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「自立したインド」は、コロナ禍でのビジネスチャンスをもたらす
在日インド大使館の経済商務担当公使に聞く

2020年8月5日

インドで、新型コロナウイルスの感染拡大が続く。7月28日時点の感染者数は、143万5,453人(WHO)だ。

モディ首相は5月12日、国民に向けた演説で、インドのGDPの約10%に相当する20兆ルピー(約28兆円、1ルピー=約1.4円)規模の経済対策パッケージを発表。あわせて、今後インドが向かうべき方向性として、「自立したインド」を打ち出した。そこで、インドは経済、インフラ、テクノロジー主導のシステム、人口、需要の5本柱の下、環境整備を通じてビジネスを活性化するとともに、投資を呼び込み、製造業振興政策「メーク・イン・インディア」の決意を強固にする、とした。また首相は、インドはグローバル・サプライチェーンで大きな役割を果たすべきとも述べた。自立を通して産業の効率化と品質向上を達成し、輸入に頼らない産業の競争力を強化する方向性が示された。

これを受け、在日インド大使館は7月17日、「自立したインド」のポイントを発表した。これは、改革のインパクトを政府機関やメディア向けに伝えることを期したものだ。発表を担当したモナ・カンダール経済商務担当公使に、日本企業の対インドビジネスに向け、「自立したインド」で最も注目すべき点を聞いた(7月21日)。

これまで手が付けられていなかった産業を民間や外資に開放

質問:
現在のインドの新型コロナ感染状況について。
答え:
140万人という感染者数に目が奪われがちだが、回復率は3分の2に上昇している。また、死亡率は2.5%と減少してきた。これを1%まで下げることを目標としている。個人防護服や人工呼吸器も、当初は輸入していた。しかし、今では国産化し、輸出できるまでに至っている。また、バーラト・バイオテックとザイダス・カディラの地場企業2社が、新型コロナ用のワクチン開発を進めている。
インドへの入国に関しては、米国、フランス、ドイツとの間で、結びつきの強い国同士の往来制限を緩和して国際線を行き来させる「トラベルバブル」の実施が決定した。このように、緩和に向けた動きが出ている。
経済面では、製造やサービスの景況感を見る景気動向指数(PMI)が上昇。電力使用量や間接税収なども、増加している。経済は再開してきているのだ。 今後は、感染拡大防止のための注意喚起を徹底しながら、死亡率を抑えることに注力しつつ、経済活動の維持を両立していくことが求められる。
質問:
「自立したインド」の経済、ビジネス面における重要なポイントは何か。
答え:
「自立したインド」では、これまで手が付けられていなかった部門を網羅する一連の改革を実施する。その上で、さらなる財政強化を通じて、将来のより高い成長を確保することを目指している。主な目的は、経済をさらに開放し、インドの製造業とインドからの輸出を促進すること、そしてインドを「自立」させることにある。確かにこれまでは、外資や民間に開放されていなかった分野があった。そのため、許可されている部分があってもそれが有機的につながることがなかった。さらにその帰結として、自由なビジネスの発展が阻害された。
現政権はもともと、ビジネスのしやすさを追求する方向性を示してはいた。しかし、変革が求められるこの状況下で、今回の改革に踏み切った。このことで、さらなる経済の円滑化が見込まれる。

在日インド大使館のカンダール公使(ジェトロ撮影)

新たな機会は農業、エネルギー、防衛、航空など多岐にわたる

質問:
具体的にはどういった改革が実施されるのか。
答え:
まずは、農業部門だ。インドの経済成長には内需が重要だ。そこで、地方経済と農業の活性化が優先分野となっている。政府は、農家の所得を増加させるため、様々な施策を講じている。例えば、作物保険、農業補助金などの充実などだ。このほか、農場から消費者への直販や集荷場などのインフラ構築のため、約1兆4,000億円の農業インフラ基金を設立した。また、農家の緊急運転資金向けの約4,200億円のリファイナンス投資なども実施している。
日本企業にとっての機会として、これまで外国直接投資の禁止業種であった契約農業が許可されたことを紹介したい。これにより、企業は農家に対し一定品質の作物生産を委託し、在庫を管理し、それを流通させたり加工したりすることができる。倉庫やコールドチェーンなどの分野でも、期待が高い。政府は、食品加工のエコシステム開発のためのメガフードパーク建設など、インフラ整備にも注力している。
国内の消費減退が伝えられる一方で、農村部では二輪車やトラクターの販売が好調だ。また、年の豊作・不作を左右するモンスーンの降雨も、今年は順調と予測されている。農村部で需要確保を見込むことができる。
質問:
その他の業種では。
答え:
ほかにも、これまでは開放されていなかったさまざまな分野で動きがある。 電力部門では、供給、配電の円滑化や民営化などを進めている。産業向け電力料金が下がる見込みだ。石炭鉱業部門の参入基準も緩和され、開放が進む。インドのガス化促進のため、石炭ガス化・液化事業に、共有収益の払い戻しによるインセンティブが提供される。鉱物部門でも、シームレスな複合探査・採掘・生産体制が導入される予定だ。太陽光発電分野でのインセンティブ供与や、原子力分野の研究・技術開発における民間開放など、エネルギー分野全体で包括的な改革が実施されようとしている。
また防衛分野では、自動ルートで認められる防衛製造業の外国投資出資上限を49%から74%に引き上げる。自動ルートでは、事前認可を要せず出資が認められる。これにより、現在は輸入されている製品の国産化が推進されることにもなる。
航空分野では、現在6割しか自由な利用が認められていない空域の制限を緩和する。このことで、民間航空の効率化を図る。インド空港局は、12の空港の運営・維持管理を官民パートナーシップ(PPP)で進める方針だ。これにより、民間の追加投資が約1,820億円に及ぶことが期待されている。航空機のMRO(メンテナンス・リペア・オペレーション)エコシステムの整備にも注力する。宇宙開発でも、民間部門への開放が進む。
太陽電池や先進的な電力貯蔵用蓄電池などの製造が、新たな重点分野となる。この分野でのインセンティブも設けられる予定だ。

