ブラジルのスタートアップ・エコシステムを読む
その強みを捉え横展開も視野に

2023年11月30日

ジェトロは、世界30都市に「ジェトロ・グローバル・アクセラレーション・ハブ」を設置している。海外の有力アクセラレーターなどと提携して、日系のスタートアップ(SU)企業がグローバル展開するのを支援する仕組みだ。ブラジルのサンパウロ市内にも2019年から設置。中南米では唯一の存在だ。

この時宜を捉え、同市に所在する日本ブラジル商工会議所は同年、「イノベーション研究会」を立ち上げた。当国内のSU企業やエコシステムを調査・研究するためだ。さらに翌2020年には、イノベーション・中小企業委員会が発足した。目指すのは、進出日本企業による現地SU企業との連携。現地日系ビジネス界も、現地エコシステムとの交流を促進しているわけだ。

同時にジェトロは、ブラジル輸出投資振興局(Apex-Brasil)が推進するプログラム「Scale Up in Brazil外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」に参画。やはり、日本のSU企業のブラジル事業展開を支援するためだ。ちなみに、このプログラムはApex-Brasilとブラジル・プライベートエクイティ・ベンチャー・キャピタル協会(ABVCAP)、イスラエル貿易投資庁の3機関の発案で始まった。ブラジルの社会課題を解決するため、そうした技術を持つイスラエルのSU企業がブラジルでビジネス展開するのを支援してきたわけだ。2022年には、日本とシンガポールのSU企業に対象を拡大して募集を開始。日本からは、2022年に5社、2023年に3社のSU(注1)がプログラムに参加済みだ。

これからは新興国の時代と言われる。中でも、グローバルサウスへの関心が高まっている。本稿では、(1)日本のSUがブラジルのエコシステムを活用するメリットは何か、(2)日本企業がブラジルのSUを活用するメリットは何かを探った。その手法として、世界各国・各都市のエコシステムを評価する(1)スタートアップブリンク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、(2)スタートアップゲノム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、(3)WIPO(世界知的所有権機関)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの2023年報告書による数値データを活用。各都市・地域、各国におけるエコシステムの評価を比較・分析した。

サンパウロのランキングが上昇

ここで、サンパウロにおけるエコシステムの評価を確認しておく。

スタートアップブリンクによる2023年世界ランキングで17位、スタートアップゲノムによる同年の世界ランキングで26位になっている(表1-1参照)。スタートアップゲノムのランキングでは、2020年から上昇傾向にある。サンパウロで好成績の評価項目は、パフォーマンスと資金調達額だ(表1-2参照)。

表1-1:サンパウロ・エコシステムの世界ランキング
調査会社 2020年 2021年 2022年 2023年
スタートアップブリンク 18 20 16 17
スタートアップゲノム 30 31 28 26
表1-2:スタートアップゲノムによるサンパウロ・エコシステムの評価
項目 評価(1-10)
2020年 2021年 2022年 2023年
パフォーマンス(注1) 6 3 6 6
資金調達(注2) 1 4 3 6
マーケットリーチ(注3) 2 1 6 1
つながり(注4) 4 4 3 3
人材・経験(注5) 1 3 4 2
知識(注6) 1 1 1 1

