ウズベキスタン繊維産業、国際基準導入を進め、欧州市場進出目指す

2023年11月10日

ウズベキスタンの首都タシケントのウズエクスポセンターで2023年9月13~15日、第2回タシケント繊維機械展(TTME 2023)が開催され、ジェトロは9月15日に同展を視察した。

タシケント繊維機械展、中国企業が存在感

TTME 2023にはウズベキスタンを含めて7カ国から120社が出展し、うち87社が中国企業だった。主催者はその理由として、新型コロナウイルス対策のゼロコロナ政策の終了後、自社の製品を紹介しようとする中国勢に活気があることを挙げた(注1)。2019年に開催された第1回と比べ、参加国数と出展企業数はほぼ同じだったが、来場者数は1.5倍に伸びて4,493人だった。今回のテーマは「イノベーション」で、技術革新による生産性向上に力点が置かれた。


会場となったウズエクスポセンターのパビリオン
(ジェトロ撮影)

展示会場の内部(ジェトロ撮影)

会場には、生地に柄を印刷する大型プリンターや、ニット生地製造用の丸編み機などの大型機器を展示するブースが目立ち、中には「売約済み」の札がかかっているものもあった。そのほかに目を引いたのは、日本のヤマトミシン製造(本社:大阪市)のニット用縫製機による製造ラインを再現し、Tシャツ縫製の実演をしていた英国企業エイチエス・プロのブースだ。同社の代表者は、以前はロシアで同ブランドのミシンを扱っていたが、情勢によってビジネス展開が難しくなり、ウズベキスタン進出を検討していると語った。ウズベキスタンでのビジネスの難しい点としては、情報が少ないことと物流の困難を挙げた。ロシア極東とカザフスタンを経由して陸路で輸送するルートでは時間がかかり、中国を経由するルートは貨物の最小単位が大きくて条件に合わないという。今回は展示会に間に合わせるために日本からミシンを空輸したが、輸送コストが高くなった。また、シンガポールから船便で発送した別の製品は、展示会に間に合わなかったそうだ。


日本製の工業用ミシンで縫製ラインを
再現したブース(ジェトロ撮影)

中国製の丸編み機を展示したブース。
売約済みの札が見える(ジェトロ撮影)

展示会の主催者アイテカ・エクシビションズのオイイムホン・ババジャノワ副社長によると、以前は製糸が盛んだったが、最近は加工度のより高い製品が作られるようになり、織りや縫製、染色・プリント用の機械の展示が増えた。ウズベキスタンでは伝統的に繊維産業に従事する労働人口が多く、縫製への需要が高まり、ZARAなどの大手外国ブランド向け縫製プロジェクトの話が進んでいる。綿花生産で人権問題があった時期は、綿だけでなく繊維も輸出が難しかったが、それが解消されてからは、欧米に輸出できるようになり(2019年4月4日付ビジネス短信参照)、ウズベキスタン製品への需要が高まったので、これからまだ伸びが期待されるとコメントした。

ウズベキスタン繊維産業の強みはニット製品

ウズベキスタン繊維アパレル協会(注2)のムハンマド・マハムドフ国際基準導入・マーケティング部長はジェトロのインタビュー(2023年9月18日)に対し、ウズベキスタンが強いのは丸編みのニット生地で、品質の高いコットンのニット生地からTシャツを作り、欧州などの有名ブランドに納品する取り組みを行っていると語った。また、ニット生地は中国やトルコのほか、イタリア、ポーランド、ドイツ向けにも輸出している。

この話を聞くと、TTME 2023で丸編み機が多数展示されていたのにも納得がいく。また、ジェトロが視察した(9月17日)同国南部カシカダリヤ州のオクサロイ・テキスタイルの工場でも、最終工程に丸編み機でニット生地を製造していた。この工場では、紡糸の工程にスイス(今は中国資本)のザウラー、ドイツのトルツシュラー、日本の村田機械(本社:京都市)と豊田自動織機(本社:愛知県刈谷市)の機械を使用していた。高品質の製品を製造する大企業では、このようにスイス、ドイツ、日本の機械を導入しているのが一般的だという。


製糸工場に導入されている日本製の紡糸機
(ジェトロ撮影)

ウズベキスタンの綿は9~10月が収穫期
(カシカダリヤ州でジェトロ撮影)

日本市場は最も難しい市場の1つ

ウズベキスタン繊維アパレル協会と日本の繊維商社の増井(本社:大阪市)を通じて、今治タオル向けに綿糸を輸出する事業が軌道に乗っている(2020年11月24日付ビジネス短信参照)。有機綿から作った糸を2022年に約100トン出荷した。日本では「サマルカンダリア🄬コットン」という商標名で、ウズベキスタンで収穫した良質なコットンを厳選された工場で紡績した綿糸が原料になっていることがうたわれている。

マハムドフ氏は、日本市場は最も難しい市場の1つだという。高品質を求める一方で値下げを要求することと、市場が成熟しているため多種多様なものを少しずつ納品しなくてはならないことが理由だ。それでも、日本に輸出できる新しい製品を模索しており、日本で毎年秋に開催される展示会「ファッションワールド東京」に、2024年の出展を計画している。

欧州市場進出が目標

同協会会員企業の売り上げの大部分が展示会によるもので、毎年20~30回、国内外の展示会への出展を組織している。展示会でつながりのできた国外のパートナーからの企業プロファイルの照会が多いので、同協会では現在それに応えるべく、企業データベース開発プロジェクトに取り組んでいる。

