【コラム】新ガイドライン施行後にムンバイへ(インド)
エア・インディア成田発デリー経由ムンバイ便搭乗体験報告

2020年12月25日

インドでの新型コロナウイルス感染が徐々に落ち着き始める中、日本に一時退避していた駐在員が11月ごろからインドへ戻り始めている。筆者も日本に一時退避した後、12月9日にムンバイへ戻った。利用したのは、エア・インディア(以下、AI)の成田発デリー経由ムンバイ便だ。

新ガイドラインが施行された時点で筆者がどのようにムンバイに戻ったのか、実体験から報告する。

ムンバイ渡航では、現場に混乱も

インド西部に所在し、ムンバイを州都とするのがマハーラーシュトラ(MH)州だ。11月25日から、デリー都市圏やラジャスタン州、グジャラート州、ゴア州からの入境に対し、国内航空便利用者にはPCR検査の陰性証明書保持を条件とするなどの制限を施行している(2020年11月27日付ビジネス短信参照)。この制限下、ムンバイへの空路移動をめぐっては、国際線・国内線ともに空港で一部混乱が生じている。例えば、現場係官の誤った判断で国際線の到着客に不要な隔離措置を命じた例が報じられた(「タイムズ・オブ・インディア」紙12月13日)。

一方、日本とインド両政府は10月、エア・バブル(入国前後の渡航や移動制限などの障壁を緩和・撤廃する二国間協定)を締結。全日空(ANA)や日本航空(JAL)により、定期的に羽田発デリー便がほぼ毎週運行されることになった。もっともムンバイ直行便となると、日系航空会社による運航は非常に少ない。現時点では、2021年1月9日と16日にANAの便が予定されているだけだ。

このため、今後ムンバイに向かうのにも、駐在員はデリー経由で渡航するものと予想される。いずれにせよ渡航者は、常に最新情報を確認し、十分な事前準備を行うことが求められる。

搭乗までの準備

現在、空路でのインド入国に際しては、中央政府の通達(119.62KB)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます) を踏まえた各州政府の通達と利用する航空会社から要請、双方の順守が求められる。

以下、搭乗までに筆者が進めた準備の流れを時系列にまとめる。

  1. (1)AIからの航空チケット購入、座席の指定
  2. (2)空港公式サイト内「Air Suvidha」への搭乗者登録と登録番号の取得/国際線搭乗予定時刻の72時間以前
    中央政府の通達により、所定のオンライン・ポータルまたはニューデリー空港公式サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 内の「Air Suvidha」で、搭乗(scheduled travel)の72時間前までに「自己報告書(Self Reporting Form)」に基づいて登録しなければならない。登録情報は、インドの滞在先住所、携帯電話番号、利用フライト情報など個人情報など。これらを記入し、パスポート画像をアップロードする必要がある。
  3. (3)航空会社(AI)の指定フォームに情報を登録
    いずれの航空会社も、国際線搭乗者に対し事前の情報登録を求めている。チケット購入後に、Eメールで送付される登録フォームに記入する流れとなる。
    AIの場合はこれに加えて、「旅行中の新型コロナウイルスへの感染リスクを認識していること」「感染により発生した費用を一切請求しないこと」「検疫などの指示に従うこと」を明記した誓約書の提出を求めていた。
    なお、AI以外では、一部の日系航空会社で、事前登録(陰性証明の登録項目を除く)の締め切りを出発時刻の48時間前までと設定している例があるとも聞いている。
  4. (4)PCR検査の受診
    MH州の通達により、デリーなど特定地域からの国内航空便利用者には、「到着時刻の72時間以内」にサンプル採取したPCR検査の陰性証明の提示が求められる。この陰性証明書を保持しない乗客は、空港でPCR検査(自費)を必ず受診しなければならなくなる。
    筆者の場合、サンプル採取した実際の時刻は、国際線の出発予定時刻の48時間前かつムンバイ空港の到着予定時刻の約62時間前だった。
  5. (5)PCR検査の英文陰性証明の取得
  6. (6)陰性証明をAir Suvidhaにアップロード
    インドで隔離措置を免除されるためには、所定のウェブサイト(Air Suvidha)にRT-PCR検査の英文陰性証明書をアップロードする必要がある。
  7. (7)申請受諾レターの受領、印刷
    これらの諸情報のAir Suvidha上の提出が完了した後、当局から免除申請を受諾した旨のレターがEメールで届く。成田空港での搭乗手続きやインドでの検疫手続きの際にこのレターの提示が求められる。

以上が渡航前の準備となる。だが、先に(4)で言及したPCR検査のタイミングについて、疑問を持たれるかもしれない。一見すると、中央政府の求める搭乗の72時間前までの「Self Reporting Form」の登録(2)と、MH州が入境の際に求める到着時刻から72時間以内のPCR検査のサンプル採取(4)が相反し、隔離措置の免除申請が不可能と思われるためだ。しかし、実際には「Self Reporting Form」の登録前にPCR検査を受ける必要はない。

