ロシアのウクライナ侵攻で、経済に大打撃(オーストリア)

2022年3月11日

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関し、オーストリア政府はEUの制裁を全面的に支持する。一方で、オーストリアはロシア、ウクライナ両国とも強い経済関係があるのも事実だ。そのため、制裁による国内経済への影響に対する支援措置をEUに求めている。オーストリアは、ロシアの天然ガスへの依存度が高く、供給の減少・停止の場合、家庭や企業にも悪影響が懸念される。また、既に在ウクライナのオーストリア企業の工場のほとんどが操業を停止。駐在員を呼び戻している状況だ。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けて、カール・ネハンマー首相は2月24日、ロシアの攻撃を非難。あわせて、オーストリアは永世中立国として軍事的中立を堅持しているにもかかわらず、ウクライナとの連帯を表明した。ネハンマー首相は同日、議会で「戦争がヨーロッパに戻った。私たちはみんな、こういう事にならないように望んでいた。しかし、今は対応せざるを得ない」と述べ、EUとともにあらゆる制裁を実施する姿勢を示した。また、首相は同日にウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領と電話会談し、支援を伝えて人道的援助するとした。

2月20日には、首相府と外務省、内務省、防衛省、環境・エネルギー省(注1)の閣僚で、内閣危機管理タスクフォースを設立した。24日に会合を開催。現状への対応を急いだ。その上で、オーストリアはウクライナからの避難民受け入れの準備を進めている。首相は同会合で「ウクライナとの国境は、首都ウィーンから500キロしか離れていない。オーストリアの一番西の州より近いのだ。オーストリアにとって、隣国への支援は昔から当たり前だった。例えば旧ユーゴスラビア内戦やチェコへのソ連侵攻のときも対応した」と強調した。

また、制裁に関して「オーストリアはEUの対応を全面的に支持する。もっとも、両国と経済関係の強いオーストリアにとって、EUの経済制裁はオーストリアにも大きな影響を及ぼす。そのため、EUと制裁に伴う損失に対する支援措置の交渉を行っている」と述べた。

ロシアからの天然ガス供給停止などに、大きな懸念

オーストリアの貿易相手国として、ロシア(輸出16位、輸入13位)とウクライナ(輸出34位、輸入24位)のシェアはそれほど大きくない。しかし、ロシアは天然ガス、ウクライナは鉄鉱石の主要供給国だ(表参照)。

表:オーストリアとロシア、ウクライナとの経済関係
項目 ロシア ウクライナ
輸出額(2020年) 21億1,900万ユーロ(16位) 5億2,940万ユーロ(34位)
主要品目(輸出) 機械・輸送機器(40.2%)
化学品(28.5%)
原料別製品(12.7%)
食料品(7.2%)
機械・輸送機器(29.1%)
化学品(28.8%)
原料別製品(20.3%)
食料品(8.7%)
輸入額(2020年) 21億7,000万ユーロ)(13位) 8億2,960万ユーロ(24位)
主要品目(輸入) 燃料・エネルギー(石油、天然ガス)(80.3%)
原料別製品(7.8%)
原料(7.7%)
原料(主に鉄鉱石)(60.6%)
雑製品(11.9%)
原料別製品(11.8%)
機械・輸送機器(7.4%)
対外直接投資残高(2020年) 46億4,300万ユーロ 17億7,000万ユーロ
対内直接投資残高(2020年) 213億400万ユーロ 3,000万ユーロ
現地進出オーストリア企業数 約650社 約200社
主なオーストリア企業(製造業) バウミット(建設材)
ウィーナベルガー(建設材)
OMV(エネルギー)
ストラバッグ(建設)
ローゼンバウアー(消防車両)
プファンナー(濃縮果汁)
アグラーナ(果物、濃縮果汁)
マイヤーメルンホーフ(包装材)
ヘッド(スポーツ用品)
バウミット(建設材)
主なオーストリア企業(金融業) ライファイゼンバンク ライファイゼンバンク
VIG(保険)
グラベ(保険)
ユニカ(保険)

