新型コロナウイルス感染症拡大で政府が講じた税務緩和措置とは(インド)
税務・会計専門家インタビュー(前編)

2020年5月19日

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、インドでは3月25日からロックダウン(封鎖措置)が開始。ロックダウン措置により多大な影響を受ける企業活動を支援するため、政府はコンプライアンス順守にかかる緩和措置を次々と発表した。しかし、通達や発表は複数の省庁から数多く出され、中には解釈が困難なものもある。このため、進出日系企業は対応に苦慮しているのが実情だ。

ジェトロでは、KPMGインドのディレクターの小宮 祐二氏、ディレクターの空谷 泰典氏、アソシエイトディレクターの後谷 賢(ごうたに さとし)氏の3人に最近の税務・会計分野の動向や押さえておくべき政府からの発表内容、今後の見通しなどについてインタビューした(2020年4月30日)。前編と後編の2回に分けて報告する。


今回インタビューをした3氏。左から小宮氏、空谷氏、後谷氏(KPMGインド提供)

政府措置で決算や棚卸し監査などに大きな影響、在宅勤務への環境整備も課題

質問:
新型コロナウイルスの影響を受けて、進出日系企業からはどのような相談が多く寄せられているのか。
答え:
(後谷氏)税務・会計分野に関する相談では、税務コンプライアンスの期日がどのようになっているのか、という問い合わせが多い。特にロックダウン措置の開始が年度の切り替わる3月下旬であったため、決算に大きな影響が出ている。通常通りの決算が組めない中で決算をどう締めればよいか、という問い合わせが多い。もっとも、決算対応については会社により事情が異なる。このため、どこまで簡便的な方法を取ることが認められるのか、まずは本社の経理部門と相談してもらうよう、アドバイスしている。
(小宮氏)製造業においては、棚卸しの立ち合いが監査手続きに不可欠だ。しかし、決算期末をまたいでロックダウンが始まったため、立ち合いができていないケースが多い。そのような場合は、ロックダウン解除後に棚卸しを行うことにして、そこから期末時点での在庫を逆算して算出する方法が考えられる。
(後谷氏)政府が急にロックダウン措置を実施したため、十分な準備期間がなく、在宅勤務の環境が十分に整っていない企業が多い。必要な機器やデータを事業所から持ち出せず、対応できる作業や業務が限られてしまう。もともとインターネットインフラを整えていた会社は各人の自宅からでもサーバーにアクセスでき、必要なデータを入手できるが、環境が整っていない企業も多い。また、請求書の取り込みなどを事業所で作業していた場合、在宅勤務ではそうしたデータの取り込みもできていない状況だ。
資金繰りについても相談が多い。対外商業借り入れなどの活用を、ケースに応じてアドバイスしている。特にインド政府は、ロックダウン期間中も従業員への給与を満額支払うよう通達を出しており、給与支払いが経営を圧迫している。

一部税務期限は延期も、遅延利息は軽減されるにとどまる

質問:
インド政府は、企業向けにどのような措置を取っているのか。
答え:
(小宮氏)財務省は3月24日、緩和措置をいくつか発表した(財務省3月24日プレスリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。内容は大きく分けると、所得税、移転価格税制、間接税、関税の4つに分類される。また、会社法上の緩和措置も発表された。
所得税面では、3月20日~6月29日のうちに期限が到来するものについては一様に6月30日まで延期、というのが基本線となっている。ただし、源泉税の支払期限7月7日は、緩和されていない。注意したいのは遅延利息だ。申告期限は延長されたものの、遅延利息は免除にならなかった。12%あるいは18%だったものが9%になるという軽減措置が講じられただけだ。
源泉徴収関係も同様だ。各種申告期限の延長はされているが、遅延利息は完全に免除とはならず軽減措置にとどまった。今後、遅延利率がさらに下がることは考えにくい。一方で申告期限の延長については、ロックダウンの延長が続けば見直される可能性が十分にある。
移転価格税制については、事前確認制度の申請に係る期限が2020年3月31日だったのが、6月30日まで延長されている。
間接税、特に物品・サービス税(GST)についても、申告期限の延長措置が取られている。GSTの遅延申告に係るペナルティーは、遅延金と遅延利息の2つがある。遅延金については免除、遅延利息は免除ではなく「利率」の軽減のみとなっている。法人税もGSTも、既に還付を申請しているにもかかわらずまだ還付されていなかったもののうち、50万ルピー(約70万円、1ルピー=約1.4円)以下の案件については即時還付を実施するよう、財務省から通達が出ている。実際にも、還付が進んでいるようだ。50万ルピー以上の件も、今後、順次還付が進んでいけば、企業のキャッシュフロー改善の一助となる。
関税法に係る各種通関措置については、貨物などが滞留している際に発生するペナルティーについて緩和措置が発表されている。空港での通関遅延料は50%免除、港湾での滞船料は100%免除という通知が出ている(民間航空省4月1日付通達外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます船舶省3月31日付プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照)。ただし、空港や港湾によって対応が違う可能性がある。不要なペナルティーを払うよう現場で要求された際に備え、日系企業は中央政府からどのような発表がされているのかを認識し、異議を唱えられるよう準備することが必要だ。政府が5年ごとに定める外国貿易政策についても、本来は2020年3月31日までが期限だったが、1年間の延長が発表された(商工省3月31日付通達PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(430KB) 参照)。これにより、従来の関税の恩恵スキームを引き続き利用できる。
会社法関係で押さえておくべき重要な点は、取締役会の開催頻度の緩和措置だ。従来の開催頻度は前回開催時から「120日以内」とされていたが、「180日以内」に緩和された(企業省3月24日付通達PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(636KB) 参照)。取締役会をテレビ会議で開催することも原則、認められた。ほかにも、該当する進出日系企業はあまりないかもしれないが、従業員100人以下かつ月給1万5,000ルピー以下の従業員が9割以上の企業の場合、従業員積立基金(Employees Provident Fund) の従業員月給の24%分を今後3カ月、政府が負担する措置などが発表されている。

後編では、政府支援策の見通し、資金繰りへの対応策、操業再開時の留意点、インド政府への期待について報告する。

税務・会計専門家インタビュー

  1. 新型コロナウイルス感染症拡大で政府が講じた税務緩和措置とは(インド)
  2. 給与支払いなど資金繰りに深刻な課題、その対応策を考える(インド)
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
磯崎 静香(いそざき しずか)
2014年、ジェトロ入構。企画部企画課(2014~2016年)、ジェトロ・チェンナイ事務所海外実習(2016~2017年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2017年~2019年)を経て、2019年11月から現職。