2020年の世帯実質所得は2018年比5.8%減少、家計支出に新型コロナが大きく影響(メキシコ)
全国家計調査(ENIGH)結果から

2021年9月24日

メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)の2020年全国家計調査(ENIGH 2020)によると、同年の世帯平均実質所得は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、前回調査時(2018年)よりも5.8%減少した。政府の補助金や在外移民の家族送金などの移転所得を除く自己収入でみると、2018年比8.4%減の大きな落ち込みとなった。所得格差は以前よりは縮小したが依然として大きく、上位10%の世帯の平均所得は下位10%の16.4倍に及ぶ。南北格差も大きく、北東部ヌエボレオン州の世帯平均所得は南部チアパス州の2.5倍に達する。家計支出の構成比をみると、食費や光熱費、医療関連の支出が拡大している一方、外食や娯楽に向けられる比率が縮小しており、新型コロナ禍の影響が色濃く出ている。

徐々に進む少子高齢化

INEGIが2021年7月28日に発表した2020年全国家計調査(ENIGH 2020)は、2020年8月21日~11月28日に全国10万5,483戸を対象に実施された2年に1度の標本調査だ。同調査に基づく推計によると、メキシコの世帯総数は3,574万9,659世帯、世帯構成員総数は1億2,676万856人、1世帯当たりの平均構成員数は3.5人となっている。世帯当たりの就業者数は1.7人で、共働きが多い。世帯主の平均年齢は51.2歳だが、世帯構成員としては依然として若い層が多く、30歳未満が48.7%に達する。しかし、メキシコでも核家族化と少子高齢化が進みつつあり、世帯関連データを10年前と比較すると、構成員数は0.4人減少、世帯主の平均年齢は2.9歳上昇、30歳未満の構成員の比率は6.2ポイント低下、60歳以上の比率は3.5ポイント上昇している(表1参照)。

表1:メキシコの世帯関連データの推移
指標 単位 2008年 2010年 2012年 2014年 2016年 2018年 2020年
人口 1,000人 111,612 114,560 117,284 119,906 122,644 125,092 126,761
世帯数 1,000世帯 27,875 29,557 31,559 31,671 33,463 34,745 35,750
世帯構成員数 人/世帯 4.0 3.9 3.7 3.8 3.7 3.6 3.5
世帯当たり就業者数 人/世帯 1.7 1.6 1.7 1.6 1.7 1.7 1.7
世帯主平均年齢 48.2 48.3 48.6 48.8 49.2 49.8 51.2
30歳未満の構成比 56.0 54.9 53.9 53.4 52.1 50.9 48.7
60歳以上の構成比 9.8 10.1 10.8 10.6 11.3 12.1 13.6

2020年の世帯平均所得額は四半期で5万309ペソ(約24万9,500円、2020年期中平均レートは1ペソ=約4.96円)、月額換算で1万6,770ペソだ。所得分配をみると、所得上位10%(第X階層)の世帯所得を合計すると全世帯所得の32.5%を占めるが、下位10%(第I階層)の世帯所得を合計しても同2.0%にすぎない。依然として所得格差が大きい。上位10%の月額世帯平均所得5万4,427ペソは、下位10%の世帯平均所得3,313ペソの16.4倍に及ぶ。上位20%の世帯だけで全世帯所得の48.4%を占め、上位30%まで広げると6割強だ。他方、下位30%の所得を合計しても、全体の9.8%にすぎない(図1参照)。

図1:2020年の世帯所得の所得階層別シェア(%)
2020年の全世帯所得に占める所得階層別のシェアを示す円グラフ。第I階層が最も貧しい10%の世帯、第X階層が最も裕福な10%の世帯を意味する。第I階層の世帯所得の合計が全世帯所得に占める比率は2.0%、第II階層は3.4%、第III階層は4.4%、第IV階層は5.5%、第V階層は6.6%、第VI階層は8.0%、第VII階層は9.7%、第VIII階層は12.0%、第IX階層は16.0%、第X階層は32.5%を占める。