出所:オーストリア連邦産業院、オーストリア統計局データ、各企業ホームページからジェトロ作成

特に、天然ガスのロシア輸入依存の問題が重大だ。供給に占める構成比が80%に及ぶ。首相は「4月までの一般家庭への供給は確保されている。中期的にロシアへの依存度をどのように減らせるかを、考えるべきだ」と述べている。一方、今回のウクライナ危機によって、エネルギー価格が既に上昇。1月の消費者物価上昇率は5%と、1984年以降で最高値になった。オーストリア経済研究所(WIFO)のガブリエル・フェルバマイヤー所長は「ロシアのガス供給が完全に止まった場合、オーストリアだけでなく、EUが不況に陥る」と述べた。オーストリアのエネルギー大手OMV は、ノルドストリーム2に7億2,900万ユーロを投資済みだ。このパイプラインが稼働しないと、その投資が無駄になる。もっとも、OMVにとって耐えられないほどの損失ではないとみられている。しかし、2月22日にOMV の株価は2%下落。そのため、現在、OMVはロシア戦略を見直しているという。複数の当地メディアは、OMVによる西シベリアにある世界で2番目に大きいウレンゴイガス田への投資が中止されると予測している。

オーストリア連邦産業院(WKO)によると、オーストリアの対ロシア直接投資は2020年に前年比34.9%減の46億ユーロだった。現在、約650社のオーストリア企業がロシアに進出済みだ。

中でも、ロシアとウクライナで事業を展開しているのが、ライファイゼンバンク・インターナショナル(RBI、銀行業)だ。その株価は、2月23日から28日までの間に約3分の1下落した。RBIのウクライナ子会社ライファイゼンバンク・アバルは、従業員6,600人、総資産合計30億8,300万ユーロ、貸出高20億ユーロ、393支店を有する。ウクライナで上位10行以内に入る規模だ。ロシアでも、従業員8,700人、総資産合計158億3,800万ユーロ、貸出高110億ユーロ、132支店。国内ランキング10位だ。

ウクライナ国立銀行によると、オーストリアの2020年の対ウクライナ直接投資残高は17億7,000万ユーロ。キプロス、オランダ、スイス、ドイツ、英国に続いて第6位の投資国とされる。業種としては製造業や金融(注2)、流通販売店などが中心で、約200社が進出済みという。

ウクライナから全駐在員召還を余儀なくされる企業も

では、ウクライナに拠点を有する企業には、どう影響しているのか。

プファンナー(フルーツジュース製造)とマイヤーメルンホーフ(紙パルプ製造)は2月24日、それぞれ生産を停止した。プファンナーは、20年前からウクライナで活動してきた。首都キエフの西南250キロのバール市でリンゴと穀物を栽培。従業員200人で、濃縮果汁に加工する事業に携わってきた。マイヤーメルンホーフは、キエフの南200キロに立地。従業員200人で、ウクライナ市場に向け包装材を生産していた。

また、ウクライナ駐在員を全てオーストリアに呼び戻す例も見られる。アンドリッツ(産業機器製造)、ポルシェ・ホールディング(フォルクスワーゲン車の輸入)、パルフィンガー(クレーン製造)などがその例だ。オーストリア連邦産業院(WKO) も、ウクライナで活動するオーストリア企業に対し、駐在員をウクライナ西部またはオーストリアへ移動させることを推奨している。


注1:
環境・エネルギー省の正式名称は「気候行動・環境・エネルギー・交通・イノベーション・技術省」。
注2:
製造業の細分としては、紙・パルプ、建設材、スポーツ用品など。また金融業としては、既述のRBIのほか、保険会社のユニカ、グラベ、ウィーン・インシュアランス・グループ(VIG)などがある。
執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
エッカート・デアシュミット
ウィーン大学日本学科卒業、1994年11月からジェトロ・ウィーン事務所で調査(オーストリア、スロバキア、スロベニアなど)を担当。