国際物流ハブとしての発展目指す中国内陸部
湖北省武漢市、重慶市、四川省成都市を事例に

2021年11月17日

中国内陸部の物流機能整備の動きが急速に進展している。欧州・中央アジアを結ぶ「中欧班列」に加え、日本やASEANを結ぶ輸送ルートや、水運と鉄道間の連携プロジェクトが動き出すなど、多方面に物流ルートが広がりつつある。

本稿では、国際物流ハブを目指す湖北省武漢市、重慶市、四川省成都市を中心に、中国内陸部の国際物流をめぐる動向についてレポートする。

武漢市で水運と鉄道輸送が接続

湖北省武漢市は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年1月23日から約2カ月半にわたる都市封鎖が行われた影響などから、同年の域内総生産(GRP)は4.7%減少した。しかし、武漢市統計局などによると、2020年の武漢市の貿易総額は、輸出では医療物資、輸入では半導体と半導体製造設備などが伸び、前年比10.8%増の2,704億3,000万元(約4兆8,677億円、1元=約18円)となった。また、2021年上半期の貿易総額は前年同期比47.8%増(2019年同期比では52.4%増)の1,535億4,000万元で、増加幅は拡大している。

武漢市は、中国中部エリアの中心都市の1つであり、内陸に位置しながらも、古くから市内中心部を流れる長江を利用した水運の拠点として栄えてきた。自動車産業や鉄鋼業をはじめとした重工業に加え、近年は半導体やITなどハイテク産業の集積地としても発展を遂げてきた。さらに、物流面では、武漢市と欧州・中央アジアなどを結ぶ鉄道貨物便「中欧班列」や、武漢市と日本を結ぶ直航コンテナ船などの運航など、機能の拡充が進んでいる。

まず、2014年4月に定期運行が開始された「中欧班列(武漢)」は、新疆ウイグル自治区の阿拉山口(アラシャンコウ)を経由し、武漢市と欧州間をおおむね15~17日で運行する。ドイツやフランス、ポーランド、ロシアなど約30カ国・地域の70都市を結んでいる。同路線を利用して、武漢市から欧州へは主に自動車部品や電子・機械製品、日用品、医療物資、衣類など、欧州から武漢市へは主に木材や電気・機械設備、自動車部品、化学工業製品、食品などが輸送されている。実際に日系企業の中でも、「中欧班列(武漢)」を利用して自動車部品を欧州から輸入するなどの活用事例がみられる。

2021年1~7月に武漢市から欧州方面に向かった列車は98本、欧州方面から同市へは97本、累計で1万8,100TEU(20フィートコンテナ換算値)のコンテナが輸送された。コンテナ数は、輸出が前年同期比65.5%増、輸入が64.0%増となった。2020年は往復で計215本の列車が運行されたが、中欧班列(武漢)の運営を行う武漢漢欧国際物流の関係者は、2021年の目標について「年間往復で400本の運行を目指す」と述べている(「武漢発布」7月15日)。

さらに、2019年11月には、武漢市(武漢新港)と日本(神戸港、大阪港、名古屋港)を結ぶ直航コンテナ船の運航も始まった。この航路には500TEUクラスのコンテナ船2隻が投入され、武漢新港を出て約5日間で神戸港に到着。その後、大阪港と名古屋港を経由し、再び武漢市に戻るまで合計14日前後で運航している。これまで武漢市と日本を結ぶコンテナ船は全て上海港でコンテナを積み替える必要があり、往復で17日以上の日数を要していた。しかし、直航コンテナ船の就航により、輸送に必要な日数は3日以上短縮された。就航後、新型コロナ感染拡大の影響に伴って2020年1月から一時的に運休していたが、同年5月には再開した。現在は武漢~日本間で往路・復路とも週1便運航している。武漢市から日本へは化学工業製品や衣類、医療物資など、日本から武漢市へは自動車部品や精密機器、越境電子商取引(EC)関連の日用品などが輸送されている。


武漢市と日本を結ぶ直航コンテナ船
(ジェトロ撮影)

武漢新港(陽邏国際港)のコンテナヤード
(ジェトロ撮影)

