拡大目指すインドの再生可能エネルギー
アイシン精機、バイオエネルギーシステム普及に取り組む

2020年3月16日

インドは2030年までに電力の4割を再生可能エネルギーで賄うという政府目標を立てており、関連ビジネスに注目が集まっている。インドで再生可能エネルギーへの関心が高まる理由として、地球温暖化など世界全体の環境に対する問題意識に加え、国内や身近な地域の大気・環境汚染といった問題も挙げられる。インドの再生可能エネルギーの導入状況などとともに、関連ビジネスの事例として、南部カルナータカ州の州都ベンガルール近郊の民間農場でバイオエネルギーシステムの実証実験をしているアイシン精機の取り組みを紹介する。

拡大余地の大きい再生可能エネルギー

ベンガルールを含むインドの大都市圏では、自動車による大気汚染や廃棄物による河川の汚染が深刻になっており、環境問題は市民が日々直面する大きな問題だ。さらに、今後の経済発展に伴って、エネルギー消費量は年々増えていくことが予想され、インド政府としても、環境保全と経済成長を同時に達成できるような取り組みの推進が不可欠になっている。

インドの2018年のエネルギー生産量をみると、56%が石炭火力で、再生可能エネルギーは22%にとどまっている(図参照)。その中で最も大きな割合を占めるのが風力発電(45%)で、それに太陽光発電(37%)が続いている。

図:インドのエネルギー生産(2018年)
石炭火力が半分以上の56%を占め、それに再生可能エネルギー(22%)、水力(13%)が続いている。

出所:インド新・再生エネルギー省の資料からジェトロ作成

特に太陽光発電では、インドの広大な土地と豊富な日光量を生かし、大規模なプラント建設が進みつつある。政府は太陽光発電について、2019年10月までに約3万メガワット(MW)分が操業を開始、1万8,000MW分も建設が進んでいるとしており、2022年12月までに現在の3倍の10万MWの操業を目標に掲げている。カルナータカ州では、2,000MWの容量を持つ世界最大級の太陽光発電プラント「パバゴダソーラーパーク」で、2019年12月末から全ての操業が開始されている。再生可能エネルギー全般に公的補助金などのインセンティブが数多く用意されていることも、こうした取り組みが進む要因だろう。

注目されるバイオエネルギー事業に取り組む日系企業

再生可能エネルギーの中でも、フードロスや家畜のふん尿などの有機物を利用して、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを削減し、エネルギーを生み出すことができるバイオ燃料技術がインドでも注目されている。バイオ燃料の推進についての政策は、2018年に石油・天然ガス省が作成した「バイオ燃料に関する国家政策PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.0MB)」が元になっている。

このバイオエネルギーシステムについて、ベンガルール郊外で実証実験を行っているのがアイシン精機だ。同社は自動車部品の製造を主な事業とするが、新規事業として、自動車部品製造で培った技術力を生かした小型ガス発電機を製造しており、この発電機を活用して、家畜のふん尿を主な原料とするバイオガスシステムを開発している。2021年からの本格市場参入を目指す同社のシステムは、農家が廃棄に困っていた家畜のふん尿を処理できるだけでなく、ふん尿から出るメタンガスなどが空気中に排出されることを抑えながら、電力供給が十分でない農村エリアで自家発電もできるという、まさにインドならではの課題を解決するものだ。

農家で実験、今後は外食産業でも

牛のふん尿1トンから40立方メートルのバイオガスを集め、2つの発電機を利用したプロジェクトサイトでは、最終的に1日当たり1,500ワット(W)程度の発電が可能となる。また、生成したバイオガスは、そのまま調理用のガスとしても使用することができ、農場で働く人々が利用している。さらに、ガスを取り出した後に残るスラリー(泥しょう)も農業用の肥料として利用できる。実証実験場では、この肥料を使って野菜も栽培しており、これにより野菜の生育が良くなったという。


実証実験中のバイオガスシステムの概要
(アイシン精機提供)

バイオガスを抽出するタンク(ジェトロ撮影)

アイシン精機が開発する小型発電機(ジェトロ撮影)

このプロジェクトを担当するシニアグローバルマネジャーのB.ベンガテサン博士は、今回の実験のため、候補となりそうな農地を探してインド国内各地を訪問する中で「新しい技術に興味を持ち、導入に協力的な農家を探すのに大変苦労した」とする。また「このシステムは家畜のふん尿だけなく、レストランや家庭からでる食品生ごみを利用することも可能だ。今後は農家のみならず、外食産業なども対象とし、幅広く普及を目指していきたい」と語っている。

世界的に重要性が語られているSDGsやESGの取り組みなどにより、企業にも環境対策や社会貢献が求められていることも、こうした動きの後押しとなっている。

執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
遠藤 壮一郎(えんどう そういちろう)
2014年、ジェトロ入構。機械・環境産業部、ものづくり産業部、 日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)などの勤務を経て、2019年9月から現職。