2021年下期以降、一転して自動車市場回復(マレーシア)
上期までは、操業制限などの影響も色濃く

2022年9月20日

2021年のマレーシアの自動車市場は前年に続き、新型コロナウイルス感染に振り回された。特に上半期の感染再拡大により、前年にいったん解除された移動制限令が再び強化されたのが大きい。それで、多くのメーカーが生産停止に追い込まれた。

下半期以降は一転、売上税の減免措置延長を追い風に、販売・生産ともに回復基調が顕著になった。経済回復や新モデルの導入を背景に、2022年通年の新車販売台数は63万台まで伸びると予測されている。他方、半導体不足や原材料価格の高騰が販売を下押しする懸念もある。

2021年後半から自動車市場回復

マレーシアの2021年の新車販売台数は、50万8,911台(前年比3.9%減/以下でも、とくに断りのない限り括弧内は前年比増減)。2年連続で減少した。乗用車が45万2,663台(5.9%減)、商用車が5万6,248台(15.9%増)だった。2021年を振り返ると、政府の移動制限令が自動車メーカーの操業状況を大きく左右。月別の販売台数も乱高下した年だった(図1参照)。

移動制限令は、新型コロナウイルス感染拡大予防を目的に政府が導入した。この措置には、行動制限や操業制限を伴う。感染状況に応じて制限内容の強化と緩和を繰り返しながら、2021年8月まで継続した(2021年8月27日付地域・分析レポート参照)。特に同年6月以降に厳格化した操業制限では、自動車関連メーカーは10%の出勤率による「暖機運転モード」(機械・設備の維持のため操業)の稼働だけしか認められなかった。すなわち、実質的に生産が不可能だった。感染状況が深刻だったセランゴール州とクアラルンプールでは7月上旬、最も厳しい行動制限を伴う「強化された移動制限令」が導入された。完成車・部品メーカーとも、不安定な操業を余儀なくされた。

この措置は、消費行動にも影響を与えたと考えられる。新車販売台数を月別にみると、操業停止措置のあった6月から8月にかけて激減していた(図1参照)。

図1:月別新車販売台数(2020年1月~2022年6月)
新型コロナウイルス感染症への対策である操業制限の影響を受け、2021年6~8月に掛けて落ち込んでいた販売台数は、同年9月から回復し、2022年に入ってからは概ね過去2年の同月を上回る実績を記録。

出所:マレーシア自動車連盟(MAA)

その後、8月中旬には、ワクチン接種率に応じた操業再開が認められた(2021年8月17日付ビジネス短信参照)。このように、移動制限が徐々に解除されていった。さらに、12月末まで乗用車の売上税減免措置が延長された。こうしたことを背景に、販売は増加に転じた。政府は2022年度国家予算で、景気刺激策として、乗用車への売上税減免措置(注1)をさらに2022年6月末まで延長(2021年11月5日付ビジネス短信参照)。この措置が2021年下半期の販売台数回復に奏功し、年間50万台というMAAの目標販売台数(2021年7月発表)の達成に至った。

メーカーにより明暗分かれる

2021年の新車販売台数をメーカー別にみると、国民車メーカー2社(プロトン、プロドゥア)が約6割を占めた(注2)。

  • プロドゥアの販売台数は19万291台(13.6%減)に減少した。それでも、前年に続き最大のシェア(構成比37.4%)を占めた(表1参照)。小型ハッチバック車「マイヴィ」は、後述のとおりロックダウン中に生産が停滞した。それでも、通年の販売台数は年間4万7,525台。小型車として底堅い販売を続けた。
  • プロトンも2.9%増の11万1,695台へと微増。シェアも、第2位(構成比21.9%)を維持した。2016年9月に発売した小型セダン「サガ」が好調で、2021年は4万2,627台を売り上げた。

外資系メーカー(日系を含む)の販売台数をみると、トヨタが7万2,394台(22.0%増)だった。市場シェアを前年の11.2%から14.2%に伸ばした。ホンダを抜いて第3位に浮上したかたちだ。スポーツ用多目的車(SUV)「カローラ・クロス」の好調が背景にあると報じられている。三菱自動車も1万8,957台(75.5%増)。順位も、7位から5位に躍進した。2020年11月に販売したクロスオーバー多目的車「エクスパンダー」などが好調だった。他方、ホンダは5万3,031台(12.3%減)。日産(13.2%減)とマツダ(12.2%減)も2桁減になった。

