電気・電子がカギ
グローバル・サプライチェーンに加わるインド(2)

2023年9月19日

インドは製造業振興を掲げ、様々な投資優遇策を発表している。しかし、果たして世界の製造拠点となりうるほど、製造業は成長しているのだろうか。また、それに伴う輸出競争力は強化されたのだろうか。

インドがグローバル・サプライチェーンにどう参画していくのかに、注目がますます集まっている。その状況について考察するのが、本連載だ。その後編として、インドの製造業を取り巻く状況や輸出入について確認していこう。

製造業のGDP構成比に変わりないものの……

インド政府は2014年、製造業振興策「メーク・イン・インディア」を発表した。当時、GDPに占める製造業の割合は15%程度。2022年までに、それを25%まで拡大させることを目標にしていた。直近3年度分(2020~2022年度)の実績を確認すると(注1)、2020年度(2020年4月~2021年3月)は18.8%、2021年度18.7%、2022年度17.7%。いまだ大きな変化は見られない。

もっとも、ハーバード大学グロースラボが発表した「経済の複雑性ランキング」(注2)で、インドは2010年の54位から2020年には46位に順位を上げた。ジェトロの「2022年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」でも、「インドで高付加価値品生産を拡大する」とする在インド日系企業の回答が増加した(2018年は28.5%だったが、2022年は33.5%)。GDP構成だけには表れない製造業の発展が感じられる(「グローバル・サプライチェーンに加わるインド(1)製造業を振興」参照)。

とくに輸出が伸びた品目は

では、輸出の状況はどうか。直近5年間(2018~2022年)のインドの貿易統計を見ると、2022年の輸出額は4,532億9,100万ドル。2018年には3,247億5,400万ドルだったので、1.4倍に増加したことになる(図1参照)。一方、2022年の輸入額は7,201億7,900万ドル。やはり、2018年の5,144億6,200万ドルから、1.4倍増だ。貿易赤字は、2018年の1,897億800万ドルが、2022年に2,668億8,800万ドルに拡大する結果になっている(注3)。

図1:インドの輸出入額推移
2018年から2022年までの5年間のインドの輸出入額推移。輸出は2018年から、3,247億5,400万ドル、3,243億4,000万ドル、2,763億8,800万ドル、3,954億2,500万ドル、4,532億9,100万ドル。輸入は2018年から、5,144億6,200万ドル、4,860億5,800万ドル、3,731億7,200万ドル、5,729億900万ドル、7,201億7,900万ドル。貿易収支は2018年から、-1,897億800万ドル、-1,617億1,800万ドル、-967億8,400万ドル、-1,774億8,400万ドル、-2,668億8,800万ドル。

出所:Global Trade Atlas

輸出を品目別に見ると、特に「電気・電子機器、同部品」の伸びが著しい。2022年の輸出額は2018年の2.2倍を記録した(264億7,100万ドル、図2参照)。輸出規模が大きい機械類も、2022年は2018年の1.3倍に拡大した(275億1,100万ドル)。

同様に輸入で額が増加した上位の主要工業製品を確認してみると、「電気・電子機器、同部品」(698億3,500万ドル、2018年比1.3倍)、「プラスチック・同製品」(227億3,400万ドル、同1.5倍)などがある(図3参照)。輸出製品ほどの拡大幅はなかったものの、やはり電気機器などの取引が進展したことが読み取れる。

図2:インドの主な輸出品目における輸出額推移
機械類は2018年の204億5,600万ドルから2020年には179億9,300万ドルに落ち込んだものの、2022年は275億1,100万ドルに伸長。電気・電子機器、同部品は2018年に117億9,400万ドルだったが、2022年には264億7,100万ドルに成長。輸送機器・部品は2018年の182億7,700万ドルから2020年は一度落ち込み、2022年は212億5,800万ドルに。光学機器等・部品は2020年に一度落ち込むも2018年から200万ドル弱の水準を維持しており、2022年は212億5,800万ドル。

注:「電気・電子機器、同部品(第85類)」「光学機器等・部品(第90類)」「機械類(第84類)」「輸送機器・部品(第87類)」。
出所:Global Trade Atlas

図3:インドの主な輸入品目における輸入額推移
電気・電子機器、同部品の輸入額は、2018年に524億1,100万ドルで2020年に一度落ち込んだが、2022年には698億3,500万ドルに増加。プラスチック・同製品は2018年に152億200万ドルを記録し、2020年に119億6,200万ドルに減少したが、2022年は227億3,400万ドルに増加。

注:「プラスチック・同製品(第39類)」「電気・電子機器、同部品(第85類)」。
出所:Global Trade Atlas

輸出に占める欧米構成比が拡大

この10年間のインドの国・地域別輸出入シェアの推移も確認しておく。

輸出先の首位が米国ということには、当該期間を通じて変わりない。ただし、2013年には12.3%だった米国のシェアは、2022年には17.7%にまで増加。加えて、2020年のコロナ禍の落ち込みから急拡大を見せていることも、注目される(図4参照)。

また、EU向け輸出についても米国同様、拡大傾向が読み取れる。

一方、中国向け輸出は、落ち込んだ(2021年が5.8%だったの対し、2022年は3.3%)。元々シェアが大きくなかったところ、主要輸出品目の有機化学品(前年比35.1%減)、鉱石など(68.8%減)が減少した。

図4:インドの国・地域別輸出シェア推移
2022年のインドの国・地域別輸出シェアは上位から米国(17.7%)、EU(16.3%)、ASEAN(9.7%)、中国(3.3%)、日本(1.3%)。2013年から2022年までの推移を見ると、米国、EU向けは2020年に落ち込んだが、その後回復し増加。中国向けは2016年から2021年まで増加基調だったが、2022年は減少。日本は横ばいの状況が続く。