注:所得階層は世帯数を均等に所得の低い順から高い順(I→X)へ10分割したもの。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)「全国家計調査(ENIGH)2020」

世帯構成員1人当たりの所得額でみると、その差はさらに大きくなる。貧しい世帯ほど構成員が多い傾向があり、1人当たりの平均所得額(月額換算)は、第I階層の897ペソに対し、第X階層では1万6,665ペソに達し、第I階層の18.6倍に相当する。なお、低中所得層の所得の重要な部分を政府の補助金や在外移民からの家族送金などの移転所得が占めていることもあり、移転所得を考慮しない自己収入だけでみると、第I階層の月額世帯平均所得は1,251ペソにすぎず、第X階層の4万8,194ペソの38分の1にも満たない。

在外移民の郷里送金が所得格差縮小に貢献

2020年の世帯平均所得は、実質GDP成長率がコロナ禍で世界恐慌以来のマイナス成長となるマイナス8.2%を記録したこともあり、2018年の前回調査と比較して実質5.8%減少した。雇用が安定し、インフレが低水準で推移し、内需が活性化していた2016年と比較すると実質9.7%の減少となり、世帯収入の落ち込みは深刻だ(表2参照)。

表2:階層別世帯平均所得額(月額)推移(単位:2020年価格ペソ,%,ポイント)(△はマイナス値)
所得階層
(10段階)
2016年
金額
2018年
金額
2020年
金額
伸び率(2020年)
2016年比 2018年比
I 3,257 3,269 3,313 1.7 1.3
II 5,666 5,775 5,621 △ 0.8 △ 2.7
III 7,545 7,684 7,425 △ 1.6 △ 3.4
IV 9,394 9,571 9,186 △ 2.2 △ 4.0
V 11,491 11,587 11,122 △ 3.2 △ 4.0
VI 13,896 13,966 13,369 △ 3.8 △ 4.3
VII 16,926 16,948 16,223 △ 4.2 △ 4.3
VIII 21,300 21,116 20,199 △ 5.2 △ 4.3
IX 28,744 28,192 26,812 △ 6.7 △ 4.9
X 67,589 59,954 54,427 △ 19.5 △ 9.2
平均 18,581 17,806 16,770 △ 9.7 △ 5.8
ジニ係数 0.449 0.426 0.415 △ 0.034 △ 0.011

注:所得階層は世帯数を均等に所得の低い順から高い順へ10分割したもの。
平均所得は原典の四半期額を3で除して月額に換算した。
構成比は各階層の所得合計が全世帯所得に占める割合。
出所:INEGI「ENIGH2020」から作成

所得階層別にみると、第1階層を除けば軒並み所得が減少しており、2018年調査では2016年比で所得が増加していた中間層(第IV~第VII階層)も、2020年は所得を大きく減らしている。所得階層が上がるほど減少率が大きかったこともあって所得格差は縮小し、ジニ係数(注)も改善している。ただし、この背景には移転所得の増加があり、必ずしも低中所得層の自己収入が改善したわけではない。移転所得を除いた自己収入を前回調査(2018年)と比べると、第III~第VI階層の減少の幅が大きい(表3参照)。これらの層の収入を支えたのが移転所得の増加であり、2018年比でそれぞれ10%強増えている。

表3:階層別世帯平均所得額(月額)推移(移転所得を除く)(単位:2020年価格ペソ,%)(△はマイナス値)
所得階層
(10段階)
2016年
金額
2018年
金額
2020年
金額
伸び率(2020年)
2016年比 2018年比
I 1,189 1,202 1,251 5.2 4.1
II 3,263 3,324 3,133 △ 4.0 △ 5.7
III 5,300 5,492 5,006 △ 5.5 △ 8.9
IV 7,190 7,453 6,856 △ 4.6 △ 8.0
V 9,186 9,467 8,733 △ 4.9 △ 7.8
VI 11,534 11,743 10,901 △ 5.5 △ 7.2
VII 14,420 14,564 13,638 △ 5.4 △ 6.4
VIII 18,420 18,410 17,216 △ 6.5 △ 6.5
IX 25,150 24,837 23,200 △ 7.8 △ 6.6
X 61,302 54,269 48,194 △ 21.4 △ 11.2
平均 15,695 15,076 13,813 △ 12.0 △ 8.4
ジニ係数 0.499 0.475 0.468 △ 0.031 △ 0.007