マハムドフ氏によると、以前の主な輸出先は中国、トルコ、ロシアとキルギスを中心とするCISだったが、もろもろの状況が変化し、今は欧州市場進出を目指している。ウズベキスタンがEUの一般特恵関税(GSP)の優遇制度であるGSPプラス(注3)対象国になってから(2021年4月16日付ビジネス短信参照)、EU諸国への繊維製品の輸出が増加し、2021年に1億4,394万ドル、2022年には1億8,533万ドル(前年比28.8%増)となった。2023年には3億ドルの輸出を計画している(表参照)。

表:ウズベキスタンからEU諸国への繊維製品の輸出(2021~2022年)(単位:重量:キログラム、金額:1,000ドル)(△はマイナス値、-は値なし)
番号 製品タイプ 2021年 2022年
重量 金額 構成比 重量 金額 構成比 前年比
伸び率
1 綿糸 21,984.5 72,672.5 50.5% 22,947.2 88,801.2 47.9% 22.2%
2 綿布 59,387.1 30,578.9 21.2% 37,431.6 24,328.6 13.1% △20.4%
3 ニット布 5,400.2 27,924.0 19.4% 4,971.7 31,904.2 17.2% 14.3%
4 靴下 3,835.6 1,238.6 0.9% 4,843.7 1,563.4 0.9% 26.2%
5 縫製・ニット製品 11,523.7 8.0% 38,729.2 20.9% 236.1%
合計 143,937.7 100% 185,326.6 100% 28.8%

出所:ウズベキスタン繊維アパレル協会

このステータス獲得までには、綿花栽培での児童労働と強制労働の撲滅と、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の導入に尽力した。現在も引き続きさまざまな国際機関と協力して同協会加盟企業のESG面の改善や、「エコテックス🄬」スタンダード100、GOTS、WRAPなどの認証取得(注4)を進めている。さらなる労働環境改善のために、2023年5月30日にILO、国際金融公社、ウズベキスタン雇用主連盟の間で「ベターワーク」と呼ばれるプログラムの立ち上げと、2023年9月に開始する試験運用に関する覚書に署名した。

図:ウズベキスタンのニット製品の輸出額の推移
2015年から2022年の間 のそれぞれの製品カテゴリーの輸出額は、ニットの衣類と付属品が2015年1億7,533万ドル、2016年2億371万円、2017年2億5,136万円、2018年2億6,976万ドル、2019年3億2,340万ドル、2020年4億5,924万ドル、2021年5億7,783万ドル、2022年8億3,854万ドル。ニット布が2015年4,607万円、2016年6,517万円、2017年5,040万ドル、2018年6,550万ドル、2019年8,476万ドル、2020年1億4,448万ドル、2021年2億4,280万ドル、2022年3億772万ドル。ニット以外の衣類と付属品が2015年867万ドル、2016年1,276万ドル、2017年1,729万ドル、2018年1,986万ドル、2019年3,142万ドル、2020年4,749万ドル、2021年6,734万ドル、2022年8,954万ドル。

a. 2019年3月 米国政府によるウズベキスタン産コットンへの納入制限措置を解除
b. 2021年4月 ウズベキスタン、EUのGSPプラスの対象国に
c. 2022年3月 コットンキャンペーンによるウズベキスタン綿ボイコット終了
出所:ウズベキスタン大統領府付属統計庁

EU諸国向けのウズベキスタン織物の輸出を促進するために、2023年、ウズベキスタン繊維アパレル協会が下部組織を通じて出資し、商社セントラステックスをドイツのニュルンベルクとスペインのバルセロナに開設した。それらを通じて欧州のさまざまなブランドとの協力関係確立を目指している。これから欧州の主要都市でウズベキスタン製のテキスタイルの知名度が徐々に高まっていくことが期待される。


ウズベキスタン繊維アパレル協会
(タシケントでジェトロ撮影)

ロビーで主要な製品や生産現場の写真を展示
(ジェトロ撮影)

注1:
もう1つの理由として、TTMEは4年に1回、中央アジア最大の国際繊維機械展の中央アジア国際繊維機械展(CAITME)がない年に開催されており、CAITMEに出展する欧州勢はTTMEには来ないという事情がある。次のCAITME開催は2024年の予定。
注2:
1932年設立。ソ連時代は計画経済の下で綿花栽培と関連の軽工業が発展。現在の会員企業数は約2,000社、うち縫製・編み物1,522社、繊維448社、機械製造6社。ウズベキスタンの繊維産業の成長促進と世界での認知度向上を目的とし、国内企業と外国投資家の橋渡し役をしている。
注3:
EUの一般特恵関税(GSP)の優遇制度であるGSPプラスは、持続可能な開発や人権保障などに関連する一連の国際条約を批准・準拠する後発開発途上国(LDC)・地域に対して、EUがさらなる特恵措置を付与する制度。ウズベキスタンには2021年4月に適用された。
注4:
「エコテックス🄬」スタンダード100は繊維の安全基準で、ウズベキスタンでは100社が取得している。GOTSはオーガニックテキスタイル世界基準で、8社が取得。WRAPは倫理的で安全な縫製品製造促進のための認証基準で、20社が認定を取得済み、さらに20社が取得中。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課ロシアCIS班
小林 圭子(こばやし けいこ)
2022年、民間企業勤務、フリーの通訳翻訳業を経て、ジェトロ入構。