注1:「パフォーマンス」は、次の3項目で評価。
1)イグジット(SU企業の第三者への株式売却やIPO:株式公開など):5,000万ドル超および10億ドル超の各イグジット数とイグジット数増加率。
2)エコシステム価値(エコシステムによる経済的影響尺度):過去2 年半のイグジット評価額とSU企業評価額の累計。
3)SUの成功:エコシステム内でSU成功数。初期段階での成功(初期段階シリーズA企業に対するシリーズB企業の比率)、後期段階での成功(シリーズA企業に対するシリーズC企業の比率)、IPOおよび他のイグジットに至るまでの期間。
注2:「資金調達」は、次の2項目。
1)アクセス:初期段階の資金調達額と成長率。
2)品質と活動:地元投資家数、投資家の平均投資年数と撤退率、同活動レベル(調査年で活動する投資家数に占める新規投資家数の比率)。
注3:「マーケットリーチ」は、次の3項目。
1)現地マーケットリーチ:当該国GDPと比較した現地市場規模。
2)グローバルリーディング企業の所在:(1)エコシステムでのスケールアップ企業とユニコーン企業の比率、(2) GDPに占める評価額10億ドル超企業の評価額の比率、(3) GDPに占める評価額10億ドル超のイグジット評価額の割合、(4) 資金調達額に対する大規模イグジット時評価額の比率(シリーズA資金調達額に対する5,000 万ドル超のイグジット評価額の比率)。
3)品質:有形知的財産の商業化を政策が奨励している程度。
注4:「つながり」は、次の2項目。
1)現地のつながり:エコシステム内のテック交流会数。
2)グローバルなつながり:現地オフィスを持つ国際的なSU企業数とエコシステムに投資している海外投資家数の比率。
注5:「人材・経験」は、科学技術人材と生命科学人材を対象に、それぞれ2項目、3項目で評価。
・科学技術人材
1)品質とアクセス:ギットハブ(GitHub)上のトップ開発者数と密度、英語力、イグジット実績。 経験豊富で大規模なチーム数。なお、ギットハブとは、世界中の人々がプログラムコードやデザインデータを保存・公開できるソースコード管理サービス。
2)コスト:ソフトウエアエンジニア給与の費用対効果の平均(この項目では、給与が高いほどスコアが低くなる)。
・生命科学人材
1)STEMアクセス:STEM(科学・技術・工学・数学の教育分野)の学生数および卒業生。
2)生命科学アクセス:生命科学に焦点を当てた大学数および学位プログラム数。
3)生命科学の質:地元大学での生命科学指導・研究の質。上海ランキングで測定される。
注6:「知識」は次の項目で評価
1)特許:エコシステム内で生成される特許量、種類、潜在的な特許数。
2)研究:Hインデックス(論文数と被引用数による科学者研究に対する相対的な貢献度)に基づく国レベルでの研究生産状況。
出所:スタートアップブリンク「グローバルSUエコシステムインデックス(2023年)」、スタートアップゲノム「グローバルSUエコシステム・レポート(2020~2023年)」

東京と比べて圧倒的な企業成長力

一方で、東京はスタートアップブリンクの世界ランキングで14位、スタートアップゲノムの世界ランキングで15位だ。サンパウロと大差ない(表2参照)。

スタートアップゲノムによると、東京が圧倒的に優れているのは「人材・経験」と「知識・研究」だ。10段階評価で、それぞれ上位から2番目の9、上位3番目の8評価になっている。これに対して、サンパウロはそれぞれ最下位から2番目の2と最下位1。ほぼ真逆だ。人材面でサンパウロが優位性を持つのは「コスト」。ソフトウエア技術者の年間給与が、東京の半分未満になっている

スタートアップゲノムによる知識・研究面の評価での圧倒的な差異は、WIPOの(1)「GIIトップ科学技術クラスター・ランキング」と、(2)「GII科学技術強度」でも開きがある。ちなみに(1)は、対象都市・地域に申請者が所在する公開特許出願数や科学論文掲載数で評価。東京(および横浜)が1位で、サンパウロは72位だ。これに対し、(2)は人口当たりの公開特許出願数や科学論文掲載数で評価する。東京(および横浜)18位、サンパウロ98位になる。

反対に、サンパウロが東京より優れている評価項目はパフォーマンス(SU企業のイグジット数、イグジット時評価額、エコシステム評価額)だ。パフォーマンスの全体評価は東京が4なのに対して、サンパウロの評価は6。その中身を見ると、サンパウロの優位性が際立つ分野がある。東京はイグジット(SU企業がIPO外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますや第三者への売却を通じて利益を達成すること)社数がサンパウロの3倍強ある。しかし、イグジット時評価累計額になると、サンパウロが東京の2倍弱に及ぶのだ。すなわちサンパウロの方が、企業価値が高くなるわけだ。2020年下半期~2022年のサンパウロのユニコーン企業数は15社と、東京の2.5倍。2020年下半期~2022年のエコシステム評価累計額も、サンパウロが1,136億ドルと東京の2倍弱。さらにその伸び率も、5.2倍になっている。

