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在ムンバイ・プネ日系企業、一部で早期再赴任を検討(インド)
一時退避と再赴任方針アンケートの結果から

2021年6月17日

新型コロナウイルスの新規感染者数が大幅に減少しているインド。6月8日には2カ月ぶりに新規感染者数が10万人を下回り、絶対数はいまだ多いものの、ピークアウトした感がある。各州ではロックダウンなどの活動制限措置の大幅な緩和が始まっている。インド西部マハーラーシュトラ(MH)州では6月4日、感染状況や医療体制に応じて、行政区分ごとに活動制限の緩和を認める通達を発出している(2021年6月10日付ビジネス短信参照)。

ジェトロ・ムンバイ事務所では、感染状況や医療体制の改善、活動制限措置の緩和などを受け、在MH州日系企業に対し、過去2回のアンケートに引き続き、一時退避方針や再赴任方針に関するアンケートを実施した。本稿では、その結果からMH州全体および業種・地域ごとの日系企業の動向を分析する。

一時退避はおおむね完了、焦点は再赴任時期

今回のアンケートは、ムンバイ日本人会(法人会員約100社)とプネ日本人会(同約50社)の協力を得て、6月2日から7日にかけて実施し、58%に当たる87社から回答を得た(詳細別添参照PDFファイル(815.05KB))。アンケート結果の要旨は次のとおりだ。

  • 現在、MH州に駐在員が残る企業は33社(回答率:38%)
  • 駐在員が残る企業33社のうち22社(67%)は退避を検討せず
  • 駐在員の退避が完了している企業は54社(62%)
  • 同54社のうち27社(50%)が5月に退避
  • 再赴任の時期は6月6%、7月31%、8月6%、未定57%
  • 再赴任の決め手は「医療提供体制の改善」と「感染状況の改善」が多かった
  • 「その他」の決め手では「日本でのワクチン接種完了」という回答が多かった

回答企業87社のうち、既にMH州から退避が完了している企業は54社で約62%、現在もMH州に駐在員が残る企業は33社で約38%となっている。既に退避を完了している企業の半数が2021年5月に退避を完了しており、現在も駐在員がMH州に残る33社のうち22社(約67%)が退避を予定していない。一方で、これから退避する11社のほとんどが6月中の退避を予定している。

以上から、一時退避の傾向は落ち着きつつあることがわかる。インドでの新型コロナ感染第2波で、一時退避を検討した企業はおおむね5月までに退避を完了させており、いまだ駐在員を残留させる企業の多くは、このまま駐在を継続させる方針と思われる。実際、冒頭のとおり感染状況や医療体制が改善し、活動制限措置の緩和も進んでいる。そのため、現状は4月や5月の状況からは大きく変わり、「退避を検討せず」という選択は十分考え得る状況といえる。

次に、再赴任の方針について確認する。既に退避を完了させた54社と、これから退避を予定する11社の合計65社は再赴任の時期について、37社(約57%)が「未定」としているものの、28社(43%)が「8月まで」の再赴任を予定している。内訳は6月4社(6%)、7月20社(31%)、8月4社(6%)だ。再赴任の決め手については「医療提供体制の改善」の回答が最も多く、「感染状況の改善」がそれに続いた。意外にも「外務省スポット情報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの終了」は多くなかった。「その他」の回答では、「日本でのワクチン接種完了」が最も多く、この他には「インドでのワクチン接種状況の改善」という回答もあった。

再赴任の時期に関し、既に半数弱の企業が8月までの再赴任を検討していることは、日本から見れば一定の驚きだろう。1カ月ほど前まで、インドの医療崩壊や変異株の流行などに関するニュースが連日のように報じられていたためだ。しかし、現在ではインド各地で感染状況や医療体制が大幅に改善した結果、ロックダウンも緩和され、状況は大きく変化している。従って、今回の回答はインドあるいはMH州の状況に注目していれば合理的な判断といえる。

各社の現地代表は本社に対して再赴任を決定する何らかの「決め手」を提示する際、「感染状況の改善」や「医療提供体制の改善」の傾向を重視しながら再赴任時期を検討していることがうかがえる。そういった意味では、6月4日に発表されたMH州による検査陽性率や酸素供給が可能なベッドの使用率といった定量的な数値に基づく5段階のレベル分けにのっとった緩和措置(前掲ビジネス短信参照)は、わかりやすい指標になるのではないだろうか。例えば、再赴任時期の条件として、「ムンバイ市の検査陽性率が5%未満になり、かつ酸素供給が可能なベッドの使用率が40%を下回って『レベル2』になった場合」などを挙げることができるだろう(ムンバイ市は現在レベル3)。また「日本でのワクチン接種の完了」も再赴任の決め手としてわかりやすい。

製造業に強い「残留傾向」、プネでより強い早期再赴任検討の傾向

今回のアンケートは、ムンバイ日本人会とプネ日本人会の協力の下で実施したが、ムンバイは商都であり、一般的に金融や小売り、サービス業など非製造業が多く、プネ近郊は製造業が多い。この傾向は日系企業についても同様だ(図1参照)。

