健康志向高まるモンゴルで本格みそラーメンが人気
「たけさん」ラーメンのプロモーション戦略

2022年7月6日

人口約341万人のモンゴルは、そのうち約半分の164万人が首都ウランバートル市に暮らす。郊外に出れば広大な草原が広がるモンゴルだが、ウランバートル市には車があふれ、不動産開発を受けて新しいマンションが建ち並び、人々はショッピングモールやコンビニで買い物するという都会的な生活を送っている。都市化の進展とともに医療インフラが整備されたことなどにより、平均寿命が延びたモンゴルだが、近年は生活習慣病が増えている。そのような中、食に対する健康志向が高まっており、ウランバートル市の土鍋みそラーメン店「たけさん」は連日満席に近い人気を博している。人気の秘密は、健康的・本格派というポジショニングにある。

人口の半分が暮らすウランバートル市

成田空港から国営MIATモンゴル航空で5時間、2021年7月にオープンした新ウランバートル国際空港を一歩出ると、目の前には草原が広がり、草原の向こうには木が生えない山々の稜線がくっきりと見える。まさに「草原と遊牧民の国」モンゴルのイメージそのものの景色だ。新空港からウランバートル市までは約50キロ、その移動過程では、草原の中に点在するゲルや馬を眺めることになる。しかし、ウランバートル市に入ると、のどかな草原から一転、渋滞に巻き込まれ車はほとんど動かなくなる。季節や時間帯にもよるが、空港から市中心部に到着するまで2時間以上かかることも珍しくない。

モンゴルの国土は日本の約4倍と広大だが、総人口は341万人(2021年)と少なく、そのうち約半数の164万人がウランバートル市に暮らす。市の街並みは東西に流れるトーラ川沿いに横に長く広がり、主要なエリアは東西5キロ、南北2キロの範囲にほぼ収まってしまう。ウランバートル市には仕事を求めて流入する遊牧民が後を絶たず、人口が年々増えているが、市内は電車や地下鉄といった公共交通機関が未整備のため、自動車が重要な移動手段となっており、ウランバートル市に通勤・通学する住民は日々渋滞に悩まされている。


空港から市内へ向かう道路沿いに広がる草原
(ジェトロ撮影)

帰宅ラッシュで混み合う市内
(ジェトロ撮影)

飲酒や食生活の改善が政策課題の1つに

ウランバートル市を中心に、都市部では病院などの医療インフラも徐々に整備されたことなどから、世界銀行のデータに基づくと、モンゴル人の平均寿命は2000年の63歳から2020年には70歳にまで伸びた。その一方で、モンゴルでは近年、生活習慣病が増えている。国際的に生活習慣病の指標とされている非感染性疾患(NCD、注)が死因に占める割合は、2000年の72%から2019年には83%に増加した(図参照)。死因に占めるNCDの割合の世界平均は74%だ。NCDにはがん、糖尿病、循環器疾患、呼吸器疾患などが含まれるため、寿命が伸びるとNCDの割合が高まるとも言えるが、モンゴルの場合、食生活と飲酒の影響も大きい。

伝統的なモンゴルの食生活は、赤い食べ物(肉類)と白い食べ物(乳製品)で表される。味付けは塩が主体で、スパイスなどはほぼ用いない。男女ともに酒類を飲む人も多く、飲酒量も多い。よく飲まれるのは「アルヒ」と呼ばれる、小麦を原料としたウォッカだ。肉が主体で飲酒量も多い食生活は、生活習慣病につながりやすい。

オフナー・フレルスフ大統領も健康問題を重要政策の1つに位置付けており、4月5日には「健康的なモンゴル人」全国運動の実施に関して大統領令を出した。特に、度数38%以上のアルコール消費の抑制や、有害な習慣のない次世代の教育に力を入れるとしている(「モンツァメ通信」2022年4月5日)。

