ニジェールのクーデター巡るECOWASの対応
議長国ナイジェリアのジレンマ

2023年9月19日

西アフリカのニジェールで7月26日に発生したクーデターは、日本でも大きく報道された。英国や米国、フランスをはじめとした西側諸国は、反フランス感情の高まりもあり、現状は静観する立場をとっている。一方で、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が軍事介入の可能性を示唆するなど、地域共同体の役割について関心が高まっている。中でも、ECOWAS議長国かつ隣国のナイジェリアがどのように打って出ようとしているか、西側諸国はじめ世界が注目するところだ。本レポートでは、クーデターの渦中にあるニジェールと、そこに隣接したナイジェリアとの両国の関係性を中心に、ナイジェリアの置かれている立場について概説したい。

ニジェールとナイジェリアのつながり

ニジェールは、日本にとって決してなじみのある国とは言えないだろう。2022年のGDPは152億2,000万ドル、人口は約2,600万人だ。ただし、合計特殊出生率は世界最高の6.7で、人口の急増が見込まれる。日本との関りも薄く、進出日系企業拠点数はゼロ、在留邦人数は11人だ。

他方、ニジェールの真南に位置するナイジェリアは、GDP4,774億ドル、人口2億2,000万人で、アフリカ最大の大国だ。両国とも国名の由来はニジェール川からきており、ニジェールはフランス語、ナイジェリアは英語で発音されるという違いはあるが、本来この2カ国は民族的にも不可分の関係にある。貿易統計にもその2カ国間の関係性は現れており、ニジェールにとってナイジェリアは、第3位の輸出相手国であると同時に、第4位の輸入相手国だ。ニジェールからナイジェリアへの輸出で最も金額が多いのは石油製品、輸入は電力・セメント・天然ガスなどが多くを占めている。

図:ニジェールの国別貿易統計(2022年、100万ドル)

輸出
ニジェールの輸出総額は4億2,300万ドル。国別の内訳は、フランスが1億4000万ドル、マリが7900万ドル、ナイジェリアが6800万ドル、アラブ首長国連邦が3800万ドル、南アフリカが3000万ドル、ブルキナファソが1600万ドル、ベナンが1600万ドル、ガーナが1300万ドル、その他が2300万ドルだった。
輸入
ニジェールの輸入総額は37億7900万ドルである。国別では、中国から9億400万ドル、フランスから7億9400万ドル、インドから3億8800万ドル、ナイジェリアから2億9000万ドル、ドイツから1億9200万ドル、タイから1億4100万ドル、米国から1億2100万ドル、パキスタンから9500万ドル、その他から8億5400万ドルとなっている。

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

表:ニジェールの主な国別輸出入品(2022年、100万ドル)

輸出
国名 品目 金額
フランス ウラン鉱およびトリウム鉱 135
マリ 石油および歴青油、これらの調製品 74
ナイジェリア 石油および歴青油、これらの調製品 35
アラブ首長国連邦(UAE) 37
南アフリカ共和国 29
ブルキナファソ 石油および歴青油、これらの調製品 12
ガーナ タマネギ、シャロット、ニンニク、リーキその他のねぎ属の野菜 9
輸入
国名 品目 金額
中国 鉄管 127
コメ 67
フランス 軍用武器の部品・付属品 340
航空機・ヘリコプターなどの部分品 237
インド コメ 278
石油および歴青油、これらの調製品 39
ナイジェリア 電力 63
セメント 62
天然ガス 57
ドイツ 航空機など 134
タイ コメ 134

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

ECOWAS加盟国間に大きな意見の隔たり

西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、域内経済統合の推進を目指して1975年に設立され、貿易・紛争解決機能も備えた準地域的機関だ。現在、西アフリカ地域の15カ国(注1)が加盟している。議長はナイジェリアのボラ・ティヌブ大統領で、2023年7月9日の首脳会議で選出されたばかりだ。

