トラック輸送高騰などで、サプライチェーンに影響大(インド)
ロックダウン下の物流事情

2020年8月6日

インド政府が講じた新型コロナウイルス感染拡大防止のための全土封鎖(ロックダウン)は、サプライチェーンなど、物流面で企業に大きな影響をもたらした。ジェトロにも進出日系企業から、政府当局の人員体制縮小による通関遅延や、航空便の減便による輸送コスト増、トラックのドライバー手配困難などの声が聞こえてくる。しかし、実際のところはどうなのか。インドで実際に物流サービスを提供する、郵船ロジスティクスインディア(YLIN)のインド西地区統括次長の米丸 毅氏に、現在のインドの物流事情や課題などを聞いた(7月14日)。

トラックやドライバー手配が困難、輸送費用が通常の1.5~1.8倍程度に高騰

質問:
現在の事業体制について。
答え:
当社では、社長と副社長だけをムンバイ(マハーラーシュトラ州)に残した。またグルガオン(ハリヤナ州)およびチェンナイ(タミル・ナドゥ州)の事務所では、最大33%のスタッフの出社と在宅勤務を併用。ムンバイおよびアーメダバード(グジャラート州)事務所は、6月8日から10%程度のスタッフで対応している。一方、インド各地にある76の倉庫はすべて平常通り営業している。そのために、当局から許可証を取得した。
3月下旬にロックダウンが始まった当初から、インド法人全体でテレワークに移行した。それを前提に、管理体制を維持している。具体的には、定期的な幹部ミーティングの実施(朝夕)のほか、各部門別分科会ミーティングを介して全ての現場状況を把握する。また、情報共有を行うことで、問題の対応策に当たっている。
質問:
海上貨物にかかる現状は。
答え:
ナバ・シバ港(マハーラーシュトラ州)、 ムンバイ港(マハーラーシュトラ州)、ピパパブ港(グジャラート州)、チェンナイ港(タミル・ナドゥ州)、カトゥパリ港(タミル・ナドゥ州)(図参照)周辺の保税蔵置場(CFS)や多くの内陸コンテナデポ(ICD)では、作業員が少ない。その結果、限定的なオペレーションにとどまる。
輸出入通関は、通関職員が減って時間を要し、陸上輸送が難航している。そのため、多数のコンテナがコンテナヤード(CY)にとどまっているとの情報も入っている。ロックダウンの緩和に伴い、デリー地域のICD業務が混雑してきた。同地域のパパラガンジ(PPG) やCFS で混載(LCL)コンテナ(注)の一時受け入れが停止するなど、混乱が生じた。また、ナバ・シバ港やチェンナイ港周辺で、CFSのスペースが逼迫している。
図:インド主要港マップ
(都市名)  デリーはインド北部(デリー連邦直轄領)にあります。  アーメダバードはインド西部(グジャラート州)にあります。  ムンバイはインド西部(マハーラーシュトラ州)にあります。  チェンナイはインド南部(タミル・ナドゥ州)にあります。  ベンガルールはインド南部(カルナータカ州)にあります。 (港湾名)  ピパパブ港はインド西部(グジャラート州)にあります。  ムンバイ港にインド西部(マハーラーシュトラ州)にあります。  ナバ・シバ港インド西部(マハーラーシュトラ州)にあります。  カトゥパリ港はインド南部(タミル・ナドゥ州)にあります。  チェンナイ港にインド南部(タミル・ナドゥ州)にあります。

出所:CraftMapを基にジェトロ作成

質問:
トラック輸送の現状は。
答え:
当社は多数の日系企業と、半年とか1年のスパンで国内配送(コンテナ・トラック輸送)を契約している。しかしロックダウンの影響下、トラック手配が困難な状況だ。例えば、ドライバーが地方に帰省したり、規制地区から出ることができなかったり、といった問題がある。このため、極端に需給バランスが崩れた。これがトラック運賃の高騰につながった。
この状況は、現在も継続している。そのため、契約運賃での対応が困難な状況だ。供給側としては値上げを理解いただきながら、限られたサービスを展開するにとどまっている。
地域別では、チェンナイ周辺で最大、通常の2倍程度まで輸送費が高騰している。6月19日から7月5日まで実施された完全ロックダウン(2020年7月3日付ビジネス短信参照)により、同地周辺のトラック稼働率が著しく低下したためだ。一方でベンガルール付近では、トラック稼働率は約70%を保つ。とはいえ、コロナ禍で日々状況が変わる中で、輸送費用が高止まりしている。ナバ・シバ港では、トレーラーとトラックの稼働率がドライバー不足などで約30%に落ちた。その裏返しで、輸送費用が通常の1.5~1.8倍程度に高騰している。
質問:
航空便や貨物輸送の現状は。
答え:
国内線は、5月25日から運航を一部再開した。しかし、国際線の旅客便は、インド民間航空管理局(DGCA)が運航停止を7月31 日まで延長すると発表した。日本向けには、日本航空がデリー線の9月30日までの運休を、全日空がデリー、チェンナイ、ムンバイ線の8月31日までの運休を、発表している。
貨物便(Cargo Freighter)は一部運航し、一般貨物も受け付けている。しかし、需給バランス逼迫により、運賃高止まりの状態だ。さらに輸出・輸入通関は、通関職員の減員が続く中、ケースバイケースで対応している。このため、所要時間はまちまちだ。概ね、平均所要時間で通常1~2日のところ、3~5日程度に長くなっている。
質問:
鉄道関連の現状は。
答え:
旅客鉄道サービス(メトロ、州間の旅客輸送)は、9月30日まで停止するとのこと。ただし貨物列車は免除され、通常通り運行している。
質問:
今後検討している事業について。
答え:
物流業は、インドへの投資で注目される分野の1つでもある。中長期的な視点を持ち、先を見据えた事業展開を検討してきたい。例えば、保税区での加工貿易や非居住者在庫などについて、物流視点から支援する手法を検討することなどだ。これらを活用した誘致策は、中国やASEANなど各国が進めてきた。しかし、インドでは現状、対応できていない。他国の投資誘致政策がインドでどこまで導入されるのかも見極めていく。
ただしインドでは、新型コロナ感染拡大が止まらない。当面、物流の回復見通しも不透明ということになる。そのため、引き続き、当社で既存業務を着実に取り組んでいく。

注:
:Less Than Container Load。1つのコンテナに、複数荷主の貨物を混載する輸送形態。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
丸崎 健仁(まるさき けんじ)
2010年、ジェトロ入構。ジェトロ・チェンナイ事務所で実務研修(2014年~2015年)、ビジネス展開支援部、企画部海外地域戦略班(南西アジア)を経て、2018年3月よりジェトロ・アーメダバード事務所勤務。