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コロナ禍で広がるデジタル教育(カンボジア)

2020年8月17日

カンボジアでは、新型コロナ禍に伴い、教育機関が閉鎖や授業時間短縮に追い込まれた。学校については、8 月から段階的に再開する方針が示されている。しかし、3月から続く休校で、学習に大きく遅れが出ていることは否めない。 この状況下でのデジタル教育について、ワンダーラボのカンボジア事業代表、渡邉大貴氏に聞いた(2020年7月15日)。ワンダーラボは、カンボジアで教育のデジタル化に取り組む日系企業だ。


ワンダーラボ カンボジア事業代表 渡邉大貴氏(ワンダーラボ提供)
質問:
まず事業概要について。
答え:
主に、教育アプリの開発と販売、塾の運営を行っている。当社の事業は、幼児から小学生向けの学習塾を1993年に開講したのが始まりだ。塾では、1時間強の授業時間内に15分ごとに内容を次々と変えていくという手法を取り入れている。教育アプリに関しては、日本だけでなく世界中の子供たちに考えることの楽しさを知ってもらうために、思考力育成アプリ「Think!Think!」を開発した。現在、150カ国120万人のユーザーがいる。
質問:
「Think! Think!」アプリとは。
答え:
「Think! Think!」は、空間認識をはじめ、考える土台となる力を育むためのアプリだ。問題は100種1万5,000題を収録していて、毎月増えている。1問3分、1日10問で、楽しみながら、考える力が自然と育つ。教科書上の静止した展開図から立体をイメージできなくても、 タブレット画面上で動く展開図が組み立てられる様子を見れば、 誰でもイメージできるようになる。
また、AI(人工知能)機能により、自動的に1人1人のレベルに合った問題が出題される。このため、必ず成功体験を積むことできる。これは、学習へのモチベーション維持につながる。
質問:
カンボジアではどのように事業を進めたのか。
答え:
カンボジアの小学校に「ThinkThink!」を導入することから始めた。パイロット事業を開始するに際しては、ジェトロのプラットフォーム事業を活用。現地政府機関での手続きにあたって、サポートを受けた。その結果、2017年に教育大臣から直々の許可を得ることができた。また、JICA(国際協力機構)から資金面での支援も受けた。これを、導入にかかる人件費やアプリの機材費に投入した。
2018年には、公立小学校にアプリを導入。3州5校で1,500人を対象に実証実験を行った。この実証実験を通じて、短期間で生徒の学力が大幅に上昇することが確認された。このため、2020年2月には6州9校の4,000人に拡大した。これまでは、社員がアプリをインストール済みのiPad端末を学校に配り、現地の教員、生徒に使い方を指導してきた。しかし今後は、徐々に現地の教員が指導できるようにしていく。また、一部の小学校では、パソコン(PC)が導入されている。このため、将来的にPCを使用したカリキュラムの正式採用を目指して、パイロット的に授業の中で当社PC版アプリを使ってもらっている。学校へのアプリ導入のほかに、2019年11月からプノンペンで塾を開設した。

授業の様子(ワンダーラボ提供)
質問:
塾の事業の詳細について。
答え:
ジェトロの協力を受けて営業許可を得た。その結果、塾を開講できた。料金は、月3回、1回1時間20分コースで、月額80ドル。アッパーミドル層を対象にしている。カンボジアは中間層が増えてきて、親は教育にお金をかけるようになってきた。生徒やその親は英語を流ちょうに話し、クメール語より英語のほうが得意な生徒もいる。現状、当社の生徒は50人程度だが、今後100人になる見込み。80ドルかかっても、考える力を楽しく身に付けるということに引かれる人たちが来ている。なお日系企業では、ほかに公文と七田教育アカデミーがカンボジアで塾を開講している。
質問:
新型コロナウイルスの影響はあるか。
答え:
新型コロナウイルスの影響で、学校閉鎖に至った。この結果、現在、塾は休業中だ。学校が再開された後、塾も再開させる予定だ。もっとも、再開できたとしても、ソーシャルディスタンスを確保する必要がある。そのため、今の教室の広さだと生徒数を増やすことが難しい。塾を継続する場合は移転も検討する。
一方で、良い影響もあった。政府から、「Think! Think!」を在宅学習に活用できないかという相談を受けて、事業を拡大できた。「Think! Think!」は、インタラクティブな学習ができるアプリだからだ。しかし、カンボジアではアプリで学習する習慣がない。国営テレビや教育省のウェブページを通じて、授業動画を見ながら学習できるように工夫した。毎回2万人以上の子供たちがオンライン授業を視聴している。
ほかにも、私立学校との連携がとりやすくなった。以前は、なかなかアポイントを取ることが難しかった。しかし今では、私立学校から連携をお願いされることも増えた。トライアルとして、1万人の生徒に「Think! Think!」アプリを利用してもらっている。

教育省・JICA・ワンダーラボ間でThink! Think!を用いた
オンライン授業実施に合意 (ワンダーラボ提供)
質問:
今後、事業拡大にあたり何か考えていることは。
答え:
学校へのアプリ導入を広げつつ、民間企業との提携や海外展開を視野に入れている。
民間企業との連携に関しては、カンボジア通信大手のスマートなどと提携し、教材アプリを配信していきたい。同社は通信ネットワーク利用者向けに、アプリ上で音楽や動画、ゲームなどを配信している。現在、無償トライアルを行っている。ただし、トライアル終了後の価格設定に関しては、学校での導入料金も考慮した上で慎重に考える必要がある。
また、海外展開に関しては、Edtech(エドテック)(注)で注目されているフィリピンや他の東南アジア諸国を検討している。
質問:
今後、カンボジアにおける教育のデジタル化は進むと思うか。
答え:
カンボジア政府は、デジタル化に意欲的だ。このため、コロナを機会に一気にデジタル化が進むと思う。現に政府は、オンライン授業専門の国営テレビやウェブページを5月に立ち上げた。当社の授業以外にも、カンボジアNo1とも言える人気の先生たちの授業が無料でいつでも見られる状況だ。
さらに、各学校へのPC、プロジェクターの配布や新しいプログラムも続々と立ち上がっていると聞く。また、カンボジア発ベンチャーのクンピー(Koompi)のように1台100ドルほどの格安PCを販売する会社も登場してきた。ハード面もソフト面もデジタル化が一気に進んで、先進国に追いつく、いわゆるリープフロッグ現象が起こるのではと思っている。
カンボジアでも、学びの環境が整うようになる。学習意欲さえあれば、場所を選ばず、最高の教育に格安でアクセスできるようになるのだ。

取材後記

教育省は、オンライン授業を配信している。しかし、アクセスが難しいため、郊外の一部の学校では小グループでの授業が実施されている、との報道があった。そうしたこともあって、カンボジアでデジタル化が普及するのには限界があると考えていた。しかし、渡邉氏のインタビューを通じて、今後、より安価で安定的にインターネットにアクセスできる環境整備が進むと、考えを改めた。

カンボジア政府は、一層、教育のデジタル化を進める意欲を示している。このことからも、今回のコロナ禍収束後も、誰もが質の良い教育にアクセスできるようになることを期待したい。


注:
Edtech(エドテック)とは、教育と情報通信技術(ICT)が融合した新しい教育サービスとそのビジネス領域を指す。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
井上 良太(いのうえ りょうた)
人材コンサル会社での経験(2017年~2020年)を経て、2020年7月からジェトロ・プノンペン事務所勤務。

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