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日本酒に魅了され、普及に奮闘するスイス人たち

2021年4月27日

日本(財務省)の貿易統計によると、日本からスイスへの日本酒輸出額は2000年から2020年までの間に約9倍に増加した(図参照)。その背景には、日本へ旅行するスイス人観光客の増加(注1)によって日本酒が身近になったことや、和食の知名度の向上によって日本を訪れたことがない人でも和食に触れる機会が増え、日本酒を飲む機会が増えたことなどが挙げられる。

ジュネーブで30年間営業している日本食料品店「Uchitomi」の内富龍也社長によると、日本酒はこれまで、「アルコール度数が高い、熱燗(あつかん)で飲む酒」という誤ったイメージを持たれていた。しかし、常温や冷やでも飲める酒というイメージが段々と定着したことで浸透し始めたという。同店は現在、300種類以上の銘柄を扱っている。

図:スイス向け日本酒輸出額の推移(2000~2020年)
輸出量、2000年が16091ℓ、2001年が28229ℓ、2002年が28061ℓ、2003年が18386ℓ、2004年が21748ℓ、2005年が28827ℓ、2006年が26177ℓ、2007年が32221ℓ、2008年が29680ℓ、2009年が24599ℓ、2010年が25934ℓ、2011年が29109ℓ、2012年が27548ℓ、2013年が23466ℓ、2014年が35330ℓ、2015年が39189ℓ、2016年が35522ℓ、2017年が45281ℓ、2018年が41112ℓ、2019年が41929ℓ、2020年が50705ℓ。 輸出金額、2000年が743万6千円、2001年が1082万7千円、2002年が1125万7千円、2003年が934万6千円、2004年が1336万8千円、2005年が1818万円、2006年が1697万7千円、2007年が2211万1千円、2008年が2074万6千円、2009年が1979万2千円、2010年が2157万8千円、2011年が1858万6千円、2012年が1922万4千円、2013年1884万5千円、2014年が2897万円、2015年が3616万9千円、2016年が3656万5千円、2017年が4331万2千円、2018年が4475万6千円、2019年が4208万6千円、2020年が6708万2千円。

注:HSコード220600200(清酒)。
出所:財務省貿易統計よりジェトロ作成

日本酒に出合って魅了され、その魅力をスイスに伝えようと尽力している人もいる。ジェトロは日本酒の普及・啓発に努めるスイス人にインタビューした。(1) スイス初の酒ソムリエ協会(Sake Sommelier Association、以下、SSA)のマスター酒ソムリエ、(2) スイス初の日本酒醸造所の経営者、(3) フランス語、英語、日本語の3カ国語で日本酒に関する著書を出版した写真家の3人だ。

スイス初の「マスター酒ソムリエ」、チャーリー・イテン氏

SSAは、海外での日本酒教育と普及促進のために2000年にロンドンで設立された。欧州各地で、認定講師による日本酒に関する講座を提供。日本酒に関するさまざまな知識、テイスティング訓練、サービスを習得した者に「酒ソムリエ(Certified Sake Sommelier)」資格を付与。さらに、SSAが主宰する酒ソムリエアカデミーでは、「マスター酒ソムリエ」という上級資格を授与している。その取得のためには、日本酒とそのサービス全般について学ぶコースを修了し、試験に合格する必要がある。

チャーリー・イテン氏はスイス初のマスター酒ソムリエだ。2020年2月からSSA認定の日本酒講座を開催している。スイスでの開催は、これが初だった。ジェトロは2021年2月10日、同氏に話を聞いた。


