南アジアの物流ハブを目指す(スリランカ)
フリーゾーン運営事業者に聞く

2023年6月1日

スリランカは、インドやバングラデシュ、パキスタンといった新興国市場に近い。南アジア地域の主要な海路・航路上にもある。また、ワールド・シッピング・カウンシルは、スリランカのコロンボ港を南アジアの他港より上位に位置付けている(注1)。

こうしたことを考え合わせると、スリランカにはアジア地域で重要な物流ハブとなる可能性がありそうだ。昨今では、コロンボ、トリンコマリー、ゴール、ハンバントタの各港を整備。大手船会社や輸出企業に提供することを想定し、中継地や積み替えサービス拠点の機能を充実させている。

本レポートでは、こうしたスリランカの物流事業を探る。あわせて、地場の大手物流企業の取り組み事例を紹介する。

海上物流の成長が続く

スリランカが目指すのは、(1)航空・港湾施設間の物理的、通信、情報技術インフラを開発すること、(2)それにより、総合的なサービスや施設を提供する複合的な物流ハブとなること、だ。ラニル・ウィクラマシンハ大統領は、3つの主要港(コロンボ、トリンコマリー、ゴール)とその戦略的立地を利用して、スリランカをアジアの物流センターとして発展させる計画を示した。コロンボ東コンテナターミナルの開発を皮切りに、カンカザントライ港まで拡張することを視野に入れている(図1参照)。

図1:スリランカにおける主要な港湾の位置
コロンボ港は、スリランカ南西部、トリンコマリー港は北東部、ゴール港は南部、カンカザントライ港は北部に位置している。

出所:スリランカ港湾局資料

インド洋は、新たな成長の柱だ。最も往来の盛んな東西貿易回廊の1つでもある。

その中で、スリランカは、シンガポールとドバイ(アラブ首長国連邦)の2大物流ハブの中間に位置する。実際、地域のコンテナ処理量の25%以上を扱う。スリランカは、港湾開発を通じ、パキスタン、バングラデシュ、インド、中国、欧州、中東、アフリカの市場に向け、さらなるビジネス機会創出を目指している。中国による一帯一路構想が実現すると、南部のハンバントタ港は、中国企業が建設したアフリカやその他の地域の港と接続することになる。またトリンコマリー港は、インドとの連携により、ベンガル湾にサービスを提供することになる。

パキスタンからインドネシアに至る地域の人口は、2050年までに4億~5億人ほど増加する見込みだ。アジア、中東、アフリカのさらなる成長を勘案すると、スリランカの物流部門が商業物流拠点を開発・拡大するのは必然的だ。

図2では、過去11年間のスリランカのコンテナ輸送量を示した。テロや新型コロナ禍にもかかわらず、輸送量が継続的に増加してきたことが分かる。中央銀行の年次報告書によると、スリランカの港湾活動は2021年に急回復。新型コロナウイルス流行以前の水準を上回っている。その2021年も、年初には減速していた。それでも年間を通じてみると、港湾活動は活発さを示したかたちだ。

港湾活動の増加に伴い、2021年のスリランカ港湾局(SLPA)の財務実績も改善した。2020年の税引き前利益は203億スリランカ・ルピー(約85億円、1スリランカ・ルピー=約0.42円)だった。これが2021年には、256億スリランカ・ルピーに増加。スリランカ港湾局の総収入は16.8%増の455億スリランカ・ルピー、営業支出も10.7%増の329億スリランカ・ルピーに膨らんだ。

図2:スリランカの港湾の実績
(2011年-2021年、単位は100万TEU)
2011年にはコンテナ輸送量は430万TEU、積み替えコンテナ輸送量は320万TEUだったところ、2021年には720万TEU、600万TEUに増加した。

出所:中央銀行アニュアルレポート2021から作成

コロンボ港の物流機能は、国際的にも評価が高い。国連貿易開発会議(UNCTAD)の2022年版レビューPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(6.7MB) によると、同港は南アジアで1位、世界で24位に位置付けられている。「コンテナ港湾パフォーマンスインデックス2022」(世界銀行とS&Pグローバルポートパフォーマンスプログラムが発表する指標)でも、前年の33位から24位に順位を上げた。また、ワールド・シッピング・カウンシルの評価でも、過去5年間連続でコンテナ港として世界トップ50入りした(注1)。