鉄道輸送と水運をドッキング、複数の輸送ツールの有機的連携進む

足元では、鉄道輸送と水運を接続させる取り組みも始まっている。2021年8月1日には、陽邏国際港(注)水運・鉄道連携輸送プロジェクト(第2期)の一部運用が始まり、鉄道が同港まで乗り入れることで、船舶と鉄道間でコンテナを直接載せ替えることが可能になった。このプロジェクトの建設総面積は約57万平方メートル、総投資額は約27億元となっている。2022年内の本格稼働を目指し、2024年には陽邏国際港の年間貨物取扱量が100万TEU、うち水運・鉄道の連携輸送量が50万TEUに達することを目標としている。湖北省人民政府の王忠林省長は「(同ルートの開通を通じて)中国最大の内陸水運・鉄道連携輸送港を築き、武漢市を長江中流域水上輸送センターとして建設を推進することで、同市の港湾型国家物流ハブ都市としての機能が強化される。武漢市は湖北省や中国中西部の『世界に向かうゲートウェイ』となる」と述べ、同ルートの開通や同市の物流ハブとしてのさらなる発展に期待を示した。

水運・鉄道の連携輸送プロジェクトの稼働によって、日本から武漢市を経由して中央アジアや中東、欧州に通じる新たな物流ルートが生まれ、武漢市をハブとするより効率的な輸送が可能となる。武漢進出日系物流企業の関係者は「現時点でこのルートを活用する案件はほとんどないが、今後は船便よりも速さが求められ、航空便よりも低コストが求められるような中間商品の輸送が想定される。他都市と比べて武漢市を経由するルートにどのような優位性があるか、またリードタイムはどれくらい短くなるかなど、具体的なメリットやバランスを見極めながら、利用を考えていきたい」と関心を示した。

成都市と重慶市、欧州向け鉄道輸送を拡充

重慶市と四川省成都市でも、欧州・中央アジアを結ぶ「中欧班列」の利用が大きく伸びている。重慶市では、2011年3月にドイツ・デュイスブルクを結ぶルート、成都市では2013年4月にポーランド・ウッチを結ぶルートの運行が始まった。中国国家鉄道集団によると、2020年に運行された中欧班列は前年比50%増の1万2,400本で、貨物輸送量は56%増の113万5,000TEUに達した。うち成都市と重慶市から出発した中欧班列の運行数は計約5,000本(60%増)となり、中欧班列全体の約4割を占めた(「人民日報」1月2日)。

2021年1月1日、成都市と重慶市を出発する中欧班列は「中欧班列(成渝)」として統合され、重複する路線の調整や貨物ターミナルなどの共同利用などが進んでいる。現在はドイツのデュイスブルクやロストック、ポーランドのスワフクフやウッチといった欧州の各都市に加え、モスクワやカザフスタンのホルゴスなどへも開通している。2021年上半期には同路線の運行本数が約3,000本となった。

さらに、2020年8月には「成都欧州+日韓」と題する物流ルート建設に関する会議が成都市で開かれるなど、日本から成都市を経由し、中欧班列を利用して欧州に通じる新たな物流ルートの拡充に向けた動きも進みつつある。

成都市と重慶市の両政府は、同路線の主要輸送貨物であるノートパソコンに加え、両市に集積する自動車産業による中欧班列の活用を推進している。ここ数年で中欧班列を活用して欧州から精密機器や自動車部品を輸入し、欧州向けに完成車を輸出する事例が見られる。ボルボ成都工場の担当者へのヒアリングによると、成都工場で生産したスポーツ用多目的車(SUV)の「XC60」は、主に欧州とアジア太平洋地域に輸出しているが、うち欧州向けには中欧班列を利用して輸出しているという。また、中国の地場系完成車・自動車部品メーカーの重慶小康工業も、重慶工場で生産した「東風東光ix5」は中欧班列を利用してドイツに輸出している。


重慶西部物流園の鉄道ターミナル(ジェトロ撮影)

