対中輸入依存リスクへの対策を模索する韓国政府・企業

2021年12月8日

尿素不足で中国依存リスクを再確認

韓国では、中国当局の尿素輸出規制によって2021年10月末以降、尿素不足が問題となった(2021年11月9日付ビジネス短信参照)。尿素はディーゼル車の排気ガスを浄化する尿素水の原料で、尿素不足によりトラック物流停滞の懸念が高まるなど、波紋が一気に広がった。その後、韓国政府や韓国企業の尿素・尿素水確保努力により、問題はいったん沈静化に向かったが、韓国ではこれを契機に、サプライチェーンの中国依存リスクがあらためて認識されることとなった。ちなみに、尿素はかつて、韓国企業が国内生産していたが、価格競争力が劣るために2010年初頭に撤退、その後は全量を輸入に依存することになった。特に、ディーゼル車に使用される尿素水用の尿素は、ほとんどを中国からの輸入に頼っていた。

中国依存リスクが顕在化したのは今回が初めてではない。近年では、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題や、新型コロナウイルス禍の初期局面でのワイヤハーネス(自動車部品の一種)不足が中国依存リスクを痛感させる出来事だった。

前者のTHAAD配備問題は、米韓が北朝鮮の脅威に対抗すべく、2016年7月に韓国にTHAADを配備することを正式決定したことが直接の引き金になった。中国はTHAAD配備が自国の安全保障を脅かすとして、配備に強く反対、韓国に対して事実上の報復措置を講じた。当初は、韓国人アーティストの中国での活動や、韓国ドラマ・K-POPなどの中国での流通を規制する「限韓令」から始まり、その後、中国人の韓国団体訪問制限や、THAAD配置場所を提供したロッテグループに対する中国国内のロッテマート店舗の営業停止命令などの措置が取られた。中国側の措置として対韓輸出規制強化が前面に出たわけではなかった。しかし、韓国は今後、中韓関係が再び悪化した場合、中国が対韓輸出を制限する恐れがあるとして、警戒を強めている。

他方、後者に関しては、韓国はワイヤハーネスを対中輸入に大きく依存していた。ところが、中国での新型コロナウイルス感染拡大でワイヤハーネス工場が一斉に操業を停止し、中国からの輸入が止まったため、韓国自動車メーカー各社の在庫は底をついた2020年2月上旬に相次いで操業中断に追い込まれた。ちなみに、中国依存度が高いといっても、調達先は中国地場企業ではなく、韓国企業4社(うち1社は在韓ドイツ系企業)の中国生産拠点だった。これらの企業は韓国国内市場向け生産拠点を韓国から中国・山東省に移転していた。

多くの品目が対中輸入に依存

中国依存リスクが懸念されるのはこれらの品目に限らない。韓国の対中輸入は2000年の127億9,873万ドルから2020年には1,088億8,465万ドルへ、この20年間で8.5倍に増加した(図参照)。2000年に8.0%にすぎなかった輸入総額に占める対中輸入のシェアも上昇傾向で、2020年には23.3%に達した。まさに、韓国のサプライチェーンの中国依存度は上昇の一途とすらいえよう。

図:韓国の対中輸入額と輸入総額に占める対中輸入のシェアの推移
韓国の対中輸入は増加傾向が続いている。2000年は128億ドルだったが、2020年には1,089億ドルになっている。また、韓国の輸入総額に占める対中輸入のシェアも2000年8.0%から2020年には23.3%に達するなど、一貫して上昇している。

注:2021年は1~10月合計。
資料:韓国貿易協会

品目別にみると、中国依存度が相当高い品目も少なくない。ちなみに、政府系シンクタンクの産業研究院が2021年11月に発表した「韓国産業の供給網の脆弱(ぜいじゃく)性および波及経路の分析」では、HS6桁ベースでみた約5,300品目のうち、韓国の対世界貿易収支が赤字で、かつ対中輸入比率が50~70%の「関心品目」数は1,088品目、70%以上の「脆弱品目」数は604品目で、これら品目の中国依存度が特に高く、モニタリングが必要とした。品目数は定義により変わりうるだろうが、ここから言えるのは、幅広い分野の多くの品目で中国依存度が高く、中国依存リスクがあるということだ。

では、具体的にどのような品目で過度な中国依存が警戒されているのだろうか。韓国メディアはさまざまな報道を行っているが、頻繁に挙げられているのが車載電池の原料だ。例えば、「韓国経済新聞」(2021年11月14日、電子版)は「供給網を掌握した中国、韓国はお手上げ」と題する記事の中で、中国への依存度が高い品目として、車載電池原料から酸化タングステン、水酸化カルシウム、水酸化マンガン、酸化コバルト、人造黒鉛などを挙げた。さらに、同紙は同日付の別の記事で、車載電池材料以外として、半導体原料の炭化ケイ素、ガリウム、ゲルマニウムなど、鉄鋼関連では塗装亜鉛メッキ鋼板、ボロン鋼線材、溶接角パイプ、石油化学関連ではアクリロニトリル、硝酸エチルなどを挙げている。中国依存が高いのは以上で挙げた韓国の主力輸出産業に関連した品目に限らない。「聯合ニュース」(2021年11月21日)は農作物、「ソウル経済新聞」(2021年11月23日、電子版)はダンボールの副材料(ホウ砂、苛性ソーダ)の中国依存度の高さをリスク要因と指摘するなど、中国依存度が高い品目はさまざまな分野に広がっている。

こうした中国依存度が高い品目は大きく2つのタイプに分けられよう。第1のタイプは天然資源だ。レアメタルやレアアースなど、中国に遍在する資源が少なくない。特に、車載電池、半導体などは韓国が現在および将来の主力産業として育成しつつあるだけに、それらの材料を中国一国に大きく依存していることに対して危機感が高まっている。

