2022年の新車販売は減少するも生産は増加(モロッコ)

2023年7月18日

モロッコ自動車輸入者協会(AIVAM)によると、2022年のモロッコの新車販売台数は前年の17万5,360台から8.0%減となる16万1,410台(乗用車、小型商用車合計)となった。AIVAMは減少した要因について、(1)半導体不足や世界物流の混乱による輸入車の減少、(2)ロシアのウクライナ侵攻に端を発するインフレ、特に自動車燃料の高騰、(3)国内での2022年下半期の需要減少と分析している。

乗用車の販売台数をメーカー・ブランド別に見ると(表1参照)、2022年の販売台数1位は、前年に続いて3万8,885台(前年比11.7%減)のダチアだった。2位も前年同様にルノーで2万1,545台(5.7%増)だった。3位と4位は順位が入れ替わり、前年4位だった現代が1万3,197台(9.9%増)で2022年は3位に、前年3位だったプジョーが1万1,435台(6.5%減)で4位に後退した。シトロエン、フォルクスワーゲン、フィアットの欧州勢が順位を落とす中、アジア勢が伸びた。現代以外では、トヨタが前年8位から7位へ、起亜が前年10位から9位へ、それぞれ順位を上げた。AIVAMはその理由として、欧州ブランドに比べ、半導体不足の影響が軽微で生産が順調だったことを挙げている。

表1:メーカー・ブランド別の乗用車(新車)販売台数 (単位:台数、%)(△はマイナス値、-は値なし)
2021年
順位
2022年
順位
メーカー・ブランド 2021年
販売台数
2022年
販売台数
前年比 2022年
シェア
1 ダチア  44,029 38,885 △11.7% 27.2%
2 2 ルノー  20,386 21,545 5.7% 15.0%
4 3 現代 12,008 13,197 9.9% 9.2%
3 4 プジョー  12,230 11,435 △6.5% 8.0%
6 5 オペル  6,964 6,760 △2.9% 4.7%
5 6 シトロエン  7,317 6,131 △16.2% 4.3%
8 7 トヨタ 5,357 6,004 12.1% 4.2%
7 8 フォルクスワーゲン  6,929 5,741 △17.1% 4.0%
10 9 起亜 4,345 4,908 13.0% 3.4%
9 10 フィアット  4,741 4,609 △2.8% 3.2%
  -   - その他  29,817 23,971 △19.6% 16.7%
合計  154,123 143,186 △7.1%   -

出所:AVIAMの統計を基にジェトロ作成

一方、小型商用車は1位がルノーで4,840台(47.1%増)だった(表2参照)。2位は東風小康汽車(DFSK/中国系)の2,741台(32.7%減)、3位フォード1,824台(10.1%減)と続いた。前年1位だったDFSKは約3割の減少となり2位に後退した。日本勢は販売台数では減少したものの、順位を伸ばした。4位に三菱自動車1,773台(3.3%減)、5位にトヨタ1,552台(2.8%減)が入っている。

2022年の小型商用車の販売では、前年比47.1%増を記録しトップに立ったルノーが目立った。躍進の要因は、グループ会社ダチアの小型商用車「ドッカ―」に代わって「エクスプレス」の販売を開始したことによる。小型商用車の販売は全体で14.2%減と不調な中、ひとり気を吐いた。商用車販売の低迷は、2022年の国内経済の低迷が影を落とした格好だ。

表2:メーカー・ブランド別の小型商用車(新車)販売台数 (単位:台数、%)(△はマイナス値、-は値なし)
2021年
順位
2022年
順位
メーカー・ブランド 2021年
販売台数
2022年
販売台数
前年比 2022年
シェア
2 1 ルノー 3,291 4,840 47.1% 26.6%
1 2 DFSK 4,074 2,741 △32.7% 15.0%
3 3 フォード 2,029 1,824 △10.1% 10.0%
6 4 三菱自動車 1,834 1,773 △3.3% 9.7%
8 5 トヨタ 1,596 1,552 △2.8% 8.5%
7 6 現代 1,654 1,442 △12.8% 7.9%
5 7 フィアット 1,891 1,323 △30.0% 7.3%
9 8 プジョー 848 784 △7.5% 4.3%
10 9 メルセデス・ベンツ 627 489 △22.0% 2.7%
12 10 シトロエン 301 488 62.1% 2.7%
  -   - その他  3,092 968 △68.7% 5.3%
合計  21,237 18,224 △14.2%   -