資金調達では、全体的に東京が優れている。サンパウロと対照的に、特にシーズ段階で有利になる。ただし、シリーズAになるとサンパウロが有利だ。SU企業による資金調達額中央値を比較すると、シーズ段階で東京がサンパウロの1.7倍に上った。対してシリーズA段階では、サンパウロが東京の2倍弱ほど多くなっている。

マーケットリーチの評価は、双方とも最低レベルの1になっている。相違点としては、東京は国内およびグローバルリーディング企業双方のマーケットリーチ評価が高い。サンパウロは、グローバルリーディング企業へのマーケットリーチの評価が高いのに対し、国内へのマーケットリーチが依然として課題になっている。2億人を超える広大な国内市場を抱えているからだ。

東京との相互補完的を生かした展開を支援

ここまで見てきたとおり、東京とサンパウロのエコシステムは各評価項目で対照的・補完的だ。

この結果は、日本のSUにとって何を意味するのか。まず、国内(東京)にいながら、相対的に優位な人材、知識・研究面でのエコシステム環境を活用できることになる。シーズ段階で、相対的に有利な資金調達を利用して事業化できるわけだ。一方でその後は、その技術力を相対的に高く評価してくれるブラジルに展開するシナリオを考えても良さそうだ。そこには、(1)2億人を超える巨大新興市場がある。事業化することで、(2)高いパフォーマンスとグローバルリーディング企業へのマーケットリーチ、(3)シリーズAで、相対的に有利な資金調達、(4)イグジットに至る企業価値の向上、などが期待できるかもしれない。ユニコーン企業に至る夢に近づく一方策になりうる(注2)。

冒頭で説明したApex-Brasilが推進するプログラム「Scale Up in Brazil外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」は、技術力が高い日本のSU企業を対象の1つにしている。まさにサンパウロ、東京両都市の対照的・補完的なエコシステムの評価結果に合致したプログラムと言えそうだ。

インドなどと強みに共通点

ここで、サンパウロのエコシステムのランキングを、ジェトロ・イノベーションハブ対象都市・地域で比較してみる。米国のシリコンバレー(サンフランシスコ)、ニューヨーク、イスラエルのテルアビブなどには遠く及ばない。やはり、世界の著名なエコシステム都市には差を付けられている。

しかし、グローバルサウスの中で比較すると、スタートアップゲノム総合ランキングにランクインしたのはサンパウロ、ベンガルール、ムンバイの3都市のみだ。サンパウロはベンガルールとムンバイの中間だ。ちなみに、ベンガルールはグローバルサウス最上位で、インドのシリコンバレーと呼ばれている。ムンバイは、インド最大の都市だ(表3参照)。

スタートアップゲノムによる項目別評価で、サンパウロ、ベンガルール、ムンバイは共通点が多い。例えば、この3都市はいずれも、パフォーマンス(SU企業のイグジット数、イグジット時評価額、エコシステム評価額)と資金調達面での評価が高い。

スタートアップゲノムによると、2020年下半期~2022年のサンパウロのユニコーン企業数は15社。この数は、ベンガルール34社の44%にとどまっている。また米調査会社CBインサイツによると、2023年10月時点でブラジルのユニコーン企業数は16社だった。インドは71社で、その4.4倍にも上る。しかし、米英株式市場へのテック企業上場企業数(米国預託証券:ADR、グローバル預託証券:GDRなどで取引実績のある企業数)をみると、ブラジル企業は11社。以下、インド7社、アラブ首長国連邦(UAE)とマレーシア各4社、ウルグアイ3社が続く(表4参照)。伝統的な企業を含めた上場企業数も、ブラジルが42社でグローバルサウス(注3)トップだ。次いでインド23社、アルゼンチン17社、メキシコ16社、マレーシア14社の順になる。

