ボルソナーロ大統領が4度目の米国公式訪問(ブラジル)
2国間での貿易や軍事協力について議論

2020年3月19日

ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領は、3月7~10日に米国フロリダ州を公式訪問した。大統領には、息子で連邦下院議員のエドアルド・ボルソナーロ氏、エルネスト・アラウージョ外務相、フェルナンド・アセベド・シルバ国防相らが同行した。

米国訪問中、一行は3月7日に同州パームビーチのトランプ大統領所有別荘で、ドナルド・トランプ米大統領と夕食を交えて会談した。翌8日には、中南米カリブ地域における安全保障の計画・作戦・協力を指揮するアメリカ南方軍の司令部を訪問。9日にはブラジル輸出・投資促進庁(APEX)が主催する米企業家向けセミナーに出席し、同国が民間イニシアチブで進める「投資パートナーシッププログラム(PPI)」への投資を呼び掛けた。10日には、マイアミ市内のホテルで在米ブラジル企業家とのカンファレンスに出席し、新型コロナウイルスの影響を受けたブラジル経済動向を説明。その後、フロリダ州ジャクソンビル市に所在する、ブラジル航空機メーカーのエンブラエルの工場を視察し、帰国した。

首脳会談では、2020年内に2国間の貿易パッケージ調印などについて議論

3月7日に行われたトランプ大統領との会談後、以下の共同声明が発表された。

  1. 両大統領は、両国の戦略同盟を再認識し、経済的な繁栄、民主主義の強化、平和と安全を促進するために両国間の関係を深化させる。
  2. 両大統領は、ベネズエラのフアン・グアイド暫定大統領と同国における憲法秩序の再生努力への支持をはじめとする、中南米における民主化への支持を改めて確認。両首脳は、ボリビアでの自由で公正な選挙実施への努力を支援することを議論。両首脳は、中東の平和と繁栄への貢献を改めて確認した。
  3. 経済分野では、両大統領は2国間の経済関係を緊密化するため、年内に2国間貿易パッケージの調印に向け議論を深めるよう双方の政府部内に指示した。トランプ大統領は、OECDのブラジル加盟を改めて支持する旨を伝えた。

共同声明では、年内に合意をめざす2国間貿易パッケージの中身は明らかなっていない。ボルソナーロ大統領は3月10日、トランプ大統領との会談は「将来的な米国との自由貿易協定(FTA)の可能性への第一歩になった」と語り、「双方の専門家がより包括的なFTAに向けて議論を始めることに、トランプ大統領が同意した」と説明している。

首脳会談では、政治面ではベネズエラ問題が議題の中心となった。ブラジル政府は米国との首脳会談に先立ち、3月5日に在ベネズエラのブラジル人外交官の引き揚げを決定している。トランプ大統領は夕食での会談後、記者団の前で「ボルソナーロ大統領は良き友で、良いプレゼントをくれた。我々は新たな関税を要求することはしない。彼の人気はさらに高まるだろう」とコメントした。なお、トランプ大統領は、ボルソナーロ大統領からのプレゼントが何かは明言しなかった。

ブラジル軍需産業の市場参入と5Gへの機器サプライヤー制限が交換条件か

今回のボルソナーロ大統領訪米の目玉の1つは、軍事研究開発試験評価(RDT&E)協定の調印である。協定は、ボルソナーロ大統領および一行がアメリカ南方軍司令部を訪問時、ボルソナーロ大統領陪席の下、ブラジル軍統合参謀本部長のラウル・ボテーリョ准将と南方軍司令官のクレイグ・ファレル提督によって調印された。協定の目的は、米国や北大西洋条約機構(NATO)と軍事用新技術などに関する研究開発を促進するためで、ブラジル政府高官は、米国市場におけるブラジル軍需産業のプレゼンス拡大に多大な期待を寄せている。二国間RDT&E協定は、ミシェル・テーメル前政権時の2017年に交渉が始まり、ボルソナーロ大統領は同交渉を引き継いだ。2019年3月にボルソナーロ大統領が訪米した際の首脳会談では、トランプ大統領がブラジルを「北大西洋条約機構(NATO)域外の同盟国」として位置付ける意向を発表した。ブラジルは、中南米諸国で初めて、米国とのRDT&E協定を調印した。同協定は今後、両国議会での批准が必要となる。