表1:マレーシアの新車販売台数の内訳(△はマイナス値)
項目 2020年 2021年 2022年
通年
(台)
シェア
(%)
通年
(台)
シェア
(%)
前年比
(%)
上半期
(台)
シェア
(%)
前年
同期比
(%)
乗用車 480,971 90.8 452,663 88.9 △ 5.9 293,540 88.6 31.2
商用車 48,543 9.2 56,248 11.1 15.9 37,846 11.4 49.2
国民車(乗用車+商用車) 328,687 62.1 301,986 59.3 △ 8.1 184,745 55.7 20.2
階層レベル2の項目プロトン 108,524 20.5 111,695 21.9 2.9 57,402 17.3 1.9
階層レベル2の項目プロドゥア 220,163 41.6 190,291 37.4 △ 13.6 127,343 38.4 30.9
国民車以外(乗用車+商用車) 200,827 37.9 206,925 40.7 3.0 146,641 44.3 53.5
階層レベル2の項目ホンダ 60,468 11.4 53,031 10.4 △ 12.3 39,673 12.0 58.7
階層レベル2の項目トヨタ 59,320 11.2 72,394 14.2 22.0 45,910 13.9 34.6
新車販売台数合計 529,514 100.0 508,911 100.0 △ 3.9 331,386 100.0 33.0

注1:プロトン、プロドゥア、ホンダは、乗用車に限る。トヨタは、乗用車と商用車の合算(レクサスを含む)。
注2:シェアを計算する上での分母は新車販売台数合計。
出所:マレーシア自動車連盟(MAA)

一方で、2021年の生産台数は、48万1,651台(前年比0.7%減)だった。全体の9割強を占める乗用車が、44万6,431台(2.5%減)。一方、商用車は3万5,220台(28.4%増)だった。

月別では、販売台数と同様、6月から8月にかけて操業停止の影響で激減。回復したのは、9月以降になる(図2参照)。ただし、12月にはマレー半島で発生した大規模水害の影響を受け、自動車メーカーの操業にも影響が出た。例えば、プロドゥアは、セランゴール州にある2工場の稼働を一時停止した。日系でも、従業員の安全への配慮から、トヨタが稼働を一時停止した。ホンダでも、サプライヤーからの部品供給が滞った。

図2:月別新車生産台数(2020年1月~2022年6月)
 新車販売台数と同様に、2021年9月から復調が顕著。2022年に入ってからは概ね過去2年の同月を上回る実績を記録。

出所:マレーシア自動車連盟(MAA)

生産台数をメーカー別にみると、プロトンが10万7,544台(1.0%減)、プロドゥアが19万3.389台(12.5%減)と、それぞれ減少。特にプロドゥアは操業停止の影響をより強く受けた。「マイヴィ」など主力車種の生産に遅れが出たことや、半導体不足が重石になったと、同社経営陣は分析している。一方、国民車以外の生産台数の増加率は、通年で2桁増を維持した。

表2:マレーシアの自動車生産台数の内訳(△はマイナス値)
項目 2020年 2021年 2022年
通年
(台)
シェア
(%)
通年
(台)
シェア
(%)
前年比
(%)
上半期
(台)
シェア
(%)
前年
同期比
(%)
乗用車 457,755 94.3 446,431 92.7 △ 2.5 294,122 92.5 31.4
商用車 27,431 5.7 35,220 7.3 28.4 23,811 7.5 35.9
国民車(乗用車+商用車) 329,546 67.9 300,933 62.5 △ 8.7 187,340 58.9 21.5
階層レベル2の項目プロトン 108,578 22.4 107,544 22.3 △ 1.0 57,468 18.1 3.9
階層レベル2の項目プロドゥア 220,968 45.5 193,389 40.2 △ 12.5 129,872 40.8 31.3
国民車以外(乗用車+商用車) 155,640 32.1 180,718 37.5 16.1 130,593 41.1 50.0
階層レベル2の項目ホンダ 46,675 9.6 53,913 11.2 15.5 39,727 12.5 40.2
階層レベル2の項目トヨタ 50,938 10.5 58,325 12.1 14.5 43,643 13.7 53.7
新車生産台数合計 485,186 100.0 481,651 100.0 △ 0.7 317,933 100.0 31.8

注1:プロトン、プロドゥア、ホンダは、乗用車に限る。トヨタは、乗用車と商用車の合算。
注2:シェアを計算する上での分母は、生産台数合計。
出所:マレーシア自動車連盟(MAA)

売上税減免終了に伴う駆け込み需要などで、直近の販売好調

2022年に入ると、力強い回復を見せる。当年上半期の販売台数は、33万1,386台(前年同期比33.0%増)だった。

月別では、1月から3月にかけて前年同月比を上回った。4月には、半導体不足を背景に前年同期を一時割り込んだ。しかし、6月に再度V字回復。6月に台数が膨らんだのは、自動車販売税の減免措置が同月に終了したことに伴う駆け込み需要が影響した(2022年6月22日付ビジネス短信参照、注3)。

