韓国の長期天然ガス需給計画、官民協力で需給安定性を強化

2021年6月17日

持続可能な社会の構築と経済成長との両立をいかに成し遂げるかという潮流の中、多くの先進国・新興国が1次エネルギーを天然ガスにシフトする傾向にある。韓国は液化天然ガス(LNG)のほとんどを輸入に依存し、2019年時点で世界の総輸入量の約14%を占め、日本、中国に次ぐ第3位となっている(図参照)。このような中、韓国政府は2021年4月、「第14次長期天然ガス需給計画」(以下、天然ガス需給計画)を発表した。天然ガス需給計画は、都市ガス事業法に基づき、2年ごとに当該年度を含む10年以上の計画を策定することが義務付けられ、今回は、2021~2034年における長期天然ガスの需要見通し、天然ガスの導入および需給管理計画、供給インフラ拡充計画などが盛り込まれている。

韓国政府は、(1)国内外における需給変化への対応、(2)安定的な天然ガスの供給、(3)官民協力による需給管理の能力強化、という基本方針の下、天然ガスの需給管理を強化し、供給インフラの充実や活用方策の見直しを通じて安定的で効率よく天然ガスを供給するほか、都市ガスがいまだ供給されていない地域への普及を拡大することとしている。

図:世界のLNG輸入
1位は日本で全体の26%、2位は中国で17%、3位は韓国で14%となっています。

出所:エネルギー白書2020、資源エネルギー庁

天然ガス需要の推移

国内における天然ガスの需要は、1986年に供給を開始して以降、1987年の161万トンから2020年の4,144万トンへと、年平均10.3%で増加している。需要は2013年をピークにその後減少を続けたが、2016年から発電用需要の拡大に支えられ、増加に転じ、2018年には過去最高(4,222万トン)となった(表1参照)。

表1:天然ガス需要の推移(単位:万トン)

年度 都市ガス 発電
1987 7 154 161
1988 18 191 209
1989 35 167 202
1990 58 174 232
1991 88 180 268
1992 126 223 349
1993 185 252 437
1994 245 333 578
1995 342 356 698
1996 458 462 920
1997 577 538 1,115
1998 623 419 1,042
1999 789 477 1,266
2000 953 469 1,422
2001 1,030 529 1,559
2002 1,119 651 1,770
2003 1,198 647 1,845
2004 1,250 882 2,132
2005 1,403 910 2,313
2006 1,396 1,050 2,446
2007 1,445 1,208 2,653
2008 1,532 1,195 2,727
2009 1,563 1,041 2,604
2010 1,771 1,510 3,281
2011 1,862 1,679 3,541
2012 2,011 1,818 3,829
2013 1,995 2,013 4,008
2014 1,853 1,796 3,649
2015 1,726 1,609 3,335
2016 1,777 1,706 3,483
2017 1,944 1,743 3,687
2018 2,137 2,085 4,222
2019 2,063 1,988 4,051
2020 2,106 2,038 4,144

出所:韓国産業通商資源部

天然ガス需要の予測

  1. 需要予測方法
    都市ガス需要は、第13次長期天然ガス需給計画と同様の需要予測モデルを使用する(注1)。発電需要は、第9次電力需給基本計画の電源構成(注2)、温室効果ガス・浮遊粒子状物質に対応するための低炭素・環境配慮政策(注3)などを考慮してLNG発電需要を予測した。また、発電用天然ガス需要の変動性を管理するため、GDP、気温、ベースロード電源の利用率などを考慮した需給管理需要を併せて予測している。
  2. 経済見通し
    経済成長の見通しは、2021~2034年の間、年平均2.2%の増加を想定している。人口増加率は、2021~2034年の間、年平均0.01%の減少を想定した(注4)。
  3. 需要見通し
    前述を基にシミュレーションした結果、2034年の総需要を基準需要ベースで4,797万トン、需要管理需要ベースで5,253万トンとした(表2参照)。
表2:長期天然ガス需要の見通し(単位:万トン)
区分 都市ガス用(A) 発電用(B) 合計(A+B)
民生 産業 小計 基準需要 需要管理需要 基準需要 需要管理需要
2021 1,185 983 2,168 2,001 2,391 4,169 4,559
2027 1,261 1,219 2,480 1,768 2,172 4,248 4,652
2034 1,290 1,419 2,709 2,088 2,544 4,797 5,253
伸び率
(年平均:%)
0.66 2.86 1.73 0.33 0.48 1.09 1.1