注:所得階層は世帯数を均等に所得の低い順から高い順へ10分割したもの。
平均所得は原典の四半期額を3で除して月額に換算した。
構成比は各階層の所得合計が全世帯所得に占める割合。
出所:INEGI「ENIGH2020」から作成

移転所得の増加の要因としては、左派ポピュリスト政権であるアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール現政権下で進められている福祉政策の影響も考えらえるが、より大きな要因とみられるのが、在米を中心とする在外移民のメキシコへの郷里送金の増加だ。2020年に米国政府が実施した現金給付や失業保険の拡充を含む史上最大規模の救済措置(2020年3月30日付ビジネス短信参照)は、米国で就労するメキシコ系移民による郷里送金を増加させることとなった。同年の外国からメキシコへの送金額は過去最高で、前年比11.4%増の406億700万ドルとなり、GDP比3.7%を占めた。送金額は2014年以降増加を続けてきたが、コロナ禍の失業などで送金額が減少してもおかしくない状況下で、2020年の送金額が過去最高を記録した背景には、米国政府による手厚い救済措置があったとみられる(図2参照)。

図2:外国からメキシコへの送金額推移
2010年以降の外国からメキシコへの送金額の推移と各年の送金額のGDP比の推移を表すグラフ。2010年の送金額は213憶388万ドル、GDP比は2.0%。2011年は228億297万ドル、1.9%。2012年は224億3,832万ドル、1.9%。2013年は223億275万ドル、1.8%。2014年は236億4,728万ドル、1.8%。2015年は247億8,477万ドル、2.1%。2016年は269憶9,328万ドル、2.5%。2017年は302億9,054万ドル、2.6%。2018年は336億7,722万ドル、2.8%。2019年は364億3,875万ドル、2.9%。2020年は406億660万ドル、3.7%。

出所:メキシコ中央銀行

他方、世帯平均支出のデータをみると、2020年の現金支出額は月額9,979ペソだが、第I階層の3,973ペソと第X階層の2万4,537ペソの間には6.2倍の開きがある。階層別に現金支出と自己収入(世帯の経常収入から移転所得を除いた収入)を比較すると、第I~III階層までの貧しい層では現金支出が自己収入の100%を超えており、低所得層の家計が政府や在外移民などからの移転所得に依存していることが分かる(表4参照)。

表4:所得階層別世帯平均現金支出と自己収入(単位:2018年価格ペソ,%)
所得階層
(10段階)
現金支出 自己収入(注) 現金支出
/自己収入
支出額 構成比 金額 構成比
I 3,973 3.1 1,251 0.9 317.5
II 4,951 4.5 3,133 2.3 158.0
III 5,933 5.4 5,006 3.6 118.5
IV 6,843 6.4 6,856 5.0 99.8
V 7,785 7.6 8,733 6.3 89.1
VI 8,851 8.6 10,901 7.9 81.2
VII 10,206 10.0 13,638 9.9 74.8
VIII 11,833 11.9 17,216 12.5 68.7
IX 14,849 15.1 23,200 16.8 64.0
X 24,537 27.3 48,194 34.9 50.9
平均 9,979 13,813 72.2

注:政府やNGOからの補助金,年金・社会保障給付金などの移転所得を除く
世帯の経常収入。原典の4半期データを3で除して月額換算。
2020年の期中平均為替レートは1ドル=21.49ペソ、1ペソ=4.96円。
構成比は各階層の合計が全世帯の合計に占める割合。
出所:INEGI「ENIGH 2020」から作成