チャーリー・イテン氏(本人提供)
質問:
日本酒ソムリエになった経緯は?
答え:
チューリッヒ大学で日本美術を学んだ後、オークションハウスで美術品の専門家として勤務していた。17歳くらいの時にスイスで初めて燗酒(かんざけ)を飲む機会があった。もっとも、その時はおいしいとは思わなかった。1997年に初めて日本を訪れた際、友人にごちそうしてもらった日本酒があまりにもおいしく、それまで持っていたイメージが覆された。それ以来、個人的に日本酒について学んできた。
2017年に趣味ではなく職業として日本酒に関わることを決めた。SSAで日本酒について学び、試験に合格。最終的に、SSAの上級資格「マスター酒ソムリエ」を取得した。その後、SSA認定講師となり、2020年2月にスイスで初めて「SSA Introductory Sake Professional®」(日本酒入門コース)を実施した。翌3月以降は新型コロナウイルスの感染が拡大して対面での講座は難しくなった。それでも、オンラインツールを使って複数回の講座を実施している。
質問:
講座の参加者は主にどのような人か?
答え:
初回の参加者は15人で、その8割はレストランやホテルなどの飲食業関係者だった。専門的な知識を高めるために受講していた。残りの2割程度は、日本酒に関心のある一般人。そのほとんどはまだ日本を訪れたことがなく、スイスで日本文化や和食に出合って日本酒に興味を持った人たちだ。参加者はコースを通して日本酒の製造方法や歴史を学び、テイスティングをし、記述試験を受け、合格者には修了証が授与された。
質問:
ここ数年でスイスでの日本酒人気は高まっていると感じるか。
答え:
確実に高まっていると感じる。ただ、普及のためにできることはもっとある。日本酒のことを熱燗で飲むアルコール度数の高い特殊なお酒だと考えている人はまだ多い。一度、適切な管理をされた日本酒を一番おいしい温度で飲むと、驚かれる。そのような酒を飲める場所や機会を増やしていく必要がある。
質問:
日本酒の啓蒙のために何が必要と考えているか。
答え:
ペアリングの仕方を提案し、和食だけでなくさまざまな洋食にも日本酒が合うことを伝えることが必要だろう。例えば、私は地元のショコラティエNala the Chocolate Queen(ナラ・ザ・チョコレート・クイーン)とともに、日本のゆず酒やブラッドオレンジの酒を使ったガナッシュやトリュフを開発した。2020年には、彼らと一緒に「フードチューリッヒ」(注2)で、スイスの名産品のチョコレートと日本酒をペアリングするイベントを開催。参加者は意外な組み合わせに驚きながらも楽しんでいた。現在は、コロナでリアルなイベントは難しくなっている。機会を見つけて、今後もさまざまなペアリングを提供したい。
質問:
今後の展望は。
答え:
ガストロ・スイス(注3)は、飲食関係の専門家を対象に「ソムリエトレーニングコース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を主催している。2021年11月以降、そこに日本酒の授業が追加されることになった。スイスの飲食関係者に対して、ワインやスピリッツだけではなく、日本酒に関する教育をすることができる機会が新たに生まれたことになる。このことをうれしく思っている。
質問:
スイスでの日本酒市場の未来をどうみているか。
答え:
明るいと思う。クラフトビールのように、日本以外の国で醸造所が増えていることも注目すべき点だ。これにより、日本酒に新たなイノベーティブなアイデアが取り込まれるだろう。
日本酒の浸透度に関して、フランスや英国に比べるとスイスは遅れているとは思う。例えばパリでは、さまざまなフレンチレストランで日本酒が提供されている。スイスではまだだ。一方でそれは、スイスにおける日本酒市場が今後も成長する可能性があることを意味している。

スイス初の日本酒醸造所、YamaSake

チューリッヒ州の町メットメンシュッテンに、スイス初の日本酒の醸造所YamaSakeがある。ジェトロは2020年12月3日、蔵を経営するオリバー・ウェイベル氏にインタビューした。


オリバー・ウェイベル氏(左)とクリスチャン・ウェイベル氏(右)(YamaSake提供)
質問:
日本酒を造り始めた経緯は。
答え:
もともとはウェブデザインを本職にしていた。一方で、昔から料理が大好きで、日本に関心を持ったきっかけは和食からだった。1980年に兄の誕生日にチューリッヒの老舗日本料理店に家族で行った際、初めてすしを食べた。和食の香りや食感の豊かさに感動した。それ以来、自分ですしを握って友人に振る舞うようになった。日本への興味はどんどん広がっていき、盆栽も楽しむようになった。
2004年に初めて日本を訪れ、さまざまな日本酒を味わうことができた。スイスと日本には多くの共通点があると感じた。日本酒の根底にある職人気質や正確さは、スイスの伝統的なチョコレートづくりに共通するものがあると思う。地理的にも類似点が見られ、山があり、おいしい水があるところも似ている。そこで、スイスでも日本酒づくりができると思い、YamaSakeを2020年春に立ち上げた。兄も加わってくれた。
まだスタートアップ段階で生産量は少ないが、少しずつ生産能力を向上させていき、2021年春には本格的に生産を開始する予定だ。現在の顧客はスイス国内の数カ所のレストランと個人客だ。しかし、今後は地元の大手小売店にもアプローチしたい。
質問:
銘柄名の「YamaSake」の由来は。
答え:
スイスと日本の近似性を表現することを意識した。ラベルの赤い丸は太陽で、色はスイスと日本の国旗を意識している。山のモチーフは富士山とよく間違えられるが、これはスイスの山を表している。美しい山並みを有していることは、スイスと日本の大きな共通点だ。