ECOWASでは現在、フランス語圏の国でクーデターが相次いでおり、地域経済統合の推進という目的から遠ざかりつつある実態に悩まされている。2020年8月にマリ、2021年9月にギニアでクーデターが発生、2022年にはブルキナファソで2度のクーデターが発生した。いずれの国も軍が全権を掌握しており、ECOWAS加盟資格は停止中だ。2023年6月にはマリが新憲法を採択し、1960年の独立以来初めて、フランス語を公用語から外す決定をするなど、これらの軍政国では反フランス感情が高まっている。

ECOWASの存在意義を揺るがしかねない事態が相次ぐ中で、議長国でありアフリカ最大の経済大国であるナイジェリアがニジェール情勢にいち早くイニシアチブをとろうとしたのは当然の対応だったといえる。

ECOWASは7月30日に臨時首脳会議を招集し、ニジェールが10日以内に憲法秩序を回復しなければ、軍事介入の可能性もあると警告した(2023年7月31日付ビジネス短信参照)。

8月2日にはナイジェリア独自の経済制裁の一環として、ニジェールへの送電を停止した。ニジェールは国内の消費電力の70%を隣国ナイジェリアに依存しており、2022年は金額ベースで約6,300万ドルを購入していた。

通告していた10日の期限が過ぎた8月10日には、ECOWASは再び緊急会合を開き、待機軍が編成されることとなり(注2、2023年8月14日付ビジネス短信参照)、緊張が高まった。

なお、クーデーター発生後のECOWASの会合には加盟資格を停止中のギニア、マリ、ブルキナファソの3カ国は参加していない。マリとブルキナファソについては、ECOWASが軍事介入を行う場合は停戦監視団(ECOMOG)に対抗するべく、自国軍をニジェール領内に進軍させると警告している。議長のナイジェリアのボラ・ティヌブ大統領は10日の待機軍編成を決定したECOWASの会合で「ニジェール国民の幸福のため、民主主義や人権へのECOWASによるコミットメントを再確認するとともに、同国の立憲統治への早期回復に最大限努力しなければならない」と演説した。

西アフリカのリーダー、ナイジェリアのジレンマ

アフリカ最大の経済大国ナイジェリアは、これまでもECOWASのリーダーとして民主政治を守るべく、必要があれば軍事介入も積極的に行ってきた。例えば、1990年、2003年にリベリア、1997年にはシエラレオネに軍を派遣し、治安維持に当たった。ティヌブ大統領は今回も、クーデター当初はECOWASによる積極的な軍事介入を示唆していたが、会合を重ねる中で、現在その勢いは弱まりつつある。ナイジェリア国内世論も、軍事介入に否定的な意見が少なくないが、これには以下のような背景がある。

1つには、ナイジェリアとニジェールは1,400キロにわたって国境を接しており、これらの地域では民族や文化も国を超えて共有する立場にあるためだ。一帯は英国、フランスの植民地支配が置かれる前から、主に農耕に従事するハウサ族や、遊牧民族のフラニ族が居を構えていた地域だ。ニジェールに住む同胞を危険に巻き込みたくないとの思いは、特にナイジェリア北部地域で根強いものがある。

次に、ナイジェリア自体、国内経済が疲弊している中で軍を投入する余力はないとの意見が多いのも要因だ。5月末に就任したティヌブ大統領は、長年にわたってガソリンに投入されてきた燃料補助金の撤廃や、需給に応じた変動為替レートの導入など、ドラスティックに改革を進めている。現在まさに改革の過渡期にあり、物価上昇も激しい中で市民生活は厳しさを増している。労働組合が最低賃金の大幅引き上げを求めてデモを起こす(2023年8月8日付ビジネス短信参照)など、国内にも問題が山積している。

ナイジェリア・ニジェール間の大型プロジェクトにも影響か

ブハリ前政権下のナイジェリアは、ニジェールのバズム大統領と良好な関係を構築していた。ブハリ前大統領は、ナイジェリア北部のニジェール国境に近いカツィナ州出身のフラニ族で、同地域のテロリストなどに対する治安維持活動で連携してきた実績があるからだ。2022年7月には国境警備のため10台のトヨタのランドクルーザーを贈呈し、11億5,000万ナイラ(約179万ドル)を支出している。同年11月にはナイジェリアのさまざまな協力への感謝として、ニジェールの首都ニアメー市内でブハリ大統領の名前を冠した道路の開通式が行われた。直接的ではないにせよ、クーデターの影響で連携がとりにくくなる場合、国境付近の警備が手薄となり、治安が悪化する可能性はある。

