日本産コメの米国輸出は今がチャンス、福島県産コメの新規市場開拓
円安や米国産コメ不作により価格差が縮まる

2022年11月18日

米国市場で、市場拡大が見込まれる農産物の1つがコメだ。近年の日本食の普及や、2022年から急速に進行する円安、水不足によるカリフォルニア州産コメの不作(2022年6月7日付ビジネス短信参照)などの要因により、日本産コメの輸出には追い風が吹く。6月にニューヨーク市で行われた、米国東海岸で最大級の食品展示会「サマー・ファンシー・フード・ショー(SFFS)」の「ジャパンパビリオン」でも、コメは注目を集めた。加えて、福島県産のコメは2021年9月に米国側の輸入規制が完全撤廃となり、他の地域と同様に輸出が可能となった。福島県内の事業者からは、新たな市場開拓に期待の声が上がる。

本稿では、肥料など原材料費高騰の状況の中でも、円安や米国産コメの不作を追い風に、日本産コメの対米輸出を新規で目指す日系企業をケーススタディとして取り上げる。その後、輸入解禁を契機にSFFSで現地バイヤーにお披露目した福島県産コメの反応や市場展開の可能性について解説する。

外食大手が感じる、米国市場で高めるコメ輸出の機運

SFFSの会場で日本産コメのプロモーションを行ったのは、日本国内で「すき家」や「はま寿司」などを展開する大手外食チェーンのゼンショー米国子会社、Zensho USA だ。同社は主に、牛肉をはじめとする米国産食材の日本輸入を手掛けるが、2021年からは日本産コメの米国輸出にも取り組んでいる。日本産コメの米国輸出事業を担当するのは、同社調達・販売担当ダイレクターの井ノ上雄太郎氏だ。井ノ上氏は、日本国内でのコメの調達経験を生かして、福島県産コメの米国輸入が解禁された2021年に、日本産コメの米国市場開拓を開始した。今回、SFFSで米国の食品バイヤーに日本産コメを紹介した井ノ上氏は「日本産コメの引き合いは多かった」と話す。新規市場参入の取り組みと展示会でのバイヤーの反応について、井ノ上氏に話を聞いた(2022年8月10日)。