スリランカは、アジアと欧州、すなわちマラッカ海峡とスエズ運河をつなぐ重要な航路に位置している。コロンボ・ハンバントタ両港から各地への輸送時間は以下の表1、表2が示すとおりだ。スリランカから、多くの国へのアクセスが容易なことがわかる。

表1:コロンボ港から主要地域までの輸送にかかる日数
港の名前 輸送にかかる日数
インド・ツチコリン 0.4日
インド・チェンナイ 2日
シンガポール 3日
インド・ムンバイ 4日
アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイ 5日
オーストラリア・シドニー 11日
オランダ・アムステルダム 18日
米国・ニューヨーク 21日

出所:スリランカ投資委員会(BOI)資料からジェトロ作成

表2:ハンバントタ港から主要地域までの輸送にかかる日数
港の名前 輸送にかかる日数
インド・チェンナイ 1.4日
インド・ムンバイ 3.1日
バングラデシュ・チッタゴン 3.9日
ミャンマー・ラングーン 4.0日
シンガポール 4.1日
パキスタン・カラチ 4.7日
UAE・ドバイ 6.6日
ジブチ 6.6日
ケニア・モンバサ 7.3日
サウジアラビア・ジェッダ 8.3日
中国・深圳 8.8日
中国・寧波 10.8日
南アフリカ共和国・ダーバン 11.8日
中国・青島 11.9日

注:船の速さを16ノットとした場合。
出所:ハンバントタ国際港の資料からジェトロ作成

多目的港として特異な位置付けを示す、ハンバントタ港

コロンボ港に加えて触れておきたいのが、ハンバントタ港だ。中国企業の進出もあり、昨今、注目されるようになった(注2)。同港は、スリランカのほぼ南端に位置する。東西貿易ルートの中でも最も交通量の多い海路から、わずか10カイリ(約18.5キロ)という距離だ。当該海路は、伝統的なシルクロードとしても活用されてきた。そうした南アジアの重要シーレーンを見渡せることから、国として重要な商業資産になっている。

とりわけ、RORO(Roll-on and Roll-off)船による貿易に、関心が高まっている。RORO船とは、車輪の付いた貨物を運ぶために設計された貨物船のことだ。例えば、自動車、オートバイ、トラック、セミトレーラートラック、バス、トレーラー、鉄道車両などを輸送する。船上と船外の移動には、付属する車輪、あるいは自走式モジュール運搬車などのプラットフォーム車両を使う。港で貨物を効率的に転がすために、RORO船にはしばしばランプウェイやフェリースリップが内蔵されている。または、近くの港の陸上に設置されたものを利用する場合もある。

2021年は、スリランカへの自動車輸入が原則として禁止されていた。にもかかわらず、ハンバントタ港の総車両取扱量は40.4%増加。開港以来の最も高い伸びを記録した。当年のハンバントタ港の総車両取扱台数は49万3,400台で、そのうち48万9,942台が積み替えで占められた。自動車輸入規制により国内向けの車両取扱量が76.9%も急減した一方で、積み替え車両が46.3%伸びたかたちだ。

自動車輸入規制は、2022年も続いた。しかも、世界的・地域的に経済面で課題含みだった。それでも、ROROの取り扱い実績は4%増加した。当年は249隻のRORO船が寄港。インド、韓国、日本、中東から、主に東・南アフリカ、メキシコ、中東、チリ向けに55万8,188台を積み替えた。

ちなみに、主な積み替え事業者としては、(1)川崎汽船、 (2)商船三井ロジスティクス、(3)日本郵船、(4)現代グロービス、(5)イースタンカーライナー、(6)ホーグ・オートライナーズ、(7)ゴールドスターラインなどがある。

