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【中国・潮流】日本でのテレワーク推進により、あらためて評価高まる大連の役割

2020年5月25日

日本では、新型コロナウイルスの感染拡大により4月7日に緊急事態宣言が出されて以後、テレワークが推進されている。このような中、日本企業のITO、BPO業務を担っている中国・大連の役割が注目されている。日本で対応が難しくなっている業務を、新たに大連のITO、BPO企業に委託させようという動きが複数みられる。

大連のITO、BPO業務を支えているDLSP(Dalian Software Park:大連ソフトウエアパーク)は、国家級のソフトウエアパークとして1998年に設立された。5月14日時点で約300社のITO、BPO企業が入居しており、そのうち、日系企業と、日系を除く外資系企業がともに約2割ずつを占めている。グローバル500企業も64社入居している。

中国でITO、BPO業務を行うメリットとしては、(1)日本との時差が1時間で、日本と業務の打ち合わせを行いやすいこと、(2)新型コロナウイルス感染の影響で現在は中国と日本の往来はできないが、平時では、距離が近いため(例えば、成田~大連と羽田~沖縄は距離的にあまり変わらない)face to faceの打ち合わせも行いやすいこと、がある。

さらに、中国の中でも大連でのITO、BPO業務のメリットとして、主に4つが挙げられる。1つ目は、コストメリットだ。大連は中国の中では人件費が安い。大連の人件費もかなり上がってきてはいるが、日本に比べるとまだコストメリットがある。2つ目は、ITO、BPO業務のアウトプットのレベルが日本と遜色ないほど高いと言われていることだ。3つ目は、日本語人材が多いこと。大連は、日本語能力テスト1級(最もレベルが高い)の人口100万人当たりの受験者数が北京、上海、広州を抑え、中国の中で1位だ。統計が発表されている2009年以降2018年までずっと首位をキープしており、この間、1度もその座を譲ったことがない。4つ目は、後で詳細に説明するが、大連は自然災害が極めて少ない地域で、日本での事業継続性の観点からも適すると考えられている。

日本での新型コロナウイルス感染拡大で大連への業務委託の動き

新型コロナウイルスはまず中国で感染が始まり、当初は日本国内から大連でのITO、BPO業務を心配する声が上がっていた。しかし、2月12日を境に中国での新規感染者は減少。一方で4月に入って日本で新規感染者が急激に増え、4月7日に緊急事態宣言が出されると、テレワークを導入する企業が増えた。このような中、日本だけで回せなくなってきた一部の業務について、おおむね2月3日から通常業務を再開した大連のITO、BPO企業への業務委託を増やしたり、新規で依頼したりする日本企業が出てきた。以下、4月20日から5月12日にかけて、大連に拠点を置くITO、BPO関連企業に話を聞いた。

在宅で対応できない日本やベトナムの業務を大連から補完

盟世熱線信息技術(大連)有限公司(もしもしホットライン大連)は、日本のBPO大手「りらいあコミュニケーションズ」(以下、「りらいあ」)の100%子会社として2012年に大連に設立された。5月6日時点での社員は190人。大連では、日本企業から業務を請け負い、コールセンターなどのBPOサービス事業を行っている。また、保険の申込書や通帳データ、はがきなどのデータエントリー事業も主力サービスの1つだ。社員の平均年齢は27歳、社員の日本語能力向上のため社内で日本語の研修とテストを行っている。

4月に入ってから、日本国内に34カ所ある「りらいあ」の拠点から、「新型コロナウイルスの影響で作業量が落ちる可能性があるため、大連で対応は可能か?」という話が大連に届くようになる。また、「りらいあ」は大連のほかにフィリピンやタイ、ベトナムにも海外拠点があるが、4月からは、ベトナムで在宅対応ができない一部の業務についても大連で補っているという。