家計支出構成には新型コロナの影響が色濃く

所得階層により支出項目別の構成比は大きく異なる。貧しい階層(I~III)では食費が4割を超えるのとは対照的に、裕福な家庭では教育や娯楽・旅行など生活必需品以外に費やす支出が大きくなっている。ただし、住宅関連・光熱費、個人用品・美容の2分野については、階層間で構成比の差が小さく、どの階層でも同様の割合を支出している(表5参照)。

表5:所得層別の経常現金支出構成比(上段:2010年,中段:2016年,下段:2020年)(単位:%)
現金支出項目 全世帯
平均
所得階層
I II III IV V VI VII VIII IX X
食品・飲料・たばこ 26.8 44.6 43.2 40.2 37.0 35.3 33.3 30.9 27.5 22.9 14.2
27.3 45.8 42.2 39.1 36.9 34.9 32.4 30.3 27.5 23.5 15.4
33.0 (+) 46.3 (+) 44.8 (+) 42.6 (+) 41.0 (+) 38.6 (+) 37.1 (+) 35.0 (+) 32.6 (+) 28.9 (+) 22.4 (+)
外食 6.9 4.3 3.9 4.9 5.2 5.1 6.0 6.1 7.1 7.6 8.7
7.7 4.5 5.0 5.8 6.0 6.2 6.7 7.1 7.8 8.7 9.6
5.1 (-) 3.9 (-) 3.9 (-) 4.0 (-) 4.1 (-) 4.5 (-) 4.6 (-) 4.7 (-) 5.3 (-) 5.6 (-) 6.1 (-)
衣類・履物 5.7 4.6 4.9 4.9 5.2 5.5 5.4 6.0 5.7 6.4 5.9
4.6 3.8 3.9 4.2 4.1 4.2 4.4 4.7 4.7 5.0 5.0
3.0 (-) 2.2 (-) 2.3 (-) 2.4 (-) 2.5 (-) 2.7 (-) 2.7 (-) 2.9 (-) 3.1 (-) 3.4 (-) 3.4 (-)
住宅関連・光熱費 9.6 11.2 11.8 12.0 11.5 10.6 11.0 9.8 9.7 8.3 8.1
9.5 10.5 10.9 10.3 10.1 10.2 9.8 9.8 9.6 9.1 8.6
11.0 (+) 12.7 (+) 12.4 (+) 12.9 (+) 12.2 (+) 11.8 (+) 11.4 (+) 11.0 (+) 10.5 (+) 10.3 (+) 9.8 (+)
家庭用品・サービス 6.4 6.5 6.0 5.7 5.7 5.6 5.5 5.5 5.6 5.9 8.0
5.9 6.2 5.8 5.6 5.2 5.2 5.2 5.1 5.2 5.5 7.3
6.5 (+) 6.4 (+) 6.4 (+) 6.0 (+) 6.0 (+) 6.1 (+) 5.9 (+) 6.0 (+) 6.0 (+) 6.3 (+) 7.9 (+)
医療・健康関連 2.8 3.2 2.2 2.0 2.1 2.3 2.1 2.1 2.7 2.6 3.7
2.7 3.2 2.4 2.5 2.2 2.3 2.5 2.3 2.2 2.8 3.3
4.2 (+) 4.2 (+) 3.7 (+) 3.6 (+) 3.8 (+) 3.9 (+) 3.8 (+) 3.9 (+) 4.0 (+) 4.4 (+) 5.1 (+)
交通・輸送手段 14.0 9.8 10.5 10.4 12.0 13.2 12.7 14.3 14.4 16.3 15.1
14.9 9.8 10.8 11.7 13.0 13.7 14.7 14.9 15.6 16.1 16.9
12.9 (-) 8.2 (-) 8.9 (-) 10.0 (-) 10.4 (-) 11.8 (-) 12.2 (-) 13.2 (-) 13.3 (-) 14.9 (-) 14.8 (-)
通信 3.7 2.0 2.2 3.0 3.2 3.5 3.9 4.3 4.1 4.3 3.8
4.4 2.1 2.7 3.3 3.7 4.0 4.4 4.7 5.0 5.2 4.7
5.7 (+) 3.6 (+) 4.5 (+) 5.1 (+) 5.5 (+) 5.7 (+) 6.1 (+) 6.2 (+) 6.3 (+) 6.3 (+) 5.5 (+)
教育 9.5 4.7 5.3 6.1 7.4 7.8 8.3 8.3 9.2 10.0 12.6
8.6 4.3 5.6 6.6 7.6 7.4 8.0 8.2 8.5 9.0 10.9
6.0 (-) 2.4 (-) 2.7 (-) 2.9 (-) 3.6 (-) 3.8 (-) 4.5 (-) 5.2 (-) 6.2 (-) 6.4 (-) 9.8 (-)
娯楽・旅行 3.9 0.9 1.0 1.3 1.6 1.7 2.2 2.6 3.4 4.9 7.0
3.8 1.5 1.8 2.1 2.2 2.3 2.5 2.9 3.5 4.2 6.1
1.7 (-) 1.2 (-) 1.3 (-) 1.2 (-) 1.3 (-) 1.3 (-) 1.4 (-) 1.5 (-) 1.7 (-) 1.8 (-) 2.4 (-)
個人用品・美容 7.5 6.8 7.3 8.0 7.5 7.4 7.5 7.8 7.5 7.6 7.3
5.8 6.4 6.4 6.6 6.5 6.3 6.3 6.1 6.1 5.8 4.8
8.0 (+) 7.6 (+) 7.8 (+) 7.7 (+) 7.7 (+) 7.9 (+) 7.8 (+) 8.1 (+) 8.1 (+) 8.1 (+) 8.2 (+)
移転支出・その他 3.3 1.2 1.6 1.6 1.7 1.9 2.0 2.3 3.0 3.3 5.5
4.5 1.6 2.2 2.2 2.3 2.9 2.9 3.7 4.0 5.0 7.4
3.0 (-) 1.2 (-) 1.4 (-) 1.6 (-) 2.0 (-) 2.0 (-) 2.3 (-) 2.4 (-) 2.9 (-) 3.5 (-) 4.6 (-)
現金支出合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

