西アフリカ最大規模の経済特区、その魅力と課題を探る(セネガル)
制度設計、インフラ・環境対策などに改善余地

2023年3月30日

2035年までの新興工業国入りを目指すセネガル。政府は「セネガル新興計画(PSE)」の下、各種インフラ整備に力を入れている。

その首都ダカールが位置するのは、狭い半島の突端だ。そのため開発余地に限りがあり、近年の経済発展とともに交通渋滞が深刻化してきた。そうしたことから、ダカール空港を市の南郊60キロ先に移転させることを決定。2017年12月にブレーズ・ジャーニュ新国際空港(AIBD)が開業した。現在、新空港は高速道路につながる。渋滞がなければ、ダカール中心街から車で1時間ほど。距離的には、日本の東京都心から成田国際空港までとほぼ同じだ。

また、政府は現在のダカール港を、南東45キロのンダヤンに移す新港開発構想を打ち出している。2021年には、日本政府がそのマスタープラン策定に着手している。

一方、当地政府は自国産業の発展のため、経済特区の開発にも力を入れている(表参照)。現在、法令に基づいて設立されたものとして4区ある((1)ジャムニャジョ、(2)バルニー=センドゥ、(3)ジャス、(4)サンジャラ)。ダカールからの距離はそれぞれ、(1)が35キロ、(2)40キロ、(3)60キロ、(4)100キロだ。その規模は、西アフリカ最大規模ともいわれる。

ジェトロは、このうちすでに開発が進んでいる(1)、(3)、(4)を現地視察した。その陰にある課題をあわせて報告する。

表:経済特区に関する法律・政令
施行日 名称 内容
2017年1月6日 法律第2017-06号 経済特区の基本的事項を定める
2017年1月6日 法律第2017-07号 経済特区のインセンティブを定める
2017年4月13日 法律第2017-535号 法律第2017-06号の細則
2017年5月9日 政令第2017-932号 ジャス経済特区(ZESID)を設立
2017年5月30日 政令第2017-1110号 ジャムニャジョ経済特区(P2ID)を設立
2017年11月22日 政令第2017-2189号 サンジャラ経済特区(ZESIS)を設立

出所:公開情報を基にジェトロ作成

ジャムニャジョ特区:新都心にあわせて開発

ジャムニャジョ経済特区の計画が成立したのは、2017年。2018年から運用を開始した(2018年6月1日付地域・分析レポート参照)。この特区は、ダカールと新空港をつなぐ高速道路の沿線に建設されている。この特区は、日本の幕張新都心にイメージが重なる。周辺には政府機関や大学の移転が計画され、多くの集合住宅の建設が進んでいる。加えて、ダカール国際会議場(CICAD)やセネガル・スタジアム(5万人収容可)、ダカールアリーナ(1万5,000人収容可)が立ち並ぶ。これらの大規模施設は、いずれもトルコの建設大手スンマ(SUMMA)が手掛けたものだ。同社は、新空港の建設と施設運営にも関わっている。

実際に足を運んでみると、ダカール市内の交通渋滞が激しいため、高速道路に乗るまでに日中だと数時間かかってしまう。ダカール中央駅からジャムニャジョまでは、地域高速鉄道(TER)が開通してはいる。しかし、ダカール市西部(商業中心地区)の住民にとっては、ダカール中央駅に行くにも交通渋滞を抜ける必要がある。そのため、ジャムニャジョまでの心理的距離はかなり大きいようだ。この点は、引き続き交通インフラの改善を通じて解消されるべき課題だろう。

ジャムニャジョ経済特区の開発対象面積は、53ヘクタール(ha)だ。セネガル政府は、中国政府の資金協力の下、250億CFAフラン(約3,800万ユーロ、1ユーロ=655.957CFAフラン、固定レート)を投じて第1期工事(13ha)を完成させている。すでに、1,000人強の雇用が生まれた(注1)。現在は、2023年第3四半期の完工を目指して第2期工事(40ha)が進行中。その開発費用として、600億CFAフラン(約9,150万ユーロ)を見込んでいる。