第2のタイプは労働集約型品目だ。前述のワイヤハーネスや尿素が該当する。これらに共通しているのは、かつては韓国で生産してきたものの、韓国の生産コスト上昇や環境問題などを受け、中国に生産拠点を移して中国から逆輸入したり、国内生産を中止して中国からの輸入に代替したりしたものだ。ちなみに、在中韓国系企業の販売先の変化は、こうした変化を反映している。韓国輸出入銀行によると、在中韓国系企業の売上高構成比は、2004年時点で中国49.4%、韓国14.5%、第三国36.2%だったが、2018年時点では中国56.7%、韓国36.6%、第三国6.7%に変化している。韓国企業の場合、中国を第三国向け輸出の生産拠点とした局面は既に過去のものとなっているが、韓国向け生産拠点としての位置づけは今でも強固だ。これは、中国の生産コストが上昇したとしても、同様に上昇が続いている韓国に比べると、依然として安価であり、また、中国は韓国から近いため、物流面で東南アジア諸国などに比べはるかに有利だからだ。

中国発サプライチェーンリスクに対する政府・企業の対応策

こうした中国依存リスクを軽減するために、韓国政府や韓国企業はどのような努力を行っているのだろうか。

韓国政府はグローバルサプライチェーンの強化を目指し、2020年7月、それまでの特定分野の素材・部品・装備(製造装置)の競争力強化に焦点を合わせていた政策を拡張した「素材・部品・装備2.0戦略」を発表した。新しい政策では、338品目について安定的供給確保のためのさまざまな施策を盛り込んだ。しかし、そこには尿素は含まれていなかった。韓国政府は、政府開催の「素材部品装備競争力強化委員会」の第8回会合(2021年11月17日開催)の結果、「今回の尿素水問題を契機に、サプライチェーン問題が既存のハイテクコア部品中心から、海外依存度の高い鉱物などの原料・素材、国民経済に必須な汎用品目まで拡大すべきという点で意見が一致し、今後、官民の専門家とともに、国内のサプライチェーンをさらに綿密に点検し、安定的なサプライチェーン構築に注力することを決定した」と発表している。金富謙(キム・ブギョム)首相も11月22日、記者懇談会で「90%以上を中国からの輸入に依存する尿素のように、特定国の輸入比率が高い1,000品目強について、管理体制を構築する」「国家戦略物資ではないが不足時に致命的な物資を探したら、1,000品目を超えた。この中で備蓄できるものは備蓄し、また、コア技術は保護していく」と述べた。

また、韓国政府は海外進出した韓国系企業の国内回帰(リショアリング)を促進する政策を行っている。この政策は、2013年12月の「海外進出企業の国内回帰支援に関する法律」施行を機に本格化した。当初の目的は製造業の空洞化回避や国内での雇用創出などで、海外生産を一定水準以上縮小して国内に生産拠点を新増設した場合に、法人税減免、立地・設備補助金の支給といったインセンティブを供与するというのが主な内容だった。特に念頭に置かれたのが在中韓国系企業だった。それが、グローバルサプライチェーン強化のためにも有効ということで、あらためて政策の実行に注力しているところだ。ただし、韓国の生産コストが高いことや、企業の製品の最終需要先が韓国国内よりも海外にあるといった制約のため、今までのところ実際の国内回帰事例はあまり多くないようだ。

次いで、韓国企業の取り組みについては次のとおりだ。1つ目は原材料の安定確保に向けた中国企業との関係強化の動きだ。特に関心の高い車載電池原材料について、「中央日報」(2021年11月12日、電子版)は「ほとんどの韓国の車載電池企業は中国の原材料企業と戦略的パートナーシップを構築している」「供給が問題になる可能性はない」とする業界関係者の話を伝えている。実際、最近の事例では、2021年9月にLGエナジーソリューションが車載電池原材料生産の上海格派●鈷材料(●=金へんに臬)に4.8%出資する契約を締結するとともに、2023年からニッケル2万トンの供給を受ける長期購買契約を締結している。また、ポスコケミカルは2021年9月、車載電池負極材原料として使われる球形化黒鉛メーカーの青島重石の株式13%を取得したと発表した。さらに、同社は2021年11月には、人造黒鉛を使った車載電池負極材を生産する内蒙古斯諾新材料科技に対し、株式15%を取得することを発表している。

2つ目は、中国以外での原材料確保だ。例えば、これも車載電池関連だが、ポスコは2021年10月、オーストラリアのリチウム鉱山企業ピルバラ・ミネラルズと韓国に合弁会社を設立することで合意した。ピルバラ・ミネラルズは、2023年下半期に韓国南西部の全羅南道光陽市で完工予定の水酸化リチウム工場にリチウム鉱石を安定供給する予定だ。新工場の水酸化リチウムの生産量は年間4万3,000トン、電気自動車100万台分の車載電池に使用される量としている。

3つ目は、原材料の使用量を減らす方策だ。例えば、2021年9月、LGイノテックは中国産の重レアアース使用量を減らすため、新しいマグネットの開発に成功したことを発表した。マグネットは車両用モーターや携帯電話カメラなどに使われるが、新しいマグネットにより、重レアアースの使用量を60%削減できるとしている。

米中対立などの国際情勢の中で、サプライチェーン管理の重要性は今後ますます高まっていく。韓国政府・企業はいかに中国依存リスクを管理していくのか、今後も模索が続こう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
百本 和弘(もももと かずひろ)
2003年、民間企業勤務を経てジェトロ入構。2007年7月~2011年3月、ジェトロ・ソウル事務所次長。現在ジェトロ海外調査部主査として韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。