重要なのは高い品質と「人財」力(ナイジェリア)
横河電機、アフリカで現地法人の経営現地化

2022年12月14日

横河電機(本社:東京都武蔵野市)は1915年の創立以来、計測・制御・情報に関する技術を軸に最先端の製品やソリューションを産業界に提供するなど、社会の発展に貢献してきた。アフリカでも売り上げを伸ばし、今後も事業拡大を見込む。

その取り組みについて、営業統括本部アフリカビジネス推進センター長の長谷川剛氏に聞いた(2022年9月21日)。

売り上げの7割が海外、様々な事業に取り組む

質問:
会社概要について。
答え:
当社は売り上げの93%を制御事業が占める。プラントの生産設備を制御・運転監視する分散形制御システムや、プラント異常発生時に生産設備を停止する安全計装システム、差圧・圧力伝送器、流量計、プロセス分析計などの工業計器を提供している。
最近では、顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)導入の支援にも尽力している。オイル・ガス、石油化学のほか、再生可能エネルギー、電力、水、マイニング、鉄鋼、製紙、食品、薬品など、あらゆるプラントに最適なソリューションを提供している。
質問:
海外市場での取り組みについて。
答え:
当社は現在、200を超える国・地域で事業展開している。製品の品質・信頼性、最後まで責任を持ってプロジェクトを遂行する能力、納入後の保守サービス体制などが高く評価されている。その結果、徐々に納入実績を増やしてきた。現在では、売り上げの7割が海外で占められる。

中東での実績をアフリカに応用

質問:
アフリカ市場への取り組みのきっかけは。
答え:
当社は1980年代後半より日本のエンジニアリング会社がナイジェリアやアルジェリアに建設した製油所、石油化学、肥料工場、ガス精製設備等に制御システムを納入。その後、国際石油会社が投資する石油ガス上流開発プロジェクトにも、当社の制御システムが採用されるようになった。
1997年には、南アフリカ共和国に現地法人を設立した。また、2010年にナイジェリアで「ナイジェリア石油ガス産業コンテンツ発展法(Nigerian Oil & Gas Industry Content Development Act)」の制定が決まると、同国にも現地法人を設立。国際石油会社の要請を受け、同国で保守サービスするためだった。
当社は2000年代中頃、他社に先駆け、中東国営石油会社からの現地化要求に応えるかたちで中東ビジネスを急速に拡大した。その実績をアフリカ産油国に水平展開することを狙い、2014年3月にアフリカの管轄を変更。ヨーロッパから、中東のバーレーンに移管した。
アフリカでは現在、現地法人3社、営業保守サービス事務所10カ所、エンジニアリングセンター3カ所を運営している。アフリカでは主に、石油およびマイニング産業に向けて制御システムを納入してきた。最近では、エチオピアとセネガルで配水パイプライン向けの監視システムを受注している。

ウクライナ情勢で欧州ガス需要拡大、アフリカでの生産増に期待

質問:
新型コロナウイルス感染拡大やウクライナ情勢の影響は。
答え:
新型コロナ禍で、最終投資決定(FID)が完了していない新規プロジェクトは中止・延期となった。実際、それより前から、原油価格の下落によってFIDされた新規プロジェクトは限られていた。結果、競合他社との厳しい価格競争になり、落札に至らなかった案件はいくつかあった。もっとも、顧客が既設システムの更新プロジェクトに投資していたため、影響は限定的だった。また、生産効率化のために、新たにDX導入に投資していただいた顧客もいた。
ウクライナ情勢を受け、欧州はエネルギー供給源の多様化とクリーンエネルギーのさらなる拡大を決めた。地理的に近いアフリカからのガス購入と、増産に向けた投資にも期待が高まっている。エネルギーシステムが多様化する中、それを効率的にマネジメントすることは、今後の社会に不可欠だ。当社は理想的なエネルギー・マネジメント・システム(EMS)を創出し、持続可能な新エネルギー社会に貢献していく。