注:(+)は2016年と比較して構成比が上昇した項目、(-)は反対に低下した項目。
出所:INEGI,ENIGHの2010年,2016年,2020年版から作成

支出項目別の構成比の変化をみると、2020年はコロナ禍の影響が色濃く現れている。生活必需品として食費の割合が全ての階層で拡大した一方、外出自粛や店舗、飲食店などの営業規制により、外食や衣類・履物、運輸・輸送手段、娯楽・旅行は全ての階層で減少している。教育も民間教育施設の閉鎖により全ての所得階層で縮小した。他方、新型コロナの感染対策の家庭用品・サービスや医療・健康関連支出が拡大しており、テレワークや遠隔教育のための通信費や光熱費の負担増もみられる。なお、コロナ禍で支出を切り詰めている中でも、個人用品・美容分野への支出構成比は縮小しなかった。

南北の所得格差は依然として大きく

州別の世帯平均現金所得(移転所得を除く)をみると、メキシコで最も高いのは、有力財閥の本拠地で有数の工業都市でもあるモンテレイがある北東部ヌエボレオン州で月額1万9,709ペソ、コロナ禍でも医療機器などの製造が盛んで経済活動が堅調だった北西部国境州のバハカリフォルニア州が2位、首都メキシコ市は3位、次いで、ロス・カボスという有数のリゾート地があって観光が盛んな南バハカリフォルニア州、対米輸出製造業が盛んな北部チワワ州と北西部ソノラ州、日産自動車の工場が3カ所(ダイムラーとの合弁工場を含む)あり自動車産業が集積する中部アグアスカリエンテス州と続く。メキシコでは総じて工業州である北部諸州の所得水準が高く、農業州の南部諸州の所得水準が低い。近年は中央高原バヒオ地区への自動車産業を中心とする企業進出が相次いでいるため、アグアスカリエンテス州やケレタロ州などの所得水準も高くなっている。