「ビジネスのしやすさ」のさらなる追求

質問:
ビジネス環境の改善にも取り組んでいると聞いた。
答え:
政府は、次の段階の「ビジネスのしやすさ」の向上に取り組んでいる。例えば、資産登録の簡素化、商業紛争の迅速な処理、税制簡素化などだ。投資案件を迅速に許可するため、各省庁の次官レベルで、グループが結成された。また、新規投資促進のため、利用可能な産業用地を詳細情報とともにオンラインで確認できる産業情報システム(IIS)を準備している。3,000を超える産業団地・特別経済地区が、マッピングされる予定だ。
質問:
このほか、インドビジネスの注目点は。
答え:
インドには、世界でも有数のスタートアップ・エコシステムがある。政府は、資金調達、政策による後押しなどで、エコシステムを包括的に支援している。政府にとっての優先分野の1つだ。また、インドは研究開発拠点としても注目されている。多国籍企業が、90万人のインド人材を雇用し、1,400以上の研究開発センターを有している。その中には、日本企業のNEC、楽天、ソニーなどが含まれる。こうした分野での、日本・インド間の協業にも期待が高い。
このコロナ禍において、大手財閥リライアンス・インダストリーズ傘下の通信会社ジオ・プラットフォームズが、米国・フェイスブックから57億ドル、米国・グーグルから45億ドルなどの巨額投資受け入れを決めている。ジオはこの3カ月で、世界中から2兆円以上の投資を集めた。注目したい動きだ。
質問:
在日インド大使館ではウェビナー開催など、コロナ禍において精力的な投資誘致を進めている。日本企業からの反響は。
答え:
5月13日からこれまで、毎週ウェビナーを開催している。毎回150人程度と、従来のセミナーより参加人数が多い。ウェビナーとともに実施したBtoBやBtoGの個別セッションにも積極的な参加が見られ、好評を得ている。
インドに行けない今だからこそ、これまでの事業を振り返ったり、新規事業を検討したりと調査を進める企業がある。また、近々の投資を決定し、それに向けた準備を進める企業も見られる。

注目される中国との関係、ビジネスへの影響は

質問:
中国との関係で、インドビジネスへの影響を懸念する声があるが。
答え:
確かにインドは中国に対して、安全保障面で懸念を示している。しかし、中国からの輸入規制などは実施していない。例えば、多くを輸入に依存する医薬品原料(API)について、国内製造に向けてインセンティブを付与するなどした。1国からの輸入依存を回避するためだ。かと言って、輸入そのものを禁じているわけではない。
質問:
インド企業との協業に関心を持つ日本企業の声をよく聞く。信頼できる良いパートナーを探す方法はあるか。
答え:
インド企業との協業を検討する場合は、喜んで候補となり得る企業を推薦する。ぜひ大使館に相談してほしい。これまで、実際に紹介実績もある。限られた候補とならないよう、15社程度を1企業に対し提案したこともある。
質問:
インドビジネスに関心を持つ日本企業にメッセージをお願いしたい。
答え:
コロナ禍の今、インドと日本を含め、世界全体が揺れ動いている時期だと認識している。困難があるのは事実だ。しかし、こうした時だからこそ、「ニューノーマル」に向けた新しいものが求められている。開かれた世界がそこにあるのだ。政府と協力がしやすい時期だとも思う。日本企業には、ぜひ今こそインドビジネスを検討してほしい。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課、 ジェトロ・ニューデリー事務所(2015~2019年)を経て、2019年11月から現職。

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