フリーゾーン運営事業者・ヘイリーズ・アドバンティスが提供するのは

こうした動きをさらに掘り下げるため、ジェトロは、当地物流大手のヘイリーズ・アドバンティス(Hayleys Advantis)にインタビュー。経営幹部とフリーゾーンの担当者から聴取した(2022年9月22日)。

同社は、スリランカの有力コングロマリット、ヘイリーズグループの一員。航空、陸上、海上を網羅し、物流の全領域にわたってサービスを提供。船舶を保有・運航する会社として、スリランカ最大とされる。同社は、東南アジアから南アジアへの事業を展開し、当地輸送・物流業界を牽引している。コロンボ港では、輸出入貨物の約25%を担う存在だ。近年は、日本企業の顧客も擁する。海外企業との協業機会拡大にも関心を示している。そこで、海外の顧客が同社をどのように利用しているのか、また同社がどのような設備を有しているのかを含め、話を聞いた。


ヘイリーズ・アドバンティスの経営幹部ら(ジェトロ撮影)

同社は、当地最大のフリーゾーン運営事業者でもある(注3)。カトゥナヤカ輸出加工区(EPZ)に屋根付き保管倉庫を有し、これを「ヘイリーズ・アドバンティス・フリーゾーン」と称している。これまで、50カ国・200社以上の海外顧客に、当該サービスを提供してきた。現時点で、550SKU(注4)以上を管理している。

このフリーゾーンは、「商業ハブ規則PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(36KB)」が設立の法的根拠になっている。当該規則は、商品を一時的にスリランカに輸入して第三国に再輸出するビジネスを促進するために導入された(注5)。当該ゾーンは地理的には国内に位置していながら、スリランカ税関の領域から法的に除外される。すなわち、自由貿易港ないし保税地域として扱われる。つまり、法的にはオフショア施設とみなされることになる。必要最小限の書類で、特別の許可なく通関を通さない貨物移動が可能になるわけだ。うまく活用できると、海外の事業者にとって利点の大きい制度だろう。

フリーゾーンが認められていることで、ヘイリーズ・アドバンティスは幅広い範囲の物流ソリューションを提供している。通常の保管にとどまらず、複雑なサプライチェーンを運用・管理することが可能になる。例えば、原材料・半製品・完成品を輸入、保管、加工などを複雑な手続きなくスムーズに実施することにより、価値を付加して、地域規模または世界規模で組み立て・製造する事業を構築することが容易となる(注6)。具体的には、アパレル、日用消費財、ワイン、酒類、小売り、援助用の貨物など、50種類以上の商品取り扱い例がある。

このフリーゾーンでは、インド亜大陸の主要港およびフィーダー港に直結したアクセスを提供している。すなわち、インド、バングラデシュ、パキスタンに向けて毎週20便以上、船舶を運航している。

またコロンボ港は、主要船会社の利用頻度が高い。欧州、中東、極東、米国のいずれにも、週単位で接続している。年間の貨物運搬量は、容積にして35万立方メートルに匹敵するほどだ。

コスト削減が最大のメリット

同社によると、顧客にとっての最大のメリットは、フリーゾーンを利用することによりコストを削減できるところにある。

シンガポールやドバイと同様、スリランカでもフリーゾーンが国際的な物流拠点として機能している。しかも、同じ南アジア地域の競合ハブに比べて、60%もコストが削減できている。例えば、欧州インド亜大陸諸国との間で商品を発送する海外顧客の場合、通常なら欧州側で倉庫の保管にかかる費用や輸入時の課税が発生しかねなかった。一方で、スリランカでフリーゾーンを積み替え倉庫として活用してからは、非課税のためコストを大きく削減することができるようなった。それだけでなく、複数の貨物を集約することで積載効率が向上したという。

さらに、顧客の要望に応じカスタマイズしたサービスを受けることも可能だ(特別な温度管理のもとでの保管、など)。特殊な実例として、シンガポールや中国から潤滑油をフレキシタンク(注7)で輸入しているグローバル企業について紹介する。この事業者は、輸入した潤滑油をフリーゾーン内の中間バルクコンテナで保管している。顧客からの要望に合わせ、随時適切な量のバレルに詰め替え、コンテナに積み込んだうえで、コロンボ港から海外に輸出している。