出所:Global Trade Atlas

シェアが拡大している米国向けの輸出品目を確認すると、「電気・電子機器、同部品」「鉄鋼製品」「化学工業製品」などが伸びている(表参照)。

特に「電気・電子機器、同部品(HSコード85類)」は、2022年の輸出額が53億4,200万ドル。2018年比で約3.2倍と急拡大した。この分類を詳細品目で見てみると、輸出額トップはスマートフォン(HS851713号)で9億9,800万ドル。当類の18.7%を占めた。インドでiPhoneの製造が拡大していることが寄与していると考えられる。そのほかにも、この3年で輸出を伸ばしている品目として、「光電池(HS854143号)」「スタティックコンバーター(850440)」「電動機・発電機部品(HS850300号)」などがあった。

また、同じくシェアが拡大した2022年のEU向け輸出を見ると、輸出額トップは「鉱物性燃料など(HS27類)」。2018年比で約2.5倍の134億7,600万ドルになった。これに次ぐのが、「電気・電子機器、同部品」で、同じく約3.5倍の73億2,900万ドル。そのうち、約4割をスマートフォンが占めたかたちだ。

表:主なインドの対米輸出額増加品目(単位:100万ドル、%)
品名 金額(2022年) 増加率(対2018年比)
鉱物性燃料など(第27類) 6,331 121.7
電気・電子機器、同部品(第85類) 5,342 222.6
鉄鋼製品(第73類) 3,216 99.0
化学工業製品(第38類) 1,872 152.0
鉄鋼(第72類) 1,026 246.6

輸入元としては、増減ありつつも首位は中国が維持している。2022年は、輸入全体の14.2%を占めた(図5参照)。また、ASEANからの輸入も徐々に増加。2013年の9.0%から、2022年に12.4%まで伸びた。米国も、2013年は5.0%だったシェアが、2022年に7.1%に拡大した。

図5:インドの国・地域別輸入シェア推移
2013年から2022年のインドの国・地域別輸入シェア推移を見ると、トップは継続して中国。2022年は14.2%。2位はASEANで上昇傾向が続いており、2022年は12.4%。米国も緩やかな増加傾向で、2022年は7.1%。日本はほぼ横ばいが続いており、2022年は2.2%。

出所:Global Trade Atlas

中国からの2022年の輸入のうち、約3割を占めたのが「電気・電子機器、同部品」。2018年比で32.1%増と、増加している。中でも、「集積回路(HS8542項)」や「半導体デバイスなど(HS8541項)」が目立ち、2018年比でそれぞれ2.2倍、80.4%増となった。

ASEANからは同年、「鉱物性燃料など」が全体の約4分の1を占めた(2018年比で、83.3%増)。特に石炭など(HS2701項)は2.3倍になった。また「電気・電子機器、同部品」は、約1割を占めた。2018年比17.6%増で、伸びは比較的緩やかにとどまる。ただし、「半導体デバイスなど(HS8541項)」に限ると、2.1倍増だった。

インドのサプライチェーン参画に期待

インドの輸出シェアでは、この数年のうちに米国の存在感が目立つようになってきた。そうした中で2022年5月、米国が主導する新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」が立ち上げられた〔「インド太平洋経済枠組み(IPEF)の動向」参照〕。IPEFは、(1)貿易、(2)サプライチェーン、(3)クリーン経済、(4)公正な経済の4つの柱から構成される通商枠組みだ。新型コロナ禍で鮮明となった経済の中国依存から脱し、中国を牽制する意味もあると報じられている。

インドは、米国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN8カ国とともに、当該構想に参加している。2023年5月には、IPEFの「サプライチェーン協定」も実質妥結した(2023年5月29日付ビジネス短信参照)。同協定は、サプライチェーン上の潜在的な課題が広範な混乱に発展する前に特定できるよう、参加国間での協調を促進するものだ。インドにとって、米国を含めたインド太平洋地域のサプライチェーン参画の後押しとなることが期待される。

前述の通り、インドの製造業には緩やかだとしても着実な発展が感じられる。実際、スマートフォンを代表例として、米国、EU向けに電気・電子製品などの輸出が伸びている。一方、国内調達できない原材料や部品(半導体デバイスなど)は、近隣の中国やASEANなどからの輸入に依存。すなわちインドでも、国境を越えたサプライチェーンを意識しないわけにはなくなり始めている。

こうした動きは、さらに本格化していくだろう。インドが世界の主要な製造・輸出拠点に成長していくためには、(1)ハード(安定した電力供給や物流を支える道路・港湾など)、(2)ソフト(効率的な通関やビジネス関連手続きなど)両面で、インフラ改善やビジネス環境整備が必要になる。

一方で、世界情勢が目まぐるしく変化する中、インドの存在感は高まっている。世界一の人口大国で、昨今はグローバルサウスの代表格とも目されている。2023年のG20議長国を務めたことも記憶に新しい。

確かに、インドでビジネスを展開する上で、課題やリスクは依然としてある。同時に、グローバルメーカーによる製造拠点の新規・追加投資が活発化しているのも事実だ。新たな視点でインドを見ていくことが、今、求められていると言えるだろう。


注1:
産業部門別の粗付加価値(GVA)に占める割合。
注2:
経済の複雑性ランキングは、各国の産業の複雑性や輸出競争力を見る指標として用いられる。
注3:
貿易赤字は、2020年に967億8,400万ドルに縮小していた。これは、新型コロナ禍で物品の行き来が減少したことが原因と考えられる。

グローバル・サプライチェーンに加わるインド

  1. 製造業を振興
  2. 電気・電子がカギ
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。