2022年上半期の販売台数をメーカー別にみると、プロドゥアが12万7,343台(前年同期比30.9%増)と好調だった。とりわけ6月は、2万1,164台(前月比12.0%増)と伸びが大きかった。これは、(1)前年からの反動増、(2)小型ハッチバック車「マイヴィ」の好調、(3)売上税の減免措置終了による駆け込み需要、などが影響した結果と考えられる。さらに、措置最終日の6月30日、マレーシア全土で2万5,100台分の予約が入ったことも注目される。これは、1日当たりとして過去最多の予約台数だった。

プロトンの販売台数は、5万7,402台(前年同期比1.9%増)と微増にとどまった。年初は主に半導体不足により不調だった。しかし6月には、販売台数は1万4,151台(前月比52.5%増)を記録。その理由として、プロトンも(1)売上税の減免措置終了に伴う駆け込み需要や、(2)部品不足が徐々に解消されつつあること、を挙げた。6月は、特に小型SUV「X50」の販売が好調だった。2020年10月の発売以来、単月ベースとして最多を売り上げたという。同社は今後、パキスタンや南アフリカ共和国などへの輸出拡大にも意欲を見せている。

日系メーカーでは、トヨタが前年同期比34.6%増、ホンダ58.7%増、三菱自動車63.0%増だった。いずれも、2桁増を記録したかたちだ。特にホンダは2021年末以降、新モデルを相次ぎ投入してきた。同社は、2022年の販売目標として「8万台」を設定した。これは、前年を5割以上上回る水準に当たる。

マレーシア自動車連盟(MAA)は、2022年に新車販売台数が63万台(23.8%増)に回復すると見込んでいる。当年1月時点では60万台の予測。上方修正になった。(1)景気回復が堅調なことに加え、(2)売上税減免の猶予期間の設定、(3)新モデルの導入、などが追い風となるという。地場大手証券系の調査会社ケナンガ・リサーチも、「需要が供給を上回り、大量の受注残が積み上がっている。これらを背景に、減免措置終了後も新車販売が落ち込むことなく、当面堅調に推移し続ける」とみている。

半導体不足など不透明感も残る

しかし、今後の自動車販売を見通す上では、複数の懸念材料もある。

まず、2022年4~5月の数字にも影響を及ぼした世界的な半導体不足は、2022年下半期の自動車生産・販売にも波及するとの見方がある。半導体不足に関して、MAAは「原油価格や食料価格の上昇による新車への需要減退とともに、今後の生産台数を下押しする懸念材料」と言及した。

また、マレーシアの地場格付け機関RAMレーティングスや地場証券会社JFアペックスは、(1)新車価格の上昇、(2)通貨リンギ安、(3)自動車保有率の高まり、(4)政策金利引き上げによる景気減速、(5)生産や消費に関するコスト上昇、などを挙げて、下振れリスクを指摘した。特に(5)に関連して、原材料や物流のコストが上昇すると、自動車価格引き上げにもつながる。維持費の上昇や、納車までの待機期間の長期化は、消費者の新車に対する需要を減退させ、中古車志向を高める可能性もある。

自動車販売は、2022年上半期に堅調な回復を見せた。しかし、2023年以降の動きについては、不透明感も残るのが実情だ。


注1:
この措置は、乗用車を対象にする。(1)部品を輸入して現地で組み立てる完全ノックダウン車については100%、(2)輸入車については50%の売上税を免除する。開始は2020年6月。以後、2022年6月の措置終了まで3回にわたり延長した。
注2:
当地で、プロドゥアは「第2国民車」として、プロトンは「第1国民車」として知られる。国民車とは、主に国が関与して自国内で生産する車を指す。マレーシアにおいては、上記両車を総称して「国民車」(国産車)と呼ぶ。
注3:
半導体不足によるサプライチェーンの混乱や原材料費の高騰の影響で、この時点で新車の納入に遅れが生じていた。そうしたことなどから、自動車販売税減免措置のさらなる延長を求める声も聞かれた。しかし、財務省は税収減の懸念もあって予定どおり終了を決定した。 なお、6月末までに購入予約を完了した車両は、2023年3月31日までに道路交通局(JPJ)に車両登録を行うと減免措置の対象となる。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
吾郷 伊都子(あごう いつこ)
2006年、ジェトロ入構。経済分析部、海外調査部、公益社団法人日本経済研究センター出向、海外調査部国際経済課を経て、2021年9月から現職。共著『メイド・イン・チャイナへの欧米流対抗策』(ジェトロ)、共著『FTAガイドブック2014』(ジェトロ)、編著『FTAの基礎と実践-賢く活用するための手引き-』(白水社)など。