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コロナ禍で人々の心を捉えたサイクリングと観葉植物(インドネシア)

2021年1月7日

インドネシアでは、2020年3月から新型コロナウイルスの感染拡大が始まった。中央政府と州政府は、大規模社会制限(PSBB)と呼ばれる感染封じ込め策で経済・社会活動を制限した。在宅勤務が義務化され、自宅で過ごす時間が増えたことで、運動不足になる人も増加した。

一方、ライフスタイルの変化は、インドネシアで新たなトレンドを生み出した。本稿では、「コロナ禍」の中で注目を集めた「サイクリング」と「観葉植物」について、関係者へのヒアリングを含め紹介する。

サイクリングブームで自転車販売が急増

2020年12月20日現在、インドネシアの累積感染者数は66万4,930人、死者数は1万9,880人だ。いずれも東南アジアで最大になっている。3月2日に最初の新型コロナウイルス感染者が発見されて以来、全国で感染が拡大。特にジャカルタ特別州がその中心となった。同州では、4月10日から6月3日にかけて感染拡大を防ぐためPSBBが実施され、指定業種を除き在宅勤務を義務付けられた(2020年4月14日付ビジネス短信参照)。さらに、ショッピングモールや公園、スポーツジムなども閉鎖。人々が家で過ごす時間は、長くなった。

6月上旬、感染拡大抑制に一定の成果が出ているとして、ジャカルタ特別州は「PSBB移行期間」に入った(2020年6月8日付ビジネス短信参照)。これは、期限を定めた上で経済活動を徐々に再開するものだ。2カ月弱もの間続いたPSBBで、運動不足になった人々の心を捉えたのがサイクリングだった。ジャカルタの目抜き通り、スディルマン通りには、自転車専用レーンが設けられた。12月に入っても多くの人がサイクリングを楽しんでいる。


スディルマン通りでサイクリングを楽しむ人々(12月20日ジェトロ撮影)

インドネシアの交通開発政策研究所(ITDP)は7月10日、6月にスディルマン通りで定点観測を行った結果外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を発表。自転車利用者数が前回の観測(2019年10月)と比較して6倍から11倍になったとした。ジャカルタで生活する筆者から見ても、「コロナ禍」前に比べてサイクリングをする人が増えたと実感できる。インドネシアの代表的な自転車メーカーの1つで、日本を含め世界に輸出するポリゴンバイク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます のウィリアム・ゴザリ取締役は「インドネシアでは5月以降、自転車への需要が増加した」と述べる。さらに、「ジャカルタでは自転車用部品などが品薄状態となった店舗が増えた」とした(2020年7月9日付「テンポ」紙)。

実態を把握するため、ジャカルタの自転車販売店にヒアリングしてみた。「バイクステーション」の販売員、ディンダ氏は、「人気は折り畳み自転車。売り上げは7月から8月が最もよく、12月は少し落ち着いてきたが前年と比べると高水準」と話した。同店で販売する折り畳み自転車の価格帯は、台湾製の400万ルピア(約2万9,200円、1ルピア=約0.0073円)から、インドネシア製の1,000万ルピアまでだ。その中で売れ行きが良いのは、インドネシア製の700万ルピアのものだという。同じくジャカルタの自転車販売店「フェリソン」のトゥリオ氏は、「コロナ禍の影響で前年比3倍の売り上げがある」とした。同店も、インドネシア製の折り畳み自転車を多くそろえるが、高額な米国製のロードバイク(1億2,150万ルピア)も販売する。ニーズは多様なようだ。


インドネシア製の折り畳み自転車(ジェトロ撮影)

聞き込みからは、国産の手頃な価格の自転車が人気を集めていることがうかがえる。一方でグローバル・トレード・アトラス(GTA)から自転車の輸入額をみると、2020年第3四半期(7~9月)で3,933万ドル(約40億5,099万円、1ドル=約103円)。前年同期比で約54%増だ(表参照)。輸入額全体の9割以上を占める中国をはじめ、英国、台湾、米国など、表中のいずれの国からも前年同期比で軒並み輸入も増加している。需要が拡大していることが、ここからも確認できる。

表:自転車(HS8712)の輸入(四半期ベース)(単位:ドル、%)
国・地域 2019年 2020年 構成比 増加額
1~3月 4~6月 7~9月 10~12月 1~3月 4~6月 7~9月
中国 15,009,523 15,865,968 24,877,143 22,459,359 16,525,559 20,743,021 36,675,566 93.3% 11,798,423
英国 17,431 1,471 4,300 15,703 245,814 194,565 854,975 2.2% 850,675
台湾 121,781 135,984 489,187 222,933 442,029 575,315 706,154 1.8% 216,967
米国 8,068 4,114 8,766 129,210 35,882 28,533 323,464 0.8% 314,698
シンガポール 7,621 7,710 46,883 47,939 118,562 29,127 314,580 0.8% 267,697
オランダ 1,153 1,103 301 13,076 2,871 4,262 106,100 0.3% 105,799
ドイツ 610 596 10,391 4,133 183 2,743 63,079 0.2% 52,688
スペイン 15,044 51,835 11,182 7,948 21,229 25,588 58,113 0.1% 46,931
日本 136 0 1,055 2,249 2,036 900 56,980 0.1% 55,925
合計(その他含む) 15,189,847 16,078,699 25,498,186 22,923,924 17,414,612 21,614,925 39,328,510 100% 13,830,324