図1:ムンバイとプネの回答企業業種(単位:社)

ムンバイの回答企業業種は、製造業が24社、非製造業が34社。
プネの回答企業業種は、製造業が24社、非製造業が5社。

出所:ジェトロ・ムンバイ事務所実施アンケートから同所作成

両地域の製造業の駐在員の残留・退避状況を比較してみると、大きな違いは見られなかった(図2参照)。一方、非製造業では、プネの非製造業の回答が5社と非常に少ないことを考慮する必要があるが、プネの方が残留している割合が大きかった。

図2:ムンバイとプネの駐在員の残留・退避状況【製造業・非製造業】 (単位:社)

駐在員の駐在員の残留・退避状況について、ムンバイの製造業では、10社が残留、14社が退避済み
駐在員の駐在員の残留・退避状況について、プネの製造業では、9社が残留、15社が退避済み
駐在員の駐在員の残留・退避状況について、ムンバイの非製造業では、10社が残留、24社が退避済み
駐在員の駐在員の残留・退避状況について、プネの非製造業では、4社が残留、1社が退避済み。

出所:ジェトロ・ムンバイ事務所実施アンケートから同所作成

現在も駐在員が残る企業の退避方針を見てみると、ムンバイ・プネ両地域とも製造業の方が「退避予定なし」の割合が大きかった(図3参照)。4月29日~5月3日に実施した前回のアンケート結果(2021年5月10日付地域・分析レポート参照)では、退避しない理由として「工場や事業の継続のため」が最も多く挙げられており、「(2020年のロックダウンでは)駐在員退避のための長期間の不在がガバナンスの悪化につながった」との声も聞かれた。製造業は非製造業と比較し、抱える従業員やワーカーの数が多く、また、ワーカーの採用や調達、納入など実際にヒト、モノ、カネが動く場面も多い。そのため、製造業では駐在員の不在が与える影響がより大きいと考えられ、その結果として残留傾向が強くなっているものと考えられる。

図3:ムンバイとプネの残留企業の退避予定【製造業・非製造業】 (単位:社)

残留企業の退避予定について、ムンバイの製造業では、8社が予定なし、2社が予定あり
残留企業の退避予定について、プネの製造業では、8社が予定なし、1社が予定あり
残留企業の退避予定について、ムンバイの非製造業では、4社が予定なし、6社が予定あり
残留企業の退避予定について、プネの非製造業では、2社が予定なし、2社が予定あり

出所:ジェトロ・ムンバイ事務所実施アンケートから同所作成

再赴任時期に関しては、ムンバイよりプネの方が、また、製造業より非製造業の方が、より具体的に早い時期の再赴任を検討していることが見て取れた(図4参照)。製造業に関しては、ムンバイの製造業企業は生産拠点でなく、販売や生産管理拠点の場合が多い。一方、プネの場合は工場など生産拠点が多い。上述のとおり、ガバナンスなどの問題に対して、製造現場での駐在員の存在がより重要なことを考慮すれば、この結果は当然と言える。また、非製造業の方がより具体的に早期の再赴任を検討している理由は、製造業と比較して、一時退避で「全ての駐在員を退避させる」場合が多いことが1つの要因ではないだろうか。これまでのアンケート結果や聞き取りから、製造業の場合は、トップ1人など最低限の駐在員を残す場合が多い。全員退避を志向する非製造業の方が駐在員の不在を解消する動機付けが強いのではないかと考えられる。

図4:ムンバイとプネ企業の再赴任予定【製造業・非製造業】 (単位:社)

再赴任予定については、ムンバイの製造業では、3社が7月、13社が未定
再赴任予定については、プネの製造業では、2社が6月、5社が7月、9社が未定
再赴任予定については、ムンバイの非製造業では、1社が6月、11社が7月、4社が8月、14社が未定
再赴任予定については、プネの非製造業では、1社が6月、1社が7月、1社が未定

出所:ジェトロ・ムンバイ事務所実施アンケートから同所作成

再赴任に関しては、よりローカルな視点が重要に

今回のアンケート結果からは、多くの企業は退避済みだが、残留する企業は引き続き駐在を続ける傾向にあることがわかった。一方で、再赴任に関しては、比較的早期の実現を検討している企業が多かった。ムンバイとプネ、製造業と非製造業での比較では、おおむね日系企業の動向は類似していた。

今後の焦点となるのは再赴任の時期だろう。MH州、特にムンバイ地域で、2020年のロックダウンで一時退避した日系企業の再赴任の大きな決め手は、全日空のムンバイ直行便の再開だった。現在も便数は少ないものの、月に数便が就航している。

前述のとおり、MH州は定量的な数値に基づく活動制限緩和措置を実施している。結果的に、各行政区分の状況を適宜把握することがより容易になるとともに重要になる。今後はインド全体やMH州全体の状況ではなく、各行政区分の緩和レベルが1つの判断指標になっていくのではないだろうか。

執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
比佐 建二郎(ひさ けんじろう)
住宅メーカー勤務を経て、大学院で国際関係論を専攻。修了後、2017年10月より現職。

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