出所:AVIAMの統計を基にジェトロ作成

燃料別(ガソリン、ディーゼル)の販売割合は、ディーゼルが85.7%、ガソリンが14.3%だった。2018年時点ではそれぞれ93.9%、6.1%であり、ガソリン車が年々比重を増しているものの、市中ではなおもディーゼル車が圧倒的に多い。しかし、新車などでは年式の新しいモデルのハイブリッド車も見られるようになってきている。

ハイブリッド車の2022年の販売台数は5,027台で2018年の1,122台から約5倍に増えた。このほか、プラグインハイブリッド車は516台(2018年は25台)、電気自動車(EV)は171台(2018年は16台)だった。いずれもこの5年間で大きく数字を伸ばしたが、これらを合計しても販売台数全体の3.5%にとどまる。EVの普及には充電スタンドの整備が欠かせないが、現状では十分とは言えない。

生産に関してはコロナ禍を脱却

国際自動車工業連合会(OICA)によると、2022年のモロッコの自動車生産台数は、前年の40万3,007台から15%増となる46万4,864台(乗用車40万4,742台、小型商用車6万122台)となった。2019年比でも15%増となり、新型コロナ禍に伴う生産縮小を脱したと見てよい。

モロッコの自動車生産の中心は、タンジェとカサブランカに工場を置くルノーだ。2022年の生産台数は35万18台、対前年比15.3%増だった。うち30万1,398万台が世界71カ国に輸出された。当地ではベルギーやアイルランド、南欧などで人気の「ダチア・サンデロ」のほか、「ダチア・ロガン」や「ルノー・エクスプレス」などを生産している。2022年からは2人乗り小型EV「DUO」の生産を開始した。今後は、ハイブリッド車の生産にも踏み込むもようだ。

ステランティス(旧PSA)は、プジョー「208」やシトロエンの小型EV「アミ」、オペルの「Rocks-e」などを生産している。同社は、ケニトラ(首都ラバトの北東約55キロ)に工場を持つ。アフリカや中東市場の需要に対応するため、2022年に3億ユーロの追加投資を発表した。生産能力を倍増させ、新型車「スマートカー」の生産ラインを設けるものとみられる。2030年までに、年間100万台の生産体制と部品現地調達率70%を目指すという。

国産車やバッテリー生産の動きも

2023年6月、Neoモーターズ(ラバトに近いアイン・アウダに拠点)は、Neoブランドのスポーツ用多目的車(SUV)を発表した。既に同社のホームページで受注を開始しており、価格は16万5,000ディルハム(約230万円、1ディルハム=約14円)から19万ディルハムとしている。投資額は1億5,600万ディルハムで生産能力は年間2万7,000台、580人の雇用を創出するとされる。2024年までに3,000台の生産を目指すとしている。筆者が同社担当者に確認したところ、現地調達率はエンジンも含めて65%で、既にスペインで安全基準はクリアしたという。エンジンは、モロッコのステランティスから供給を受ける。


GITEX AFRICAで展示されたNeoブランドのSUV(ジェトロ撮影)

また、2022年には、NAMX(本社:フランス・パリ)が生産した水素駆動SUV(水素カートリッジ式)のプロトタイプが発表された。価格は6万5,000ユーロからで既に受注を開始しており、2025年末から市場に出回るとしている。なおNAMXはモロッコ出身の起業家によるスタートアップとしても知られる存在だ。

バッテリーやその原材料の生産でも、動きが出ている。

モロッコ鉱業大手のマナジェムグループ(Managem外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(フランス語))は2022年6月、硫酸コバルトの供給についてルノーグループと合意した。硫酸コバルトはリチウムイオン蓄電池の原料になる。この合意に基づき、2025年から7年間、年間5,000トン(EV30万台分)の硫酸コバルトを供給する。そのため、マナジェムグループは、国内に硫酸コバルト精製工場を建設する計画だ。

また2023年6月には、国軒高料(Gotion High-Tech/中国のリチウムイオン電池製造大手)がモロッコ政府と電池工場建設に向けて覚書(MOU)を締結した(2023年6月12日付ビジネス短信参照)。

モロッコではハイブリッド車やEVの製造を視野に入れつつ、生産体制を着実に整備し、アフリカにおける自動車生産国としての地位を確立しようとしている。

執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所長
本田 雅英 (ほんだ まさひで)
1988年、ジェトロ入構。総務部、企画部、ジェトロ福井、ジェトロ静岡などで勤務。海外はハンガリーに3度赴任。ジェトロ鳥取を経て2021年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
ファティマザハラ・ベルビシュ
2017年からジェトロ・ラバト事務所に勤務。経済・産業・市場調査、商談会業務などを担当。