表4:グローバルサウスと中南米主要国・地域のユニコーン企業数と米英株式市場(ADR、GDRなど)の上場企業数(2023年10月時点)(単位:社)
地域 国名 ユニコーン企業 NYSE NASDAQ ADRなど合計 GDR(LSE) 合計 うちTEC企業
アジア インド 71 6 4 10 13 23 7
インドネシア 8 2 0 2 0 2 0
マレーシア 1 0 14 14 0 14 4
フィリピン 1 1 0 1 0 1 0
ベトナム 2 0 1 1 0 1 1
タイ 3 0 0 0 0 0 0
中東 UAE 3 1 4 5 0 5 4
カザフスタン 0 0 2 2 3 5 1
トルコ 3 2 1 3 1 4 2
パキスタン 0 0 0 0 3 3 0
カタール 0 0 0 0 1 1 0
オマーン 0 0 0 0 1 1 0
バーレーン 0 0 0 0 1 1 0
ヨルダン 0 0 1 1 0 1 0
アフリカ 南ア 2 8 1 9 0 9 2
エジプト 1 0 0 0 8 8 0
ナイジェリア 1 0 0 0 2 2 0
セネガル 1 0 0 0 0 0 0
中南米 ブラジル 16 30 12 42 0 42 11
アルゼンチン 1 13 2 15 2 17 2
メキシコ 8 11 5 16 0 16 0
チリ 2 7 0 7 0 7 0
コロンビア 3 6 1 7 0 7 0
ペルー 0 6 0 6 0 6 0
ウルグアイ 0 1 3 4 0 4 3
パナマ 0 2 0 2 0 2 0
コスタリカ 0 0 1 1 0 1 0
エクアドル 1 0 0 0 0 0 0

注1:ADR、GDRなどで取引されている企業が特定できたグローバルサウス対象国・地域。
ただし、グローバルサウスの定義は明確でない。そのため、本表では、SBIアセット「EXE-i グローバルサウス株式ファンド」対象国・地域を参考にした。中国、台湾、香港、シンガポールは対象外とした。
注2:ADRなどによるタックスヘイブン登記企業は、実際にビジネスを行っている法人所在地でカウント。ただし、タックスヘイブン登記企業ユニコーン企業は法人所在地が全ては特定できない。そのため、本表では対象外とした。
出所:CBインサイツ、ニューヨーク証券取引所(NYSE)、ナスダック(NASDAQ)、ロンドン証券取引所(LSE)

スタートアップゲノムの取りまとめによると、サンパウロのエコシステムは「フィンテック」「エドテック」「アグリテック、ニューフード」の各分野で強みがある(表3参照)。

  • フィンテック
    「フィンテック」に強み(上位3位内、以下同じ)があるという点では、インドと共通だ。なお、ここで強みを発揮する都市はグローバルサウス域内に意外と多い。当該地域では、銀行口座を持たない貧困層が相対的に多いためだろう。すなわち、金融包摂の強い需要があるのが理由と考えられる。
    実際、ブラジルからもヌーバンク(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(デジタル銀行)がニューヨーク証券取引所に、パーゴ・セグロ(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(デジタル決済)とストーン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(デジタル決済)がナスダックに、それぞれ上場済みだ。
  • エドテック
    ジェトロ・イノベーションハブ対象都市・地域の中で、この分野を強みにしている都市はサンパウロ以外に見当たらない。ブラジルは世界第5位の広大な国土を擁する。その反面として、地域や所得の格差に伴う教育レベル不均等が社会課題になっている。そうした背景から、「エドテック」の役割が大きいためと考えられる。
    ブラジルから、アフヤ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(医療教育サービス)、アルコプラットフォーム(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(教育プラットフォーム)、バスタプラットフォーム(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(教育プラットフォーム)の3社が既にナスダックに上場済みだ。他のグローバルサウスの国々ではエドテック分野で上場している事例は確認できなかった。
  • アグリテック、ニューフード
    表3に挙げたグローバルサウス都市でこの分野を強みにしているのはナイロビ(ケニア)、グローバルサウス以外ではシンガポールがある。
    なお、シンガポールでは、消費市場サイドのニーズを踏まえたニューフード関連企業が主流と考えられる。生産者サイドの社会課題を解決してきたアグリテック企業が強いのは、サンパウロとナイロビになろう。

以上の評価結果を踏まえると、サンパウロ・エコシステムは、グローバルサウスとして、インドと同様に高いパフォーマンスが期待できそうだ。特に途上国で貧困層を含めたボリュームゾーンへの食い込みに成功しているフィンテック、広大な国土に教育事業を浸透させるエドテック、世界的な農業大国のニーズを解決するアグリテックに強みがあることは、注目しておくべきだろう。

