JAL、インドワインを日本へ初空輸
新たな魅力発信し日印交流の活性化へ

2021年12月8日

日本航空(JAL)は2021年11月6日、南インドに位置するベンガルールから、同社が運航する成田への直行便を利用して、ワイン516本をJALとして初めてインドから日本に空輸した。同社は成田~ベンガルールの定期路線の新規開設を2020年3月に予定していたものの、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響で延期され、現在は週1便の臨時便(旅客、貨物)を運航している。

本運航によって、日本を経由したインド人の北米(西海岸)往来を主なターゲットとしつつ、新型コロナ禍でも旺盛なインド人旅客の動きの取り込み、ベンガルールを起点としたインド南部と日本の間の迅速な貨物輸送も可能となった。新鮮さが質を左右する生鮮食品などの輸出入活性化にも期待が高まっている。同社でベンガルール営業所長(南インド地域代表)を務める高野憲一氏に、今回のインドワイン初空輸の取り組みについて話を聞いた(2021年11月14日)。

若手駐在員メンバーが中心となりワイン初空輸が実現

質問:
インドワイン初空輸に至った経緯は。
答え:
私は2019年にベンガルールに着任し、2020年3月に成田~ベンガルール定期便の就航開始に向けて、「いつか訪れてみたい」と思ってもらえるようなベンガルールの魅力を発信したいと考えていた。ただ、ベンガルール近郊にはタージ・マハルのような有名な観光地があまりなく、どうすれば日本から観光客を呼べるかが課題であった。その中で、ベンガルール郊外、ナンディ・ヒルズでワインを製造しているグローバー・ザンパ・ビンヤーズ(以下、グローバー)の会長と知り合う機会があり、ワインツーリズムが大きな目玉になるのではと注目していた。
しかし、新型コロナの影響で定期便の就航が延期。臨時便の運航を何とか継続する中で、インドに関するポジティブな情報発信を諦めたくなかった社内の若手駐在員たちが、プロジェクトを立ち上げ、今回の初空輸に至った。
ボジョレー・ヌーヴォー(フランス産ワインの新酒)が毎年11月の第3木曜日(2021年は11月18日)に解禁される。これに合わせ、JALショッピングのサイトでのワイン販売のほか、東京・有楽町のJALプラザでワインフェアを行う中、フランスのボジョレーと一緒にインドワインをPRするべく準備を行った。事前の段階では、JALの社員向けにインドワインセミナーを実施するなど、まずは社内での認知度を高める取り組みも行った。空輸にあたっては、グローバーだけでなく、日本の輸入販売店アンビカコーポレーションや日本通運の協力を得て実現することができた。

アンビカコーポレーションや日本通運の協力を
得て、11月6日、成田空港に初空輸(JAL提供)

ベンガルールから成田空港に到着したワイン
(JAL提供)

ワインを通じてインドのイメージを変えたい

質問:
今回の取り組みの注目点は。また、日本側の反応は。
答え:
通常、輸入されるワインの多くは船便だが、できるだけ新鮮なインドワインを届けるべく、空輸したという点がアピールポイント。また、インドワインは世界での流通量も少なく、知名度も決して高くないが、グローバーはワインの本場フランス・ブルゴーニュに自社ワイナリーを構えている。また、インド工場で生産したワインのフランスへの輸出も行っている企業。
日本側では、まず、インドに駐在経験のある方々から反響をいただいており、「懐かしい」といった声のほかに、「久しぶりにカレーとワインの組み合わせで楽しもうと思っている」という声も寄せられた。インドワインを知らない日本人からは、インドでワインを生産していることすら知らなかったという声が多く、少なからずインドのイメージが変わったと実感している。

グローバー・ザンパ・ビンヤーズのブドウ畑から新鮮なワインが届けられた(JAL提供)
質問:
これからの展望は。
答え:
インドは紅茶の生産地として世界的に有名だが、インド南部にはコーヒーなど意外性のある特産品もある。こういった特産品を紹介することで、日本人のインドに対するイメージを変えたいと思っている。航空会社として貨物需要につなげることも大切だが、中長期的にこのような取り組みを継続することで、インドへの興味を持ってもらい、人やモノの交流をさらに活性化させ、日印の交流発展に貢献することが使命だと考えている。

日本へのワイン輸入、チリ・欧州が首位

財務省貿易統計によると、2020年に日本に輸入されたボトルワインの国別シェア(数量ベース)は、チリが30%を占めて第1位(4,910万リットル)となり、フランス(4,525万リットル)、イタリア(2,836万リットル)、スペイン(1,867万リットル)の欧州3カ国を合わせると上位4カ国で全体の86%を占めた(図参照)。インドからの輸入は4万8,000リットルと、輸入先としては20位に位置している。チリや欧州からワインを輸入する際は、日本との自由貿易協定(FTA)によって関税がかからない。一方で、インドとの間ではワイン輸入に関する協定を結んでおらず、750ミリリットル入りボトルであれば購入価格(運賃・保険料を含む)の15%または1リットルあたり125円の関税がかかる。インドワインは日本国内での流通量がまだまだ少ないが、日印の架け橋として大きな可能性を秘めている。

図:日本のボトルワイン輸入数量の国別シェア(2020年)
チリ30%、フランス28%、イタリア17%、スペイン11%、米国4%、オーストラリア4%である。その他は6%で、うちインドは0.03%。

出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
倉谷 咲輝(くらたに さき)
2019年、ジェトロ入構。農林水産・食品部を経て、2021年9月から現職。