インフラ関連でも、注視すべきプロジェクトが複数存在する。ナイジェリア北部のカノとニジェール南部の都市マラディを結ぶ総額19億6,000万ドルの標準軌鉄道建設プロジェクトが進行している。これもまた、ブハリ前大統領が主導していたインフラ関連事業で、現地報道では2025年に完成する予定だ。建設請負業者のポルトガルのモタエンジルは、クーデター発生直前の7月初旬に政府と契約を締結した。同社はこの鉄道建設のため資材の一部を輸入し、建設を開始したところだった。

その他の大型プロジェクトとしては、ナイジェリアからアルジェリアやモロッコを経由し、欧州にガスを供給するパイプラインの建設計画もある。総延長は5,600キロ、総工費は130億ドルを見込んでいる。世界有数の天然ガス埋蔵量を誇るナイジェリアは、原油に代わる新たな外貨獲得手段として、液化天然ガス(LNG)に注目している。今回のクーデターはこれら大型プロジェクトにも少なからず影響を与えそうだ。

今後しばらくは外交による解決が図られる

クーデターを主導したニジェールのドゥラフマン・チアニ将軍は、8月中旬に同国を訪問したECOWASの代表団に対し、いつでも話し合いの場は開かれていると述べた。他方、チアニ将軍の民主的統治を3年後をめどに実現するという提案に対し、ECOWAS側は長引く協議に参加するつもりはないと反対を突き付けるなど、互いの懐を探る状態が続いている。

ECOWASやアフリカ連合(AU)内では現在、軍事介入に対しては否定的な意見が多い。しかも、仮に軍事介入した場合、マリやブルキナファソが武力による対抗措置に出ると主張していることから、ECOMOGの派遣は大規模な地域紛争に発展する可能性があり、いずれの当事国にとっても良い結果をもたらすとは考えにくい。ECOWASによる軍事介入はいわば「抜けない伝家の宝刀」であり、差し迫った交戦の可能性は低いというのが一般的な見解だ。他方、外交対話による解決は長期戦が予想される。マリ、ギニア、ブルキナファソ、そしてニジェールで発生したクーデターはいずれも、反フランス感情の高まりが一因ということに鑑みれば、長引くほどに他のフランス語圏諸国へ波及する可能性も否定できず、ECOWASの結束をさらに弱体化させることになりかねない。国境閉鎖による影響も懸念材料だ。内陸国のニジェールには、多くの物資が隣国ベナンのコトヌー港を経由して入っていたが、国境が閉ざされた今、食糧安全保障が脅威にさらされている可能性が高い。国連世界食糧計画(WFP)も国内に約700万人存在する「中程度の食糧不足」の人々の生活状況が悪化する懸念があると分析している。

ニジェール情勢は、さまざまなリスクをはらみながら、関係者が互いの腹の底を探り合う神経戦の状況がしばらく続く。域内問題の解決を模索するECOWASやティヌブ大統領の手腕が試されている。


ベナンのコトヌーからニジェールへ向かう道路は比較的整備されている(ジェトロ撮影)

注1:
加盟国は、ベナン、ブルキナファソ、カーボベルデ、コートジボワール、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、リベリア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネ、トーゴの15か国。より詳しい概要については、外務省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。
注2:
ECOWASによる軍事介入は、1999年に採択された「紛争の防止・管理・平和維持のメカニズムに関する議定書(Protocol Relating to the Mechanism for Conflict Prevention, Management, Resolution, Peace Keeping and Security)」に根拠規定がある。同議定書は加盟国に対し、ECOWAS停戦監視団(ECOWAS Cease-fire Monitoring Group: ECOMOG)の結成を求めており、ECOMOGの役割を明示・列挙している。また、ECOWAS加盟国がECOMOG待機部隊として、陸・空・海軍、警察その他任務遂行に必要となる人的資源を提供することに同意すると規定している。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
谷波 拓真(たになみ たくま)
2013年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ金沢、ジェトロ・アジア経済研究所、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2023年5月から現職。