質問:
2021年からの米国市場への挑戦は、何から始めたのか。
答え:
米国の日本産コメの輸入解禁をきっかけに、輸出に挑戦することとなった。当社は、日本では生産者から玄米を直接仕入れて精米加工しており、コメの品質には自信があった。一方で、すでに米国に日本産コメを輸出している大手流通業者がいる中で、米国西海岸の大規模な都市に商流を構築することは難しいと判断した。そこで、米国西海岸のカリフォルニア州から少し内陸に離れているが、日本人駐在員が増加傾向にあるアリゾナ州やラスベガスのあるネバダ州に焦点を定め、地元の日系スーパーや日本庭園で販促イベントを開催した。例えば、日本人駐在員が暮らすアリゾナ州から、日本食が多数流通するカリフォルニア州ロサンゼルスまでは車で6時間程度を要する。そのため、アリゾナ州内で日本産コメが調達できるようになったことは日本人駐在員から好評であった。
質問:
SFFSでのプロモーションではどのような気づきを得られたか。
答え:
今後は、日本産コメの需要が増えると考えている。5年前(2017年)は、カリフォルニア産の最高級の短粒米と、日本から輸入した一般的な品質のコメの価格を比較すると、日本産コメがおよそ2倍高かった。ところが現在の米国では、水不足により、カリフォルニア産コメの収穫量が大幅に減少している。そのため、供給量が不足し、需給の関係でカリフォルニア産コメの価格が2倍近く上がっている。よって、米国の卸・小売業界には強い危機感が広がっているようだ。さらに、2022年から進行する円安の影響により、日本産コメが相対的に安くなったことで、価格差はほとんどなくなってきている。カリフォルニア産コメは、今後も数年間は収穫量の減少が見込まれることから、米国の卸・小売業界関係者の中には日本産コメの新規調達を積極的に検討しているところが多く、SFFSの会場でも日本産コメの価格や、輸出可能な数量について具体的な質問が多数寄せられた。
米国の寿司(すし)屋では、例えば1貫当たり数セントのコスト増で、カリフォルニア産コメから日本産コメに切り替えられるのであれば、よりプレミアム感を感じられるとして、日本産コメの導入を検討する寿司屋も増えている。また、日本食人気の高まりに合わせて、日本食を扱う飲食店が多く展開されている中で、日本産コメを使用している店舗はまだ少ないため、他店との差別化ポイントの1つとなり得ることも、日本産コメを売り込む際のアピールポイントとなるのではないかと考えている。
質問:
米国市場への日本産コメ輸出に関する課題は。
答え:
米国の一般消費者にコメの食味や香り、粘り気など、品質の差を認識してもらうことはハードルが高いが、販売の際には相手にコメの特徴や差別化ポイントについてしっかりと伝えることが大切だと感じている。日米のコメでは、炊き上げからしばらく経過した後の水分の保有量に大きく差が出ると思っている。(井ノ上氏)自身の感覚として、日本産コメは炊き上がり直後から時間が経っても、もちもちとした食感が続くが、カリフォルニア産コメの場合は数時間経つともちもちとした食感が極端になくなると感じる。また、米国の消費者からは、おにぎりとお寿司の違いや、炊くときに酢を入れる必要があるかという質問もこれまでに多数寄せられてきたため、調理方法や食べ方についても普及が必要であると考えている。さらに、米国の消費者にも「コシヒカリ」というブランドは浸透しているが、それが日本産コメの品種であるという認識までには至っていない。「日本のコメは品質が良い」というイメージ自体は定着しているので、今後のブランディングによっては売りになると感じた。
一方で、環境要因では、前述のとおり、カリフォルニア産コメの需給バランスや円安は追い風ではあるものの、依然として世界的なコンテナ不足と海上輸送費の高騰が足かせとなりかねない状況が続いている。2019年以前は、船の予約から1~2カ月で日本から米国西海岸に貨物が到着していたところ、現在では船舶の確保まで2~3カ月を要し、さらにそこから輸送するため、合計すると約4カ月もリードタイムが必要な状況にある。
質問:
将来的な展望について。
答え:
現在は、現地の日本人駐在員を主なターゲットに販売しているが、今後は日本好きな米国人や日本に住んでいたことがある米国人、アジア系、富裕層などにもターゲットを拡げ、日本産コメの味や良さを知ってもらい、販売拡大につなげていきたい。そのために、まずは、今回SFFSに参加したことにより良いリアクションをいただけた米国各地のバイヤーとの取引を実現させていきたい。米国での日本産コメの主な販売チャネルである小売りへの販売だけではなく、外食や業務用も開拓していきたい。外食や業務用の販売は、ゼンショーが日本国内で培ったノウハウを生かせる分野でもあり、ニーズへの柔軟な対応力にも自信がある。また、当社が日本国内で契約しているコメ農家との関係も良好なため、安定的な品質と量でコメを調達でき、さらに大手外食産業として卸先が複数あることも大きい。現在、ゼンショーが日本国内で提供している食材には、輸入している食材も多いが、長期的な展望としては輸入一辺倒ではなく、日本産食品も海外に同程度の量を輸出するなど、バランスをとっていきたいと考えている。

SFFS会場で日本産コメのプロモーションを行う井ノ上氏(左)(ジェトロ撮影)

輸入解禁を受け、福島県産コメの米国輸出に高まる期待

今回のSFFSでは、東京電力福島第一原子力発電所の事故発生に伴い施行されていた、福島県産のコメの米国側での輸入規制が、2021年9月22日に撤廃されたことを踏まえて、福島県産コメのプロモーションも行った。

福島県の農産物の中で、最も輸出量の多い品目がコメだ。福島県が発表した2021年度の農産物輸出実績PDFファイル(617KB)によると、輸出総量約432トンのうち、コメは約9割の398トンを占める。コメの輸出量は、東日本大震災後の2012年度にはゼロとなったが、近年は急増しており、2019年度は前年度比13.1%増、2020年度は同39.0%増、2021年度は同67.8%増であった(図参照)。日本産コメ(商業用米)の2021年の対米輸出量は、2017年比で3.3倍と順調に伸びていることからも、福島県の主要輸出産品であるコメが、大消費地である米国に輸出できるようになったことに、福島県内のコメ農家や全国農業協同組合連合会(JA)など事業者も、新たな販路として大きな期待を寄せている。