この経済特区に進出する企業は、様々な優遇措置を受けることができる。例えば、(1)本国からの派遣駐在員について所得税免除、(2)法人税を30%から15%に減免、(3)現地従業員の有期雇用契約期間延長(通常なら最長2年のところ5年に)、(4)従業員や法人の所得に対する付帯課税免除(25年間)。これを受けるためには、(1)最低投資額5億CFAフラン(約76万ユーロ)、(2)輸出比率50%以上、(3)入居面積100平方メートルあたり5人以上の現地雇用、の要件をすべて満たす必要がある。

特区を管理するセネガル投資促進庁(APIX)によると、現在、ジャムニャジョ経済特区には、14社が進出している。その内訳は、チュニジア、フランス、トルコ、中国からそれぞれ2社、マリ、コートジボワールから各1社、セネガル(内資)4社になっている。


ジャムニャジョ経済特区で衣料を生産する中国企業(ジェトロ撮影)

ジャス特区:新空港との連携に優れる

ジャス経済特区は、2017年にブレーズ・ジャーニュ新国際空港(AIBD)に隣接して設置された。開発対象面積は718ha。そのうち90haが優先開発地域に指定された。この優先開発地域は、テイリオム・ロジスティクス(Teyliom Logistics:TL、注2)がAPIXとコンセッション契約を交わし、開発・運営を担っている。当該事業に向けTLは、スイスポート社からグランドハンドリングについて技術支援を受けた。その上で、自社資金で保税貨物エリア(4,000平方メートル)を建設。ジャス経済特区への進出企業に保税倉庫サービスを提供する体制を整えている。新型コロナ禍で、2020年の貨物取り扱いこそ大幅に落ち込んだ。しかし、2021年以降は貨物量も増えてきた。ちなみに2022年の取扱量は、11月末時点で10万トンに達したとのことであった。

優遇措置は、ジャス経済特区でも認められる。内容的は、 (1)法人税の減免(30%→15%)、(2)付帯課税の免除、(3)現地従業員有期雇用契約の期間延長(2年→5年)、(4)自家消費電力の自由調達権付与、(5)設備投資財や製品原材料などに対する保税措置(25年間)だ。その要件は、(1)最低投資額1億CFAフラン(約15万ユーロ)、(2)輸出比率60%以上、かつ(3)150人以上の現地雇用、になる。

TLが運営するこの工業団地は、造成が始まったばかりだ。現在、油井掘削の特殊パイプなどを扱う米国企業と、塩ビ管を製造する内資企業2社が操業している。


ジャス経済特区では地場企業が塩ビ管を製造(ジェトロ撮影)

サンジャラ特区:地方自治体が主導

サンジャラ経済特区は2017年、「サンジャラ新興計画」に基づいて設置された。この計画は、大統領顧問兼サンジャラ市長のセリーヌ・ゲイ・ジョップ氏が掲げた施策だ。自治体が管理する経済特区として、国内初になる。

特区が所在するサンジャラ市は、ダカールから新空港に向かう有料高速道路(A1)の終点(全長80キロ)から、さらに国道(N1)を20キロほど進んだ場所に位置する。サンジャラ国際ビジネスパーク(注3)の関係者によると、サンジャラ経済特区のメリットは、隣国マリおよびギニアに向けた陸上貿易ルートの中継地点に位置することにある。

当該特区への進出企業が受けることのできる優遇は、(1)法人税の減免(30%→15%)、(2)付帯課税の免除、(3)現地従業員の有期雇用契約の期間延長(2年→5年)、(4) 自由な外国人雇用、(5)事業用地の長期借地権付与、(6)自家消費電力の自由調達権、(7)外貨口座の保有(25年間)、だ。なお、優遇を受ける要件は、(1)輸出あるいは輸入代替比率50%以上、(2)入居面積100平方メートルあたり5人以上の現地雇用、かつ(3)サンジャラ職業訓練校から10人のインターン受け入れ、とされている。

サンジャラ市長の積極的な誘致活動により、特区には既に32社が進出を表明。うち15社が登記・操業済みだ。ここには、インド、オランダ、モロッコ、フランス、イスラエル、日本の外資が名を連ねている。


