バイオテック(Amalgam Biotech/インド企業、微生物の活用による排水処理用の化学薬品製造)の販売代理店も務めている。顧客には、モルディブに展開する高級ホテルがある。例えば、リッツ・カールトン(the Ritz-Carlton)やモーベンピック(Movenpick)など。これら事業者に、(1) RO水(注2)処理薬品、(2)ボイラー水処理薬品、(3)プール水処理薬品、(4)下水処理薬品、(5)テストキット〔pHメーター、TDSメーター(注3)、塩素メーター、濁度メーター〕、(6)清掃用具(ほうき、モップ、ワイパー)、(7)水質検査や食品検査のサービスなどを販売した実績がある。

プラサンナ氏は、「今回の見本市では、発電所やプラント設備を有する企業からの引き合いが多かった。汚染された廃水の処理や海水の浄化について、多くの企業からの相談が相次ぎ、好感触だ」「スリランカ、モルディブともに、水処理製品に対する需要は非常に高い。さらに両国の消費者は、長年の経験から日本の製品を強く信頼している」「スリランカは近年、外貨不足から自動車など幅広い品目で輸入を規制してきた(2020年6月30日付2023年10月12日付ビジネス短信参照)。しかし、化学薬品や浄水設備の輸入には、特段制限は生じていない。将来的には、産業用の水中ポンプを輸入したい」と語った。

今後も同社では、スリランカとモルディブの両国で水質や環境の改善を推進していく予定だ。プラサナ氏は、水処理分野の日本企業とさらなるネットワークの構築を希望している。企業間で連携するためのプラットフォームを構築することで、今後、新規プロジェク参画も視野に入れている。


ケムラブと栗田工業(ケムラブ提供)

注1:
乾燥地帯の一部地域では、慢性腎臓病が流行している。公共水源の水質低下こそが、その原因と科学的に推測されている。
注2:
RO水とは、不純物が透過しない性質を持つ逆浸透膜でろ過した水のこと。
注3:
TDSメーターとは、水の中に溶け込んでいる不純物濃度を測定する機器のこと。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所
ラクナー・ワーサラゲー
2017年よりジェトロ・コロンボ事務所に勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所長
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課、ジェトロ京都を経て現職。