日本の技術、海外でSDGsに貢献(世界)
2022年7月8日
SDGs達成により創出されるICT市場は約173兆円
デジタル技術の発展は、社会の在り方を急速に変化させた。特に、新型コロナウイルスの感染拡大後、テレワークやキャッシュレス決済など、社会生活のさまざまな場面でデジタル化が急速に進んだ。デジタル化は、その直接・間接的な効果を通じ、SDGs(注1)につながる食料、医療・介護、教育、ジェンダー格差の解消など、様々な社会課題の解決に貢献することが期待されている。
2019年に総務省が発表した「デジタル変革時代の ICT グローバル戦略懇談会報告書(8.9MB)」では、デジタル化によるSDGsへの貢献イメージが記載されている。たとえば、IoT(モノのインターネット)を活用した農業運営の効率化と食糧不足の解消、AI(人工知能)を活用した職業マッチング、衛星やドローンを活用した防災の取り組みなど、デジタル技術が貢献できる分野は多岐にわたる。
このようなデジタル技術を活用したSDGs達成への取り組みは、世界中で新たなビジネス機会をもたらしている。同報告書によると、SDGs達成により新たに創出されるICT(情報通信技術)関連市場は、世界全体で約173兆円となると試算されている。その内訳は、食料と農業の分野で35兆円、都市で62兆円、エネルギーと材料で49兆円、健康と福祉で27兆円となり、新興国のみならず先進国も大きな市場となっている(図参照)。特に都市においては、高齢化の進展や人口集中、社会インフラの維持管理に対しては、自動運転やビッグデータを活用した企業の生産性向上など、デジタル技術が解決策を見いだせる項目が多く、市場規模も大きなものになっている。
日本のSDGs達成は道半ば
日本国内におけるSDGsの取り組みは、まだまだ不十分だ。国連の研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」は2022年6月、持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標に対する達成度合い(注2)について、「持続可能な開発レポート2022 」を発表した。日本は163カ国・地域のうち19位と、2020年から3年連続で順位を落としている(表参照)(2022年6月6日付ビジネス短信参照)。
順位 | 国・地域名 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|
1 | フィンランド | 3 | ↑1 | 1 |
2 | デンマーク | ↓2 | ↓3 | ↑2 |
3 | スウェーデン | ↑1 | ↓2 | ↓3 |
4 | ノルウェー | ↑6 | ↓7 | ↑4 |
5 | オーストリア | ↓7 | ↑6 | ↑5 |
6 | ドイツ | ↑5 | ↑4 | ↓6 |
7 | フランス | 4 | ↓8 | ↑7 |
8 | スイス | ↑15 | ↓16 | ↑8 |
9 | アイルランド | ↑14 | ↑13 | ↑9 |
10 | エストニア | 10 | 10 | 10 |
11 | 英国 | 13 | ↓17 | ↑11 |
12 | ポーランド | ↑23 | ↑15 | ↑12 |
13 | チェコ | ↓8 | ↓12 | ↓13 |
14 | ラトビア | 24 | ↑22 | ↑14 |
15 | スロベニア | 12 | ↑9 | ↓15 |
16 | スペイン | ↓22 | ↑20 | ↑16 |
17 | オランダ | 9 | ↓11 | ↓17 |
18 | ベルギー | ↑11 | ↑5 | ↓18 |
19 | 日本 | ↓17 | ↓18 | ↓19 |
20 | ポルトガル | ↑25 | ↓27 | ↑20 |
注:↓は前年から順位が低下したセル。↑は上昇したセル。
出所:SDSNから作成
日本でSDGsの認知度は高まってきているものの、2030年までの目標達成の道のりは遠い。SDGs推進本部は2021年12月に「SDGsアクションプラン2022(4.8MB)」を発表している。同プランでは、取り組むべき優先課題として以下の8つの項目を取り上げた。
- あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
- 健康・長寿の達成
- 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
- 持続可能で強靱(きょうじん)な国土と質の高いインフラの整備
- 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
- 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
- 平和と安全・安心社会の実現
- SDGs 実施推進の体制と手段
デジタル技術を活用した具体策としては、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を含めた、イノベーション力の強化やデジタル田園都市国家構想による高齢化・過疎化への対応などが盛り込まれ、デジタル基盤の上での様々なサービスを実装していくとした。今後、政府、企業、個人などの様々なレベルにおいて、SDGs達成に向けた更なるアクションが求められる。
