日本産食品輸入業・外食産業事業者へのインタビュー(フィリピン)
デリバリーサービスへの移行、eコマース活用の成否がカギ(後編)

2020年6月22日

新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした日本産食品輸入業・外食産業への影響を探るシリーズ後編。本編では、日本産食品輸入業とレストラン・グローサリー事業を経営するマディソン・スクエア・マーケティング外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 社長のジェリー・アン氏に、隔離措置がビジネスに与えた影響と今後の展望などについて聞いた(インタビュー日:6月5日)。

マディソン・スクエア・マーケティングは、1995年設立の輸入業者だ。取扱商品の9割が、日本の菓子や調味料などの加工食品となっている。ランドマーク、SMスーパーマーケット、ロビンソンズ、ルスタンズといったフィリピンを代表するスーパーマーケットチェーンに販路を持つ。多くの店舗に日本食品の専用棚があり、2018年に農林水産省による日本産食材サポーター店の認定を受けた。2019年11月にはラーメンや日本式の弁当を提供する直営日本食レストランに併設して、日本の菓子や調味料などの加工食品を販売するグローサリーも開業した。また、ラザダフィリピンにも出店し、eコマースの活用にも積極的だ。

質問:
隔離措置を受け、日本食品の輸入卸業が受けた影響や課題は。
答え:
3月中旬からの隔離措置開始直後に、最も現場が混乱した。取扱商品が食品のため、当初の広域隔離措置(ECQ)下でも卸売先であるスーパーマーケットの営業だけは認められた。ビジネスが継続できたのは幸いだった。しかし、広域隔離措置中は運営しているグローサリーに買いだめ客が殺到し、商品の欠品が相次いだ。卸売先の納品を優先させることとし、運営しているグローサリーは4月中旬まで約1カ月閉鎖した。また、マニラ首都圏内の大手スーパーマーケットで日本のインスタントラーメンや調味料の発注が相次いだ。しかし、公共交通機関が停止されたため、従業員が通勤できずに人出が不足。徹夜で発注に対応しなければならないほどだった。食料については最優先で安定的に供給というのが政府方針だったが、マニラ首都圏からセブやダバオなど地方行きの貨物船が全てキャンセルになるという事態も発生した。隔離措置は徐々に緩和されつつある。このため、国内物流の問題は解消しているが、輸入通関の若干の遅れは継続している。
質問:
隔離措置期間中、スーパーマーケットで売れた商品は。
答え:
圧倒的に、賞味期限が長い商品だ。例えば、インスタント麺やカップヌードル、スナックといったなど。隔離措置が解除された後も、保存期間が長い商品をストックする消費行動は継続すると考えている。味が良く品質の高い日本のインスタント麺、スナックの取り扱いを増やしていきたい。
質問:
隔離措置を受け、日本食レストラン業が受けた影響や課題は。
答え:
隔離措置後、公共交通機関が停止されたために調理人が通勤できなかった。このため、グローサリーと併せて4月中旬まで約1カ月間閉鎖せざるをえなかった。社内の勤務態勢を見直し、車での送迎やオートバイで通勤できるスタッフの確保に努めた。閉鎖中は、デリバリー・テークアウト用メニューの考案に努めた。現在は、弁当メニューだけを販売している。ダイニングサービスを完全なかたちで再開できるには時間を要するし、再開できてもすぐに客足が戻るとは思えない。このため、デリバリー・テークアウト用メニューを拡充していく。ラーメンなど汁を多く含む商品は、デリバリーの際に味が劣化する可能性が高い。対策として、家で調理できる材料キットの販売も検討中だ。デリバリーは有力プラットフォームのフードパンダを活用している。デリバリースタッフを自社で確保しても、混雑時に対応できない可能性もあるからだ。また、受注管理も委託でき、適時にフードパンダが提供するプロモーションも活用できることも魅力的だ。
質問:
隔離措置を受け、eコマースサイトの売り上げに影響はあるか。
答え:
隔離措置導入後から、ラザダ店舗での売り上げは着実に伸びてきた。隔離措置で初めてネット販売を活用した消費者もいる。こうした顧客は、安心・安全で便利な買い物ツールとして今後も使い続け、ますますeコマース市場が拡大すると確信する。牛丼や豚丼などが作れる日本の調味料をセット販売し、作り方や購入できるスーパーマーケットの売り場なども、動画で紹介している。販売商品のラインナップを増やし、新規顧客開拓のツールとしてeコマースの活用に力を入れていきたい。

マディソン・スクエア・マーケティングが日本食品を卸している専用棚と日本食レストラン(同社提供)

デリバリーサービスへの移行、eコマース活用の成否がカギ

  1. 日本産食品輸入業・外食産業へのコミュニティー隔離措置の影響(フィリピン)
  2. 日本産食品輸入業・外食産業事業者へのインタビュー(フィリピン)
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
石見 彩(いしみ あや)
1999年、経済産業省関東経済産業局に入局。経済産業省貿易振興課に出向(2001年~2003年)、関東経済産業局国際課(2003年~2004年)、イリノイ大学シカゴ校に留学(2004年)、経済産業省経済連携課に出向(2005年~2007年)、ジェトロ東京本部サービス産業部サービス産業課出向(2016年~2018年)などを経て2018年6月より現職。