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半導体、医療機器など集積に魅力―北部回廊経済地域の今(マレーシア)
ペナン州とケダ州クリムの企業動向と投資環境

2020年3月17日

マレーシア投資開発庁(MIDA)によると、2019年1~9月の製造業外国投資認可額は391億リンギ(約9,384億円、1リンギ=約24円)と、前年同期比で約1割増となっている。うち、北部のペナン州への投資が120億リンギと最大で、全体の30.7%を占める。ペナンはクアラルンプールとジョホールに次いでマレーシア第3の経済圏であり、マレーシア政府が2006年ごろから始めた大型コリドー計画の1つで、ペナン州とケダ州、ペラ州、ペルリス州の4州からなる北部回廊経済地域(Northern Corridor Economic Region:NCER)の中核州でもある。本レポートでは、ペナン州および隣接するケダ州クリムを中心に、企業動向と投資環境の今を解説する。

半導体など電気・電子が主要産業の北部地域

ペナン州は、1972年にマレーシア初の自由貿易地区であるバヤン・レパス工業団地を開発し、電気・電子産業の外資製造業を数多く誘致したことから、外資を中心に裾野産業が広がった。ペナン州の投資誘致を管轄するインベスト・ペナンによると、ペナン州には3,000社を超える電気・電子産業関連のサプライヤーがいるという。また、過去10年間の主な投資国・地域としては、米国とEU、日本が上位を占める。

バヤン・レパス工業団地はペナン空港に隣接したペナン島に立地し、多くの企業が進出しているが、北部地域でみると、半島側のバトゥ・カワン工業団地、プライ工業団地、ブキッ・テンガ工業団地、ケダ州のクリム・ハイテクパークなどに集積がみられる。

図1:ペナン州とケダ州の主要工業団地
ペナン州はペナン島と対岸の半島側の2つに分かれる。ケダ州にはクリム・ハイテクパークという工業団地がある。

出所:インベスト・ペナン資料などを基にジェトロ作成

米中貿易摩擦などを背景に、米国投資が伸びる

前述のとおり、2019年1~9月のペナン州への製造業外国投資認可額は120億リンギであり、前年通年の37億リンギに比べ、すでに3倍超の投資が認可されている。また、隣接するケダ州は75億リンギと州別では3番目に多く、前年通年の16億リンギと比較すると約5倍となっている。

図2:2019年1~9月の州別製造業投資認可額(上位10州)
ペナン州への製造業外国投資認可額は120億リンギであり、 前年通年の37億リンギに比べ、すでに3倍近くの投資が認可されている。 また、隣接するケダ州は75億リンギと州別では3番目に多く、 前年通年の16億リンギと比較すると約5倍となっている。

出所:マレーシア投資開発庁(MIDA)

背景には、2018年末以降、既にマレーシアで操業している米国の半導体や集積回路の大手メーカーが米中貿易摩擦の影響による中国からの生産移管のため、マレーシアでの生産を拡張する動きが活発化したことがある。

特に大型の投資としては半導体関連が多く、米国の半導体メーカーのマイクロン・テクノロジーがソリッドステートドライブ(SSD)の組み立てと検査を行う新たな工場を半島側のバトゥ・カワン工業団地に建設するプロジェクトがある。MIDAによると、同社は今後5年で150億リンギを投じる予定で、高度人材育成やインダストリー4.0の対応にも力を入れる。同じく米国のEMS製造大手ジェイビル・サーキットもバトゥ・カワン工業団地で拡張投資を行うことを発表している。同工業団地で着々と工場建設が進んでいる様子だ。


バトゥ・カワン工業団地で建設が進むジェイビル・サーキットの新工場(ジェトロ撮影)

また、同工業団地で2月に新工場が完成したTOWA社は、1991年進出時からバヤン・レパスで操業していたが、装置製造のための十分な組み立てと保管のスペースを確保するために、当時ちょうど入居者を募集していたバトゥ・カワン工業団地に決めたという。同社は半導体の超精密加工用のモールディング装置を製造しており、新工場は旧工場の約3倍の規模となる。

医療機器の集積として新規・拡張が続く

北部地域は、医療機器メーカーの集積がある点でも知られる。インベスト・ペナンによると、55社超の医療機器メーカーがペナン州に進出しているという。最も早い進出はドイツのビー・ブラウンだろう。同社は1972年にバヤン・レパス工業団地に進出し、マレーシアをアジア・リージョナルオフィスとして拡大投資を継続的に行っている。そのほかにも、米国のアボット、デンマークのアンブなどが1980~1990年代にかけて同地域に進出している。医療機器の認証は英語が基本となるため、東南アジアの中でも英語力が高い人材を確保できる点は集積の1つの理由といえるだろう。医療機器は高付加価値製造業として、マレーシア政府が近年、外資誘致に力を入れる分野でもある。ここ数年の投資をみると、米国のボストン・サイエンティフィック、日本のペンタックス・メディカル、日本ライフラインなどが工場を新設する動きがある。2019年の医療機器分野の大型投資では、英国のスミス・ネフューが整形外科関連の医療機器の製造拠点として、アジアに初めての工場を設立することを発表した。今後5年で800人を雇用する計画だという。

こうした企業にとっては、医療機器認証などの経験がある現地人材が確保できる点も利点だろう。他方、医療機器関連企業が増えてきたことから、より優秀な人材を採用するという面で人材獲得競争も始まっているようだ。

バタワース港の利便性が課題

欧米系を中心に投資が相次ぐ北部地域だが、日系企業に話を聞くと、必ずしも景気が良い状況とは言えないようだ。特に、米国企業の投資の背景となっている米中貿易摩擦の影響により中国向けの需要が不安定化していることや、2018年末以降、半導体のシリコンサイクルが下り坂で世界市況が芳しくなかったことなどが起因しているという。シリコンサイクルについては、第5世代移動通信システム(5G)デバイスやデータセンター需要のために、2019年末ごろから回復傾向が見られるという日系企業の声もあり、2020年以降の回復が見込まれている。ケダ州クリムに進出する日系企業によると、「クリム・ハイテクパークに進出する日系企業は11社ほどだが、最近は新規進出が増えている印象はない」と語る。ペナン州についても、「医療機器などでの新規進出がみられるが、一方で工場を閉鎖する日系企業もあると聞いている」とのコメントがあり、業種によっても景況感に差があるようだ。

北部地域の投資環境については、物流面でペナンのバタワース港を使った海上輸送はフィーダー船を使ってクラン港で積み替えが必要となっている点が問題と指摘する声が上がった。積み替えには1~2日かかるという。他方、半導体などの小型部品でよく利用される航空貨物に大きな問題はない。その他の課題としては、売上税・サービス税(総称してSST)の運用、物品・サービス税(GST)の還付遅延、ワーカーの確保が難しい点などが挙がったが、これらはマレーシア進出日系企業の共通の課題であり、北部地域特有の課題は少ない。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
原 知輝(はら ともき)
2013年4月、高圧ガス保安協会入社。2018年10月からジェトロに出向し、海外調査部アジア大洋州課を経て2019年10月から現職。

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