サンジャラ経済特区の風景(ジェトロ撮影)

特区の制度設計やインフラ整備などに懸念材料

各経済特区を横断的に視察した上での所感として、懸念材料が頭をよぎらざるをえない。以下、主に2点から、問題を考察してみる。

  • 誘致ターゲット業種と制度設計が不十分
    いずれの特区でも、誘致したいターゲット業種が明確に示されていない(注4)。その結果として、特区制度や運用面で、進出企業にとって不都合が生じ得るのではないか。
    このような懸念は、ジャムニャジョ経済特区で包装資材を製造する中国企業の実例からも裏付けられる。話を伺ったところ、同社は進出に当たり、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)と西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)域内共通市場を活用した輸出拠点にすることを考えていた。しかし、ガンビア、モーリタニア、ギニア、マリへの輸出にあたり、現時点で44%もの域外関税(加盟国で共通に設定された税率)が課せられているという。
    当該経済特区では、製品の加工と輸出が進出する上での要件とされる。にもかかわらず、加工のための原材料や中間材の輸入関税に関する規定が明確でない。原材料などの保税措置を認めてもらうため、進出後に個別に当局と交渉する必要があったという。しかし、これがさらに問題を誘発した。保税が認められたことによって、特区内で製造された自社製品について原産地比率の証明に必要なデータが得られなくなってしまったのだ。そうした理由から、セネガル当局からセネガル原産地証明を発行してもらえなくなった。結果として、ECOWASとUEMOAのいずれでも、域外製品として扱われてしまったとのことだった。
    この問題の根本的原因は、誘致企業に適合した特区の制度設計がなされていない、あるいは誘致対象企業をあらかじめ明確にしなかったことと言えそうだ。そのほか、セネガルの関係当局間で連携が徹底されていないことも原因と考えられる。
  • インフラ整備や環境管理に不安
    経済特区のインフラ整備などについても、気になる点が散見された。
    ジャス経済特区には、塩ビ管を製造する地場企業が進出した例があった。この特区と言えば、空港隣接が売り物だ。しかし、当の企業に話を伺ったところ、必ずしも航空貨物保税サービスを必要としていたわけではなかった。それでもあえてここに進出した理由は「他の経済特区では事業用水の供給に不安が感じられた」からという。
    また、サンジャラ経済特区では、排水路や道路などの基本的な用地造成がなされていない。また、食肉加工工場のすぐ横に、リサイクル工場(オイル、タイヤ、アルミニウムなど)や自動車用バッテリー組み立て工場が立地する例も見られた。筆者が視察している最中にも、特区内に所在する工場の煙突から、黒煙がもうもうと排出されていた。サンジャラ市関係者に問いただしたところ、「経済特区全体としての環境規制、水質・土壌管理には取り組んでいない」とのことだった。

国内市場が必ずしも大きくないセネガルにとって、西アフリカ市場全体につながるECOWAS、UEMOAの枠組みの提供は本来、各経済特区に海外企業を誘致するうえで大きな魅力になるはずだ。また、インフラや環境対策で取り組みが進むと、進出意欲を高める。セネガル当局にはぜひともこのことを念頭に置いてもらい、制度設計や整備の行き届いた特区開発を期待したい。


注1:
ジャムニャジョ経済特区では、最終的の予想雇用創出数(短期雇用を含む)を1万5,000人にしている。
注2:
TLは、セネガル不動産開発大手テイリオム(Teyliom)グループの傘下にある企業。
注3:
サンジャラ国際ビジネスパークは、サンジャラ市立の公社。当該特区を開発・管理している。
注4:
法令上、特区が対象とする業種分野が規定されてはいる。しかし、各特区の機能や特性に沿った誘致目標が設定されているわけではない。
執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所長
水野 大輔(みずの だいすけ)
1993年、ジェトロ入構。仏語圏駐在歴は長く、1998年ジェトロ・ブリュッセル事務所、2013年ジェトロ・パリ事務所次長、2014年ジェトロ・ラバト事務所初代所長、2021年から現職。