同社のメイン銘柄(同社提供)
質問:
製造している日本酒の特徴は。
答え:
私たちが造る日本酒は、比較的フルーティーで白ワインに近い風味があると思う。特徴は全て手作りであること。メインの銘柄は「YamaSakeNr.1 Craft Sake」だ。原料のコメはイタリア産、地元スイスの新鮮な水源から引いた水、日本から輸入したこうじ菌と酵母を使っている。スイスの水は日本と違って硬水なので、発酵の際に温度を非常に低く保つ必要がある。
機械の調達は最もチャレンジングな部分だった。槽(ふね、注4)にはチーズメーカーが使う機械を使用している。チーズ製造には圧力をかけて水分を取り除く工程がある。搾ったものが酒となる日本酒とは、ちょうど逆方向の作業だ。しかし、機械の調達元のチーズメーカーは私たちがやりたいことを理解してくれた。容量の大きな槽が必要な場合には、ワインのブドウ用プレス機械を使うこともある。機械の調達に関しては、欧州各地の酒蔵仲間から得ている情報も役立った。

YamaSake醸造所(同社提供)

醸造に使用する機械(同社提供)
質問:
日本酒の魅力は何か。
答え:
食事の味を邪魔しないところだ。例えば、赤ワインは時に主張が強すぎ、酸味が料理の味を邪魔してしまうこともある。日本酒の香りは料理に調和し、むしろ料理の味を引き立ててくれる。
2020年8月に初めてすしと日本酒のペアリングイベントを開催した。日本酒を初めて飲む客の中には、「昼間から、アルコール度数の高い酒を飲めない」という人もいた。日本酒は醸造酒でアルコール度数は高くないことなどを、チャート図を見せながら説明した。そう言っていた人は説明を受け、香りをかいだ後に飲み始め、イメージと違っておいしいと驚いていた。スイスでは日本食レストランが増えているため、今後ますます日本酒は受け入れられると思う。
日本酒はアルコール度数が高いというイメージがついてしまったのは、中華料理店に起因するのではないか。1990年代に、スイスの中華料理店では、熱燗にした日本酒を食後に提供していた。この習慣が広まり、多くのスイス人がそのイメージをいまなお持っている。「酒=アルコール度数が高い、熱燗」という固定観念からの脱却を促さないといけない。伝統的な高級フランス料理のシェフが新しい風味を生み出すために料理に日本酒を使うことが増えているトレンドも重要だ。この傾向は今後さらに高まり、欧州での日本酒の認知度向上に貢献すると期待している。
質問:
YamaSakeへの商品としての評価は。
答え:
ロンドン酒チャレンジ2020(注5)のNew World Sake部門で銅賞を受賞した。
このコンペティションの特徴の1つは、審査員によるテイスティングノートが提供されることだ。当社の日本酒について「チーズスフレ、ジンジャー、ナッツの風味を感じる」など、味覚について貴重な感想を聞くことができた。
質問:
日本酒の未来についてどう考えるか。
答え:
時間をかけてじっくりと観察しながら行われる「発酵」というプロセスは、家にこもって、ゆっくり物事に取り組みやすくなった現在の社会の状況に合っていると思う。
「時間をかけてつくる」という日本酒づくりの精神は、欧州の精神との親和性もあり、欧州で受け入れられやすいと思う。YamaSakeではこうじ米、酒かす、醸造キットも販売している。新型コロナウイルス感染拡大による行動制限措置の期間中、個人客による購入が増えた。

学者、写真家、そして日本酒ソムリエ

マシュー・ゼルウィガー氏は、世界的に活躍する写真家だ。写真集「Secrets de riz et d'eau(米と水と職人が織りなす世界)」では、フランス語、英語、日本語の3カ国語で日本酒の魅力について紹介した。日本酒ソムリエの資格も有する。さらに、医用工学の博士号を持つ学者としての経歴も持つ。2021年3月12日に、話を聞いた。


