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医療ICT事業でアフリカに挑む

2020年12月4日

2015年に医療ICT(情報通信技術)事業に本格参入したアルム(本社:東京都渋谷区)。わずか5年で世界23カ国において事業を展開するなど、事業が急速に拡大している。中東やアフリカなどのフロンティア市場にも積極的に取り組み、2021年にはケニアに拠点を設立する予定だ。アルム代表取締役社長の坂野哲平氏に、アフリカでの医療ICT事業の可能性について聞いた(2020年11月6日)。


アルムの坂野哲平代表取締役社長(アルム提供)

5年で世界20カ国以上に展開

アルムは、2014年に医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」を開発。2015年から医療ICT事業に本格参入した。主力製品の「Join」は、同社の著作権保護技術を生かしたアプリだ。医療関係者が、安全な通信環境でコミュニケーションをとることができる。標準搭載されたDICOMビューワー(注)で医用画像を閲覧し、チャット上に共有することなどができる。夜間休日などに院外にいる医師へのコンサルテーションツールとして活用されたり、救急患者の転院の際の病院間連携・情報共有などに利用されたりしている。


「Join」のユーザーインターフェース(アルム提供)

坂野氏は、「医療分野では、医者・患者という構造、使用されている機器・医薬品が各国でほぼ同じ。グローバル展開しやすいと感じた」と語る。日本での事業立ち上げと同時に、当初から海外展開を志した。2016年には、リオデジャネイロでの五輪開催をビジネスチャンスと捉え、2015年2月にブラジルに現地法人を設立。その後、チリにも展開した。また、米国の医療現場では無線呼び出しやPHSなどがまだ使われていることを聞きつけた。だとすると、欧米など先進国でも「Join」導入のチャンスがあると考えた。2015年2月に米国、同年6月にドイツで、法人を設立している。

2018年7月には、アラブ首長国連邦(UAE)に拠点を設立した。もともと「Join」は、脳卒中や心筋梗塞など、時間との闘いになる急性期疾患の現場で多く使われてきた。中東地域でも心疾患が急増していて、同社製品のニーズが高まってきている時機だった。同社はUAE政府のヘルスケアプログラムに参画し、ジェトロの支援を通じて中東最大の医療機器展示会「アラブヘルス(Arab Health)(開催地:ドバイ)」に出展。ここでの商談を契機に、サウジアラビアでもアルムの製品が採用されることになった(図1参照)。

図1:アルムの海外拠点・販売先・実証拠点
アルムの海外拠点・販売先・実証拠点は、世界23カ国。拠点は、日本・ブラジル・チリ・米国・ドイツ・台湾・UAE。実証事業は、ロシア・フィンランド・メキシコ・コロンビア・ペルー・サウジアラビア・ベトナム・タイ・マレーシア・ルワンダ。Join販売国はアルゼンチン・トルコ・スウェーデン・スイス・スペイン・南アフリカ。

出所:アルム提供

アフリカで遠隔医療のエコシステム構築を目指す

同社は、「現地の事情を最も理解しているのは現地の人材」と考える。ビジネス開発は、現地の人材に任せることが海外事業を行う上で重要という。アフリカについては、カメルーン人スタッフを雇用し、2018年にケニアに派遣。2020年10月に、ケニアに拠点を設立する方針を固めた。2021年には、ケニアで現地法人の登記を行い、ケニアを中心に医療機関での受注を目指していく計画だ。

また、同社は2020年2月からルワンダで、日本のICTと専門医による遠隔診療基盤を構築する実証事業を展開している。「Join」を活用し、首都キガリの4病院などと日本の大学病院を接続し、人工知能(AI)診断や日本の専門医による継続的な診断で支援し、適切な日本製医薬品処方につなげるなど、オールジャパンでエコシステムを構築していくことを目指す(図2参照)。2021年以降、現地医療者に日本の大学病院で専門医療研修を行っていく予定だ。坂野氏は「病院や医師だけでなく、医療産業全体でシームレスな医療体制を構築することが重要。ICTを活用して診断数が増えれば、医薬品・医療機器の使用も増える。医薬品・医療機器メーカーなどともウィンウィン(win-win)な関係性を実現できる」と語る。同社は、ルワンダのほか、南アフリカ共和国でもソリューションを導入済みだ。また現在、ガーナやナイジェリアでも案件形成を行っているという。

図2:途上国での「Join」活用モデル
「Join」を活用することで、途上国でのモバイル医療ICTにおける遠隔医療ネットワーク化が可能。A:院内コミュニケーション・医師対医師の診療支援、B:地域内での医師対医師、コミュニケーションヘルスワーカーの診療支援、C:日本から専門遠隔支援(臨床、制度設計)、D:Join AI Connect(医療AIの活用・開発)。これらによるターゲットアウトカムは、NCDsの死亡率低下、医療水準の改善。

出所:アルム提供

新型コロナ感染拡大により市場機会が拡大

世界保健機関(WHO)によると、アフリカ地域の保健医療支出が国家予算に占める割合は、2017年時点で7.2%だった。これは、世界平均の10.2%を下回る水準だ。しかし、新型コロナウイルスで各国政府は、医療体制の整備や国内医療インフラへの投資に公的予算を割り当てるようになった(2020年10月13日付地域・分析レポート参照)。「以前も処方やカルテデータの共有はされていた。しかし、医療ITに公的予算を使うことは少なかった。新型コロナをきっかけに、公的予算が医療IT分野にも使われるようになった」と、坂野氏は分析する。

新型コロナの感染拡大により、感染者の遠隔診断に加え、AIによる検診にも期待が寄せられている。アジア・中南米では、医者の代わりとなるAI診断サービスの提供をスタートアップ企業が既に開始しているという。「医師育成には時間がかかる。各分野の医師の専門性を高めるよりも、ICTをうまく活用する方が高効率」と、坂野氏は期待を込める。WHOによると、人口1万人当たりの医師数は、アフリカで3人に過ぎない(2018年時点)。世界平均の15.6人に対して著しく少ない。深刻な医師不足が課題で、アフリカにおいて医療従事者の育成は急務であり、AIを活用した遠隔診断には今後、大きなビジネスチャンスの可能性が秘められている。


注:
コンピュータ断層撮影診断装置(CT)や磁気共鳴画像検査装置(MRI)などの医用画像データは、国際標準規格のDICOMに準拠する必要がある。そのファイルを閲覧するソフトウエアが、DICOMビューワー。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
馬場 安里紗(ばば ありさ)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部、ビジネス展開・人材支援部を経て現職。

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