ブラジルはクリエーティブな課題解決力に強み、関連制度整備に課題

このように、大規模なブラジル市場がビジネス領域となるサンパウロのエコシステムは、グローバルサウスにあってベンガル―ルに次ぐ競争力を有している可能性がある。

一方でよりビジネス環境に重点を置き、世界知的所有権機関(WIPO)が取りまとめた「SUエコシステム国別ランキング」(2023年)では、ブラジルの総合ランキングは49位に過ぎない。グローバルサウスでも、アラブ首長国連邦(UAE、32位)、マレーシア(36位)、インド(40位)、タイ(43位)、サウジアラビア(48位)がブラジルより上位に来る(表5参照)。

表5:グローバルサウスおよび中南米域内に所在する主なSUエコシステムの国別ランキング(2023年)
国名 スタートアップブリンク WIPO
世界ランキング 総合ランク 制度 人的資本・研究 インフラ 市場の高度化 ビジネスの高度化 知識・技術の成果 クリエーティブな成果
インド 21 40 56 48 84 20 57 22 49
インドネシア 41 61 70 85 69 37 77 61 68
マレーシア 43 36 29 32 51 18 36 37 47
タイ 52 43 85 74 49 22 43 42 44
フィリピン 59 56 79 88 86 55 38 46 60
UAE 28 32 10 16 15 25 23 59 50
サウジアラビア 66 48 45 35 48 28 45 68 66
ケニア 62 100 84 118 107 108 84 81 95
ブラジル 27 49 99 56 58 50 39 52 46
チリ 36 52 49 58 52 47 55 58 59
メキシコ 37 58 111 63 65 57 79 57 45
コロンビア 40 66 78 81 60 73 40 62 80
アルゼンチン 47 73 123 70 66 92 54 79 51
ウルグアイ 55 63 31 83 57 86 59 66 78
ペルー 69 76 81 50 63 52 52 101 74
コスタリカ 72 74 48 79 62 90 63 70 89
エクアドル 81 104 109 98 78 103 90 102 99
パナマ 86 84 77 103 55 102 124 87 67

注:ジェトロ・イノベーションハブ対象措置・地域のうち、スタートアップブリンク「GSSトップカントリー(2023年)」に該当する国を比較したもの。グローバルサウス対象国は明確な定義がないため、中南米、アフリカ、中東、南アジア、東南アジアの地域の新興国としている。
出所:スタートアップブリンク「グローバルSUエコシステムインデックス」(2023年)、世界知的所有権機関(WIPO)「グローバル・イノベーション・インデックス(GII)」(2023年)

項目別の評価を比較すると、ブラジルが他のグローバルサウス諸国と比較して優れている点は、クリエーティブな成果でソリューション力が高いことだ。ビジネスの高度化も比較的評価が高い。反対に、エコシステム関連制度の評価が99位。他のグローバルサウス諸国と比較しても、極端に低い評価となっている。これこそが、WIPOによる総合ランキングの足を引っ張っているわけだ。

中南米他都市への横展開も選択肢

最後に、中南米でのブラジル・サンパウロのエコシステムの位置づけを見てみる。

中南米域内では、圧倒的にランキングが高いことがわかる。サンパウロは他の主要都市と比較して、「ユニコーン企業数」「SU企業のエクジット時評価額累計」「ユニコーン企業数」が桁違いに多い(表6参照)。世界知的所有権機関(WIPO)の「SUエコシステム国別ランキング」でも、総合的にブラジルが中南米トップだ。

しかし、ブラジル以外の中南米各国からユニコーン企業が誕生しているのも、事実だ(具体的には、メキシコから8社、コロンビア3社、チリ2社)。また、パフォーマンスの成長性を示す評価指標の1つ「エコシステム評価額の伸び」のほか、「シーズ段階での資金調達額中央値」「ソフトウエア技術者年間給与(2022年)」で、メキシコ、ブエノスアイレス、ボゴタがサンパウロより好条件になっている。また、「イグジットの平均年数」「シリーズA段階の資金調達額中央値」も、ボゴタとメキシコが上回った。

確かにこれら他都市では、サンパウロほど事業の成長性が期待できないかもしれない。しかし日本SUの展開という視点から捉えると、現地エコシステムが利用できるなら、使い勝手の良さや事業コスト面でサンパウロと違う利点を享受できそうだ。となると、日本のSUがブラジル(特にサンパウロ)で事業を進め横展開することで、利点を生かせる可能性が見えてくる。得意分野の重なりもある(注4)ので、なおさらだ。