ASEAN向け輸送ルートも整備

重慶市と成都市はASEAN向けの輸送ルート整備にも段階的に乗り出している。

2015年には、シンガポール・中国の2国間プロジェクトとして、広西チワン族自治区の欽州港を経由して、重慶市とASEAN諸国を結ぶ海陸複合輸送ルート「南向通道」の概念を打ち出し、2017年12月には重慶市と欽州港を結ぶ鉄道貨物線の定期運行が始まった。重慶市口岸物流弁公室によると、2020年の重慶市~欽州港間の鉄道輸送の運行本数は前年比40.5%増の1,297本となった(「重慶日報」3月5日)。

このほかのASEAN向け輸送ルートとしては、重慶市から雲南省や広西チワン族自治区を経由してASEAN諸国を結ぶトラック輸送や、重慶市とベトナム・ハノイを結ぶ鉄道輸送があり、2020年の運行本数はそれぞれ前年比2.3倍の2,821本、同2.5倍増の177本だった(同)。

その後、中国国家発展改革委員会は2019年8月、重慶市や四川省成都市を基点として、北部湾(トンキン湾)までの鉄道輸送と、北部湾を経てASEANなどへつながる海上輸送を組み合わせた輸送ルートを整備する「西部陸海新ルート全体規画」(2019年8月27日付ビジネス短信参照)を発表、国家計画としても同ルートの整備を進めていく姿勢を明確に示した。

重慶市は2020年4月、「西部陸海新ルート建設推進の実施に関する計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。2025年までに重慶市~欽州港間の貨物輸送量を30万TEUに引き上げ、陸海複合輸送、越境トラック、越境列車の運行本数を年平均で15%以上増加させるほか、ASEAN諸国との間で産業協力モデル区を3カ所設置するといった目標を掲げている。

2021年5月21日に行われた第3回中国西部国際投資貿易商談会の開会式で、重慶市、四川省、雲南省、広西チワン族自治区、ベトナム、インドネシア、ラオスなどが連名で「陸海新ルート国際協力(重慶)イニシアチブ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表。陸海新ルートの沿線国・地域が協力し、貿易や投資の拡大やサプライチェーンの最適化を図り、地域経済の共同発展を目指す方針を明らかにした。

重慶市では、陸海新ルートを利用した貿易が拡大している。重慶税関の統計によると、2020年の重慶市の国・地域別貿易総額をみると、ASEAN諸国が1,122億元と、同市貿易総額の17.2%を占め、米国(1,077億元)、EU(1,038億元)を上回った。また、2021年1~9月の重慶市とASEAN諸国との貿易総額は前年同期比13.6%増の903億元となった。

さらに、重慶市は2021年3月、地域的な包括的経済連携(RCEP) 協定への積極的な関与を図るべく、「ASEANとの経済貿易協力行動計画(2021年~2025年)」を策定した。重慶市は、2025年までにASEAN諸国との貿易額を200億ドル超、ASEAN諸国からの対内直接投資額を累計150億ドル超、150社を超える重慶市企業をASEANに進出させるといった目標を掲げている。

物流ルート利用拡大は進むか

これまで中国では、沿海地域が貿易を牽引してきたが、欧州やASEAN諸国との鉄道貨物輸送ルートの拡充などにより、近年は中国の内陸部を通じた貿易もスポットライトを浴びるようになった。

各地方政府が当該都市の物流機能の発展を政策面から支援していることも奏功し、新型コロナ禍の前後でも各都市の貿易額は一貫して増加を続けている。特に、鉄道貨物輸送は船便よりも速く、航空貨物便よりも安価な点に強みがあることから、こうした特性に合った中間財輸送などでの利用拡大が期待される。現時点では、日系企業によるこれら物流ルートの活用は限定的だが、それらの物流ルートを活用したサプライチェーンの構築が進んでいくのか。物流面に加え、内陸部における今後の企業立地や産業集積の動きも少なからず関係してこよう。


注:
陽邏国際港は、武漢新港内にある長江中流域で最大級のコンテナターミナルを指す。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
片小田 廣大(かたおだ こうだい)
2014年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部進出企業支援課(2014~2015年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2015~2016年)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
王 植一(おう しょくいち)
2014年、ジェトロ入構。2014年11月よりジェトロ・成都事務所勤務。