忍耐力が求められるアフリカ市場

質問:
アフリカ市場の問題点は。
答え:
アフリカは、他の地域と比べて法規制などが洗練されていない。そのため、煩雑な手続きに時間がかかる。対照的に、例えば中東諸国では、石油以外の部門への多角化が進展しており、各国が外国企業に魅力的な政策や投資した企業を支援する制度を打ち出している。中東同様、アフリカ諸国が外国投資を呼び込むためのより魅力的な政策・制度を打ち出すことに期待したい。
また、インフラ、セキュリティー、税金やインフレなどに多くのコストがかかる。こうした中で、中国やインド企業との価格競争に打ち勝たなければならない。アフリカビジネスには、忍耐力が必要だ。
質問:
アフリカにおける今後の取り組みについて。
答え:
同じアフリカと言っても、国によって言語、宗教、経済状況、産業構造が異なる。そのため、当社は現在、6つのエリアに分けてビジネスを進めている。しかし、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)(2021年1月7日付ビジネス短信参照)が本格的に運用されると、アフリカ域内での投資が活発になると予想される。今後、どのようにアフリカを管轄するのが最善か、検討する必要が出てくる。
また、現地化推進の一貫として「人財」(注)の育成にも取り組んできた。今後もアフリカの若い「人財」を育成し、持続的な開発と成長に基づく「アフリカ自身が望むアフリカ」の実現に貢献していきたい。

現地化を実現、日本人駐在員はゼロ

長谷川氏は、ヨコガワ・ナイジェリア・リミテッド(本社:ラゴス)で2015~2018年、代表を務めた。その任期を通じて、現地化を推進した経験を持つ。2010年の設立以来、この在ナイジェリア現地法人が担うのは、営業、エンジニアリング、テクニカルサポート・トレーニングなど幅広い。

ナイジェリア市場の現状と展望について、現在同社で取締役を務めるオルショラ・ランレヒン氏に話を聞いた(2022年11月7日)。

質問:
最近の販売状況は。
答え:
ナイジェリア経済は目下、厳しい状況が続く。そのため、新規プロジェクトはほとんどないのが現状だ。業績は拡大しているものの、それは市場の拡大と既存プロジェクトのアップグレードに基づくものだ。
質問:
ナイジェリアにおける貴社の強みは。
答え:
ナイジェリアでは、事業を進めるに当たってしばしば国産品調達が要求される。しかし、調達しようにも品目が限られているのが実情だ。
そこで当社は、エンジニアリングセンターで構築した制御システムをナイジェリア製品として登録し、「ナイジェリア・コンテンツ機器証明(NCEC)」認証を取得した。これによって、今後の他社との競争で優位に立つことができるだろう。
また、当社は「人財」の育成にも力を入れている。ナイジェリアでは、石油資源省傘下「ナイジェリア・コンテンツ・ディベロップメント・アンド・モニタリング・ボード(NCDMB)」が石油産業の上流開発に携わる企業の現地化を促進・管理しており、現地化を進める企業に対して上流開発プロジェクトの受注における優先権が与えられる。そこで、ラゴスにエンジニアリングセンターを設立し、現地の「人財」育成環境を整備した。当社主力製品のプロセス制御システムについて、販売からエンジニアリング、メンテナンスまでを現地で一貫して対応できる体制を構築したかたちだ。このことにより、技術移転を伴う投資を実現した。また、その結果、今では日本人駐在員がいない。

ラゴスのエンジニアリングセンター(ジェトロ撮影)

高品質な日本製品には大きな可能性

質問:
日本企業へのアドバイスは。
答え:
ナイジェリアには、治安の悪さや電力不足などの問題もある。しかし、市場規模が大きく、あらゆるセクターの工場が集約されているなど、魅力的な市場と言えるだろう。
特に日本製品は、バックアップ体制を含め品質・サービスがしっかりしている。当社でも、それが強みになっている。確かに、中国企業などとの価格競争は厳しい。だとしても、品質を理解してもらえると、必ず結果が出せる市場だ。実際、ナイジェリア人は日本製品の品質の高さを評価している。

ナイジェリア法人のランレヒン氏(左から2番目)と筆者(右から2番目)(ジェトロ撮影)

注:
横河電機では、「人は財産」であることから、「人材」ではなく「人財」と表記する。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
梶原 大夢(かじわら ひろむ)
2021年、ジェトロ入構。同年から現職。