さらに、経済規模がそれほど大きくない国にも見どころがある。というのも、例えば制度面の評価などで、ブラジルに弱点があるからだ。片やウルグアイ、コスタリカ、チリ、パナマなどは、この点でより条件が良い(表5参照)。こうした国々は一般的に、開放的な経済政策を採用し、ビジネス環境が良いと評価されている。特にウルグアイには、米国で上場するテック企業が3社も本社を置く(注5)。同国はフリーポート、フリーエアポート、フリーゾーンを完備し、外国企業誘致に熱心だ。小国では考えにくいほど誘致実績を上げていることでも、知られる。


注1:
2022年に参加した日本のSU企業は、次の5社。
  • Credit Engine外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    融資や債権回収領域のデジタル化サービスを提供。日本では、メガバンクをはじめとする大手金融機関への提供実績がある。近時は、東南アジアやラテンアメリカにサービスを展開。
  • AXELSPACE外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    宇宙ビジネスをリードしてきた小型衛星のパイオニア。小型衛星の開発・製造・打ち上げ・運用と、衛星画像の販売や衛星画像を使ったサービスを提供。
    小型衛星を9機、開発・製造し、打ち上げ後の運用まで進めた実績あり。
  • DEAMSTOCK(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    プラットフォームアプリ。ポテンシャルの高い選手とクラブチームユースとをマッチングする。ユースとプロを合わせ、世界有名リーグとの契約やマッチング・移籍の実績が既に200件以上ある。プロサッカー選手を目指す若者73万人以上のユーザーを擁する。
  • SAGRI外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    衛星データと人工知能(AI)技術で、食糧危機や気候変動の課題を解決する。新興国地域では、衛星データによる土壌解析による最適施肥を通じたカーボンファーミング事業を推進。
  • Melody International外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    ポータブルのスマート胎児モニター「iCGT」を開発。妊婦と胎児の健康状態をいつもでどこでもモニタリングできる。解析データをメールや専用アプリケーションで送信できるシステムも備える。これにより、遠隔で周産期管理が可能になる。医療機関と妊婦を迅速につなげ、医療現場をサポートしている。
2023年に参加した日本のスタート企業は、次の3社。
  • Cloud Ace外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    グーグルクラウド(GCP)の導入設計・運用・保守やコンサルティング。
  • Elephantech外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    プリンテッド・エレクトロニクス製造技術の開発、製造サービス提供
  • One Act外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
    世界初のAI搭載ソースコードマーケットプレイス「PieceX」を提供。
注2:
サンパウロのエコシステムには、大規模国内市場の存在や戦略的な立地という強みが指摘されている。一方で、国内市場へのマーケットアクセスに課題を残していることは、要注意だ(表3参照)
注3:
グローバルサウスの定義は、明確でない。このため、本報告の取りまとめにあたっては、SBIアセット「EXE-i グローバルサウス株式ファンド」対象国・地域外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに準拠した(中国、台湾、香港、シンガポールは、含まれていない)。
注4:
メキシコ、ブエノスアイレス、ボゴタ3都市すべてで、強みのあるセクターとして「フィンテック」が挙げられた。また、メキシコとブエノスアイレスでは、「アグリテック、ニューフード」も挙がった。
注5:
具体的には、(1)メルカドリブレ(ポルトガル語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(ECプラットフォフォーム)、(2)デローカル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、(3)サテロジック外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます((2)(3)とも、人工衛星システム・地理空間分析)。
なお、メルカドリブレはもともとアルゼンチン企業で、首都ブエノスアイレスに本社を構えていた。しかしグローバルに展開するに連れ、2021年から本社をウルグアイの首都モンデビデオに移転した。
執筆者紹介
ジェトロ調査部主幹
大久保 敦(おおくぼ あつし)
1987年、ジェトロ入構。ジェトロ・サンパウロ事務所調査担当、ジェトロ・サンティアゴ事務所長、ブラジル日本商工会議所理事、同副会頭、ジェトロ北海道地域統括センター長等を経て現職。