図:モンゴルの平均寿命と死因に占める非感染性疾患(NCD)の割合の推移
モンゴルの平均寿命は、2000~2001年63歳、2002~2003年64歳、2004~2005年65歳、2006~2008年66歳、2009~2010年67歳、2011~2012年68歳、2013~2016年69歳、2017~2020年70歳。モンゴルの死因に占める非感染性疾患(NCD)の割合は、2000年72%、2010年78%、2015年80%、2019年83%。

出所:世界銀行のデータからジェトロ作成

高まる食の健康志向

ウランバートル市は小さな街だが、高級ショッピングモールや百貨店、コンビニもあり、日本食をはじめとする外国の料理が食べられるレストランも少なくない。ファストフードではマクドナルドこそないものの、ピザハット、ケンタッキー、バーガーキングが進出している。

世界銀行のデータによると、モンゴルの1人当たりGDPは4,061ドル(2020年)、日本の4万193ドルと比べると約10分の1の水準だ。モンゴルでは食料品は小麦と一部の根菜類を除いて、ほぼ全て輸入に頼っており、物流コストの上昇や新型コロナウイルス感染拡大の影響などで食品価格の上昇が続く。それでも、ウランバートル市の中心部に住む人々は、所得水準が高いこともあり、肉と乳製品だけの食事ではなく、さまざまな料理を楽しみ、健康に気を配って野菜も食べる。街を歩けば、ワンブロックに1つはあるコンビニの棚には、どの店にも日本の野菜ジュースが並ぶ。


最も多いのは韓国系コンビニ
(ジェトロ撮影)

コンビニに並ぶ野菜ジュース(約130円)
(ジェトロ撮影)

モンゴルでは日本に留学する人も多く、日本製品に対しては全般的に好意的だ。「日本食=健康的」というイメージも、日本になじみのある人には浸透しているように思われる。日本への留学生の中には、モンゴルに帰国後に起業して日本関連のビジネスを行う人もいる。

1つその事例を紹介する。2019年8月からウランバートル市で日本の土鍋みそラーメン店「たけさん」をフランチャイズ展開するMUGEN FOODS LLCの社長もその1人だ。同社のリハグワジャフ・ビャムバスレン社長と、駒松祐頼ゼネラルマネジャー(GM)に、モンゴルでのプロモーション戦略について、6月14日に聞いた。

本格みそ味で差別化、健康面の良さを丁寧に訴求

質問:
モンゴルでのラーメンの認知度、人気度は。
答え:
ラーメンはモンゴルでも人気がある。モンゴルは地理的な条件から小麦を主食としており、麺文化が根付いていることもある。また、冬はマイナス40度にまで気温が下がるため、暖かいスープ類が好まれる。地場系や日系のラーメン店が既に幾つかウランバートル市内に店舗を展開していることもあり、ラーメンに対する認知度も高い。
質問:
土鍋ラーメン店「たけさん」をモンゴルで展開しようと思った理由は。
答え:
日本で20年以上生活し、日本の食文化や健康志向に非常に魅力を感じていた。また、ラーメンはモンゴルでも人気があることから、受け入れられやすいと考えた。ただ、既にラーメン店は幾つかあるため、差別化できるポイントが重要だった。「たけさん」は長野県の長野市と小布施市に店舗を構える土鍋ラーメン店。MUGEN FOODS LLCがフランチャイズ契約してモンゴルで展開している。「たけさん」を選んだ理由は、雪国長野ならではの土鍋ラーメンが冬は極寒となるモンゴルにぴったりで、土鍋で提供することから熱々のスープを好むモンゴル人の嗜好(しこう)に合うと思ったことが大きい。また、既にウランバートル市で展開している他のラーメン店は豚骨味か、モンゴル人の味覚に合わせて日本とは味付けを変えているため、まだモンゴルで流行していないみそ味という点でも差別化できると考えた。
質問:
みそラーメンに対する反応は。
答え:
モンゴルではみそは一般には浸透していないため、十分な説明が必要だった。開店当初、一部のお客さまからは「しょっぱすぎるので、もっと薄味にしてほしい」という声もあったが、みその塩分量は食塩に比べて少ないことや、発酵食品のためアミノ酸などが含まれて健康にも良いことをその都度説明していった。マーケティングにはモンゴルで知名度の高いフェイスブックを使い、丁寧に情報発信を続けたところ、そのフォロワーは既に12万3,000人を超えた。最近はみそについての認知度も徐々に高まっており、店舗で販売している小布施市から取り寄せたみそは、人気ですぐに売り切れてしまう。