他方、最も所得水準の低い州は、グアテマラと国境を接している南部チアパス州で、世帯平均所得は月額換算で7,665ペソと、ヌエボレオン州の38.9%にすぎない。下位州はチアパス州に続いて、ゲレロ州、ベラクルス州、オアハカ州で、いずれもメキシコ南部や南東部にある。

州別の世帯平均現金支出額をみると、最も多いのは首都メキシコ市で、バハカリフォルニア州、ヌエボレオン州、ケレタロ州、南バハカリフォルニア州と続く。各州の所得水準に加え、物価水準、商業施設や娯楽・サービス施設などの数(消費の選択肢の多さ)が影響しているものと思われる。最も支出額が小さいのはチアパス州で、オアハカ州やゲレロ州と続く。世帯平均所得と同様、南部諸州で支出額も小さくなっている。現金収入に占める現金支出額をみると、全国平均は73.3%だが、物価が総じて高い割には全体の所得水準が低いメキシコ州では83.1%に達している。貧しい世帯の多いチアパス州やゲレロ州の比率も8割を超えており、生活の厳しさがうかがえる(表6参照)。

表6:主要州別所得階層別世帯平均現金収入・支出額(2020年,月額)

平均収入(単位:2020年価格ペソ,%)
平均収入
ヌエボレオン 19,709
バハカリフォルニア 18,890
メキシコ市 17,176
南バハカリフォルニア 17,019
チワワ 16,873
ソノラ 16,611
アグアスカリエンテス 16,248
ケレタロ 16,126
コリマ 15,638
コアウイラ 15,638
ハリスコ 15,566
シナロア 15,503
ナヤリ 14,373
ドゥランゴ 14,331
タマウリパス 14,109
全国平均 13,603
メキシコ州 13,379
グアナファト 13,312
サンルイスポトシ 13,147
ミチョアカン 12,844
カンペチェ 12,640
サカテカス 12,439
ユカタン 12,225
キンタナロー 12,002
タバスコ 11,199
モレロス 11,142
イダルゴ 10,764
トラスカラ 10,272
プエブラ 10,005
オアハカ 9,773
ベラクルス 9,414
ゲレロ 8,725
チアパス 7,665
平均支出(単位:2020年価格ペソ,%)
平均支出 支出/収入
メキシコ市 12,590 73.3
バハカリフォルニア 12,353 65.4
ヌエボレオン 12,217 62.0
ケレタロ 12,120 75.2
南バハカリフォルニア 11,941 70.2
アグアスカリエンテス 11,801 72.6
ハリスコ 11,740 75.4
コリマ 11,566 74.0
シナロア 11,371 73.3
ソノラ 10,936 65.8
コアウイラ 10,778 68.9
ミチョアカン 10,760 83.8
ナヤリ 10,543 73.4
メキシコ州 10,154 83.1
全国平均 9,970 73.3
キンタナロー 9,749 81.2
ユカタン 9,700 79.3
ドゥランゴ 9,641 67.3
サンルイスポトシ 9,561 72.7
カンペチェ 9,521 75.3
グアナファト 9,444 70.9
タマウリパス 9,373 66.4
サカテカス 9,292 74.7
チワワ 9,284 55.0
モレロス 8,926 80.1
プエブラ 8,721 87.2
イダルゴ 8,195 76.1
トラスカラ 8,017 78.1
ベラクルス 7,862 83.5
タバスコ 7,602 67.9
ゲレロ 7,282 83.5
オアハカ 7,228 74.0
チアパス 6,484 84.6

注:平均所得は四半期額を3で除して月額に換算した。
2020年の期中平均為替レートは1ドル=21.49ペソ、1ペソ=4.96円。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)「ENIGH2020」から作成