なお、今回の首脳会談では、2020年末か2021年初頭にブラジルで予定されている第5世代移動通信システム(5G)周波数割り当て入札におけるファーウェイなど機器サプライヤーの扱いについて議論したとの発表はなかった。ブラジルは、2020年2月に上記入札に関するパブリック・コメントの募集を開始したが、当初、ボルソナーロ大統領に同行する予定だった科学技術通信相は、医者の許可が出なかったとの理由で同行を取りやめている。

3月9日付現地「ブラジル247」ほか各紙によると、5Gへのファーウェイなど中国勢の参入について、ホワイトハウスの高官は「今後の両国間の防衛・情報活動での協力関係に重大な障害になることは明白で、あえてこの問題を取り上げる必要がなかった」と語っている。

ブラジル日本商工会議所の電気電子通信部会によると、中国勢は、ブラジル国内で5G機器製造工場を設立することをアピールしてブラジル政府にアプローチしているが、米政府は、同入札を遅らせるようブラジルに圧力をかけていたようだ。また、EU勢も、情報漏えいの危険性のあるサプライヤーに制限をかけるようブラジル政府に勧告し、ブラジル政府も検討する姿勢をみせているようだ。

着々と進む米国ブラジル関係の緊密化

ボルソナーロ大統領は、2018年の大統領選挙時から米国との関係強化を訴え、トランプ大統領のファンであることを公言してきた。トランプ大統領の再選支持も表明している。

今回の訪米は、ボルソナーロ大統領にとって2019年1月の就任以来4回目。

ボルソナーロ大統領の1回目の公式訪問は2019年3月で、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談した。2回目は、6月のG20大阪サミットで2国間の首脳会談を行った。3回目は、9月の国連総会の場で会談を行った。

ボルソナーロ政権によるこれまでの両国間の主な外交実績は、以下のとおり。

  • 両国は2019年3月、ブラジル北部マラニャン州にある「アルカンタラ発射センター」の商用利用を許可する技術保障協定(AST)を締結。米国が同基地を利用して商業人工衛星打ち上げることに合意。
  • 2019年3月、ブラジルは米国籍保有者に対する短期滞在査証の免除を決定。6月17日に施行。
  • 2019年3月、トランプ大統領が米国によるブラジルのOECD加盟を支持する意向を表明。2020年1月、米国はOECD理事会でブラジルの加盟を正式に支持。
  • 2019年7月、ウィルバー・ロス商務長官がブラジルを訪問。この機会に合わせて、トランプ大統領はブラジルとの二国間FTA締結に取り組む意向を表明。
  • 2019年12月、トランプ大統領はブラジル製鉄鋼とアルミニウムに対する追加関税(鉄鋼25%、アルミニウム10%)の適用を発表。その後、ボルソナーロ大統領はトランプ大統領との電話会談を行い、結果的にブラジルへの適用は除外された。
  • 2020年2月10日、米国通商代表部(USTR)は発展途上国リストからブラジルを含む25カ国の除外を発表。ブラジル主要紙は「米国が途上国リストからブラジルを除外するのは、ブラジルのOECD加盟に向けた米国の支持と交換条件になっている」と報道。
  • 2020年2月、米国政府は「食肉不正問題が発覚した」として2017年から輸入を禁止していた、ブラジル産生鮮牛肉の輸入解禁を発表した。
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所長
大久保 敦(おおくぼ あつし)
1987年、ジェトロ入構。ジェトロ・サンパウロ事務所調査担当(1994~1998年)、ジェトロ・サンティアゴ事務所長(2002~2008年)等を経て、2015年10月より現職。同年10月からブラジル日本商工会議所理事・企画戦略委員長、2017年1月から同副会頭。