「誰もやっていないモノ」を世の中へ―輸出商品開発で販路開拓(日本)

2023年3月14日

MNH(本社:東京都調布市)は、食品の商品企画や製造、卸売りを行う中小企業だ。社名は「みんなで(M)日本を(N)HAPPY(H)に!」から。持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を軸に、「地域を活性化すせるための仕組みづくり」と「多様な人が働けて、雇用が生まれる場づくり」を目指し、2008年に設立した。地域活性化では、地域の食材とメーカーのノウハウを融合した商品開発、雇用の創出ではコミュニティー工場の運営を行っている。引き合いや展示会出展などをきっかけに輸出事業にも取り組む。新商品の開発にも意欲的だ。これまでの輸出事業での経験、今後の展望について、小澤尚弘社長に話を聞いた(取材日:2023年1月12日)。

輸出に手応えも、規制の壁

MNHの輸出事業は、「ゾンビスナック」という米で作ったゾンビ型のスナック菓子に輸出の引き合いを得たことから始まる。「ゾンビスナック」は、名称や形もさることながら、青、緑、ピンク、紫といった色のインパクトある商品だ。以前から輸出事業の展開を考えており、2018年4月にシンガポールの食品展示会のFHA(フード・アンド・ホテル・アジア)にも出展した。展示会で出会った出展者との縁で、2019年夏に台湾のコンビニエンスストア向けに40フィートコンテナ1本分を輸出した。

しかし、「ゾンビスナック」の今後の輸出展開を考えると、2つの壁にぶち当たった。1つ目は輸送費が高いこと。スナック菓子は軽い割に容積が大きく、コンテナに詰めた場合に「ほぼ空気を積んでいるようなもの」という状態で、費用対効果が悪かった。2つ目は有望な輸出先として考えていた主要国の規制で、使用している成分の一部がポジティブリストに該当しないため、輸出できないと分かったことだ。

輸出向け製品を開発

こうしたハードルから、輸出向けの商品として開発したのが「玄米デカフェ」だ。玄米を焙煎(ばいせん)し、コーヒーのようにドリップやフレンチプレスして飲む商品となっている。玄米を使用しているため、ノンカフェインであることが特徴で、コーヒーのような苦みと玄米の香ばしさを感じられる。「ゾンビスナック」での課題を生かし、主要国・地域で規制される成分を含まず、かさばらない商品設計となっている。米の銘柄ごとに味が異なり、「玄米デカフェ」としては14種類のバリエーションがある。「こしひかり」「あきたこまち」「つや姫」などに加え、酒米として知られる「山田錦」や「出羽燦々(でわさんさん)」などをそろえる。


玄米デカフェ(ジェトロ撮影)

2017~2018年ごろからフードテックやジェトロ主催の商談会に参加して輸出機会を模索してきた。他方で、ズーム(Zoom)などオンラインでの商談の方が効率はよいという。その背景には、展示会でバイヤーの反応があったという。MNHの小澤社長は「展示会では、果物や水産品などを探しているバイヤーが比較的目立つ」と話す。そのため、同社の製品に対しては、たまたまブースが目にとまったので見に来たというバイヤーが多い印象を受けるという。展示会で目に触れる機会も大切だが、商品に興味を持ってオンラインでアプローチしてくれるバイヤーとオンラインで商談をする方が話が早いのが実態だという。食品や飲料などは実際の味や香りを試してもらうことが重要だが、これについては、Eコマースプラットフォームでの販売という形式で対応する。米国とシンガポールのアマゾンに公式ショップをオープンし、バイヤーからサンプルを求められた場合には、アマゾンのショップから直接購入してもらう仕組みだ。小澤社長は「アマゾンであれば購入のハードルが低く、サンプル輸送のための打ち合わせや手続きの手間を省くことができる」と利点を話す。バイヤーにとっては手軽で、早く手元に実物が届く。MNHにとっては、一般的にサンプルは無償で提供することも多いが、「有償でもサンプルとしてオンラインで購入してくれる」ことで商品に対する関心の高さを把握することができる。

輸出先としては、欧米やアジアなど、日本食や日本酒が好まれている国・地域を中心に、飲食店向けの需要を狙う。ただし、中国については、規制の厳しさなどから、現時点では対象として考えていないという。これまでに、英国の茶専門カフェや米国サンフランシスコのすし屋で取り扱いの実績がある。まずは海外で導入事例を作り、それを日本にも逆輸入して、双方向でプロモーションしていくことが目標だ。

昆虫食という新しい取り組み

MNHは2017年から新事業として、国内市場向けに食用コオロギを使った菓子類の展開を始めた。「誰もやっていない」、かつ、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、昆虫食が注目され始めている時流を捉えた。小澤社長は「コオロギを使った商品は10商品以上あり、世界的にみても当社の品目数は一番多い」と話す。

原料となるコオロギは欧州やアジア、日本から調達しているが、多くはタイから輸入している。タイは熱帯モンスーン気候で、コオロギの育成に適しており、爬虫(はちゅう)類や釣りの餌用にコオロギを飼育・加工する企業が集積しているという。近年では、欧州向けに食用コオロギを飼育・輸出している企業も多く、管理体制がしっかりしていて、貿易業務にも慣れている。取引先の選定基準としては、管理がしっかりしている企業であることは大前提だが、一番は「味」だという。与えている餌がポイントだ。2022年からはコオロギの仕入れ先情報を開示し、コオロギ食の啓発を意識したプロモーションを行っている。

最近では、学校でSDGs(持続可能な開発目標)の授業があるため、子どもの方が昆虫食の知識を持ち、関心が高い。加えて、新しいものに挑戦する意欲の高い20~30代女性が現在のメインのターゲットになっている。また、無印良品がコオロギを使ったスナックを発売したことも、昆虫食への関心を高めるきっかけとなったという。

目下の課題は原料のコオロギの価格が高いことだ。コオロギの供給者はここ1年で増えているというが、市場がまだ小さいため割高になってしまう。小澤社長は「エビに似た風味で、食材としておいしいことに加え、将来的な世界的食料問題の解決のためにも、コオロギは欠かせない」と話す。今後、需要を増やし、市場を育てることで、新たな参入者を増やしたい考えだ。


昆虫食関連製品のプレイヤー(MHNウェブサイトから)

オンライン商談の活用や、時勢を捉えた新商品の開発など、さまざまなツールを組み合わせ、今後も国内外でのビジネス拡大を目指す。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。