自動車の世帯普及率は45%で横ばい

INEGIの家計調査では、世帯の自動車、電化製品、生活関連サービスなどの所有・利用状況も調査している。調査結果データベースから主要な財・サービスの普及率を抽出すると、自動車の普及率〔乗用車、スポーツ用多目的車(SUV)・バン、ピックアップのうち、いずれかを所有する世帯比率)は、リーマン・ショック後に落ち込み、2010年には39.7%まで下がったが、その後は回復傾向にあり、2016年には45.0%まで拡大、2020年は46.8%まで上昇している。うち、乗用車の普及率は31.3%と上昇傾向が続いているが、ピックアップトラックの普及率は横ばいだ。近年、都市部でスマホアプリを活用した宅配サービスの普及に伴い、同サービスに従事する個人事業者が増えたため、オートバイの世帯普及率が過去10年間で6ポイント以上上昇している。

AV機器の普及率をみると、カラーテレビが92.3%、オーディオ機器は33.9%、DVD・ブルーレイ再生機は31.6%だ。スマホの普及により、メキシコでも携帯電話で音楽や動画を視聴する習慣が拡大しているため、オーディオ機器やDVDプレーヤーの普及率は低下傾向にある。順調に普及率が拡大しているのは携帯電話やインターネットなどの通信サービスだ。パソコンの世帯普及率は2008年時点で23.8%と遅れていたが、2012年には30.1%まで拡大、それ以降はスマホなどの普及により減少傾向となっている。インターネット普及率は2020年時点で48.4%と約半数の世帯に普及するようになった。この要因としては、コロナ禍でテレワークや遠隔教育が必要になったこともあると考えられる。冷蔵庫や洗濯機の普及は緩やかながら拡大を続けているが、電気掃除機の普及は進んでいない。カーペットの床が少ないことと、富裕層は家政婦などに掃除をさせる習慣があるため、電気掃除機の利便性を求める消費者が少ないことが影響していると思われる(表7参照)。

表7:自動車・電化製品・サービスなど世帯普及率の推移(単位:%)
商品・サービス名 2008年 2010年 2012年 2014年 2016年 2018年 2020年
テレビ 93.1 92.0 92.3 93.2 93.6 92.1 92.3
ミキサー 82.9 81.7 84.3 86.1 87.5 88.0 90.0
冷蔵庫 82.8 81.0 81.8 84.7 85.7 86.2 88.4
携帯電話 56.9 63.7 74.0 76.7 83.1 84.9 89.2
アイロン 84.0 79.8 79.7 79.2 78.1 75.9 73.4
洗濯機 53.2 62.0 63.8 65.6 67.6 67.8 71.1
自動車(注) 43.6 39.7 41.1 42.1 45.0 45.0 46.8
階層レベル2の項目乗用車 N.A. 26.0 27.1 27.1 28.2 28.8 31.3
階層レベル2の項目バン N.A. 9.9 11.2 12.3 11.8 11.5 11.9
階層レベル2の項目ピックアップ N.A. 9.4 12.6 10.6 8.7 8.4 8.6
有料テレビ放送 25.1 28.3 33.5 36.4 48.7 44.1 44.2
電子レンジ 43.5 41.1 43.2 44.6 44.3 43.5 45.0
オーディオ機器 83.0 74.3 70.0 65.8 39.5 36.6 33.9
DVD/BDプレーヤー 55.8 50.0 48.8 43.4 37.9 29.8 31.6
インターネット 14.5 19.2 24.4 27.9 29.7 34.3 48.4
固定電話 46.4 41.4 40.3 37.3 29.4 27.8 30.1
パソコン 23.8 25.9 30.1 29.9 29.0 27.2 21.6
クレジットカード 19.4 N.A. 21.9 25.8 24.8 24.0 26.2
プリンター 16.3 14.6 14.2 13.4 13.0 12.3 10.6
ビデオゲーム機 12.6 9.3 10.6 11.4 10.5 10.5 10.4
電気掃除機 8.4 7.1 6.0 7.0 7.9 7.6 8.2
オートバイ 3.9 4.3 5.6 7.0 6.9 9.0 10.7

注:乗用車、バン、ピックアップのうちいずれかを所有している世帯の比率。
出所:INEGI 「全国家計調査(ENIGH)」データから作成


注:
所得などの分布の均等度合を示す指標。係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほど所得格差が拡大していることを示す。
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。

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