富裕層をターゲットに本格派としてブランディング

質問:
客層や価格帯は。
答え:
店舗の立地が市の中心地ということもあり、ランチは企業のマネジャークラスが中心。男女比では女性が多く、気に入った女性が家族を連れて再度来店するケースも多い。価格帯は、土鍋みそとんこつラーメンが1万9,000トゥグルク(約817円、1トゥグルク=約0.043円)。唐揚げやギョーザとのセットも人気で、客単価は1,000円前後になる。近年のインフレにより、価格をオープン当初の1万4,800トゥグルクから引き上げざるを得なかった。モンゴルの所得水準からみれば安くない価格だが、富裕層のモンゴル人を中心に連日満席に近い状況だ。

にぎわう店内
(ジェトロ撮影)

土鍋みそラーメンとギョーザ、唐揚げセット
(ジェトロ撮影)
質問:
味付けやメニューの工夫は。
答え:
日本の本場の味を味わってほしいと思い、長野の本店のメニューをそのまま展開。モンゴルの水は硬水のため軟水に変えているほか、みそやスープ、野菜、七味など材料の多くを日本から輸入している。モンゴルでは飲食店の味が変わりやすい。日本人が運営する店もあるが、日本人が帰国してしまうと味が落ちる。「たけさん」のスタッフは全員モンゴル人だが、調理法について本店とも入念に打ち合わせてマニュアルを作成し、味のクオリティーを保っている。脂の多いモンゴル料理とは異なり、あっさりした味付けのため、外国人にも人気がある。最近は外国人向けに肉を使わないビーガンラーメンも始めた。

ラーメンに限らず、日本の良さをもっと広めたい

質問:
今後の展望は。
答え:
2022年7月には2号店をオープンする予定だ。富裕層が多く居住するエリアの商業施設に出店する。「たけさん」の隣には日本の和牛を使った焼き肉店も併設する。1号店に来店するリピーターのお客さまから、ぜひ家の近くにも出店してほしいという声があり、2号店にも自信を持っている。2号店では和柄のおしぼりの提供や販売、日本風の焼き肉弁当を扱うことも考えている。日本には、モンゴルでは知られていない素晴らしい商品がたくさんあり、2号店の次はパンやキャンプ用品など、今後も多方面の商品を紹介していきたい。

健康志向の高まりは日本食市場の拡大にもプラス

モンゴルは、日本から飛行機で約5時間と、距離的には欧米などと比較すると近い国だが、訪れたことのある人は相対的に少なく、現地の最新情報も限られる。草原と遊牧のイメージが先行するが、実際には人口の約半数がウランバートル市で都会的な生活を送っていることは既に述べたとおりだ。生活習慣病が増え、健康的な食事が好まれるようになっている点は日本とも共通している。

そのような中、食文化や味の好みが日本とは異なるモンゴルでも、本格的な日本食が受け入れられる土壌が着実に育ってきている。実際に筆者も土鍋みそラーメンを試食したが、深みのあるみそとコシのある麺の相性が良く、日本で食べるラーメンと全く遜色のない味わいだった。高まる健康志向は、ラーメン以外の日本食の人気も後押しする大きな要素になるだろう。


注:
世界保健機関(WHO)では、不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒、大気汚染などにより引き起こされる、がんや糖尿病、循環器疾患、呼吸器疾患をはじめとする慢性疾患をまとめて総称している。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
江田 真由美(えだ まゆみ)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、企画部企画課海外地域戦略班、イノベーション・知的財産部知的財産課を経て、2020年4月から現職。