注1:構成比は2020年7~9月のもの。
注2:増加額は2020年7~9月を前年同期と比較したもの。
出所:グローバル・トレード・アトラスからジェトロ作成

在宅時間の増加で観葉植物がブームに

コロナ禍で在宅時間が増加したことにより観葉植物などで屋内環境を豊かにしようとする動きも現れている。インドネシア花協会(アスビンド)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます のヘスティ・ウィダヤニ会長は地元紙の取材に対し、「ストレス軽減効果のある観葉植物への需要が増えている」と述べた(8月30日付メディアインドネシア)。インドネシア宅配業者の「ティキ」によると、2020年の8月から10月にかけての観賞品(植物と魚)の取り扱いが、1月から7月までと比較して100%増になっているとのことだ。(11月27日付コンパス)。

観葉植物のニーズについては、定量的なデータを入手することが難しい。そこで、実例から実態を把握するため、ジャカルタで観葉植物販売を行う「ショップウィズスカイ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」創業者のパトリシア・アリスト氏にヒアリングした(2020年12月11日)。


パトリシア・アリスト氏(同氏提供)
質問:
どのようなビジネスを行っているのか。
答え:
一般消費者向けの販売をメインに、2015年に創業した。観葉植物への関心を持ってもらうためにワークショップを開催し、インスタグラムなどのSNSを活用した情報発信を行ってきた。2018年からは、BtoBビジネスも本格化させた。ホテルやモール、カフェなどから依頼を受け、顧客と話し合いを行いながらデザインを決定し、観葉植物のレンタルおよびメンテナンスを行うもの。経営が軌道に乗ってきたことで、2018年には株式会社化した。出資の話をもらうことも増え、最近はベンチャーキャピタルから打診を受けるなど、事業規模が拡大しつつある。
質問:
どのような観葉植物を扱っているか。
答え:
150種ほどの植物を取り扱っている。人気なのは、いずれも熱帯性植物のモンステラ、フィロデンドロン、アンスリウムだ。当社としては、多くの人に楽しんでもらいたいという思いから、価格は3万5,000ルピアから300万ルピアと広めに設定している。

人気商品のモンステラ(ショップウィズスカイ提供)
質問:
「コロナ禍」で変化した点は何か。
答え:
一般消費者向けの販売が、前年の4倍増となった。また、需要の増加に供給が追い付かず、観葉植物の価格が高騰している。当店ではないが、モンステラに1億5,000万ルピアの値がついた事例を見かけたことがある。観葉植物は育てるのに時間がかかるため、供給がすぐに追いつくものでもない。結果的に、価格上昇につながる。一方、観光や飲食業界が主な顧客のBtoBビジネスは、コロナ禍の影響で需要が減少し、現在は停止状態だ。
質問:
観葉植物ブームは今後も継続すると考えるか。
答え:
コロナ禍を契機とした現在のブームはいずれ落ち着くだろう。しかし、関心の高まりは感じている。近い将来、観葉植物が一般の人々にも、より浸透すると考えている。現在はモンステラに人気が集まっているが、今後は、違う種類の観葉植物がブームになるかもしれない。また、ビジネスの可能性は国内にとどまらない。当社は今後、海外からの観葉植物の輸入に加え、海外への輸出を考えている。当社で開催しているワークショップには日本人も参加しており、外国人顧客への販売に手応えを感じているからだ。

ブームを契機とした需要定着に期待

このように「コロナ禍」でのブームをきっかけに、サイクリングと観葉植物は人々に注目されることになった。しかしながら、その価格を考えると、現時点ではインドネシアの多くの人々にとって手頃な趣味とは言い難い。こうしたトレンドが継続するかについては疑問符が付く。

ただし、本稿執筆にあたり関係者にヒアリングをする中で、「ブームは終わるかもしれないが、マーケットの将来性は大きい」という言葉を多く聞いた。インドネシアの所得層のデータを見ると(図参照)、2020年では1万ドル未満の世帯数が全体の64%を占めているが、10年後の2030年には逆転する。1万ドル以上の世帯数が約6割を占めることになると予測されているのだ。上位中間所得層の増加が見込まれる近い将来、サイクリングと観葉植物は、より多くの人が楽しめる趣味になるのではないだろうか。

図:インドネシアにおける可処分所得ごとの世帯割合の推移
(2020~2030年)
可処分所得5,000ドル未満、5,000~10,000ドル、10,000~15,000ドル、15,000~35,000ドル、35,000ドル以上について、それぞれ、2020年は25.7%、38.2%、19.4%、14.5%、2.1%。2022年は22.1%、37.1%、21.2%、17.2%、2.5%、2024年は19.0%、35.4%、22.5%、20.1%、3.0%、2026年は16.3%、33.2%、23.5%、23.3%、3.7%、2028年は13.9%、30.9%、24.2%、26.6%、4.5%、2030年は11.9%、28.5%、24.4%、29.8%、5.4%。

出所:ユーロモニターからジェトロ作成

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
上野 渉(うえの わたる)
2012年、ジェトロ入構。総務課(2012年~2014年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2014年~2015年)、企画部企画課海外地域戦略班(ASEAN)(2015年~2019年)を経て現職。ASEANへの各種政策提言活動、インドネシアにおける日系中小企業支援を行う。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
シファ・ファウジア
2019年からジェトロ・ジャカルタ事務所で勤務。日系中小企業支援や、調査業務などを担当。

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