ゼルウィガー氏(左)と著書(右)(本人提供)
質問:
日本酒ソムリエになった経緯は。
答え:
医用工学の博士号を取得した後に何年か働いた。その後、写真家になるという長年の夢をかなえることを決意した。1997年に初めて日本を旅行し、日本の歴史や言語、文化に深く魅了された。2017年に写真集「Secrets de riz et d'eau(米と水と職人が織りなす世界)」を出版。それ以降、さまざまな場で日本酒の魅力を伝えるイベントを行ってきた。
SSA認定の酒ソムリエとSake Educational Council(SEC、注6)認定の「Certified Sake Professional」の両資格を取得している。今後、スイスで日本酒の講座を開催する予定だ。(前述の)チャーリー・イテン氏がスイスのドイツ語圏をカバーする一方で、私はフランス語圏で日本酒教育に努めたいと考えている。
さらに、Finest-sake.chという日本酒輸入会社を立ち上げる準備をしている。スイスでまだ流通していなくて、希少性のあるプレミアム日本酒を輸入し、スイスの人に知ってもらいたい。
質問:
日本酒を知ったきっかけと、日本酒の魅力は。
答え:
東京で知人に連れられて訪れたすし屋で日本酒を飲む機会があった。それまで飲んだことがあった日本酒との違いに驚いた。それ以来、日本酒のとりこになっている。日本酒は、職人が心を込めて愛情を注いでつくった高品質のものという意味で、日本のアイデンティティーを完全に体現したものだと思う。
質問:
「Secrets de riz et d'eau(米と水と職人が織りなす世界)」の出版について。
答え:
「酒サムライ」(注7)として活躍する方と偶然知り合い、酒蔵取材に同行して写真撮影をすることになった。そのおかげで日本各地の酒蔵と知り合い、何度か彼らを訪問するうちに撮りためた写真が増えていった。
同時に、スイスにいる友人が日本酒に関する正しい知識を持っていないことに気付いた。当時、さまざまな雑誌に日本酒に関する写真を既に取り上げてもらっていた。しかし、1つにまとまった、長く人々に愛される作品を作りたいと思うようになり、写真集として出版することにした。資金の半分はクラウドファンディングで集めた。印刷した分はほとんど完売。この本は技術的な要素を重視したものではなく、日本酒にまつわる文化、熟練した職人の技、日本酒がつくられる場所の美しさに焦点を置いた。
質問:
スイスの日本酒市場をどう見ているか。
答え:
スイスの中でも特にロマンド地域(フランス語圏)は、フランスと文化が近い。ビールよりもワインを好んで飲む傾向がある。日本酒とワインは、コメやブドウというそれぞれの国の人にとって身近で愛着のある原料が使われていることや、食事との合わせ方に多様な可能性があること、などが共通する。親和性が高いと言えるだろう。スイスの人々は、日本酒を頭が痛くなる度数の高いお酒という誤解をするのをやめ、食事と一緒に楽しむようになり始めている。日本酒が洋食にも合うことをもっと知ってもらいたい。

注1:
日本政府観光局(JNTO)のデータによると、スイスからの訪日外国人旅行者数は2011年に比べて2019年には3倍以上増加していた。
注2:
スイス最大の商業都市チューリッヒで毎年行われるフードフェスティバルで、11日間にわたり100以上の食に関連するイベントが開催される。
注3:
約2,500軒のホテルを含む約2万人の会員を有するスイスのホテル・外食業界団体。
注4:
「ふね」。発酵を終えたもろみを搾ってろ過し、酒と酒かすに分離するために用いられる道具。
注5:
日本国外で酒の普及を目指すことなどを目的に2012年に開始したコンペティション。各国で活躍する日本酒ソムリエが審査する。
注6:
Sake Educational Councilは、世界的に著名な日本酒ジャーナリストである米国出身のジョン・ゴントナー氏が設立した日本国外での日本酒教育を推進する団体。
注7:
日本全国の若手蔵元で組織する日本酒青年協議会が日本酒と日本文化を広く世界に発信することに貢献している人物に叙任する称号。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
城倉 ふみ(じょうくら ふみ)
2011年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ鹿児島の勤務を経て、2018年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所
ナタリー・コルニエ
2001年からジェトロ・ジュネーブ事務所勤務。日本食のプロモーションや対日投資促進事業等に従事

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