図:福島県農産物の輸出量の推移
米の数量は、2009年度35.3トン、2010年度108トン、2011年度17トン、2012年度0トン、2013年度0トン、2014年度0.3トン、2015年度13.5トン、2016年度22.3トン、2017年度123.5トン、2018年度150.8トン、2019年度170.5トン、2020年度237トン、2021年度397.8トン。2021年度の農産物の数量は431.6トン。

出所:福島県発表を基にジェトロ作成

福島県オリジナルブランド米「天のつぶ」のバイヤーからの評価は上々

SFFSで多くの米国バイヤーからの関心が寄せられたのが、福島県のオリジナルブランド米で、まだ米国市場に紹介されていない新しいブランド米の「天のつぶ」だ。天のつぶは福島県が15年かけて開発した品種で、粘り気が少なく、炊き上がりの米粒が大きく、硬めな食感が特徴。油や調味料とマッチするため、酢飯や丼もののほか、炒飯(チャーハン)やリゾットなどの調理に適し、また冷めてもおいしいため弁当にも合う。

筆者は、来場した米国の輸入業者や中食・外食、小売店などの市場関係来場者に、天のつぶの試食を提供して感想を聞いた。試食した来場者からは、「米粒が大きく食感がある」点が評価された。特にアジア系の来場者には、カリフォルニア産コメや、コシヒカリなどの既に米国内で流通している日本産コメと比較しても食味の違いは伝わりやすかったように感じた。非アジア系の来場者からは、「米粒が大きいことから、日本で食されるレシピのほかに、細かく切った野菜と冷ましたごはんを混ぜ合わせて作る『ライスサラダ』や、ごはんを牛乳や砂糖などと煮込む『ライスプディング』が(天のつぶと)合う」という具体的なレシピに落とし込んだコメントもあった。

来場者にサンプル配布した300グラムのキューブ状の天のつぶも好評だった。電子商取引(EC)関係の来場者などからは、「デザインがポップでかわいい」「ギフト需要がありそう」という好意的な反応があった。日本で一般的な2キログラムや5キログラムの袋のコメと比較して、コメを日常的に食べる習慣がない米国の消費者にとっては、1回で食べきれる量や、真空パッケージによる高い保存性が好評の理由だった。また、パッケージデザインも、コメの特徴や品質への理解が少ない米国の消費者に訴求するには重要だ。既に米国内で流通する数あるコメの中から消費者に選ばれるためには、カラフルでポップ、かつ日本産と分かるデザインがポイントとなる。今回の天のつぶのパッケージデザインについては、日本産の食材を扱うEC関係者のみならず、ライフスタイル雑貨などを扱う米国バイヤーからも、「茶わんや箸などと合わせてラッピングし、ギフトセットとして販売できそうだ」という声が上がった。

天のつぶの300gパッケージ(全国農業協同組合連合会(JA)福島県本部提供)

輸出拡大を目指す福島県内輸出事業者の取り組みと課題

独自に米国への福島県産コメの輸出に取り組む福島県内の事業者もいる。福島県の最南部に位置する矢祭(やまつり)町で農業法人を経営する「でんぱた」だ。でんぱたは2022年1月に、矢祭町で栽培するブランド米「矢祭米」を、全米で11店舗展開する日系スーパーのミツワへ販売することに成功した。矢祭米の輸出成功の秘訣(ひけつ)は入念な下準備だった。でんぱたが主体となって、2020年にグローバルGAP(注)を取得した。米国に先駆け、タイやフランスにも輸出実績がある。福島県内の複数の農協も独自に米国に輸出すべく、ジェトロの米国事務所にサンプルを展示した上で、オンライン商談を行う「サンプルショールーム事業」のーに参加するなどして、現地のバイヤーに売り込んでいる。

米国内の短粒米の不足や円安の状況から、日本産コメの輸出はチャンスだと捉えられる一方、輸送費の高騰やコンテナ不足、肥料などのコスト上昇など課題もある。コメの対米輸出を成功させるためには、これらコストを価格に転嫁しつつも、品質に見合う価格だということを海外の卸・小売り関係者に納得してもらい、商流を構築できるかが輸出拡大のポイントとなるだろう。


注:
食品安全、労働環境、環境保全を配慮した農業分野の国際認証。
執筆者紹介
ジェトロ福島
大野 真奈(おおの まな)
2017年、ジェトロ入構。ものづくり産業部を経て2019年7月から現職。

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