(摘要)
民生:住宅用、一般用、業務冷暖房用、冷暖房空調用、コージェネレーション用、セントラルヒーティング設備用等
産業:産業用、輸送用
出所:産業通商資源部

天然ガスの導入および需給管理

天然ガス需給計画は、(1)安定供給、(2)価格の安定、(3)戦略的協力関係、を考慮した長期計画を継続して実施する。また、官民協力を通じて、需給管理能力を高めるとともに、天然ガスの需給安定性を強化する。具体的には、以下を実施する。

1. 天然ガスの導入

(1) 安定供給
  1. 調達先の多様化やポートフォリオプレーヤーからの調達の拡大を図ることで、特定地域における供給リスクが発生した場合でも安定供給を確保する体制を構築する。さらに、過去供給リスクが発生した国や地域からの調達は慎重に検討することとする。
  2. 国内需要の変化に対応するため、今後新規契約を締結する場合には、仕向地条項の緩和など、柔軟な取引の基盤を整備する。調達時にスウィングオプションなどを導入するなど、国内の需給事情に合わせた契約の柔軟性を追求する。
  3. 従来の単純調達だけではなく、海外のLNGプロジェクトに投資することで、供給量の確保を拡大する(注5)。
(2)価格の安定
  1. 急激な原油価格の変動に連動した天然ガス価格変動を緩和するため、国内での販売契約に係る価格指数のポートフォリオを多様化し、価格の安定を図る(注6)。
  2. リスク分散の観点から、契約時期や契約構造の多層化を図る。長期契約は市場価格の変動が反映されにくいという点から、5~10年程度の中期契約を積極的に活用する。
(3)戦略的協力関係
エネルギー安全保障や経済協力など、戦略的協力の必要性が高い国とのLNG輸入を優先的に検討する。地政学的なリスクは残るものの、LNG関連産業での海外プロジェクトへの共同進出により、リスク低減効果を図る。また、地政学リスクの低減に資する契約条件の見直しなどを行う(注7)。

2.天然ガスの需給管理

(1)安定的な天然ガスの需給に向けた国内外の企業間協力を強化する。具体的には、競争原理を導入するほか、安定的な需給管理に貢献できる発電用個別料金制度(注8)を2022年1月から本格的に導入する。また、一時的な需給変動に伴う都市ガスからLPGへの燃料シフトが可能な生産メーカーとの燃料代替契約を拡大する(注9)。
国内での需給管理に加えて、地理的に隣接する日中韓3ヵ国での情報の共有、天然ガスのスワップ、設備の共同利用など、安定的な需給に向けた政府レベルの協力の強化を進める(注10)。

(2)異常気象による寒波など、急激な需要の増加や輸入の乱れに伴う想定外の供給不足に対応するため、備蓄義務量を増やす(注11)。政府、韓国ガス公社(以下、KOGAS)および民間企業間での需給管理体制を強化し、現在個別に運営しているKOGASと民間事業者の需給モニタリングシステムを連携する。政府は、民間事業者に対する調整命令(都市ガス事業法第40条)を改正し、需要が逼迫した際、KOGASおよび民間事業者間での共同対応を強化する。

(3)景気低迷や異常気象により、想定外の需要減が生じた場合の対応策を設ける(注12)。需要減が発生した場合、国内の民間事業者間や中国および日本とのスワップを締結し、余剰分の解消に努める。また、契約上の減量権の行使を活用し、繰り越しといった年間の導入日程を調整し、供給量を調整する。さらには、第三国の引き受け基地、遊休しているLNG船舶を活用し、臨時のLNG保存施設を設ける。

天然ガスインフラ

KOGASは、供給設備の拡充計画を定め、運営している供給インフラの安全性を強化するため、2034年までに5兆5,946億ウォンを投じる予定としている。また、民間企業によるインフラ整備を含め、官民協力の下、需給管理の能力を高め、天然ガスの需給安定性を強化する(表3、表4、表5、表6参照)。

表3:KOGASの設備投資計画(単位:億ウォン)
区分 2021~2022年 2023~2025年 2026年~2028年 2029年~2034年 合計
生産設備 6,691 14,144 5,897 2,953 29,685
供給配管 10,745 9,735 1,397 1,733 23,610
安全対策 392 523 528 1,208 2,651
合計 17,828 zu1 7,822 5,894 55,946