「Self Reporting Form」に必要事項を先に登録すると、仮の登録番号が交付される。陰性証明を取得(5)してからAir Suvidhaの「Apply for exemption」へ進み、陰性証明のアップロード(6)が可能だ。筆者の場合はアップロード後間もなく、申請受諾の通知(7)として、Eメールが届いた。


エア・インディアの誓約書(3)

筆者のAir Suvidhaの許可通知レター(7)

搭乗からデリー空港まで

筆者が成田空港から搭乗したのは12月9日午前10時発のデリー便(AI307)だ。当日、筆者が通常の渡航の場合に加えて持参したものは、次のとおり。

  • 署名済み航空会社(AI)作成の誓約書(3)
  • Air Suvidhaの申請受諾レター写し(7)
  • 英文陰性証明書オリジナル(5)

成田空港の航空会社(AI)カウンターでは、出発予定時刻の3時間前から長蛇の列をなしていた。並んでいる最中に検温が行われ、AIに提出する誓約書に体温を記入、Air Suvidhaへの事前登録の有無が確認された。

カウンターでの搭乗手続きでは通常の手続きに加え、誓約書を提出し、Air Suvidhaの申請受諾レターの写しを提示。陰性証明を求めるムンバイが最終目的地のため、陰性証明の有無を口頭で確認された。その後は、通常どおりの搭乗手続きになり、航空便出発となった。

機内では、「Self Repoting Form to be Filed by All International Passengers」という搭乗情報や個人情報、感染症状の有無の記載するインド健康保険省とAIのヘッダーの入った書類が配付され、記入した。しかしこれらの提示・回収を空港内でを求められることはなく、持ち帰った。

デリー空港での乗り継ぎ

デリー空港の第3ターミナルに到着後、降機。検疫係員からPCR検査を受けているか、Air Suvidhaの申請受諾レターを保持しているかが確認され、確認後に搭乗券に「Home Quarantine」スタンプが押された。入国審査ゲートに向かって進むと、再び同じ質問をされ、Air Suvidhaレターを係官に提示した。ここまでで陰性証明書の提示は求められなかった。

この後の入国審査では、パスポートと外国人登録証(FRRO)を提示し、通常どおりの手続きで入国が許可された。インドでの滞在場所(自宅)については、通常より確認する時間が長かった印象を受けた。

預け入れた荷物を回収し、AIの乗り継ぎカウンターに向かう。通常どおりの国内線搭乗手続きの中で、陰性証明の有無が口頭で確認された。乗り継ぎ手続きが完了すると、国内線ロビーに移動し、セキュリティー検査となった。機内に搭乗するまで、陰性証明書の提示は求められなかった。

筆者の便は、乗り継ぎ時間が3時間半程度あった。乗り継ぎの各種手続きは、空港利用者が少ないためか、通常よりむしろ早く完了した印象を受けた。また、同じ第3ターミナル間での乗り継ぎということもあり、かなり時間的余裕があった。

ムンバイ空港到着後

飛行機がムンバイ空港の第2ターミナルに到着すると、通常の国内線と同様に、預け入れ荷物受取場へ向かった。荷物回収のターンテーブルに行く手前にゲートが設けられており、そこで初めて陰性証明書の提示を求められた。係官が目視確認後、陰性証明書は返却され、荷物を回収した。その後は通常どおりで無事帰宅となった。

同乗のインド人乗客もほとんどが事前に陰性証明を取得しているようで、ゲートで止められている乗客はほとんど見られなかった。


成田空港で搭乗手続きを待つ様子(ジェトロ撮影)

エア・インディアでは簡易な防護服も配布していた
(ジェトロ撮影)

デリー空港でAir Suvidhaの提示を求める掲示
(ジェトロ撮影)

常に最新情報を確認し、十分な事前準備を

以上が筆者のムンバイ再渡航の体験だ。あくまで筆者個人の体験ながら、十分に事前準備したこともあって、渡航に関し不具合や混乱に遭遇することはなかった。担当係官も粛々と業務を行っていた印象を受ける。一方、冒頭で述べたとおり、一部係官がガイドラインの運用を誤解し、不要な隔離措置を命じた例も報じられている。常に最新情報を確認し、十分な事前準備を行うことが求められる。

ムンバイの感染状況は小康状態にあり、医療従事者を中心に12万5,000人に新型コロナウイルスのワクチン接種に向け準備が進められている(「タイムズ・オブ・インディア」紙12月12日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。医療状況に関しても、ロックダウン時よりは改善が見られる。とはいえ、渡航予定者は問題なく入国できても、感染した場合に備えて入院先となる私立病院の特定や十分な医療保険に加入しておくことが必要不可欠だろう。


注:
本報告は、あくまでも12月9日現在の状況に基づく。運用が変更されることも想定されるため、常に最新の情報を収集することが強く勧められる。日系航空会社を中心とした渡航情報に関しては、インド日本商工会のサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が参考になる。また、本報告はあくまで筆者個人の経験に過ぎない。同様の手法でムンバイへの渡航が保証されるものではない点には留意が必要だ。
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
比佐 建二郎(ひさ けんじろう)
住宅メーカー勤務を経て、大学院で国際関係論を専攻。修了後、2017年10月より現職。