有力中小企業「専精特新」育成に向け、広東省は(中国)
広州市は3年間で9億元投入

2022年12月12日

中国政府は、「専精特新」企業にさまざまな支援策を講じている。「専精特新」企業とは、(1)イノベーションの強化に向けて専門性、(2)精巧な技術力、(3)独自性、(4)新規性の4点で優れた特徴を有するとされる中小企業だ。中でも、中国工業情報化部が選出する国家レベルの「専精特新」企業は、「小巨人」(小さな巨人)企業とも呼ばれる。「小巨人」企業のリストは、2022年11月時点で対外公表されていない。ただし2022年9月26日付の「大洋網」によると、これまでに第4弾までの対象企業が選出済み。その累計数は9,119社に達したとされる。中国が掲げる戦略的新興産業分野(次世代情報技術、新エネルギー、新素材、バイオなど)を中心に、技術革新が期待される企業などが取り上げられたとみられる。

そのうち、広東省から選出されたのは877社。全体の約1割を占めることになる(「大洋網」2022年9月26日)。また、直近の第4弾での被選出企業数として、広東省(448社)は浙江省(603社)に次ぐ2位、との報道もある(「央広綱」2022年9月20日)。

本稿では、「専精特新」企業への支援を通じて地方政府が進めるイノベーション強化の取り組みを紹介する。また、その考察に当たっては、「小巨人」企業を数多く輩出する広東省を例に取り上げる。

広東省の「小巨人」企業は、6割が深セン市に所在

まず、広東省で「小巨人」企業は、どこに所在しているのか。

第4弾で選出された広東省企業448 社のうち、深セン市所在企業が276社と6割強を占めた。深センは、世界有数のイノベーション都市として注目される地だ。同市の被選出企業は、上場企業20社を含み、「コンピュータ」「通信機器」「その他電子機器・設備製造」などの分野に集中したとされる(「南方日報」2022年8月29日)。

次いで多かったのが広州市で、55社。当地では、「ハイエンド設備製造」「半導体・集積回路」「人工知能(AI)」「バイオ」など、同市政府が戦略的新興産業として位置付ける分野から多数選出されたとされる(「南方日報」2022年8月29日)。同市は、伝統的な製造業からミドル・ハイエンド製造業への転換を推し進めている。

広州市は、2024年までに「小巨人」250社の育成を目指す

「専精特新」企業の育成を推進すべく、中央と地方、両レベルで政府が積極的な支援策を打ち出している。財政部と工業情報化部は2021年1月23日、各省・自治区・直轄市政府の関係部門に向けて「『専精特新』中小企業の質の高い発展に向けた支援に関する通知」(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。同通知の中で「2021~2025年の期間に、中央政府は累計100億元(約1,900億円、1元=約19円)以上の補助金を導入。地方政府が企業向け支援措置や公共サービス制度を整備することを推進する」と、方針を示した。

これを受け、広州市では2022年4月、「広州市の『専精特新』中小企業育成3年行動計画」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表。2024年までに、(1)市レベルの「専精特新」企業を5,000社、(2)省レベルの「専精特新」企業を1,200社、(3)国家レベルの「専精特新」企業(「小巨人」)を250社、育成するとの目標を打ち出した。また、広州市政府は同計画の発表に際して開いた記者会見で、目標達成に向けて2022年からの3 年間で9億元(約171億円)規模の資金を投入すると表明。具体策として、(1)「専精特新」選定企業への奨励金支給、(2) 産業園区運営事業者に対する奨励金支給(市外から国家レベルまたは省レベルの「専精特新」企業を誘致・育成した場合)、(3)融資にかかるコストの低減、(4)技術開発に向けた補助金の支給などを盛り込んだ。

深セン市でも、同様の動きがある。深セン市政府が2022年6月10日に発表した「強大な市場主体の育成加速に向けた実施意見」では、「小巨人」企業を2025年までに累計600社を育成すると表明。この中で、奨励金の支給を含む支援策を打ち出した。また、深セン市工業情報化局は2022年9月2日、「深セン市における『専精特新』企業の質の高い発展に向けた支援に関する若干の措置(意見募集稿)」(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。この措置では、「専精特新」企業の育成に関して、さらなる支援策案が32項目にわたって示されている。その中には、(1)税制面での優遇、(2)融資など資金調達チャンネルの拡充、(3)研究開発機関の設立に対する支援、(4)人材育成の強化、(4) DX(Digital Transformation)の促進、(5)品質向上・ブランド強化の推進、(6)企業の市場開拓支援(国内・海外)、などが盛り込まれた。

国内外市場上場も支援

地方政府による「専精特新」企業向け施策には、上場を支援する措置などを盛り込む例もみられる。2021年11月18日に発表された「広州市黄埔区広州開発区における『専精特新』企業の質の高い発展に向けたさらなる支援に関する弁法実施細則」では、「専精特新」企業が国内外株式市場に上場することを後押しするための措置を規定。上場までの段階(フェーズ)に応じ、最大800万元(約1億5,200万円)資金支援する旨が盛り込まれた。

また、広東省証券監督管理局と広東省工業情報化庁は2022年7月16日、「広東省における『専精特新』中小企業のエクイティファイナンスに関する特別支援行動計画」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表。省内各市政府の支援方針を示した。この計画に沿い、例えば、エクイティファイナンスの企業ニーズを把握し、適切な投資機関とのマッチングを促していく構えだ。

中国共産党第20回全国代表大会(2022年10月16日)での習近平総書記(国家主席)による報告上も、科学技術の自立自強や、科学技術強国の建設加速を推進する方針があらためて強調された(2022年10月24日付ビジネス短信参照)。中央政府の旗振りを受け、広東省をはじめとして、地方政府の支援策が強化されている。そうした中で当地中小企業によるイノベーションが加速していくのか、今後に注目していきたい。

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
黎 偉君(レイ イクン)
2009年からジェトロ・広州事務所に勤務。