エジプトのヘルステックの魅力とは
日系のAAICがオンライン薬剤給付プラットフォームへ投資

2023年4月3日

エジプトのスタートアップが注目を集めている。2022年のエジプトにおけるスタートアップへの投資件数は160件に上り、アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアを抜いて中東・北アフリカ地域で首位となった(2023年2月16日付ビジネス短信参照)。英国のアフリカ市場調査会社ブライター・ブリッジズ(Briter Bridges)によれば、アフリカ全体で見ても、2022年のスタートアップ投資のうち、金額にして18.4%、投資件数では15.8%をエジプトが占める。

日系ファンド運用会社のAAIC Investment(以下AAIC)は、2023年1月、エジプトに拠点を設立した。同社はアフリカの医療分野に特化したファンドを立ち上げ、2017年以降エジプトを含めアフリカ各国のヘルスケア・スタートアップに投資を行ってきたが、2023年2月、新たにエジプトのオンライン薬剤給付プラットフォーム、Yodawyへの出資を発表した。エジプトでは処方箋や保険請求書が手書きで処理されることが多く、入力ミスなどの非効率が散見されており、同社のサービスが薬剤給付の効率化やスピードアップに寄与しているという。

エジプトのヘルスケア・スタートアップの魅力およびYodawyへの出資について、AAICエジプト法人ダイレクターの石田宏樹氏に話を聞いた(2023年3月7日)。


AAICエジプト法人ダイレクター・石田宏樹氏(同社提供)
質問:
Yodawyの事業概要は。
答え:
Yodawyの特徴として、「慢性疾患」に注力している。慢性疾患の患者は同じ薬を長期的に服用する必要があるが、処方箋をもらうために長い時間、並ばなければならない、薬局に行っても該当する薬の在庫がないなど、患者にとってのペイン(お金を払ってでも解決したいという課題)がある。Yodawyのサービスによって、ドクターによるオンラインでの処方箋発行から、自宅への配送までが1つのプラットフォームで可能となり、患者にとってのペインの軽減につながる。
また、アフリカでは、医療機関による不正請求や処方箋の期限切れなど、故意またはミスによる間違った請求が多く、こうした問題への対処や防止のために、保険会社に相当なコストが生じている。結果、アフリカの保険会社は、医療保険では損失を出しているケースが多く、エジプトも例外ではない。Yodawyのプラットフォームでは、保険会社による確認の前にYodawyが内容をチェックすることで、保険会社にかかるコストが大幅に軽減されるという利点がある。
質問:
Yodawyへの出資の決め手は。
答え:
まず、医薬品分野はAAICとして関心の高い分野だ。特に、エジプトにおける薬局の流通市場規模は60億ドルに上ると言われており、ナイジェリアやケニアのそれよりも大きい。サブサハラ・アフリカではB2Bのサービスを中心に検討してきたが、エジプトはBtoCが投資検討に値するステージだと考えている。
Yodawyの強みとして、デジタルとフィジカルを組み合わせて展開している点があげられる。デジタルプラットフォームの運営のみならず、自社で倉庫を保有し薬剤の在庫を確保、管理できることは強みだ。配送についても、薬局までの配送網を自社で運営しており、スムーズかつ効率的な薬剤配送が可能だ(ラストワンマイルの配送は提携先の薬局が担う)。
質問:
エジプトのヘルスケア・スタートアップの魅力は。
答え:
2022年のエジプトのスタートアップの調達額は、アフリカで国別3位となった。アフリカのBIG4(ナイジェリア、ケニア、南アフリカ共和国、エジプト)の常連となっている。エコシステムの成熟が堅調であることの証左といえる。エジプトのエコシステムの特徴として、サウジアラビアなど湾岸からのお金の流れもある。資金力はスタートアップの競争力を高める土台となる。
ヘルスケアに関していうと、エジプトは、医療インフラがアフリカの中では比較的整っていることが特徴だ。メディカルツーリズムのランキングでは世界26位につけており、中東の医療のハブとして機能している。また、エジプト政府は、2032年までに国民皆保険制度を全土で施行する目標を掲げており、さらなる医療インフラの整備が見込まれる。ヘルスケア分野の場合、スタートアップのテックがあっても、サービスプロバイダーや医薬品などのサプライヤーがいないと事業が成り立たないが、エジプトの場合は、医療インフラがあるためヘルスケア・スタートアップが成長する素地がある。
質問:
エジプトにおける拠点設立と今後のAAICの事業展開について。
答え:
放射線診断のプラットフォームを提供する、エジプト発のスタートアップRologyがケニアに展開するなど、AAICがこれまで注力してきたサブサハラ・アフリカと、北アフリカのスタートアップの行き来が出てきた。アフリカにおけるスタートアップシーンの重要国としてエジプトを位置づけ、拠点設立に至った。
エジプトでも引き続き、ヘルスケア領域のスタートアップへの投資を考えている。今回のYodawyへの投資は同社の1,600万ドルの資金調達ラウンドで比較的レイターステージへの投資だったが、よりアーリーステージのスタートアップも視野に入れている。ヘルスケア領域の中でもサービスプロバイダーや保険、電子医療記録(EMR)、電子健康記録(EHR)などの分野にも注目している。
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。