海外でSDGs達成実現に取り組む日本企業
一方、日本企業の中には、自社の技術を用いて海外でもSDGsの目標を実現する動きがある。海外の企業や団体と協業し、SDGsに取り組む日本企業の事例について紹介する。
欧米では、日本企業がデジタルを活用した自社技術の応用により、「(目標9)産業と技術革新の基盤をつくろう」「(目標11)住み続けられるまちづくりを」などを目指す取り組みが見られる。米国カリフォルニア州では2011年から2017年にかけて干ばつが発生したことにより、都市への持続可能な水源維持が課題となっていた。横河電機 は、設備の運転最適化や水質管理の応用技術を提案し、再生水の引用処理の効率化を行う実証実験を開始した。実証事業の結果、タピア水再生施設の水処理プロセスの最適化により、水質基準を満たしながらも消費電力の10%以上の削減達成に成功した。
また、inaho株式会社 は、オランダ・ウェストランドにあるトマトワールドとパートナー契約を締結し、トマトの自動収穫ロボットの稼働を開始した。AIを活用して、熟した果物を色と大きさで識別し収穫する。農業用ロボットのレンタルサービスでは、収穫された商品に応じた支払いが可能。夜間にロボットが収穫することで、約16%の人の労働時間の削減を実証した。
アフリカでは、貧困層への新たなビジネスモデルの導入や、インフラを整備するデジタル技術を導入する事例が目立つ。セネガルの未電化村落診療所では、早朝と夜間の明かりがないため、暗闇での治療がままならない状況が続いていた。シュークルキューブジャポン は、施工が必要なく、誰でも簡単に電気と通信が使えるツミキスマートキットをセネガル国内10カ所の診療所へ試験導入した。同社は、現地法人TUMIQUI Japon SASUを通じて電力・通信供給を行っている。診療所では電力確保が可能になっただけでなく、データ通信が可能となったことで、診療データが電子化され、医療環境が大幅に改善された。
そのほか、ハッキアフリカ は、ケニアにおいて金融にアクセスできないタクシードライバーに、独自の信用スコアパスポートを利用したマイクロファイナンスを提供している。ほとんどのタクシードライバーが銀行口座を持っていないため、信用証明ができず、銀行からタクシー用の自動車を購入する融資を受けることができない状況にあった。同社は、タクシーサービスの評価やサービス履歴、ドライブレコーダーから信用情報を点数化し、高評価ドライバーに対して金融機関で融資を受けられるようサポートしている。そのほか、返済の自動記帳や、自動返済のリマインド機能などを使用し、これまで人的コストをかけてきた部分を自動化し、低金利での融資を実現している。
ASEAN・インド地域では、デジタル化による新たな医療技術の提供を現地企業と共同で行っている事例がみられる。インスタリム は、AIと義肢装具製作専用の3D-CADソフト、3Dプリンターを組み合わせて、自動設計による義肢装具のカスタム量産ソリューションを開発し、低価格で高品質な義肢装具を提供している。フィリピンでは、主に栄養状態の悪さが原因となる糖尿病性壊疽(えそ)による疾患を中心に、180万人が義足を必要としているが、実際に義足にアクセスできるのは5万人程度とされている。インスタリムは、フィリピン大学総合病院との共同研究で、患者50人による実証試験を行った。その後、現地法人を通じた世界初の3Dプリント膝下義足事業を開始している。
また、リッスンフィールド は、東京大学と共同で、持続可能な作物生産のための農業支援プラットフォームを開発した。同社は、インド工科大学ハイデラバード校、ジャヤシャンカールテランガナ州立農業大学などと提携し、気候変化のもとで安定的な作物生産を行うための研究が行われている。同プラットフォームは、ゲノム選択やゲノム関連研究などのデータ解析技術を合理化し、植物の繁殖プロセスを加速させる。限られた土地と資源を最大限に活用し、汚染物質が少なく栄養価の高い作物を栽培する農業システムの開発に取り組んでいる。
SDGsの目標は全17項目と多岐にわたり、地域・国によって課題は異なる。日本企業にとって、国内だけでなく海外でのSDGsに取り組むことで、今後のビジネスの幅が広がることが期待される。
- 注1:
- 持続可能な開発目標(SDGs)は2015年に国連で採択され、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す17の国際目標を掲げている。
- 注2:
- 「持続可能な開発レポート2022」に掲載されている「2022年のSDG指数総合点(SDG Index ranking and scores)」上の順位。SDGsの17目標に関する各国の総合的なパフォーマンスについて、最高のアウトカムを100%とした場合に何%まで達成できているかを数値化し、順位付けしたもの。
- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ) - 2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。