様々なプロジェクトのため一時的な保管場所としてオフショア拠点を求める顧客にも、このサービスは適している。安全で非課税の屋外貯蔵施設を利用することもできる。ヘイリーズ・フリーゾーンでは、現在までに(1)ハンバントタ港に停泊するスペア船舶の一時保管、(2)石油掘削装置のメンテナンスと保管(スリランカで初事例)、(3)地域のインフラプロジェクトに応じたプロジェクト貨物の一時保管、などの取り扱い例があるという。

RORO施設で自動車輸出事業者に付加価値を

ヘイリーズは、ハンバントタにある自社のRORO施設を、世界標準で付加価値を生み出すサービス施設に改良することを検討している。これにより「日本の自動車輸出業者にとって、新たなビジネスチャンスになるだろう」という。この施設は、特に極東地域の国際的自動車貿易業者へのサービス提供を目的に設置したものだ。なお、ハンバントタ港は、管理に中国企業が担っていることでも知られる(注2)。もっとも、ヘイリーズは「中国による重大な影響を感じることはない」と説明した。

新しいROROサービス施設では、(1)技術者によるトランスミッションの取り付け、(2)オプション装備とアクセサリーの取り付け、(3)車両の外観および技術検査、車両の評価と証明、(5)外装・内装仕上げ(detailing)と補修、(6)表装仕上げ(touch-up)やフルペイントサービス、(7)定期予防メンテナンス、(8)修理(ボディパネル、シャーシ、エンジン、カーエアコン)、(9)外装の洗浄とクリーニング、(10)内装のクリーニング、(11)週1回のエンジン点火、(12)試験走行(30分間)、など、顧客の要望に合わせて対応する予定にしている。

長年の事業経験をもとに、顧客に合わせたサービスを提供

同社の強みの背景には、企業が求める段階に応じて構築する最終利用者間の物流体制と60年以上の経験がある。その結果、顧客の大小にかかわらず、物流に求める要件に応えられるという。

サービスの領域は多岐にわたる。例えば、(1)荷主企業に代わって効率的な物流戦略の企画立案や物流システムを構築する「サードパーティロジスティクス」、(2)倉庫やフリーゾーンでの保管、(2)特定のプロジェクトに応じた「プロジェクトロジスティクス」、(3)ラストマイルデリバリー、(4)物流関連エンジニアリングソリューション、(5)石油・ガスの物流、(6)貨物輸送、(7)マリンサービス(船舶運航、船舶や倉庫の修繕など)、(8)航空輸送、などを提供している。

ヘイリーズ・アドバンティスの担当者は、「スリランカには、地域の物流ハブとなる素地がある。スリランカの物流施設の運営コストは、同様の運営能力を持つ他の地域の物流ハブと比較して大幅に低い。そのスリランカ市場を主導する立場にあるのが当社だ。多くの物流施設やソリューションを通じ、顧客の要望に応じたサービスを提供していきたい」と語った。


注1:
ワールド・シッピング・カウンシルの評価は、コンテナ取扱量に基づく。
注2:
ハンバントタ港の港湾運営権は2017年8月、99年間にわたって中国企業に貸し出された。
注3:
フリーゾーンは現在、ヘイリーズのほか、当地の国際物流企業エクスポランカに運営権が認められている。
注4:
在庫保管単位のこと。
注5:
輸入・再輸出を伴う事業に関連して、商品を輸入し関税などの税を支払うことなく第三国に再輸出する中継貿易、オフショアビジネス、顧客の要望に応じて最終目的地まで柔軟に輸送する物流事業、複数国にまたがる物流の一元管理業務などを促進することで、スリランカが国際貿易の中心地として発展することが期待された。
注6:
品目によっては、このようなビジネス展開に制限がかかることがある。
注7:
液状の貨物を、コンテナなどで輸送するタンクのこと。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所
ラクナー・ワーサラゲー
2017年よりジェトロ・コロンボ事務所に勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・コロンボ事務所長
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課、ジェトロ京都を経て現職。