注:KOGASの投資計画。民間分は除く。
出所:産業通商資源部

表4:生産拠点の現状と整備計画(単位:万キロリットル)
会社名 拠点 運営中 建設予定 合計
KOGAS 仁川 23基(348)/2泊地 23基(348)/2泊地
平澤 23基(336)/2泊地 23基(336)/2泊地
統營 17基(262)/2泊地 17基(262)/2泊地
三陟 12基(261)/1泊地 12基(261)/1泊地
5基地 10基(228)/1泊地 10基(228)/1泊地
済州 2基(9)/1泊地 2基(9)/1泊地
小計 77基(1,216)/8泊地 10基(228)/1泊地 87基(1,444)/9泊地
保寧LT 保寧 4基(80)/1泊地 3基(60)/1泊地 7基(140)/2泊地
ポスコエネルギー 光陽 5基(73)/1泊地 1基(20) 6基(93)/1泊地
KET 蔚山 2基(43)/1泊地 2基(43)/1泊地
漢陽 麗水 2基(40)/1泊地 2基(40)/1泊地
現代産業 統營 1基(20) 1基(20)
合計 86基(1,369)/10泊地 19基(411)/4泊地 105基(1,780)/14泊地

出所:産業通商資源部

表5:気化・送出設備の現状と整備計画(単位:トン/時)(—は値なし)
会社名 拠点 運営中 建設予定 合計
KOGAS 仁川 6,210 60 6,270
平澤 4,680 4,680
統營 3,030 3,030
三陟 1,320 1,320
5基地 1,560 1,560
済州 120 120
小計 15,360 1,620 16,980
保寧LT 保寧 1,050 180 1,230
ポスコエネルギー 光陽 610 200 810
KET 蔚山 540 540
漢陽 麗水 360 360
合計 17,020 2,900 19,920

出所:産業通商資源部

表6:備蓄基地・埠頭の現状と建設計画(単位:万キロリットル、泊地、累計)(—は値なし)
区分 KOGAS 民間 合計(注1)
唐津基地 保寧 蔚山 光陽 統營 麗水
(注2)
備蓄
設備
埠頭 備蓄
設備
埠頭 備蓄
設備
埠頭 備蓄
設備
埠頭 備蓄
設備
埠頭 備蓄
設備
埠頭 備蓄
設備
埠頭
2021 120 2 73 1 1,389 11
2022 120 2 73 1 1,389 11
2023 140 2 93 1 1,429 11
2024 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,552 13
2025 108 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,660 14
2026 108 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,660 14
2027 148 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,700 14
2028 148 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,700 14
2029 188 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,740 14
2030 188 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,740 14
2031 228 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,780 14
2032 228 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,780 14
2033 228 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,780 14
2034 228 1 140 2 43 1 93 1 20 40 1 1,780 14

注1:KOGASの平澤、仁川、統營、三陟、済州・涯月の既存設備・埠頭を含む。
注2:麗水は、天然ガス搬入業者向け保存設備(20万キロリットル)を含む。
出所:産業通商資源部


注1:
世界186ヵ国のGDPと総エネルギー消費の実績を分析し、韓国の総エネルギー消費量を予測した後、ガスの割合を推定。これに加え、LNGバンカリング、FCV(燃料電池自動車)など、ガス分野における新規需要を追加的に反映。
注2:
原子力、石炭、再生可能エネルギー、LNGなど、年度別の電源構成の見直しを反映。
注3:
温室効果ガスの削減に向けた石炭発電設備の廃止および残存する石炭発電設備の年間発電量に対する制限、浮遊粒子状物質に係る季節管理制度の施行など。
注4:
それぞれの経済指標は、第9次電力需給基本計画と同一。
注5:
国内での需給が不安定な場合、KOGASが持ち分を所有するオーストラリア・プレリュードの天然ガスについて、必要時に国内に優先して販売できる権利(コールオプション)を確保済み。
注6:
価格の算定方式は、(1)油価リンク、(2)米国天然ガスハブ指数(Henry Hub)、(3)ハイブリッド方式(油価リンク+Henry Hub)。
注7:
LNGの売り手が地政的リスクにより供給できない場合、買い手に代替を供給するような契約など。
注8:
KOGASがLNG発電所と相対契約を締結する制度。2020年1月から順次導入。
注9:
都市ガスの需給逼迫時に一時的にLPG(液化石油ガス)に切り替える契約、KOGASは切り替えに伴う実費を補填する。2021年1月現在、燃料代替契約を締結している生産メーカーは10社、43万トン/年。
注10:
例として、日中韓3カ国政府間のLNG協力に関するMOUの締結。
注11:
現在7日分とされている備蓄義務量を上方修正する。
注12:
長期契約におけるTake or Pay条項により、余剰分も含めて支払い義務が発生することから、買い手側に損失リスクがある。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所 副所長
当間 正明(とうま まさあき)
2020年5月、経済産業省からジェトロに出向。同年6月からジェトロ・ソウル事務所勤務。