野村綜研(大連)科技有限公司は2010年に設立された。5月12日時点の社員は派遣社員を含めて約800人。業務内容はITソリューションに関連するBPO業務が多く、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、バックアップ機能としての大連の役割が重視されるようになった。日本で対応が難しくなっている業務の一時的な移管を含めて、業務が全般的に増加している。

リスク分散の観点で高まる大連の役割

日本財産保険系統(大連)有限公司(SOMPOシステムズ大連)」は2010年、SOMPOシステムズの子会社として設立された。SOMPOシステムズはSOMPOグループのシステム設計、開発、保守業務等を全般的に担うシステム専門会社で、その受託領域は損害保険事業にとどまらず、生命保険事業や海外保険事業、金融サービス事業へと広がっている。5月8日時点で、日本向けにシステム開発する社員が約120人いる。

設立当時、オフショア開発といえば一般に下流工程が中心だった。しかし、SOMPOシステムズ大連はシステム開発の上流から下流までの一連の工程を担う「中国完結型開発」の実現をビジョンとして掲げ、その実現に取り組んできた。2019年の日本からの年間受託工数は2015年の約1.5倍に増加し、SOMPOシステムズ大連の重要性が増している。3年後の2023年に2015年の2倍近くまで増やすことが目標という。

今回の新型コロナウイルス感染症によって、SOMPOシステムズ大連に対して、セキュリティーレベルの高い日本側業務の権限も与えたため、今後、大連で可能になるシステム開発がさらに増えていくことになる。新型コロナウイルス感染による「リスク分散」という観点も含め、拠点としての大連の役割は確実に高まるとのことだ。

中国企業のエコウィル情報技術サービス(大連)(以下、エコウィル)は2011年に設立された。5月8日時点で派遣社員を含む社員が約200人で全員日本語ができる。顧客の全てが日本企業で、日本から直接依頼を受けてBPO業務(ソフトウエア開発を含む)を行っている。パソコンも、日本語のOSで作動させている。業務も日本のカレンダーに合わせており、中国の春節(旧正月)には休みがない。2020年の春節の1月下旬や、中国で新型コロナウイルス感染が拡大した2月を含め、平日は1日も休んでいないとのこと。4月後半以降、日本企業から「業務が増えるかもしれない」という話が来ており、大連の役割が高まっていると感じている。

一方、今までの事業を拡大することには問題ないが、新規事業となると社員に対する事前トレーニングが必要になる。現在これができないため、中国と日本との行き来が緩和されないと新規の事業を始めることは難しい。実際、新しく契約した複数のプロジェクトが新型コロナウイルスの影響で止まっているという。

自然災害が少ない大連の魅力

前段で述べた大連でITO、BPO業務を行うメリットの4つ目は、大連が自然災害の少ない場所ということだ。日本は地震や台風といった自然災害が世界でも非常に多い国だが、大連はこれまで、そうした影響をほとんど受けてこなかった。このことは日本企業に意外と知られていない。

まず、地震だが、大連に17年間住んでいる日本人によると、実際に体感した地震は2回ほどで、それも震度1程度だったという。大連にITO、BPO業務を委託している日本企業も、「地震がないのはすごく大きなメリット」と指摘する。

また、大連には台風がほとんど上陸しない。中国気象局の統計によると、現在の中国建国の1949年以降2019年まで、大連のある遼寧省には7回しか上陸していない。平均で10年に1回程度になる。中国南部の台風の上陸回数は、2015~2019年の年間平均で、広州が3.8回、上海0.6回。これに対して、大連はゼロだ。雪もあまり降ることはない。自然災害が少ない大連の環境は日本企業にとって魅力的だ。

これまでも、例えば2008年の金融危機、2011年の東日本大震災といった際に、大連のITO、BPOの役割が注目された。今回の新型コロナウイルス感染症問題をきっかけに、大連の役割に対してあらためて評価が高まっている。

執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所長
水田 賢治(みずた けんじ)
1992年、ジェトロ入構。中国語研修、ジェトロ・上海事務所勤務などを経て、2017年6月から現職。

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