日本食材にEC調達の道(インド)
アーメダバード地域の生活実態(3)

2022年9月7日

日本で便利な生活雑貨に囲まれていた日本人駐在員にとって、当地で高品質な生活雑貨や、ちょっとした小物を探し出すのは非常に手間がかかる。そのため、アマゾン(Amazon)が重宝される。 また、グジャラート(GJ)州は「菜食主義」文化が色濃い。結果、肉・魚などのノンベジ食材を調達するルートも限定的だ。しかし近年になって、日本人が運営するEC(電子商取引)サイトが開設。当地駐在員の食生活に光が見えてきた。

8.アマゾンなどECサイトは、駐在員にとって魅力的

調理器具や生活雑貨に関しては、アマゾンを活用して調達している駐在員も多い。他の大都市圏に比べアーメダバードは、街中のモールなどで購入できる商品のバラエティーもまだまだ限定的だ。対してアマゾンは、オンライン上で多様な商品をそろえ、場合によっては他州の倉庫からストックを配達してもらうこともできる。こうしてみると、非常に魅力的な存在だ。

ただ、そんなアマゾンでも、輸送や受け取りで問題が発生することがある。アマゾンの配送ルールを地域の配送業者が守らないことが、問題の一因だ。梱包(こんぽう)がひどい状態で届くことも多い。購入者は事前に受け取り場所(事務所、自宅など)や決済方法(電子決済による口座引き落し、受け取り払いなど)を選択・登録してから注文する。ところが、筆者の経験上、事務所を配達先にした際に「夜間や休日は受け取り不可」と登録してあるにもかかわらず、休日に配達された上に再配送もされなかったことがある。この件では、即日「お客様都合による返品」となり、販売者に戻されてしまった。こうしたとき、口座決済された料金は数日内に払い戻し手続きされることにはなる。だとしても、特にタイムセール価格で購入したような場合、セールは終わってしまうので機会費用が失われることになる。

新型コロナ禍を通じた人々の消費行動の変化により、インドでも様々なアプリや便利なサービスが生まれている。しかし、実際の運用においては、地元の配送業者や配達員、ワーカーの質が普及のボトルネックになっている面もあると感じる。これは、先に述べた、デリバリー・アプリによる配送サービスについても言えることだ。

9.食肉、魚、調味料も、調達の選択肢が広がる

GJ州では、菜食主義文化が根強い。しかし、すべての人が菜食主義ではない。実際、少ないながらも食肉や魚介類を販売している店やスーパーマーケットの売り場がある。日本人がよく利用するのは、市内に数店舗を構える「マグソン(MagSon)」という高級食料品店だ。日本でいう「明治屋」や「紀伊国屋」のようなイメージと言えば、わかりやすいだろう。マグソンでは、鶏肉、豚肉、羊肉といった牛肉以外の冷凍食肉、冷凍魚・エビ、ハム、ソーセージが販売されている。そのほか、タイやマレーシアなど東南アジアから輸入された調味料や乾麺、インスタントラーメン、レトルト食品、菓子なども。また、日本産ではないものの、日本米や醤油(しょうゆ)も置かれている。一方で、「日本ブランドの日本食材」の入手は、残念ながらまだ難しい(こうした食材も、近頃ではデリーやチェンナイなら手に入れることができる)。


市内で高級ノンベジ食材が手に入る「マグソン」(ジェトロ撮影)

近年、当地駐在員の間で活用が広がっているのが、「メイン・ディッシュ(MAIN DISH)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」という日本人が運営するEC販売サイトだ。同社は卸売りを主事業に、デリー、ムンバイ、バンガロールを中心に業務を拡大している。主に取り扱うのは、日本食材をメインとした輸入食品とインド産の水産商品。各地拠点から、インドの主要都市にデリバリー可能な体制を構築・配達している。ECサイトを開設し、卸売り以外にも、駐在員などからの個人注文にも応じてくれていて心強い。同サイトの品ぞろえは豊富で、当地駐在員の需要にマッチしている。

アーメダバードへの配達は、ムンバイ拠点から発送されている。午前中に注文すれば、翌日夕方までには発泡スチロール容器に梱包され冷凍宅配されるといった、タイムラインだ。GJ州内では、(1)アーメダバード市内、(2)バドーダラ市内、(3)アーメダバード郊外、ビタラプールおよびマンダル地域、の3地域に配送可能とされる。送料は地域ごとに定額設定されている。会社ごとに注文をまとめて一括発注すれば、気になる金額ではなくなる。冷凍肉などは比較的小分けされてパッケージされているので、単身者には使いやすい。ビタラプールおよびマンダル地域に社員寮を持つ企業では、まとまった量を定期的に発注しているようだ。

このほか、ムンバイに本社を置く「urban platter外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」という食品販売サイトでは、醬油や酢、味噌(みそ)など、日本風にアレンジした調味料を含む幅広い製品を販売している。

こうしたサイトで、筆者もいくつかの商品を試してみた。駐在員としては、どうしても日系のメーカーと比較してしまう。それでも、製品の中には十分日常的に使えるものもある。

ここまで見てきたように、アーメダバード市内の食料品店舗で入手できる商品に限りがあるのは、今なお事実だ。しかし、以上のように、近年はECでの購入の選択肢が広がりつつある。そのため、日本食材の入手のハードルは次第に低くなってきている。

執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
飯田 覚(いいだ さとる)
2015年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ三重を経て、2021年10月から現職。